取材

タブブラウザ「Sleipnir」の「フェンリル」の知られざるオフィス写真集&1人の個人から100人を超える企業に成長するまでの物語


よくあるような「スタートアップ」や「起業」が最初はみんなに注目されるもののそのあとは鳴かず飛ばずの状態が続き、いつの間にか消えてしまうのが大半なのに対して、たったひとりの個人で開発を始め、さらに法人化、ほとんどの会社が10年以内につぶれてしまう中で少しずつ着実に成長を続け、ついに10周年を迎えようとしているのが、国産のブラウザとしては最も大きいシェアを誇っている「Sleipnir」の開発元である「フェンリル」です。成長する中でぶつかっていくさまざま艱難辛苦を乗り越えてきたからこそ、ここまでの年月を持ちこたえ、さらに成長し続けているからには、今に至るまでにはきっといろいろなものがあるに違いないはず!ということで、秘密のベールに包まれていた「フェンリル」の社内を撮影することに成功、それだけでなくいろいろなこれまで知られることのなかった話を関係者にインタビューすることにも成功しました。

デザインと技術のフェンリル - フリーソフトでユーザーにハピネスを
http://www.fenrir-inc.com/jp/

フェンリル大阪本社はグランフロント大阪の北タワーに入っています。


狼が右上の方を向いて吠えている、フェンリルのロゴマーク。


インタビューに先立って、オフィスを少しだけ見せてもらいました。


標準的なデスク周りはこんな感じ


「デュアルディスプレイでなければダメ」というわけではないようです


通路幅は多少イスを下げていても邪魔にならないぐらい。


デスク周辺にはデジタルガジェットやカレンダーなどを置く人もいますが、基本的にすっきりと整理されている印象でした。


「爆速」ステッカーを貼っている人も。


裏側がケーブルだらけになってしまうのはしょうがないところ。


参考書籍の数々


壁際にはホワイトボードがあって、ぎっしりとタスクやToDoなどが書かれた付箋紙が貼られています。インタビューの中でも触れられていますが「前を通ったときに気がつくから」ということで、こういうアナログ手法を採っているのだとのこと。


こちらもアナログなホワイトボード。「要件」「見積もり」から「納品」まで、作業の進捗状況把握に利用しているようです。


オフィスの隅には簡易給湯スペース。


オフィスグリコ・給湯ポット2台・電子レンジ・冷蔵庫と揃っていますが、使用電気容量の都合上、ポット沸騰中は電子レンジの使用は禁止だとのこと。


ゴミは細かく6種類分別。


ちなみに、窓からは……


グランフロントの東側にある阪急梅田駅やヨドバシカメラが見えます。


ホワイトボードの中に「ヨドバシせめる」という個人目標があったのも納得です。


こちらは会議室


ここの本棚にも参考書籍などがずらーり。


フェンリルは大阪のほかに東京と島根にもオフィスがあるので、テレビ会議はよく行われるそうです。


別の会議室はこんな感じ。


当然、みんながPCを使うのでテーブル中央に電源タップが収納されているほか……


部屋の隅にも口数多めのタップが。


ということで、今回はフェンリルの方々に会社ができていった流れや、製品・デザインへのこだわりなどについてインタビューを実施しました。


事業本部 自社開発部 営業課 課長 金内哲也氏(以下、金内):
簡単に本日のメンバーを紹介させていただきます。まず中西は、Sleipnirをはじめとした自社開発のプロダクト、BtoC事業部門の統括をしている事業部門長です。西田はもともとエンジニアで、SleipnirのAndroid版やWindows版も含めて開発していた者で、今は企画課でプロダクトの次の企画や方向性などを柏木社長と共に作っていく役割を担っています。デザイナーの松野は、ずっとプロダクトのデザインをやっていまして、ウェブサイトも含め、ユーザーに見える部分のほとんどは過去何年にもわたって松野がデザインしています。特に、最新版であるSleipnir 5に関してはMac版のコンセプトを大幅に取り入れているんですが、もともとは松野がMac版で実現したものを取り入れているという形になっていて、デザインの部分でSleipnirをリードしている者です。

左から松野さん、西田さん、金内さん、中西さん。


GIGAZINE(以下、G):
今回取材にお伺いしたのは、かなり昔、柏木社長とお目にかかったとき、「これから会社を大きくしていくにあたり、もし最初から会社作りをやり直せるならどういう順番で実行すればよかったと思っていますか?」と質問したら「まずはバックオフィスを作っていたら今ほど苦労はしなかったと思います。人数が少なかったときはプログラミング以外にもあらゆる雑用をみんながやっていたけれど、雑用するために雇ったわけではなかったのでバックオフィスを作ろうと決めたら、とたんにプログラマーたちの生産度が上がったんです」という答えをいただいて、「ほっほー、そうなのか!」と納得した覚えがあるんです。そこで、初期のフェンリルはどんな感じだったのかな?というところから話をお伺いしようかと思ったんです。

事業本部 自社開発部 部長 中西信夫氏(以下、中西):
なるほど、それでうちは管理の人数が多いんですね。この規模にしては多いなと思っていたんですが、そういう考えだったとは。なるほど。

金内:
このメンバーの中で一番古いのは松野で、2008年の秋ごろ入社ですね。

事業本部 自社開発部 企画課 主任 松野紘明氏(以下、松野):
そうですね。2008年11月だったので、5年前くらいです。

金内:
あの頃は社長がTシャツで通勤されていました。

G:
ああ、まだTシャツ時代なんですね(笑)。僕が会ったのもその頃だったので、そんな感じでした。

金内:
あと「残業禁止」というのがあって。すごく厳密に残業を禁止されていた時期でした。スタッフとしては30人くらいですかね?

松野:
そうですね、30~40人くらい。

金内:
なのでみんなが顔を知っているという仲で、ほとんどが大阪オフィスに居たこともあり、みんなで飲みに行くこともよくありました。

G:
なるほど、そういう時代だったんですね。フェンリルはできた当初からデザイン志向だったと思いますが、あれは何か理由があるんでしょうか。例えば公式サイトにしても、開発メインの会社であればまずは「技術」のことがあって続いて「デザイン」なのに、フェンリルの場合はまず「デザイン」が前に来ているので、非常に変わっているなと思っていたんですが、なぜこんなにもデザイン重視なのですか?


中西:
ひとつは、社長である柏木のこだわりですね。我々はそこに優位性があると考えています。お客様やいろんな方々にハピネスを届けるために、大きなウェイトを占めるのがデザインです。僕らの会社は、一般的な開発会社に比べてもデザイナー人口は比率として多いのではないかと。

金内:
そうですね。

G:
比率だとどれぐらいですか?

