メモ

「薬の値段が高いのは製薬会社の研究開発費を回収するためではない」という主張


公的医療保険による診療が普及する日本では、薬価は細かく規制され管理されています。一方、アメリカでは「患者にとって適正な薬価は市場競争の下でもたらされる」という信念のもと、製薬企業や薬剤給付管理者(PBM)の自由裁量で薬価が決定されるため、1人当たりの医療費の高騰が問題となっています。製薬会社は「高い薬価は研究開発費を回収するため」と説明していますが、The Atlanticが「薬価の高騰には研究開発費は関係ない」と主張しています。

Do Prescription Drugs Really Have to Be So Expensive? - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2019/03/drug-prices-high-cost-research-and-development/585253/


去勢抵抗性前立腺がんの治療に用いられるアビラテロンは、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって2011年に承認されました。アビラテロンは第III相試験で去勢抵抗性前立腺がん患者の生存期間の中央値をおよそ4カ月延長することに成功しましたが、アメリカで投与されるためには最低でも月およそ1万ドル(約110万円)の費用がかかるとのこと。

アビラテロンは、ジョンソン・エンド・ジョンソンから「ザイティガ」という商品名で製造販売されています。ジョンソン・エンド・ジョンソンは「2017 Janssen U.S. Transparency Report」の中で、「私たちは、自社の薬の販売によって将来の研究開発に投資するために必要な利益を確実に供給されなければならない」と述べていて、医療薬の高い価格設定は新薬を生み出す研究プロジェクトの資金を得るために必要だと説明しています。


高すぎる薬価には2つの悪影響があります。まず薬の価格が高すぎると当然治療費も高騰し、多くの患者が薬の恩恵に預かることができなくなります。Journal of Clinical Oncologyが発表した研究によると、2000ドル(約22万円)以上を医療費に請求される場合、月に10ドル(約1100円)の医療費を払っている口腔がん患者の13%が承認された抗がん剤の購入をあきらめたことがわかりました。

もう1つは、高い薬価は研究の優先順位を大きく左右するというもの。アメリカでは、多くの抗がん剤が12万ドル(約1300万円)から15万ドル(約1700万円)で販売されていて、600種類以上の抗がん剤がテスト段階にあるといわれています。しかし、The Atlanticは健康的な利益を重視するためにも、抗がん剤よりも抗生物質に研究資金を投じるべきだと主張しています。


こうした悪影響を懸念する声が出ているにも関わらず、薬価の高騰を留まるところを知りません。アメリカの保険福祉省は、2016年でアメリカ国内で医薬品に費やされた額は4兆6000億ドル(約510兆円)以上だと推定しています。これはアメリカのGDP(国内総生産)のおよそ17.8%を占める額で、経済協力開発機構(OCED)に加盟する10の先進国の中でも圧倒的に高い割合を誇っていることがわかっています

Memorial Sloan Kettering Cancer Centerの研究者であるPeter Bach氏率いる研究チームは、アメリカで売上トップ20を誇る薬品の価格をヨーロッパとカナダでの価格と比較しました。その結果、20種類の医薬品での価格差から得られる累積収益で、製薬会社によって行われた医療品の研究開発費のほとんどをカバーできることがわかったとのこと。The Atlanticは、こうした収益のほとんどが製品のマーケティングに費やされると指摘します。


年々上昇する薬価の引き下げを公約に取り入れる政治家も多く、ドナルド・トランプ大統領は薬価の高騰に対して「不公平で容認できない」とコメントし、アメリカとその他の国での医薬品の価格差の拡大を速やかに止めると述べました。

しかし、連邦議会レベルで薬価の高騰について討論するたびに「薬価の下落は革新的な製薬研究を妨げる」という部分が争点となり、アルツハイマー病やうつ病の治療法を見逃してしまう可能性を考慮した結果、こうした改革は失速しているとThe Atlanticは指摘。さらに「アメリカの医薬品価格は極端に高く、高い薬価を正当化するために高い研究費を理由にすることは詐欺的です」と批判しています。


抗がん剤の高騰と鎮痛モルヒネへの需要を抑えるために、ジョンソン・エンド・ジョンソンはPBMや保険会社へのリベートの排除を提唱し、価格の透明性を高めて患者の自己負担を減らすことを宣言したとのこと。しかし、「高騰する薬価の正体は研究費用の回収ではなく単なる独占価格であり、費用対効果分析と有益性を考慮した価格交渉による薬価規制を行うべき」だとThe Atlanticは主張しました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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