元Amazon社員が明かす、”最強の捕食者“Amazonのビジネスモデルとは?


Amazon.comの2012年の全世界総売上高は610億9300万ドル(約5兆9000億円)と、世界最大のネット小売業者の地位を不動のものにしています。しかしAmazonは、巨額の売り上げにもかかわらず、毎年赤字決算を出すことで有名であり、それ故に投資家から絶大の信頼を得ていて、また、盤石の地位を築き上げているといいます。

Amazon and the "profitless business model" fallacy — Remains of the Day
http://www.eugenewei.com/blog/2013/10/25/amazon-and-the-profitless-business-model-narrative

2013年10月24日にAmazon.comが第3四半期(2013年7月から9月)の決算を発表しました。発表内容によると、売上高は前年同期比24%増の170億9200万ドル(約1兆6600億円)にも関わらず、純損失4100万ドル(約40億円)だとのこと。本業のネット小売業だけでなく、クラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」などが絶好調のAmazonによる赤字決算の発表は、ウォール街では見慣れた光景であり、投資家のAmazonに対する信頼はまったく揺らぐことがないことは、堅調な株価が示すとおりです。


1997年から2004年にAmazonで働いたEugene Wei氏は、同社のビジネスモデルを古典的な「固定費型ビジネス」であると表現しています。これは、いったん十分な売り上げを達成すると、収入が固定費ベースを超えて利益構造に転換するもので、Amazonはこれまでに何回も固定費ベースというハードルを越えてきました。

WeiさんがAmazonに加入した早い段階で、いつ収入が固定費ベースを超えて利益を生むかを予測することは可能で、投資を積極的に行うか、そのペースを緩めるかによって転換期を調整することができたといいます。確かに、AmazonではKindleのeBookに代表されるように、売ることで赤字になる商品も扱っています。しかし、巨大な電子機器のように送料としてかかるコストが大きなアイテムであっても、長い時間をかけて修正が行われ、意図的にロスリーダー(目玉商品)として売っている物を除けば、ほとんどの商品が利益を生み出しており、また、マーケットプレイスのように巨額の粗利益を稼ぐプラットフォームを持つなど、収益構造は万全です。

では、それほどまで利益を生むビジネスがあるのに、なぜAmazonが四半期決算のたびに赤字であるとの発表を行うのか。その理由をWei氏は「Amazonには無限の野心があるからです。Amazonは世界中の小売店を飲み込みたいのです」と語ります。

By Alexandre Duret-Lutz

Amazonには壮大な目標があり、これまでより大きな規模のビジネスを行うために投資をするという決断をし続けてきました。例えば、純粋なソフトウェアビジネスを行っていれば、戦略的な固定費はより小さなもので済んだはずですが、「世界中のすべての顧客に素早く商品を届けるビジネス」を育てるために必要とされる資本を有するのは、世界でもほんの一握りの企業に限られます。

Amazonは、送料をできるだけ安くし、商品をできるだけ早く届けることが、顧客の満足度を高め次の取引につながることを早い段階で理解しました。そのため、何十億ドルもの巨額の費用を世界中の物流センターの構築につぎ込んできたのです。Wei氏がAmazonに加わったとき、アメリカに物流センターは一つしかありませんでしたが、今では12箇所に増やされ物流網が築き上げられています。

By Scottish Government

Wei氏は、新しい物流センターの建設や新しい国への進出をやめれば、Amazonは今すぐにでも四半期収益を簡単に黒字にできると確信しています。それは、Amazonがまだアメリカ国内で本を売るビジネスをしていて、ちょうど彼が加わった1994年の時点でさえ可能だったといいます。しかし、ジェフ・ベゾスCEOはそのような手法を決してとりません。「ベゾス氏、そしてベゾス氏が率いているAmazonは、食物連鎖の頂点にいる捕食者であり、決して狩りをやめることはないでしょう」とWei氏は話します。

よくAmazonの"利益を出さない"ビジネスモデルについて「flip the switch(急反転)」が最終目的だとする主張があります。すなわち、世界中の小売店をたたきつぶし最後まで生き残ったAmazonは、ある日突如として価格を全面的に上げる、という推論です。しかし、Wei氏はこれを邪推だと一蹴しています。その理由は、Amazonのコアビジネスであるネット販売は、各取引ごとに時価レベルで利益を生み出せるのであって、スイッチを切り替えるまでもなく、取引高が成長し物流センター建設の固定費を超えるときまで待つだけで利益を上げるには十分だからです。

このような誤解を生むのは、Amazonが、例えば「Amazonプライムの加入者の人数は?」「Kindleはどれくらい売れたのか?」「物流センターへの設備投資額はいくらか?」といった質問に対する回答を、ファイナンシャルレポートで一切出さないことが原因です。しかし、このようなAmazonの姿勢は、GoogleやAppleといったハイテク企業に特有のものであり、ハイテクビジネスの経営を誰よりも知るのは投資家ではなくハイテク企業自身であるというプライド故に仕方のないことかもしれません。

しかし、日用品を売るというAmazonのコアビジネスが本質的にマージン(利益)の小さいビジネスである、というのはベゾスCEOも百も承知のこと。どんな手法をもちいたところで、Appleのハードウェアビジネスのようなマージンを達成することは不可能です。その結果、AmazonがクラウドサービスのAWSに乗りだし巨額の投資を行いライバルのIBMを蹴落として米国中央情報局(CIA)とコンピューティングサービス契約を締結し、さらに「Login and Pay with Amazon」サービスをひっさげPaypalに勝負を挑もうとしているのは、Amazonの無限の野心からすれば至極当然のことだと言えます。

By JD Hancock

Amazonが巨額の投資を続けるのをやめることを望む投資家もいます。彼らは、ライバルはもう蹴散らした、今こそ転換期だと考えています。しかし、1982年当時最大の小売業者であったシアーズは、その9年後、ウォルマートの半分の規模になりました。スマートフォン市場を切り開いたブラックベリーは消滅寸前です。Amazonが競争(レース)をやめることを望むのは、ナンセンスです。

Wei氏は、Amazonを「ウサギでもあり亀でもある」と例えます。Amazonは非常に忍耐強く、他の会社のように遊ぶこともなく、失敗を繰り返してもへこたれません。しかし、ビジネスチャンスをかぎ取れば、誰よりも早く疾走することもできます。そして、競争相手を過酷な環境に引きずり込み勝負をします。Wei氏は仮に自分がAmazonのライバルであれば、四半期ごとに赤字を垂れ流すのを恐ろしいシグナルと見なすだろうと言います。彼は「それは、Amazonがレースの舞台を空気の薄い高地へ引き上げる準備をしているということであり、小売競争は今後、さらにハードなものになるだろう」と予想しています。

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