中西:
1割強ぐらいですね。

G:
それはすごい数ですね。

中西:
これは多いと思います。2013年ぐらいからは、デザインの新規事業みたいなこともやったり、コンサルティングのようなお話もいただいたり、中には「デザインだけ作ってもらえませんか」と言ってくるお客さんもおられるぐらいです。

G:
そんな話がくるんですか(笑)

金内:
でも「フェンリルはデザインがすごい」というようにイメージを持っていただけるのであれば本当に嬉しいことです。デザインは人によって捉え方がいろいろあると思うんですけれど、フェンリルの言う「デザイン」は結構幅が広いんです。デザインというとどうしても見た目ばかりになってしまうケースがありますが、そうではなく、フェンリルはもともとソフトウェアを作っている企業なので、それをユーザーさんが使ったときに何らかの結果や楽しい時間を得られたり、効率的になったりすることがデザインによって実現されるということです。そこに向けていかにデザインするか、そして最速で実現させる中でユーザーに価値あるものを、というのがフェンリルの取り組んでいるものですね。だから、「ユーザーが触れるものはすべてデザイン」だと。


G:
なるほど。それで公式サイトにあのような「デザイン哲学」が掲載されているんですね。

金内:
社内でも事業としてUX部分のコンサルティング事業を始めていますけれども、その面でもデザインを重視して……それがUXと呼ばれるべきなのかUIと呼ばれるべきなのかはいろいろ議論があると思いますけれども、そこに取り組んできたからこそ、成果としてのノウハウを他社さんなどに提供していこうという方針になっていると思います。

G:
公式サイトの「フェンリルについて」の中に「フェンリルの理念」という項目があって、冒頭で「フェンリルは“ユーザーにハピネスを”という目的を果たすことを約束します」と書いてあります。この「ユーザーにハピネスを」はサイト内のあちこちで見かける文言なのですが、どういう経緯でこの言葉が出てきたのでしょうか。


中西:
私が経営陣と話をしたりする中では、企業なのでやはり収益という点は外せませんが、どちらかというと「収益よりもハピネスを」みたいなイメージはありますね。

金内:
もともと柏木社長が個人で作っていたころ、当時は多分お金のことは全く頭にない中で作っていたと思うんです。その時、ユーザーと交流しながら作り上げていく、またユーザーが喜んで自分も嬉しい、という体験がすごく良かったので、もっとそういうことを実現していきたいという願いが込められているのだと理解しています。

G:
なるほど。ちなみに現場の方は「ハピネス」というのはどういうものだと捉えられているのでしょうか。具体的に何をハピネスだと考えているのかというところまでは書いていなかったので。

(一同笑)

事業本部 自社開発部 企画課 課長代理 西田剛氏(以下、西田):
そうですね、やっぱり僕らが作ったプロダクト、ソフトを使って「便利」や「楽しい」「触っていて気持ちいい」といった、生活を豊かにするようなところが、僕らが伝えられるハピネスかなと思っています。

G:
ちなみに、西田さんはどういう経緯でフェンリルへ入ることになったんですか?

西田:
もとは別のソフトウェア開発会社で自社開発をしていたんですが、そこは企業へ卸していたので、ユーザーの声や顔は見えなくて、作っていてもあまり反応が……。営業の人から「こんな声があったよ」とは聞くんですが、エンドユーザーの声というのは全く聞こえてこなくて、それが面白くないなと思っていました。僕はSleipnirがバージョン1系の時からずっとユーザーだったので、他に会社はないかなと探していたころに「そういえばフェンリルがあったな」と思い、調べてみるとちょうど僕の持っているスキルと同じようなものを求める求人が出ていたので、受けてみようと思って、それで受かりました。

金内:
初めて聞きました(笑)

G:
そういう経緯だったんですね。デザインの松野さんからするとハピネスはどういうものでしょうか。

松野:
やはり喜んでいただくことがハピネスにつながると思うので、どうやってそれを実現していくか、それを目的にして形にするにはどういうデザインをしたらいいかというのをスタート地点にして作っています。何をするにしてもそのスタートを守ってデザインしていくのを大切にしています。

G:
公式サイトには「デザイン哲学」ということで「1. 実用性」「2. イメージを正しく伝える」「3. 標準に従いながらも個性的に」「4. 数学的かつ文化的に美しく」「5. 抽象度に応じて機能を整理する」「6. 使用頻度に適したアクション数や露出」「7. 覚えることを減らす」「8. 機能を受動的に体験させる」「9. 細部まで抜かりなく」「10. 将来性を考慮する」「11. ユーザーの共感を得る」「12. 技術面も理解する」というようにして「これは全部守れるんだろうか?」というぐらいに書いてあるんですが、あれがデザイン面での「ユーザーにハピネスを」の指針なんですか?

松野:
そうですね。

G:
ちなみに、西田さんへのものと同じ質問ですが、フェンリルへの入社はどういった経緯で?

松野:
私はもともと印刷物の広告のデザインをしている会社に勤めていて、その会社でもためになる仕事やいい仕事はできたんですが、小さい頃からユーザーインターフェースという分野が気になっていたんです。仕事にするというところまでは思いつかなかったんですが、あるときパッとそれを仕事にしたいと思って、大阪でそういう仕事をしている会社はないかと調べたらフェンリルが見つかり、ちょうどiOSのエンジニアとデザイナーを探しているというタイミングだったので、飛び込んだという感じです。


G:
なるほどなるほど。ところで、先ほど来られたときに積み上げていたそれはなんですか?

松野:
これは無印良品のらくがき帳で、入社してからずっと使って書きためた5年分のものを話のネタになればと持ってきてみました。


G:
入社してから全部ですか!

松野:
はい、そうですね。5年分あって、表紙にそれぞれ日付が入っています。

G:
全部同じ無印のものなんでずね。

金内:
無印マニアなんです。

G:
(笑)

松野:
途中で紙質が変わったところもよく分かります(笑)

G:
すごい、デザインの変遷もありますね。

松野:
これはSleipnir Mobileの初期のスケッチで、何を考えていたのかとか書かれています。

G:
全部残しているというのは、あとでちょくちょく見返したりするからですか?

松野:
なんだか捨てられなくて(笑)

G:
これは捨てなくて正解ですよ!

松野:
こういう機会に見てみると自分でも面白いですね。

G:
この積み上げられた資料を見るだけでも、先ほど話が出ていた「デザインだけやってもらえませんか?」という話が来そうですよ。

松野:
これはInkinessというメモアプリを作った時の、最初のコンセプトですね。


G:
そういえば、Inkinessはどのようにして生まれたんですか?

