「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のマーティン・スコセッシ監督インタビュー
無一文ながらも26歳という若さで証券会社を設立し、年収49億円を稼ぎ出した実在の人物ジョーダン・ベルフォートの破天荒すぎる人生を描いた映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のマーティン・スコセッシ監督が映画公開に先駆けて来日したので、主演のレオナルド・ディカプリオや撮影秘話などについて直接インタビューをして聞いてきました。
ストーリーの核心に触れる部分については記載していませんが、「公開前にストーリーの筋について前情報を一切入れたくない」という人は気をつけてください。
映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』公式サイト
http://www.wolfofwallstreet.jp/
GIGAZINE(以下、G):
どういう経緯でジョーダン・ベルフォートの出てくる話を映画化することになったのでしょうか?
マーティン・スコセッシ(以下、スコセッシ):
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、主演のレオナルド・ディカプリオが長年温めていた作品で、脚本自体はテレンス・ウィンターが手がけています。レオはジョーダン・ベルフォートの役に対して非常に強い情熱を持っていて、常に映画化を願っていたんですね。ロバート・デ・ニーロなど素晴らしい役者と仕事をしてきた経験から、レオのような役者が強い思い入れを持っている作品というのは特別なものだというのはわかっていたので、早く映画を完成させたかったのですが、どうやって作品の題材にアップローチすれば他の作品と差別化できるか、という点に少し時間がかかりました。
G:
前作の「ヒューゴの不思議な発明」が全年齢向けのような作品であったのに対して、ウルフ・オブ・ウォールストリートはセックス・ドラッグ・マネーなど過激な内容を含んだ映画となっていて、日本では「18禁」どころか「18禁+」になっていますが、これは狙ったものなのでしょうか?
スコセッシ:
今作の過激な内容というのは、もともとの物語が過激な性質を持っていたからですね。この作品を撮ったのは「ヒューゴの不思議な発明」の後でよかったと思います。ウルフ・オブ・ウォールストリートは制作開始から完成まで5~6年という長い時間がかかっているのですけど、この期間があったからこそ過激なシーンをどうやって撮影するかなど自由に考える余裕ができました。よりエロティックにみせるのか、事実として客観的に描くのか、作品の見せ方というのは私にとってチャレンジでもあったんです。
G:
作品の中で「予想外に良かった」と思えるシーン、つまり、思い描いていたものや予定していたものとは違う内容になったけれども「素晴らしい」と感じる結果になった場面はありますか?
スコセッシ:
ほとんどのシーンがそうでしたよ。役者は自分の演じている役に慣れてくると、制約をあまり感じず自由に演じてくれるんです。カメラを動かすのか・動かさないで撮影するのかなど、細かい部分においては制限がありましたけど、役者と同じように私自身も撮影において制限を感じませんでした。ウルフ・オブ・ウォールストリートの持っている特徴自体が開放的な要素を多々含んでいるので、言ってしまえば何が起きてもおかしくないような感じで撮影は進みました。
G:
では、演技にアドリブを取り入れるといったシーンはかなりあったのでしょうか?
スコセッシ:
そうですね、かなりたくさんありました。編集作業は私が1980年ごろからずっと仕事を共にしてきたセルマ・スクーンメイカーがやってくれたのですが、カットしなければいけない部分が多かったので編集には長い時間がかかったんです。
G:
では、反対に想像していたよりも実際に撮影すると難しかったのはどの箇所でしょうか?
スコセッシ:
どのシーンの撮影も大変でしたよ(笑) 一番難しかった箇所というと……ディカプリオが娘を乗せて車をすごい勢いでバックさせるシーンですね。危険が伴うシーンに加えて小さな女の子もいたので、安全に細心の注意を払う必要がありました。他にも多くの難しい撮影が続きましたけど、結果的にはスケジュール通りに撮影が終わったんですよ。
G:
なるほど。
スコセッシ:
作品内でレオが長い演説を行うシーンが2カ所あって、そのシーンも撮影がとても難航しました。撮影の難易度を考慮して、結局2つの演説のシーンは最後に撮ったんです。レオにとってとてつもないエネルギーが必要だったのに加えて、へんとう腺を痛めてしまうという問題も発生してしまいまして。ですので、2つのシーンを1日で撮影するのではなく、間に1日休暇を挟んで撮影を行いました。
G:
クレジットタイトルですさまじい数の楽曲のリストが流れましたが、選曲は監督がすべて行ったのでしょうか?
