高コストなアメリカの医療ビジネスに潜む「闇」とは?
By Hamed Saber
自己破産の原因の多くが「高額な医療費を支払えないから」であるということはアメリカではよく知られた話であり、マイケル・ムーア監督の2007年の映画「シッコ SiCKO」でも取り上げられています。では、なぜいまだにアメリカの医療費が高額なのか、そしてアメリカ医療界に潜む「闇」とはどのようなものなのでしょうか?
How to Charge $546 for Six Liters of Saltwater - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2013/08/27/health/exploring-salines-secret-costs.html
ニューヨークタイムズのニーナ・ベルシュタイン記者は、2012年5月にニューヨーク北部で起きた集団食中毒事件を取材する中で、アメリカの医療費が異常なまでに高額である原因について知ることになりました。
例えば、医療現場でおなじみの生理食塩水のパック(IVバッグ)のメーカー出荷平均価格は、政府資料によれば1ドル(約97円)程度とされています。しかし、アメリカでIVバッグ治療を受けた場合、請求される金額は、IVバッグのメーカー価格の1000倍に跳ね上がるかもしれません。
このようなIVバッグの例を挙げるまでもなく、アメリカでは医療費が異常なまでに高額であることは公然の事実です。しかし、なぜ医療費が高額であるかについては秘密にされています。高コストの原因を覆い隠すものは、「流通組織による巧妙な処理」と「病院明細書のわかりにくさ」です。
◆巨大な中間搾取組織
1ドルのIVバッグのためになぜ高額な費用が請求されるのか。それは、IVバッグの価格は、巨大な流通組織による搾取の結果、病院に届くまでに跳ね上がるからです。
巨大な中間搾取組織は「メーカーから医療用品を大量に買い付ける組織」と「医療用品を病院に振り分ける組織」の2種類に分けられます。IVバッグは、トラックの積荷で運ばれる度に、不法なリベートが何重にもかけられた随意契約を通り抜け、価格が跳ね上がっていくのです。
By OECD Organisation for Economic Co-operation and Development
2つの中間搾取組織は「このシステムの下、規模の経済により何十億ドルのコスト削減になっている」と言いますが、もっぱら「競争をなくすことで費用が高止まりするだけだ」と批判されています。
◆病院の対応
わずか1ドルのIVバッグに高いコストを払わされる病院が被害者かといえばそうではありません。アメリカ医療が高額である原因は病院にもあるからです。
食中毒で病院に運ばれ治療を受けた幼児とその祖母が病院から渡された医療費明細がそのことを明らかにしています。請求書にはIVバッグ治療の費用項目があり、大人787ドル(約7万6400円)、子ども393ドル(約3万8100円)とされていました。患者にIVバッグを投与する医療行為自体には大人と子どもで違いはありません。つまり、IVバッグという食塩水の量の違いだけで数百ドルの開きがあるということです。ここからは、6リットルの生理食塩水の費用が546ドル(約5万3000円)であると算出できます。
By Lynn Kelley Author
ベルシュタイン記者がこのことについて問い合わせたところ、病院はこのような値付けを「病院で設定しているプライベートな料金」であると答えました。また、先の幼児と女性は、低所得者のために州が用意する公的医療制度であるメディケイドを受けていたにもかかわらず高額な費用が請求されたことについては「なぜだか説明することができない」としました。
食中毒で治療を受け高額な治療費を請求された男性がメディケイドの保険維持機構(HMO)に苦情を申し立てたところ、病院に66.5ドル(約6400円)支払うだけで済みました。彼が当初、病院から請求された金額は606ドル(5万8800円)だったということです。
食中毒事件の被害に遭い、3日間入院した麻酔専門医のフロイト博士は、自身が加入する医療保険のおかげでわずか8ドル(約770円)の支払いですみました。しかし、病院から保険会社に請求される費用が6844ドル(約66万4500円)であり、その中で6リットルのIVバッグが546ドル(約5万3000円)もするという事実を知り困惑します。「まったくもって不合理です。単なる塩水ですよ」という彼女の嘆きは至極当然だと言えます。
◆高額医療の行方
このような、巨大な中間搾取組織と病院によってもたらされる高額な医療費は、患者にとってはもちろん納税者にとっても大きな問題と言えます。オバマ政権による医療保険制度改革では国民皆保険制度の導入が予定されているものの、根本的な問題を取り除かない限り解決の道はなさそうです。
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