金内:
あれは紙とペンを実現しようとしたんですよね。

松野:
そうですね。フェンリルらしくて、iOSのアプリの検証的・実験的な部分もあって、どういうものができるだろうかというところからスタートしています。

G:
最初に見たとき、これは社内で使うために作ったんだろうか、いやそれならここまで精度を追求する意味はないはずだ、まさか社内全員で使っているわけではあるまいし……といろいろと考えてしまいました。

ギッシリと書き込まれたメモ。松野さんはこのらくがき帳を手元に置いていて、プロダクトに関するアイデアからちょっとした思いつきまで色んなことを書き込んでいます。


現在使用しているものは19冊目で、表紙の使用期間を見てみるとだいたい2ヶ月ちょっとで埋まるようです。1冊80ページなのでほぼ1日1ページというペースなのですが、「1日に1ページは書く」と意識してやっているわけではないとのこと。


G:
「これが、ああいう形で実装されたのか!」みたいなものもあって、これを読むだけで「おおお!うおー!?」とか言いながら半日は経ってしまいそうな気がしますね(笑)。さきほどオフィスを見せていただいて、公式サイトによると「2013年4月時点では従業員数が82名」となっていますが、現時点ではいかがですか?

中西:
もう100人を超えてますね。

G:
すごい、3ケタに突入しているんですね。

中西:
はい、急速に人が増えていますね。毎週のように誰かが入ってきていて、挨拶にきてくれるなあみたいな。

G:
ええ、それはすごい。

中西:
そういったビジネススピードでお話をいただけるというのは我々も光栄であるというところと、応えていかなければならないところなんですけれども。

G:
なるほど。現時点で100名ぐらいとのことで、先ほどデザイナーが1割ぐらいと伺いましたが、その他の内訳はどういった感じでしょうか。

中西:
受託部門の人数が増えてきていますね。受託事業のニーズがかなり増えているんですよ。我々のデザインを気に入っていただいてお話をいただいたり、大手クライアントにも実績を見てもらってお声かけいただいたりしています。自分たちの情報システム部門では「かゆいところなのに手が届かない」みたいな声に応えることをやっています。

金内:
あとは営業もいたり。

中西:
営業だと「コテコテの営業」という人は入ってこないですね。

G:
いるのは「コテコテの営業」じゃない人ということですね、どういう人ですか?

中西:
半分SEみたいな感じの営業です。

G:
技術も分かる、みたいな。

中西:
そうですね。

G:
今回のインタビューに向けてフェンリルの沿革などを調べていたんですが、2013年4月にテクノアークしまね南館に支社を作っていますよね。これは、なぜ島根に?


中西:
東京や大阪はニーズに加えてエンジニアの取り合いになっているという現状をふまえて、地元や地域活性化も見据えつつ、優秀な人材を我々の部隊に入れていきたいというところですね。

金内:
そうですね、島根はRubyに精通した人材がいるんです。人事部門から「よければ島根支社も取材を」との言づてが。

G:
なるほどなるほど。牧野CEOのTwitterを見ていると、島根支社を作ったときの話で「最初に採った5名のうち4名が松江高専だった」と書いてありましたが、これは松江高専の人を採ろうという狙い撃ちなのか、優秀な人材を集めたら偶然松江高専の人が多かったのか、どちらなのでしょうか。

金内:
もちろん、優秀な人を採用しているのだとは思いますけれども(笑)

中西:
狙い撃ちというのも多少ありますね。事務の方で学校と連携を取っています。来年、初めて新卒を2名入れるんですが、そういったところもふまえて学校を回ったりしています。

G:
「初めて新卒を入れる」とのことですが、これが「初」なんですか?

中西:
僕は初めて聞いた話です。

金内:
いわゆる「新卒採用」ということだと、来年入ってこられる方々が初めてです。学生時代からバイトをしていてそのまま入社してしまい、結果的に新卒になったという人もいますが(笑)

中西:
採用プロセスから入れてきた、というのはないですね。

金内:
そうですね。

G:
この島根でのエピソードで、「島根は割と補助が手厚いので助かる」というようなことも書いてあったんですが、補助というのは?

中西:
国が出す補助金のことですかね?

金内:
松江市自体がRubyのエンジニア育成に取り組んでいて、Rubyビジネスを現地でやるためのオフィス誘致に積極的なんです。なので、市のバックアップが強力だというように聞いています。

G:
なるほど。「開発者募集!フェンリル島根支社を開設します」というデベロッパーブログの記事で、「ウェブアプリケーションの共同(受託)開発始めました」と書いてあって、島根はこういう感じの人を募集していますよというように書いてあったんですが、残り2つの拠点である大阪・東京との棲み分けというか使い分けは、今どんな関係になっているんでしょうか。

金内:
(中西さんに)……どうですかね?(笑)

中西:
これは難しいところを振ってくれたね(笑)。やっぱり東京の方が受託は多いんですが、僕らはリモート性、つまり距離の問題というのは感じていなくて、ネットを駆使した情報交流・交換をやっているので、「東京のプロジェクトだから東京にいるメンバーで」という感じはあまりないですね。社内の人数も100人という単位まで増えてきていますけれども、スタート時点からフラットな感覚があるので、部の壁もあまり感じないです。


金内:
営業に関してはやはり東京中心で動いています、BtoBビジネスですね。あとSleipnirにおいても広報担当者は東京にいますが、開発・デザイン・企画は大阪でやっていますね。東京にも受託チームの営業や開発がいますけれど、開発は多分大阪メインでやっていますね。で、島根はRubyやウェブアプリについての開発チームなので、そこには営業とかは全くおらず、純粋にRubyを書いている感じですね。

G:
ちょうどオフィスの距離の話が出ましたが、大阪と東京というオフィスについて公式ブログに「いろいろなツールを使うことで、特に問題なくコミュニケーションを取ることが出来ています」と書かれていましたが、どういうソフトや機材でリモートでコミュニケーションを取っているんですか?

中西:
大体は普通にテレビ会議をやりますね。採用面接もテレビ会議でやるというのはすごく不思議な感覚もありましたけれど(笑)、面接を受ける人には東京オフィスに来てもらって入って、みんな大阪から質問しているとか、そういうこともあります。情報に関しては、開発ツールもクラウドを使った情報共有をするので、そのメンバー内ではリモートというイメージは全然ないですね。ただ、お客様と面と向かって話をしなければいけないところは確かにあるんですが、お客様の中でもテレビ会議を使ってコミュニケーションを取っているところもあります。

G:
会議室を見せていただいたらPolycomだったりPlayStation 3だったり、わりといろいろな機材がありますが、他に使っているものはありますか?

金内:
あとはSkypeを使っていたり、FaceTimeをやっている場合もありますね。普通に電話、メールもありますし……。

G:
この辺り、開発についてはどのようにしてリモートでやっているんですか?

西田:
開発はデザイン含めてみんな大阪にいるので。

松野:
Sleipnirに関してはそうですね。

西田:
東京の方だとテレビ会議とか、MacのSkypeとかでやっている感じですかね。

金内:
そうですね。Skypeとかを使って。Mac同士だとFaceTimeを使っているのかなと。

中西:
あとはかなりRedmineが浸透しています。もうほんとに、事務担当の人間もRedmineで共有したり。

G:
それはすごいですね。

金内:
チケットを発行して、みたいな。

中西:
もう分からないのはマネジメントのちょっと年齢の高い人たちだけ。

(笑)

G:
事務までRedmineというのは珍しいですね。
ちょうど2013年末あたりにこのグランフロント大阪へ移転してきていますが、それまでにもいろいろとオフィスが移っているという経歴があります。最終的に現在のここを選んだ理由というのは何ですか?