スコセッシ:
そうですね。私が映画で使用された全ての曲を選びました。ランディ・ポスターやロビー・ロバートソンが曲に関して提案などしてくれますが、実際に選曲するのは私が全てやっています。特にロバートソンからは「ボートのシーンはこれがいいのではないか」などと多くのアイデアをもらいました。ウルフ・オブ・ウォールストリートの中で使用している楽曲は、アメリカの初期のブルースがベースになっています。アメリカの初期のブルースが持っている荒々しさとか、下品さが作品にうまくマッチするのではないかと思ったのです。
また、私が起床するといつも聞く衛星ラジオのシリアス・エックス・エムで放送されている番組で、ルー・リードなど1945年頃の曲が流れていて、そちらにも影響を受けています。
G:
作品内では、過激であったりシリアスなシーンでポップな音楽を流すなどしてギャップを演出していることが絶妙だと思いました。シーンの雰囲気と違う楽曲を選ぶ時のコツはありますか?
スコセッシ:
私が選曲する時には、その曲が持っているリズムだとかムードをまず考慮します。場合によっては撮影しながら、そのシーンに合った曲を考える事もあるのですけど、実際に撮影したものを見てみると、思い描いた曲が合わないことがあるんですね。そういったときは思い描いたものと似たような曲を聞きながら、マッチする曲を探すこともあります。ただ、ほとんどの場合は実際のシーンに対して音楽で強弱をつけるため、実際のシーンとは違う雰囲気を演出するような曲を選ぶ事が多いです。私の人生は常に音楽と共にあったので、狂気的なことが起こった時でも、それと正反対の雰囲気の音楽が頭の中に流れていました。
スコセッシ:
曲の歌詞が持っている意味も選曲時に考慮する要素の1つです。ウルフ・オブ・ウォールストリートで使用したハウリン・ウルフの「スモークスタック・ライトニング」や「スプーンフル」といった曲がそれに当たります。スプーンフルの歌詞に出てくるスプーンには何が入っているのか、ダイアモンドなのか、愛なのか、それともヘロインなのか、そういったことを考えて選曲しました。曲の歌詞が映画のシーンにぴったり合うこともあります。
G:
パラマウントがフィルムでの映画配給を停止して完全デジタル配給へ移行しました。監督はフィルムからデジタルへの移行を描いたドキュメンタリー映画「サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ」内でフィルムに対する愛情を語っていましたが、デジタルへの移行について監督の率直な意見をお聞かせください。
スコセッシ:
もちろん私はフィルムを愛しています。ですが、フィルム配給が停止したということは事実なんです。フィルム配給が終了したからといって、映画制作をやめるわけにはいきません。そうではなく、デジタルという新しい技術を使って何ができるかを考えなければいけないのです。撮影してフィルムを保管するという仕事に従事してきた人間として言えるのは、100年以上も破損することなく保存できるのはフィルムの素材であるセルロイドだけです。物理的に保存しないデジタルには耐久性がない、と言えます。ですので、デジタル移行の今後の課題は「どうやってデジタル撮影された作品を長期間保存するのか」ということになるでしょう。ジョージ・ルーカスは、フィルムからデジタルへの移行を「10年間のダークゾーン」と表現しました。我々は新しい技術を受け入れて使用しますが、デジタルテクノロジーがどこまで進化し続けるか、分からない部分もあります。
スコセッシ:
ウルフ・オブ・ウォールストリートはデジタルで配給されましたが、撮影のほとんどはフィルムで行いました。デジタル撮影はALEXAやキヤノンのカメラを使用しましたね。デジタルには不確かな要素もありますが、それがおもしろい点でもあります。ただし、私は次回作もフィルムで撮るつもりですよ。
G:
監督自身はデジタルよりフィルム撮影を好まれているということですか?
スコセッシ:
そうですね。ですが、私は映画を撮影して物語を人々に伝えなければいけません。そのために使用できる技術はデジタルなんです。絵画の世界は何年も前に新しい技法が生まれて変化を遂げてきました。映画にも同じことが言えるかもしれませんね。
映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は2014年1月31日(金)公開。マーティン・スコセッシ監督は、ウルフ・オブ・ウォールストリートを過激でありながらユーモアたっぷりの作品に仕上げており、作品中で使用した楽曲にもかなりのこだわりをみせていました。また、主演のレオナルド・ディカプリオは本作の出演を区切りに俳優業の一時休業を宣言しており、ウルフ・オブ・ウォールストリートで5度目になるスコセッシ監督とのタッグもしばらく見納めになりそうです。
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