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働けば働くほど満足感を得る人が多くなった現代社会の「労働」と「余暇」とは

By Navy Blue Stripes

「レジャー」や「余暇」という言葉には、お金と時間の余裕がある人に与えられたある種の「特権」というニュアンスが含まれ、お金を得るために行う「労働」とは相反するものであると捉えられることもあるものですが、近年の調査によるとその傾向は逆転していることが明らかになってきています。仕事に打ち込む人ほど喜びを多く感じ、逆に余暇を楽しめるほどの時間を持っている人は生活の満足度が低いという、一見すると矛盾しているような状況は何を意味しているのでしょうか。

Free exchange: Nice work if you can get out | The Economist
http://www.economist.com/news/finance-and-economics/21600989-why-rich-now-have-less-leisure-poor-nice-work-if-you-can-get-out?fsrc=scn/tw/te/bl/ed/nicework

イギリスのTVドラマで、2014年5月からはNHK総合でも放送が開始される作品「ダウントン・アビー」では、20世紀初頭のイギリス田園地帯にある大邸宅の中で繰り広げられる貴族や使用人たちの愛憎劇が描かれています。作品に登場するような当時の上流階級にとって、「ウィークエンド」という言葉は、あまり意味をなさないものでした。それは「毎日が週末のようなものだったから」というのが理由となっており、その生活の優雅さ、あるいは罪深さを物語っているようです。


一方の下層階級の人びとの生活に、余裕はまったく存在していません。チューリッヒ大学の経済史学者のハンス=ヨアヒム・ヴォス氏によると、1800年代の労働者の平均的な労働時間は週あたり64時間と現代よりもはるかに多いもので、労働時間の長さがそのまま生活の貧しさを表す時代となっていました。

それから約200年を経て21世紀に突入した現在、生産力の向上などにより社会全体の労働時間は減少しているにもかかわらず、富裕層の労働時間は逆に増加に転じています。1965年時点のデータでは、大学を卒業して多くの給料を得ていた人は、高卒の労働者よりも多くの余暇の時間を得ていた一方で、2005年時点における同様のデータではそれが逆転し、大卒者が過ごす余暇時間は高卒者よりも平均して8時間少ないという結果が明らかになっています。

また、アメリカ合衆国労働省が2013年にまとめた調査結果では、大卒者の1日の労働時間は平均して高卒者よりも2時間多いという調査結果も明らかにされており、もはや「富裕層=余暇の時間を楽しむ層」という構図ではなくなってきていることが浮き彫りにされています。

By Alex Proimos

◆労働に駆り立てられる富裕層
これにはいくつかの理由が考えられているのですが、その一つは「代替効果」と呼ばれるものであると考えられています。所得の格差が拡大している現代では「時間あたりの所得額(=同じ時間で所得を生みだす能力)」の格差も広がっているということになり、所得が増えるほど余暇時間そのものの価値が増加していることを意味します。すなわち、所得の多い人が余暇の時間を過ごすためには、同じ時間を労働に充てた場合の所得を諦める必要があるために、所得が多くなるほど労働にかき立てられるという構図がある、とする考え方です。

この傾向は、現代の社会に見られる「一人勝ち」という風潮の強まりによっても拍車がかかっています。YouTubeやApple、ゴールドマン・サックスなどのように、革新的な技術を手にする企業はグローバル市場が持つスケールメリットによって市場を席巻し、以前では考えられなかったほどの巨万の富を独占しているという状況がこれをよく表しています。

By Chee Chin Chu

これと同じ構図が労働者レベルでも見られることが明らかにされています。カリフォルニア大学のピーター・カーン氏とポモナ・カレッジのフェルナンド・ロザノ氏による研究では、同一の職業に就いている労働者を週あたりの労働時間が「55時間」のグループと「40時間」のグループに分け、所得の差を比較したデータを調査したところ、1980年前半では両者の差が11%だったのに対し、2000年代初頭には25%にまで拡大していることが明らかになっています。

まるで人びとをチキンレースのように労働に駆り立てる「代替効果」の考え方ですが、一方では、収入が一定まで多くなると多少の損失は許容した上で余暇を楽しむ余裕が生まれるという「収入効果」という考え方が存在しています。しかし、近年見られる状況では、この考えが当てはまらないケースが見受けられるのです。

◆「労働」が持つ意味の変化
1800年代後半に見られた、アメリカ資本主義が急速に発達した「金ぴか時代」を痛烈に批判していたノルウェー系アメリカ人経済学者であるソースティン・ヴェブレンは、余暇の時間を「名誉のしるし(Badge of Honour)」、そして単純でスキルを必要とされない労働を「産業(Industry)」と皮肉を込めて呼び、当時の社会を批判しました。いわば、汚い仕事を他人に押しつけ、自らは豊かな生活を甘受する富裕層を批判する内容ではあるのですが、それでも当時の富裕層は「執筆活動」や「慈善事業」に「議論」などの「開拓」の取り組みに熱心であったと述べています。

一転して、現代の進化した産業社会においては、労働は知識や知性に基づいた行動であるとされるようになりました。単純労働は姿をひそめ、代わりに頭脳を駆使する知的生産労働が多く見られるようになり、以前のような「開拓」に取り組む人の数が増加しているというのです。今や「労働」は、これまでは富裕層が「余暇」の時間を通じて得ていた満足感を満たすための手段と変化しており、一方の「余暇」は、あたかも無用の長物仕事がないということを象徴するものに変化してきました。

By Kit

この風潮は実際の調査結果とも呼応するものとなっています。人びとが「最も満足感が低い」と感じている仕事は、マニュアル化されてスキルを必要とされないものであるという結果が出ており、仕事における満足度は職業の名声レベルに応じて増減するということがわかっています。カリフォルニア大学バークレー校のアーリー・ラッセル・ホックシールド社会学名誉教授による調査では、労働の知的レベルが向上するにつれて人びとは家で過ごす時間よりも仕事の時間を楽しむ傾向にあるということが示されています。

今や、人びとは「リラックスするために仕事する」と言っても過言ではない状況が生まれており、自宅で過ごす時間を「無駄な時間」と感じる人が多くなっているということが現代を象徴していると言えそうです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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