中西:
そうですね……内覧会に社員みんなで来たとき、みんなが喜んで写真を撮りまくっていたんですよ。

G:
(笑)

中西:
全員がまだ何もないフラットなフロアに入ってきて「わあ~」という感じになって。こういう社員のモチベーションが上がるという部分と、やはりグランフロント大阪に入っているとお客様の見方も変わってきますので、そういう部分もあるだろうと思います。トップが今週の朝礼でちょうど言っていたんですが(笑)、企業として今後長く続けていくことを目指す中で、こういった投資はしていかなければと。すでに「手狭になったら次はどうする?」みたいな議論が出ていますしね。すぐに手狭になったね(笑)

金内:
そうですね(笑)、前のオフィスがどうしても手狭になってしまって移ってきたんですが、若干本来のスペースからはみ出すデスクが出てきていて。以前はあれがもっといろんなところにあったんです。なので、「これはヤバいやろ」みたいなことになってきたら引っ越さないといけないかもしれないですね(笑)

ギッシリとデスクが並ぶグランフロントのフェンリルオフィス。


西田:
グランフロントに来たことで採用も楽になったという話を聞きますね。そのおかげもあって、またはみ出すようになってきたんですけど(笑)

G:
週1ペースで人が増えてるという話でしたからね(笑) 今ちょろっと出てきましたが、朝礼というのは何をするんですか?

中西:
この辺りが「フラットやな~」と思うんですが、毎週朝礼をしています。大阪と東京と島根をつないで、CEOが訓話したり、各部門の進捗報告を全員で共有したり。こういう、ちょっと昔チック、アナログチックなところもありますね。みんなエンジニアやデザイナーで、「PCが友達」……というと怒られるけれど(笑)

G:
(笑)

中西:
人間らしいというところも意識してやっていますね。「よう毎週しゃべるなあ」と思ったりもしますけど(笑)

G:
そういえば以前、柏木社長が「どこかの時点で朝礼みたいなものをやりたい」と仰っていた覚えがあります。本当に朝礼をやるようになったんですね。

金内:
確かに、私が入った頃には全社朝礼というのはなかったですね……。

西田:
僕が入ったぐらいにはありました。

松野:
朝に集まって一人一言くらいしゃべるような会はありましたけど、全社朝礼みたいな感じではなかったですね。

金内:
たぶん2009年か2010年だと思いますよ。

中西:
結構続けてきてるよね。

G:
最近始めたのではなく、4年ぐらいは経っているんですね。

中西:
「もう今週はやめようか」ということもなく、毎週あります。

G:
ちょうどこの朝礼の話を聞いたころ、それまでは割とラフな格好だった柏木社長が背広姿だったので「今からどこかに行くんですか?」と聞いたら「ここ最近、ずっと仕事は背広を着てやろうと思っていて。社内がたるんでいるというかなんというか、こういう形から入るみたいなことも大事なのかなと思って」というようなことを言っていて、今日見てみたら特に背広の方ばかりということもなかったので、どういう流れがあったのだろうか、と思ったんですが。

松野:
今でも、こういうソフトウェア会社やデザイン会社の割にはちゃんと、ドレスコードというほどではないですが規定があって、「ジーンズ禁止」とか「Tシャツだけでは禁止」とか「襟付きのシャツをちゃんと着てこい」みたいなものがあって、それは続いていますね。

G:
さすがに柏木社長、背広はいかがなものかと思ったんですね(笑)

金内:
全員スーツというのはなかったですが、社長はその頃から出社される時はほとんど背広、スーツで来られている感じですね。

G:
なるほど、きっと柏木社長の中で何かあったんですね(笑)
フェンリルでは朝日新聞デジタルselect ニュースヘッドラインテレ朝 newsジャンプカメラ!!みまもりGPS専用アプリ、さらには年末に話題になったNHK紅白などのスマートフォンアプリを作っています。そもそもフェンリルというとSleipnirというブラウザから始まっていて、こういったアプリの受注もやっていて、ここ最近はユーザーインターフェイスやユーザーエクスペリエンスのリサーチデザイン事業も始めていて、と成長していますが、これはどのような感じで「次はこうしよう」と考えていったのでしょうか。

中西:
意思決定については僕だと分からない部分もありますが、感じているのは、お客様から「Sleipnirのフェンリル」だと認識いただくことで受託の話がしやすくなっているということですね。「フェンリル?うーん……?」という人でも「Sleipnir……ああ、馬の印のブラウザね」とスッと分かったりするのではないかと。それで、馬印のステッカーを作ったりもしています。


G:
ああ、なるほど(笑)

中西:
そう考えると、Sleipnirの実績があってこそデザインにこだわるポリシーからウェブアプリやスマホアプリの開発へ行き、そこで「大手のお客様に選び評価していただいているフェンリルという企業」になって、またデザインの方へ……とやってきていますし、逆にまた、受託の経験を活かして新しく自社アプリにチャレンジしようというように戻ってきたりしています。基盤にデザインと技術があり、そこからメッシュ型にいろんな事業が増えていて、この広がりはまだまだ続いていくのかなと思いますね。

G:
Sleipnirの馬が象徴的存在になっているということですが、現在、社内でSleipnirの開発に携わっている方はどれぐらいの割合なんですか?

金内:
全社でいくと……

中西:
2割から3割弱くらいですね。

G:
かなりのリソースを割いているんですね!これはAndroidやiOSも含めてでしょうか。

西田:
そうですね。

G:
話は飛ぶんですが、牧野さんのTwitterを見ていると「フェンリルのデザイナーが最近仕事に利用している小物です」ということで不思議なものの写真が掲載されていますが、これは何なんでしょうか?


西田:
ペーパープロトタイピングのヤツですね。

松野:
実際にものを作るのには結構時間が掛かるんですが、机上で紙を切り貼りすればその場でわりとサクッと体験できるので、そのためのパーツだと思います。

G:
オフィスを拝見したとき、壁にでっかく「ToDo、やることリスト」みたいなものが付箋紙でぶわーっと貼られていましたが、フェンリルはそのあたり割とアナログな部分を持っているんでしょうか?

中西:
それはアナログだと思いますね(笑)

G:
みんなが同じフロアにいるから、その方がやりやすいんでしょうかね?

