メモ

船乗りたちに幸運と安全、そして勇気を与えてきた「船乗り猫」

By Kerri Lee Smith

かつて洋上を航行する船の上には必ずと言っていいほど猫が乗っていました。この猫たちは「船乗り猫(Ship's Cat)」と呼ばれ、多くの場合は飼い主と一緒に旅をしているわけではなく、ある重要な「任務」を与えられていました。

Ship's cat - Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Ship%27s_cat

古くからは人間と近いところで生活を送ってきました。その歴史は同じくペットとして飼われている犬よりは少し新しく、現在わかっているところでは約9500年前のキプロス島の遺跡に飼育されていたという痕跡が残っています。古代エジプトでは船に猫を乗せ、川岸の茂みに隠れている鳥を捕獲するのに使われていたとも言われています。

時代が進み、近代の船に乗っていた猫にはいくつかの「任務」が与えられていました。最も重要な仕事は、船内に隠れ住んでいるネズミなどを捕獲すること。ネズミは帆を張るロープや船体の構造材である木材をかじってダメージを与えることが多く、被害を食い止めるために猫に白羽の矢が立てられていたようで、同様に乗組員の食糧をかじることでペストのような病疫を引き起こすネズミの駆除にも一役かっていました。また、猫は周りの環境への順応性が高く、一度陸地を離れると長期にわたって船上で暮らすことになる軍事用の戦艦などでも、乗組員のよきパートナーとしても重要な役割を果たしていたと言われています。

By Wikipedia

俗説では「猫は霊感が強い動物である」と言われることもあるように、船上でもさまざまな猫にまつわる不思議なエピソードが残っています。幸運をもたらす動物と信じられていた猫ですが、船上で猫が自分のところまで近寄ってきたら幸運、嫌われて途中で引き返したら不幸であると信じられていました。また、船乗りの妻は夫の無事を願い、船上の夫の身に降りかかる不幸を跳ね返す力があると信じられていた黒ネコを飼うという風習も残っています。

船乗りの間では、猫は尻尾に宿った力で嵐を起こさせると信じられており、船から海に落ちたり乗組員によって海に投げ落とされると嵐を起こして船を沈めたり、たとえ沈まずに生き延びたとしても、その後9年にわたって「ネコの呪い」が船に災いをもたらすと信じられていました。また、ネコが毛並みに逆らって毛繕いをすると嵐が来ると信じられていたり、クシャミをすると雨が、ピョンピョン跳びはねていたら風が近い、などと天候を読むのに役立てられていました。

By orangebrompton

猫の中でも、通常よりも手足の指の数が多い「多指猫」はネズミや病気までをもよく捕らえられる特別な存在と考えられ、世界の地域では、たとえ実際に船に乗っていないとしても、そのような猫のことを「Ship's Cat」と呼ぶようになっています。

By Wikipedia

◆勲章を与えられた猫
そんな船乗り猫の中でもよく知られている一匹が、第二次世界大戦直後の時代に生きたイギリスのサイモンと呼ばれる猫です。サイモンは英国海軍のスループ艦アメジスト号に乗っていた猫で、1949年4月に中国の揚子江で発生したアメジスト号事件(揚子江事件)の時に乗員の士気を上げた功績により、猫としては唯一となる従軍記章と、戦争で活躍した動物に送られるディッキンメダルを授与されました。

By Wikipedia

香港の軍港で拾われ、そのまま艦上の猫となったサイモンはネズミ捕りが上手で、乗組員から人気を得ることになります。アメジスト号事件で砲撃を受けたアメジスト号は被害を受け、艦長バーナード・スキナーは戦死、英中双方で200名を超える負傷者を出したほか、船乗り猫のサイモンも傷と火傷を追うこととなってしまいます。

負傷したサイモンはすぐに医務室へと運ばれ、体内に残った金属の破片が取り除かれて火傷の処置が行われましたが、けがの状態がひどく、その日のうちに亡くなるとみられていました。しかし、死の淵から生き延びたサイモンはそこから回復を見せ、しばらくするとなんと再び「ネズミ捕り」の任務を再開することになります。その頃のアメジスト号は中国に捕らわれており、英中両国による激しい交渉の間で動けない状態が続き、船上に捕らわれた兵士の状態にも影響を与えていました。しかし、死の淵から復活して再び任務に当たるサイモンの姿を見た兵士の間でも士気が向上したと言います。惨劇を生き延びて回復し、兵士の士気をも上げるという活躍を見せたサイモンは一躍有名「猫」となり、その貢献をたたえて勲章が授けられることになりました。

しかし、負傷の際に感染したウイルスがもととなり、同年11月28日にサイモンはこの世を去りました。葬儀にはアメジスト号の全乗組員を含む数百名が参列し、イギリス中部のスタッフォードシャーに建てられたお墓に葬られ、今でも多くの人が訪れる場所になっています。

By Wikipedia

また、前英国首相のウィンストン・チャーチルに謁見した猫として有名になったのが「ブラッキー」です。ブラッキーは英国の戦艦プリンス・オブ・ウェールズの船乗り猫で、1941年にチャーチル首相が同艦に乗ってカナダへわたり、米ルーズベルト大統領と会談を行った際にも同行しています。渡米を終え、船を降りようとするチャーチル首相のもとに、突如ブラッキーが現れます。まるで別れを言いに来たかのようなブラッキーの頭をチャーチル首相がそっとなでる様子がカメラに収められ、ブラッキーは一躍有名な猫として知られることになりました。

By Wikipedia

そのほかにも、英語版Wikipediaには15匹を超える船乗り猫が記載されており、一読の価値ありです。

近年では、衛生上の理由から船上の動物は避けられることが多くなったこともあり、以前のようなエピソードは聞かれることは少なくなってしまったようですが、それでも猫は人間にとって近くて不思議な存在であることを物語るエピソードです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
不機嫌顔のネコ・行動が変なネコ・写真家ネコなど特徴的すぎてオンライン上で有名になったネコ10匹 - GIGAZINE

世界一毛の長い猫としてギネス世界記録認定されたブサカワ猫「ニャア大佐」 - GIGAZINE

島民15人とネコが100匹以上暮らす島「青島」で大量のネコと戯れてきました - GIGAZINE

うさぎと触れあえる下北沢の「うさぎカフェ おひさま」に行ってきました - GIGAZINE

ネコ好きのエンジニアがネコの生態を真面目に分析しすぎるとこうなる - GIGAZINE

「ネコは液体である」ということの証拠写真15枚 - GIGAZINE

ネコパンチを次々に繰り出して部屋をめちゃくちゃにしていくゲーム「CATLATERAL DAMAGE」 - GIGAZINE

野生のライオンが繰り出す大迫力の猫パンチをバギー搭載のカメラで撮影 - GIGAZINE

in メモ,   乗り物,   生き物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.