サービス開始から10年を迎えたGmailの開発秘話や現在、そして今後の課題など
2014年4月1日、Googleが提供する無料Webメールサービスの「Gmail」は、2004年4月1日にテスト版がリリースされてから10年を迎えました。いまや世界で4億人とも言われるユーザーを抱えるGmailですが、開発段階ではさまざまな反対を受けることもありました。そんなGmailの歴史と現在、そしてさらにメールをはじめとするネット社会が抱える問題について、TIME誌ネット版がコラムを掲載しています。
How Gmail Happened: The Inside Story of Its Launch 10 Years Ago Today | TIME.com
http://time.com/43263/gmail-10th-anniversary/
2004年4月1日、GoogleはWebベースのフリーメールサービスである「Gmail」のプレビュー版をリリースすることを明らかにしました。当時、大手のフリーメールサービスとしてはYahoo!メールやMicrosoftのHotmail(現:Outlook.com)などがあり、Googleはこれに続く形で同サービスに参入することに。そんなGmailですが、まず他を圧倒したのは、ユーザーごとのメールボックスに設定されていた保存容量の巨大さでした。他社の多くは数MBから数百MBの容量を誇ってアピールしていた時代に、Gmailはいきなり1GBという文字どおりケタ違いのサービスを提供することを発表し、「そんなに巨大な容量が無料で使えるのか?」と多くのユーザーを驚かせました。
当時発表されたプレスリリースは以下のリンクから確認することが可能。少しくだけた文章から受ける印象も、なんとなくエイプリルフールのネタを感じさせるものがあるようです。
Google Gets the Message, Launches Gmail – News announcements – News from Google – Google
http://googlepress.blogspot.jp/2004/04/google-gets-message-launches-gmail.html
当時の常識を大きく越えた容量に加え、プレスリリースには「Googleサーチエンジンをベースにした高速な検索性能」や「ツリー構造のメールを同じ画面で表示」したり「スパムフィルタ」など、それまでのフリーメールの常識を覆す項目もあり、「4月1日だからGoogleのエイプリルフールネタだろう」と取り合わないユーザーが多かったことが当時のBBCの報道から伺えます
◆開発段階
その後実際にサービス提供が開始され、ネタではなかったことが明らかになったGmailは、今や世界中で延べ4億人が利用しているといわれているサービスに急成長を遂げます。リリースされるまでの開発に要した期間はなんと3年で、その間には社内のさまざまな部門から「Gmail不要論」を浴びました。
「Gmailは、Googleのエンジニアは業務時間の20%を仕事以外のことに使ってよいとする20%ルールが生みだした最たるものだ」と言われますが、実際に開発にあたったポール・ブックハイト氏は、それは誤りであり「最初から会社の業務としてメール関連の開発を行った」と語っています。
ブックハイト氏は1999年にGoogleに入社し、同社での23番目の従業員となります。Gmailの開発には2001年8月から携わるようになりますが、その起源はGoogle入社前の1996年ごろに開発したウェブメールのソフトウェアでした。ブックハイト氏は、まず自分用のPCにメール検索エンジンをインストールし、同僚のエンジニアに見せて反応を伺ったところ、すぐに自分のPCにもインストールしてほしいと要望を受けることに。これをきっかけにして、他社のメールクライアントにはない特色を持つGmailのサービスが形づくられていくことになりました。
しかし、Googleが誇る高性能な検索エンジンを活用するためには、それにふさわしい規模の保存容量が不可欠になってきます。ユーザーが残り容量を気にする必要がなく、メールが永遠に残されていくメールサービスを構築すべく、1ユーザーあたり1GBという当時としては破格の大容量がユーザーに提供されることになりました。
当時のGoogleといえば、Yahoo!やExcite、Lycosなどの他社にはない高性能な検索エンジンがそのアイデンティティとなっていましたが、その領域から逸脱して新たにウェブメールの分野に進出することに対しては、反対する声が寄せられることになります。ブックハイト氏は当時を振り返り「製品面、戦略面の両方から多くの反対意見が寄せられた」と語ります。反対意見の多くは「検索エンジンとは全く関係がない」といったものや「MicrosoftなどがGoogleをつぶしにかかる口実を与えることになってしまう」というものでした。しかし、多くの反対意見にもかかわらずGoogle創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏の両名から多くのサポートを得ていたGmailのプロジェクトは、着実に完成に向けて開発が進められて行きました。