松野:
そうですね、やっぱりオンラインでやっても見てる・見てないがあって行き違いがあったりしがちなので。その点あそこに貼ってあれば必ず前を通りますし、用がなくても見られるので。

G:
フェンリルは全社での情報共有・意思共有っていうのをきっちりやるんですね。

中西:
そうだと思います。このあたりは大学の研究室、ラボというかゼミっぽいノリもありますね。ビジネスなんですけどビジネスとは違う、みたいな。

G:
ページにもでかでかと書いてありますよね、「利益は結果に過ぎない」みたいな。

金内:
ものを作っている、という研究開発的なところもあるので。いろいろ議論とかも盛んな感じはしますね。

G:
議論というとどんなのですか?

金内:
デザインにしても、どうやってユーザーにもっと知ってもらうかにしても、何が今問題なんだろうとか、あーじゃないかこーじゃないかっていう(笑)。この辺りは結構盛り上がりますよ。

G:
社内で何かあるとき、会議というよりもそういった議論に近い形ですか?

中西:
議論は多いと思いますね。先ほど述べた「フラットだな」と思っているところの1つはそこで、トップダウンとボトムアップの意思伝達方法がある中で、本当にみんなフラットに議論していて、例えば話はマネージャーからしか落ちてこないとか、現場の人間が意見しないとか、そういうのは全然ないですね。

G:
現場の人間の意見を集める仕組みみたいなものはありますか?

中西:
仕組み……

金内:
貼ってあったりしますよね。

G:
貼ってある?(笑)

中西:
会議で発言したらペタっとポストイットを貼るみたいなスタイルをとっているチームもありますね。

G:
チームというのはそれぞれのアプリとか受託別に、という感じのチームなんですか?

中西:
そうですね、僕のところだとプロダクト別というより、エンジニアでひとつのチームにしていて、情報共有するときにはまさに「何かあったらポストイット」という感じです。チケットと呼んでるよね。

G:
開発駆動システムをリアルでやっているような感じですか、それは非常に変わっていますね。先ほどから「フラット」という言葉が出てきていましたが、そういうことなんですね。

松野:
みんなそれぞれ、思ったことは結構ちゃんと言える環境です。

G:
フェンリルがデザインを重視しているというのはサイトからも伝わってくるんですが、社内にいるデザイナーの方はバックグラウンドとして芸大を卒業しているとか、あるいはそんなものはあまり関係ないのか、他社からのヘッドハンティングなど経験者重視なのか、何かルールやポリシーみたいなものはあるのでしょうか。

松野:
どうなんですかね?今いるメンバーとしては本当にまちまちで芸大を出ている・出ていないにかかわらず、いろんな人がいますね。出ている人が多いのかな?

西田:
そうですね、芸大や専門学校など、それなりに勉強をやってきている人がほとんどですね。
G:
なるほど。また牧野CEOのTwitterからなんですが、山陰中央新報に「島根支社がオープンしました」という記事が載ったときのことが書いてあって、その記事内容に「2013年3月の売上が9億円を見込んでいるそうだが」と書いてあって、そこまで行っているのかと驚愕したんですが、さらに人を増やしているということは、この売上から右肩上がりでずっと来ているんですかね?それとも山あり谷ありでなんとかここまで来たという感じなんですかね?

中西:
売上という規模では右肩上がりだと思いますね。

G:
それはすごい。

中西:
おかげさまで……あと利益は度外視してきたので(笑)。ちょっと最近は利益を意識しはじめたかなっていうことで、おかげさまでグランフロントにも入れるようになり、次がセカンドステージなのかサードステージなのかはわかりませんが、さらに、と……。ただ、目標というか、進めていきたい会社の方向というか、その思いは柏木も、牧野も、まだまだ高いところにあります。あと牧野の言葉で僕がすごく思うのは「絶対値引きするな」ってことですね(笑)

G:
(笑)

中西:
僕の部署は自社開発部なので直接ではないですが、「お客様に値引きをしない」というポリシーはずっと言っています。

G:
ということはよっぽどのポリシーなんですね。

中西:
高くてもきちっと評価をいただけるようなものを目指していくということの現れなのだと思います。

G:
なぜこういうことをお伺いしたかというと、どうやって会社全体が成り立っているのかというのが外から見ているとよく分からなくて、気になるからなんです。

昔はIEの青い「e」アイコンを「インターネット」だと思っている人がいたように、Androidのバージョンが上がってくるまでは多くの人はブラウザを意識していなかったんです。ところが、あるところから「どのブラウザを使いますか」というダイアログが出てくるようになって、ブラウザに対する関心が高まって「ブラウザとは何か?」を意識し始めるようになったみたいです。これがソーシャルゲームの流行時期とも重なって、収益が上がらないサービスはすぐに消えてしまう、つまり「完全無料なんてありえないんだな」ということがみんなわかってきて、無料と言われているものも、どこかでお金を稼がないといけないのだなと。


フェンリルも、Sleipnirの他にいろんな仕事を請けたり、アプリを出したりしてちゃんと持ちこたえていて、もうじき法人化して10年が経ちます。会社の多くは10年も経つと潰れているという話なので、それでもここまで来たフェンリルは、どのようにして苦境を乗り越えて大きくなったのかということを聞きたいなと。

中西:
10年となると、やはり先ほど言ったような「ビジネスの広がり」ですよね。受託だとかデザインの仕事だとか、そういったあたりでスムーズに広がりを作れているというのは大きなところで、拡大している場所でシナジーを生み出しているというのがあると思います。ブラウザに関しては「利益だけではない」という部分がありますが、やはり多くのお客様に使っていただきたいし、我々のプロダクトをすごく気に入ったり、こだわってくれる人にどんどん広げる中で、そういった方々に必要な情報というのは何かというのをうまく伝えていくような部分の協業もあったりしますし……。面白いことに、BtoBみたいな話で、ブラウザをパーツというかOEMともちょっと違うと思いますが、「部材としてこういう使い方をして協業できないか?」という話をいただくことも増えているんです。

G:
向こうから話が来るというのはすごいですね。

中西:
僕らは営業をほとんどしていないんですけど(笑)、それでもお客様にそういう風に見ていただけるというのも僕らの技術力に期待いただいているところと、いわゆる部材としてのカスタマイズ性や開発工程の負荷やスケジュールもあると思うんですが、そういった広がりも出てきています。

G:
フェンリルにはSleipnirを中心とした自社開発事業があって、スマートフォンアプリの共同開発事業があって、ウェブサイト・ウェブアプリの共同開発事業があって、ちょうど話に出てきたOEMの共同開発事業があって、一番新しいユーザーエクスペリエンス・リサーチデザイン事業があるというように大きく5つに分かれていますが、それぞれはどういう比率で成り立っているんでしょうか。


中西:
お客様ありきなので、特別に「これを重点的に増やしていく」というのは全然なくて、それぞれの役割が大事だという考えです。瞬間的にはどこが多いとかいうのはありますけども。今現在でいうと、自社開発よりは受託が多いんですが、この受託の効果をもって5:5くらいの割合まで持っていくという戦略を考えて戦術面の展開を行っていたりします。その中で、Sleipnirを活かして新しくチャレンジしてみたり、今作っているSleipnir以外のプロダクトのマネタイズとかを個々でもやっていきたいと思っています。

G:
なるほどなるほど。何を伺いたいかというと、いろいろと手を出していった結果、Sleipnirがそのうち消えたりというのはないよね?ということを(笑)

中西:
それがですね、トップの思いがなかなか強いものですから(笑)。プロダクトは社長の子どもみたいな位置づけですね。自分が見出してきたものに対する思いと期待っていうのが相当僕らに対しても高いので。

金内:
ひしひしと感じています(笑)

中西:
ひしひしと感じるよね。重い荷物を僕らは背負ってるよね(笑)

G:
やっぱりそういうのは現場の方でもみんな分かるんですかね?

