取材

見えない部分のパンツを作り込むフィギュアメーカーの技術力の無駄遣いを現役パッケージデザイナーが解説


7月28日にワンダーフェスティバル 2013[夏]が開催されました。プロ・アマ問わず、並大抵ではない作り込みやこだわりを持った品が展示されていましたが、女の子のフィギュアは普通に立っていると見えないスカートの中のパンツまで造型されていることが多々あります。これは作り手側のこだわりが反映されたものですが、一体、なぜこんな見えない部分にまで力が注がれるようになったのか。フリーライターの廣田恵介さんが、メーカーの現役パッケージデザイナーであるべっちんさんを招いて、トークを繰り広げました。

これは5月に開催されたマチ★アソビで、「フィギュアメーカーのデザイナーの仕事ってどんな仕事?」という名前で行われたものですが、話はフィギュアとパンツの歴史とでもいうべきディープな世界へズブズブと進んでいきます。

廣田恵介(以下、廣田):
今日は「フィギュアメーカーのデザイナーの仕事ってどんな仕事?」というタイトルになっているんですけど、それは実は話の枕でしかなく、何をやるかは見てのお楽しみです。ゲストとして、本当にフィギュアメーカーでパッケージデザイナーをやっているべっちんさんをお呼びしています。べっちんさんよろしくお願いします。

べっちん(以下、べ):
はい、べっちんです。よろしくお願いします。

廣田:
まず疑問として、なぜフィギュアのデザイナーじゃなくて「パッケージデザイナー」になったのかというのがあるんですけど、パッケージデザイナーってどういう仕事なんですか?

べ:
文字通りフィギュアのパッケージを作るっていうのがお仕事なんですけど、いわゆるフィギュアの会社のお仕事っていうのはフィギュアの原型を作るところに始まって、最終的にはパッケージに包まれた状態でお店に並ぶところまで繋がっているわけです。

廣田:
こんなような風体ですか。


べ:
はい、一般的なものは正面に窓が開いています。一般的にフィギュアっていわれた時にパッて思いつくサイズは8分の1、だいたい10cmくらいの大きさのものです。原型を納めた時に、工場の方から「こういうブリスターの配置はどうだ?」っていう提案がありまして、それでたとえばフィギュアの意図した向きとか、この状態で窓からのぞいて気持ちのいい向きとかをチェックして作ってもらうという形です。フィギュアの入り方としてはスペース効率が良いんだけど、手前に傾いてしまっていたりすることがあるので「見栄えの良い位置にしてくれ」みたいな依頼をしたりすることがあって、場合によってはこちらから企画を通して「こういう配置にしてくれ」とお願いしたりもします。

廣田:
パッケージをデザインする時に、すでにフィギュアの原型みたいなのはあるんですか?

べ:
そうですね、パッケージを作るというのは全体の工程の中でわりと後半の方に位置していまして、原型の工場では試作の成形品などが上がってくるぐらいですね。工場で原型を作るときに色がついた状態の見本を送ったりもするんですけど、その後にパッケージを作るというようなタイミングになっています。

廣田:
今、「原型」という言葉が出たんですけど、原型っていうのは個人の方が粘土とかで作るわけですか?

べ:
ポリパテ(ポリエステルパテ)であるとかファンドであるとかですね。ファンドというのは石粉粘土という、中に含まれた水分が蒸発すると硬化する素材のことです。ポリパテとかは石油樹脂系の素材なんですけど、そういったものを使って原型師が手で作ったものが原型になってます。

廣田:
その原型を元に型を作るわけですけど、今売ってるフィギュアはPVCとか……?

べ:
いわゆるプラスチックとかABSとか、ああいう樹脂素材に比べると柔軟性がある素材でできています。

廣田:
原型っていうのは粘土とかで作ったら固いわけですけども、型の方は固いんですか?