反対の声が挙がることに対して、ブックハイト氏は「誰かが『それは不可能だ』と言っているとしたら、実はその言葉は『私のごく限られた経験と狭い理解をもとに判断すると、どうやら成功しそうもないことだ』と理解するべきである」と語っています。
By Mathieu Thouvenin
2002年にGoogleに加わり、後にはGmailの最初のプロダクトマネージャーを勤めていたブライアン・ラコウスキー氏は当時を振り返り「当時のGmailは、現在のものとは似ても似つかぬもので、見た目も全く違うものだった」と語り、一般ユーザーが求めるものとはほど遠いものを開発していたことにひどく困惑したことを打ち明けます。それでも、エンジニア集団は「自分たちが感じる問題は、将来に一般ユーザーが感じる問題になる」と考えて自分たちが満足のいくサービスを作り上げることに専念します。ラコウスキー氏は当時、ラリー・ペイジ氏から「10年後、一般ユーザーは今の君たちと同じようなことをする」と語っていた、と振り返っています。
開発がスタートして2年が経過した2003年8月の段階においても、Gmailのフロントエンドデザインはごく原始的な状態のままでした。そのタイミングで、インターフェイスを担当することになるケビン・フォックス氏がチームに加わります。フォックス氏はGmailの見た目に「Googleらしさ」を加えることの重要性を認識していましたが、明確なビジョンは持っていませんでした。当時の同社が提供していたのは検索エンジンであるGoogleと2002年9月にスタートしたGoogle Newsでしたが、それらはウェブ「サイト」であるのに対し、Gmailはウェブ「アプリ」だったという違いがあるためです。
そのデザインプロセスについては「全く種類の異なる製品を作ることになりましたが、幸運にも幅広いトライを行うことができました」と語るフォックス氏は、大きく3つの段階を経た後に、現在とほぼ同じコンセプトのデザインにたどり着いたと語ります。以下のスクリーンショットは、2004年4月にローンチされた際のGmailの画面。
Gmailに先駆けて1990年代に誕生し、HTMLを基本とするインターフェースを備えていたHotmailやYahoo!メールでは、ユーザーが何か変更を加えるたびにページをリロードする必要があったため、ユーザーの使い勝手はいまひとつでした。そんなウェブメールの状況に対して、Gmailはよりインタラクティブ性の高いJavaScriptを活用したインターフェイスを構築し、従来にはなかったユーザーにとって自然な操作感を実現することに成功します。
GmailがJavaScript活用の先駆けとなった頃、まだ実際に使い物になるかどうか誰もわかっていませんでした。そんなJavaScriptを使うことに対してもGoogle社内からは反対の声が挙がります。ブラウザとの親和性もまだ高くなかったために「肝心な時にブラウザがクラッシュすると、ユーザーは二度とサービスを利用してくれなくなる」と懸念する声も挙がっていたと言います。しかし、結果的にJavaScriptの採用はGmailに成功をもたらすことになったといえます。
Googleの社内からは「Gmailを有償サービスにするべきだ」という声が挙がるのに対し、ブックハイト氏をはじめとする多くのスタッフは「より広くユーザーに利用してもらうために無料で提供し、広告による売上モデルを採用する」ことを提唱します。当時のフリーメールにおける広告といえばギラギラと点滅するバナー広告を使うケースが多数を占めていましたが、プロダクトマネージャーのラコウスキー氏は「Gmailの画面にバナーをペタペタと貼り付けるつもりはない」とし、「当初から決めていたとおり」にメールの内容などを元に自動で生成されるテキスト広告を画面に表示させるという方針を固持しました。
広告同様に問題となったのが、メール解析という仕組みでした。他のHotmailやYahoo!メールでもサーバに届いたメールを解析することはありますが、それはあくまでも迷惑メールに対処するためのものであるのに対し、Gmailはより深く内容を解析して効果的な広告を実現するというGoogleならではの仕組みを備えています。たとえそれがコンピューターによる自動解析であったとしても、本文の内容を解析することが議論を巻き起こすことは明らかでした。Googleで新商品の責任者を努めていたジョルジュ・ハリク氏は「プライバシーの侵害と見なされるだけのものか、それとも実際のプライバシー侵害にあたるのか、事前に多くの検討を行った結果、これは『感じ方の違い』に関する問題である」と判断し、基本的にはプライバシーを侵害するものではないという結論に至りました。