西田:
そうですね、分かります……なんと言っていいか(笑)

金内:
社長と一緒にプロダクトを作っていると、随所にこだわりが出てきて、それがやっぱりすごいなあと思いますね。僕はもともとエンジニアなので、仕様通りに機能があってだいたい動いたら「よしよし」と思うんですが、社長からは「ここをもうちょっと、もう半分早くして」「もうちょっと下にして、指が届くようにしてほしい」「これは遠いからどうだろう」という指摘を受けて、結果的に、それが当たることが多いんです。使い勝手が良くなるわけですね。

G:
ページによく書いてある「1ピクセルにもこだわって」というのは、どちらかというと社長のこだわりなんですね(笑)

金内:
もちろんデザイナーのこだわりもありますね。

中西:
多分会社のこだわりにはなっているんですけど、やっぱりもともと社長の思いというのがすごくありますね。妥協させないですね。

G:
そのあたりの「妥協しない」というのが分かるエピソードは何かありますか?社長に限らず、いろいろとありそうですが。

西田:
社長が「ここが大事だ」と思っているところは、頻繁に「どうなった?どうなった?」「どうなってる?どうなってる?」とよく聞かれますね。その度に「こうなってます」と。

金内:
気配を感じますよね。

中西:
僕が思うのは、開発の人間もユーザーにさせるということですね。ついこの間作ったプロダクトでも、社長が西田に「土日触ったか?」と。「いや、触ってません」と答えると「だめじゃないか。自分がそのブラウザと24時間過ごしてみろ」と言うんです。

金内:
「一番のユーザーになれ」って言いますね。

中西:
そうすると先ほど金内が言ったような「ここをもう何ピクセル、スピードを何インチ上げた方が全然いいだろう」というのが出てくるんです。「自分が一度、本当に寝転がって触ってみたらここのピッチが違うだろう」と。「システムテストよりもそっちを重点的に」という感じですね。これが何度も出てきている「ユーザーの心地よさ、ハピネス」につながってくると思うんですけど、使ってみて本当に気持ちいいかというようなことですね。そうであれば、こっちの多少のバグは許せるだろうかと。

金内:
毎日使うところ、誰もが使うところ、そして頻度が高いところを重点的に磨いていきます。全部が全部完璧にというのはやっぱり無理だという風には社長も分かってらっしゃる。

G:
なるほど、割り切りはしっかりしているんですね。

金内:
「どこに力を入れるか」というところのセンスが違うなという気はしますね。

松野:
ずっと社長と一緒にやってきて、そういうこだわりひとつひとつがチームみんなに浸透していっていますよね。だから最初は言われなきゃやれなかったところも、次第にそういう観点を持って「こうしておきました」と出せるようになっていくので。

金内:
あとソフトウェアだけじゃなくて言葉にも結構こだわっていく。

G:
言葉というと?

中西:
プレスリリースとか、コピーとか、「どういうように伝えたいんだ」と。お客様というかユーザーにわかりやすいかどうか、言ってみれば「しびれる表現になっているか」みたいな。


(一同笑)

金内:
動機づけないといけないというのと、あとリズムに結構こだわる感じですね。

G:
リズム?

中西:
語呂合わせみたいなところが。

金内:
読んだ時に「うん、うん、うん」みたいな。どこか一部分だけ長かったりすると、「ちょっとリズムがいまいちだな」と。

G:
割と徹底的にそこら中に手を入れるんですね。

金内:
そうですね。密度としては松野さんが社長と一番近く長くやっていて、多分一番苦労している(笑)

松野:
そうですね。もともとiOS版を社長と一緒になって作っていて、今みたいなやりとりがあって「Sleipnir Mobile for iPhone」をリリースしました。その頃からずっとそういうノリで、最近だと組織もチームもできているので、割とチームに任せてもらっていますが、やっぱりポイントごとに「ここはなんでこうなってるの?」とバシっと突っ込まれたりはします。

G:
iOS版のSleipnirが出た時に「おお、ついに出たか!」という感じがしたんですけれども、リリースする時のデザイン面で何か印象に残っているエピソードみたいなものはありますかね?

松野:
いろいろありすぎて……(笑)、触った感じや触り心地は、全部コンマ何ミリ秒とかでちゃんと見ていますし、サイズとか位置とかも……

金内:
とにかくステップ数を減らすということでしたね。

G:
ステップ数?

金内:
ある操作をしようとした時にユーザーが何回操作しなければならないかっていうことにこだわっていて、当時はSafariがメインだったわけですけど、大きな違いのひとつは「タブを切り替えるのに何タップ必要か」ということでした。当時のSafariは、まずタブ切り替えモードに移行して、選んで、押す、という3つの操作が必要だったんですが、Sleipnirでは隣のタブだったら本当にパッパッパッとスワイプ操作でいけます。1ステップでも減らせたらそれはユーザーにとっては嬉しいことで、頻繁に使う部分だからこそ減らす価値があって、そこにやっぱりこだわっていたんでしょうね。

僕はiPhone版では主にプログラムをやっていたんですけれども、最初はなぜ作らなきゃいけないのかが正直ピンと来ない部分もあったんですが(笑)、作っているうちに「あ、これはいける、かも」「これはすごい、かも?」という風に変わっていきました。審査の問題もあって、リリースは冬休みに入る前日、つまり仕事納めの日だったんです。その日にリリースして、でも出した直後だから何かあったら冬休み中でも連絡がつくように、いつからいつまではどこにいるみたいなスケジュールをすべて提出していたんですが、結局問題はなかったので冬休みはちゃんと休めて、ユーザーからの反響もすごく大きくて、いい年末年始になりました。

G:
フェンリルはスマホ向けに割といろんなアプリを出していますが、どれが一番売れている……と言うとヘンですが、メインはどれなのでしょうか。

金内:
フェンリルブランドのアプリとしてはSleipnirが比べるものがないくらいすごいですね。

G:
やはりSleipnirはすごいんですね。あと、どういう基準で値段を決めているんですか?

金内:
ひとつ明確にあるのは、Black Editionで600円というのが結構あって、一時期ブログにも書かせていただいたんですが、いろんな事情で本当は無料版を使ってほしいんですけれども、検索エンジンを切り替えたいという要望があるので「選択肢として、一応ご用意しました」というスタンスなんです。なので、「積極的に600円払ってください」ということではなく、できれば無料版を使ってほしいので若干使うためのハードルを高くしているという感じですね。

G:
そういう理由があるんですね。

金内:
そうですね、ビジネス上の理由があって、無料版でもちゃんと十分な魅力が提供できていると思っているので。

G:
InkinessだとiPhone版iPad版で少しだけ値段に差がありますが、あれはなぜですか?

中西:
なんででしょうね?

松野:
大きさの差ですかね(笑)

G:
(笑)

中西:
材料・原料が違う(笑)

松野:
面積ですかね。

G:
Inkinessは実験的な目的があったとのことですが、リリース時には「あ、こんなアプリが出てくるんだ」とかなり印象に残りました。どういう経緯でこのアプリになったんですか?


金内:
当時はiPhoneアプリの開発に参入してすぐの時期で、「何を作ろうか」という中で、ひとつ実用系のツールでそれほどコストがかからずに作れるものをっていうところだったのかな。

松野:
そうですね。

G:
ということは経験を積むという意味合いが大きかったんですかね?

松野:
そうですね、最初だったので。

G:
当時、「最初にこんな突拍子もないアプリを出してくるのか」と話題になったのを覚えています。

松野:
メモ帳でマルチタッチを活かしたアプリ、ということで手書きのメモでどうだろうという案を出して、それを作ってみようということになったんです。ですが……そう簡単ではなく、欲も出てきて、やっぱりフェンリルらしくてデザインにちゃんとこだわっていて、よそにはなくてウチでしかできないようなものをということになると、曲線にこだわるとか(笑)、万年筆の様な感じにするとか……。

Inkiness for iPad 1.0 - iPad Memo Pad and Sketch Book App - YouTube


G:
結構時間がかかったんですか?

松野:
そうですね、どのくらいですかね……

金内:
多分、2月から3月から作り始めて、出たのが6月とかですね。

G:
ちなみにInkinessに決まる前、ボツ案には何があったんですか?

金内:
5年くらい前の話ですね。あのネタ帳の中にあるかも(笑)

G:
(笑)

松野:
多分あるんですけど、ちょっとパッと思い出せないですね……

G:
数ある案の中から、経験を積むという目的でコレになったということですが、「なぜ突然、こんな高度なアプリを出してきたのだろう」と。いきなり難しいものを作ろうとしたのか、それとも他の案はもっと難しかったのか、気になったので。

金内:
作りはじめてみるとやっぱり大変だというのが見えてくるんですよね。こだわりを実現しようとすると。

松野:
最初は「手書きメモを作る」ということしかなかったですからね。

G:
手書きメモがあんな高度なものになっていっちゃったんですね。書き味にえらくこだわっていて、当時ああいうような方向性のものは珍しかったので印象に残ったんですね。「さすがフェンリルだ」みたいな感じがあったので。

金内:
この「手で画面を自由に操作する」というのが、後に、Sleipnirでいうとタブをドラッグして好きな場所に落とすとか、いわゆるUI部分のノウハウにつながっているので、技術的な蓄積にはかなり役だった部分があるかなと思いますね。Inkinessを作ったプログラマーは今もSleipnirでどっぷり開発をしています。

G:
いろいろなアプリが出てくる中で、Sleipnirの関連アプリで例えばリンクを送ったりする「Sleipnir Linker」などがぽつぽつと出ていますが、今後もSleipnir関連や、もしくはそれ以外のものでも、さらに出てくる予定はありますか?


中西:
やっていかなあかんとは思ってますね。さっきのように「どのセグメントが」というわけではなくやっていくところなので。すでに開発を進めているものもありますし。

G:
それじゃあまたとんでもないものが出るんですかね?

中西:
コンセプトはとんでもないので。

G:
コンセプトがとんでもない!とんでもないということであれば、フェンリルさんの出したもので一番とんでもないと思ったのはFenrirFSだったんですけれども(笑)


金内:
あれよりはまだ分かりやすいです。

G:
なるほど(笑)。なんといってもFenrirFSを見た時にあまりのぶっ飛びさに衝撃を受けたので。

中西:
あれもBtoBとして、先ほどお話ししたような部材の1つとして、どことは言えないのですがお問い合わせを頂いていて、そういう見方をしていただける企業さんもいます。

金内:
実用的に活用いただいて。

G:
フェンリルさんの出しているものって何と言っていいのか、統一性が見当たらないので、一体どうやってこういうものを生み出しているのだろうかと。

中西:
僕らはそういうキャラクターなので、それはほめ言葉やなと(笑)

G:
最後の更新からしばらく経って「これはもう更新されないのかな」と思っていたSnapCrabがTwitterAPI Version1.1に対応していて「ああ、忘れられていなかったんだ」と。


金内:
その辺は割と真面目に取り組んでいますね。

G:
社内では作ったものについてはメンテナンスが続いているんですか?どんどんソフトが増えていても忘れられていないという感じがありますが、どのように管理しているのでしょうか。

西田:
新しいサービスが出たり、サービスがアップデートしたりして状況が変わったとき、そんなに力を入れていないものでも既存のものを動かして、また山を作りに行くとか、そういうことを考えたりしていますね。

G:
ユーザーからの要望はどのくらいくるものなんですかね?

西田:
いやもうそれはいっぱい来ますね(笑)

G:
いっぱい(笑)

金内:
いっぱい来ますね。

G:
ユーザーが要望を出す時に、こういう風にして出してもらえると助かる、みたいなものは何かありますかね?

西田:
そうですね……「いつもありがとうございます」という一言が入ってたらいいかな、みたいな。……冗談ですよ(笑)

G:
あまり罵ってほしくはないみたいなところはありますか?(笑)

西田:
そうですね(笑)。もうすごいひどいやつは逆にすがすがしいですけどね。はっきりしていていいなあと。

中西:
愛の裏返しなんよね。

西田:
そうですね、もう愛の裏表。

G:
なるほどなるほど(笑)
フェンリルは2005年6月創業で約9年が経っていますが、内側にいて「これは大変だったよ、今だから言えるけど」みたいなことはありましたか?