◆一般公開されるまで
秘密裏に進められてきたGmailのプロジェクトも、いよいよ一般公開のタイミングが近づいてきます。2004年初頭にはほぼ全てのGoogle社員がGmailを活用するようになっており、一般向けリリースは間近の段階。そしてついに決定された公開のタイミングは「2004年4月1日」となりました。
同社においても4月1日は特別な日となっており、2004年のエイプリルフールには「Googleが月面の研究センターで勤務するスタッフを募集開始する」というネタを発表することになっていました。そんな日にリリースされることが決まったGmailは、当時としては常識外れの「1GB」という数字が合わさって壮大なネタの一つとして捉えられることになると予想されていました。
当時の様子をラコウスキー氏は「このリリースに際しては、ブリン氏が一番盛り上がっていました。4月1日に発表されたバカバカしいほどデカい計画が翌日になってもまだ存在し続けていること、これこそが究極のエイプリルフールですからね」と語ります。
サービス開始の日程が近づき、スタッフは準備に大忙しになりますが、肝心のサーバーと莫大なストレージ容量を確保できておらず、その準備に支障をきたしていました。ブックハイト氏は当時の様子を「他の人が『どうせサービスをローンチできっこない』と思っているからマシンを準備できない。そして私たちは『マシンがないからローンチできない』という、にっちもさっちもいかない状況に陥っていました」と振り返ります。
最終的に開発チームが活用したのが、古すぎて誰も使っておらず、社内に転がっていた300台のPentium III搭載マシンでした。マシンをセットアップし、なんとか4月1日にサービスは開始されることに。それでも、限られた人数に対して提供されるベータテストには必要十分なものだったそうです。
いざサービスが開始され、エイプリルフールではなく本物のサービスであるという認識が広まりだすと、限られた人しか利用できないGmailサービスへのアクセス権が注目を集めるようになります。開発チームではその効果を「意図していたものではなかった」としていますが、希少価値を持つGmailへのアクセス権は人びとの憧れの的となります。オークションサイトのeBayではアクセス権が150ドル(約1万5000円)というプレミア価格で取引されたり、既存のHotmailやYahoo!メールを使っていることが「ダサい」と捉えられるようになっていったほどです。
思いがけなく人びとの関心を集めたにもかかわらず、ブックハイト氏は10年を経た2014年の段階でも「あのとき、もっとリソースが整っていたら、最初の1年でもっと多くのユーザーを集められたと思う」と残念そうに振り返っています。その後も限定的なサービス拡大を続けていったGmailですが、完全なサービス公開はほぼ3年後の2007年のバレンタインデーを待つ必要がありました。また、長らくロゴに表示されていた「beta」の文字は、さらに2年後の2009年7月までずっと外されることがありませんでした。
◆今後の課題と問題点など
メール本文を広告の材料に用いるという手法は、Googleが予想していた以上の反応を巻き起こすことになります。メール受信の時点、それとも送信の時点でプライバシーが侵害されるのかという議論が起こり、その収集方法やデータの保持期間についても疑問が投げかけられることになります。このGmailにまつわるプライバシー問題は現在もさまざまな論争や係争が継続中であり、今後の進展に注目が集まるところです。この件を踏まえ、MicrosoftはプライバシーをマネタイズするGoogleを非難するグッズを販売するなど、さまざまなキャンペーンを展開しています。
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10周年というタイミングを迎えたGmailですが、その間に世界ではIT技術が進歩して文字どおり地球全てがネットで接続された社会になってきています。以前に比べると確かにそのメリットを享受していることは間違いありませんが、コラムではそれと同時に人間の生活パターンがネットに支配されつつあることも紛れのない事実であると指摘。ブックハイト氏が語った言葉として「メールがもたらした問題は、社会の慣習が悪化していることと言えます」と現状を語ります。
特に仕事でメールを多用する人にとっては「どこにいても、何をしていてもメールの存在が頭から離れない、そして反応することを求められる」という「24/7」の社会になっており、これは「テクニカルな問題ではなく、コンピューターのアルゴリズムで改善されるものではありません。これは社会が抱えた問題です」とブックハイト氏が語るネット時代における考え方を示してコラムは締めくくられています。
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