金内:
うーん、それはちょっと言えないな……(笑)

G:
言える範囲でお願いします(笑)

西田:
個人的に苦しかったのは、Windows版のSleipnir 3の開発が長引いたときで、あれはちょっと苦しかったですね。なかなか品質も上がってこなくて……。


金内:
SleipnirのiPhone版をiPadに対応させるのがすごく大変でした。社長から「すごい機能を何かひとつ!単にiPhone版をiPadにするだけじゃなくてすごい機能を」という風なお話をいただいたので、みんなで頭をひねって考えたんですけど、社長にお見せするたびに「ダメ」と言われて……なんとか1つ実装して、ちょっとイマイチかもしれないと思いつつ、社長のOKも何とか取れたんですが、進めている途中で「これじゃない」と立ち止まってもう一回作り直したんです。現在のiPhone版やiPad版にある「スワイプでタブを切り替える機能」なんですが、最初は3本指で押したら切り替え可能モードになって、そのままスワイプしたら切り替わるよという感じだったんですが、「それはちょっと辛い」と(笑)。いろんなことを実験しているうちに1本指でもいける感じになってきて、作り直して出したら、ユーザーさんにすごく評価してもらえました。もしも3本指のまま出していたらiPad版はヤバかったかもしれません……。

松野:
ほんっとうに大変でした。

G:
(笑)

松野:
あれに至るまでにもういっぱい案を出して、「何本指の時はこうだ」とか。

金内:
ちょうどMac OS X Lionか何かの時にMac側がちょっとiOSチックになるということで、そのジェスチャーと整合性が取れるかどうか、まだ出てないOSなのでデモ映像を見ながら「これはこうなるはず」「3本指はこうやから……」みたいな感じで、想像で進めました。

松野:
ベータ版が新しくなるたびに仕様が変わったりして、もう1回映像を見直して、とか(笑)。今考えると、1本指でスクロールしつつ指を端に持っていくと次のページ・タブに行くっていうのは他のアプリでもやっていて普通なんですが、当時はそれがなかったので「こういうことができる」というのが全然出てこなくて、思いつくまでが本当に本当に難しかったです。

G:
今見たら当たり前かもしれないけれども当時の状況と考えたら、っていうやつなんですね。

金内:
そうですね。

松野:
1回諦めたのがよかったかもしれないですね(笑)。みんながいまいちだと思っているんだけど一応これしかない、消去法でこれしかない、と思っていた案になりかけた時に一旦離れたんですよね。スケジュールとかも決まっていて、あとは作って出すだけというところで、あえて自分がいいと思った1本指にするとなるとリスケされるわけですよね。それもちゃんと通さないといけない。

金内:
あれは一瞬でひっくり返したんですよね。

松野:
そうですね。

G:
それは大変そうですね。

金内:
でもその時、社長に見せたら「あ、すげー気持ちいい」と言ってくれて、それで結果的にうまくいったというのがありましたよね。

松野:
リスケを提案する時の状況を今でもめっちゃ覚えています(笑)。みんなが小さなミーティングテーブルに向かっているところに行って「これよりもいい案があります」と……まあ、今となればいい思い出ですね(笑)

G:
中西さんは「これが一番の苦労だ」ということはありましたか?

中西:
今が一番苦労しているかもしれません(笑)。でも、従業員のみんなもすごく真面目で楽しそうにやっているんじゃないかなと思います。あとは、Sleipnirが世界征服せなあかんから(笑)


G:
何ですか、その話は(笑)

中西:
先ほど仰っていた、IEのアイコンを見て「これがインターネットか」と思われていたところから、ブラウザは選ぶものというようになってきたというのがありますよね。その中で、いわゆる二大巨頭や三大巨頭がいて、Slepinirはいわばマーケットの挑戦者やと思うんです。その中で、使っていただければすごく心地いいという機能を作り続けていって、それをどう伝えていくか、カルチャーを作っていくとかライフスタイルを変えるとか、そういうことが僕の使命だと思っていて、この使命にどう応えるかが日々辛いなと思うところです(笑)。けど、辛さはあるけれど、それがやりがいでもあると思っています。

金内:
リリースしたらユーザーさんからいいにしろ悪いにしろ反響がいっぱい返ってくるというのは、すごくありがたいお話ですよね。

中西:
ファンというのはすごくありがたいです。きつい言葉の人も離れずに使っていただいているというか、そういうプロダクトであるというのが我々の強みでもありますし、さらに押し広げて使っていただく機会を作っていって……。プロダクトの開発には相当こだわっています。「いいものは売れる」というトップの思いもあり、でもまだ使ってもらうためにはいろいろな課題があるので、そのあたりを実現できていければいいな、と。

G:
今言える範疇で、今後の予定としてこういうことを考えていますというのはありますか?それが「今が一番大変」の原因かもしれませんが(笑)

中西:
さっき金内が「研究開発的な」ということを言いましたが、まさに「研究」しているんですよ、プロダクト開発なのに(笑)。それを実装していって変化を与えたいというのがあります。何だか「iPS細胞作ってんちゃうか?」と思う時がありますね(笑)。その実験台がマウスではなく、みんなであり僕らであるっていう、そういうこだわりの中で変えていって、他社さんのプロダクトとは違う、カルチャーを変えるみたいな使命を僕は感じているんですよね。

G:
ということはそういうのが出るんですかね?

中西:
ぜひご期待ください。途中でネズミが死ぬかもしれませんが……(笑)

G:
相当の自信、プレッシャーがあるような感じですか?

西田:
そうですね(笑)。最大公約数的に誰でも使えるものを作る大手ブランドに対して、僕らはそんなに大きくないし、同じことをやっていても勝てないので「違うことをやらなあかん」というのは常々思っています。その中で「どうやって勝つんや」ということで、Sleipnirでデザインなどを「先端的」と表現したように、とんがったものを出しています。僕らが目指すのは、ウェブブラウジングを1から見直して、慣れているソフトだからこれでいいというのではなく、本当に快適なのは何かを考えてそれを具体化し、みんなのライフスタイルを変えて「これのおかげでもっと便利になった」と、ハピネスを与えるようなもの。……そのために日々悩んでいます(笑)、そういうものを近いうちに出したいなと思っているんですが。

G:
なんだか今の話を聞いているとすごいですね、どんなものが出るんだ?と。

金内:
絵を見ていると、結構すごい感じになってますよ。

G:
それは期待大ですね。……これは記事に書いても大丈夫な部分ですよね?(笑)

中西:
そこは書いていただいて大丈夫です。

G:
安心しました。「なんかすごいことを言いはじめたぞ!」という締めになりますね。

西田:
ありがとうございます。ぜひ。

中西:
書いていただいたら「やらなしゃーないわ」とその気になるので(笑)

G:
(笑)

西田:
しょーもないものを出したら……

中西:
叩かれるかな(笑)

G:
楽しみにしています。本日はありがとうございました。

ちなみに、フェンリルがグランフロント大阪にオフィスを移転したときに配布したお知らせがコレ。閉じた状態だと普通のメッセージカードに見えますが……


開くと、「フェンリルのオフィスはココ!」というのが一目で分かる仕掛けがしてあります。どこまでもデザインに凝るフェンリルらしさが出ています。

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in 取材,   インタビュー,   ソフトウェア,   ネットサービス,   ピックアップ, Posted by logc_nt

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