べ:
「金型」と一般的に言われるように、金属など固いものでできています。PVCやプラモデルの場合は高圧高温をかけて樹脂を型の中に注型して、型を外して成形するような方法です。

廣田:
この金型っていう文字が僕は大好きなんです。立体物を作るとき、型に流し込んで作るわけですが、今仰ったように金属の型があって、そのほかにもいろいろな種類の型があるんですよ。今ここに白い豆腐みたいなものがあるんですけど、これはシリコン板という型なんですよね。ここにプラスチックや樹脂を流し込む。

べ:
そこを口と言います。

廣田:
そう、口から流すんですよ。それで、中で固まりますよね?すると、成形物は固いけれど型はシリコンで柔らかいですよね、だからここにちょっと髪の毛のモールド(型のこと)が入ってるんですけど……。


べ:
髪の毛ですね、フィギュアの後頭部です。

廣田:
こういう深いモールドや、入り組んだモールドなどもシリコンだとできるんですよ。なぜかというと、シリコンは柔らかいからです。だって、これが固かったら型が固い、中身も固いで、抜けないじゃないですか。だから、PVCの場合は型は金属で固いんだけどPVCは柔らかい。簡単に言うと、「固い」と「柔らかい」の組み合わせでフィギュアはできてるんですよ……っていうのが前座です(笑) ここまで、まず覚えておいてください。

今日ここから話そうとしてるのはプラモデルについてです。プラモデルって、もちろん皆さん触ったことはあると思うんですけど、固いですよね。それなのに、プラモデルの金型って固いんです、両方固いのにどうやって抜いているんだろう?という話なんです。だって、これは耐久性に限界がありますよね。何度も何度も抜いてると、いくら柔らかい型でも傷んできちゃうんですよ。だから、プラモデルの金型というのはとても丈夫で、家が一軒建つくらいのお金がかかっています。

べ:
非常に高いですよね。

廣田:
それだけ耐久性が高いので、プラモデルを何万体も生産できるんです。じゃあ、この型で一体何が作れるのかという話なんですが、もともと戦車や飛行機であれば固いものですから、それらはできるでしょう。じゃあ、柔らかいものをプラモデルで作る場合に、一体日本の模型業界はどんな苦労をしてきたのだろうかっていう話を今からしたいと思いますね。

まずはゴジラですかね。ゴジラはぬいぐるみですから柔らかいじゃないですか。そんなものを一体どうやってプラモデルにするのかって話ですよ。そもそもプラモデルにする必要あるのかと。裏側を説明していただこうと思います。

べ:
これは1983年くらいに作られたキットです。それまでは怪獣模型はマニア向けが主戦場でしたが、それをプラモデルで再現しようというのがこのキットです。廣田さんが先ほど説明されたいたような制限がプラモデルにはある中で、そういったマニアックなモールドなどを表現しようとチャレンジしたものがコレなんです。


廣田:
箱のイラストにあるように、ゴジラの鱗は非常に入り組んでいます。柔らかい型であれば原型さえよければ再現は簡単ですが、これはプラモデルで作っています。プラモデルというのは、これまで飛行機などを作っていたジャンルですよ。それがいきなりゴジラを作ろうとするとこうなる。


廣田:
どうしても型も素材も固いと、無理なことができないんですよ。イラストだとゴジラっぽくて動きそうな感じがしているけれど、固いプラスチックで再現すると……それっぽく鱗が入ってますが、はじっこの方に行くに従ってやる気がなくなって(笑)、なんだか寂しいことになってくるんですよ。


べ:
プラスチックの成型はこんな感じで、中央の黒く塗った部分がプラスチックで、上側のプリン状に膨らんでいる部分が型です。上下に型を外したときに引っかかる部分がなければスムーズに抜けるんです。


べ:
しかし、たとえばちょっと出っ張りがあるような形を抜きたいというときに、そのまま金型を凹ませても作れないんですよ。型から剥がすときに引っかかってしまうからです。すると、どうしても引っかかりができないような形になってしまう。これがプラモデルの宿命というか、金型を使った宿命なんですね。多少であれば無理に抜けば抜けたりもするんですけど、それだとやっぱり金型の寿命を縮めてしまったりもするので、無理のない金型作りっていう思いがやっぱり込められている。これはもうプラモデルのルールなので無理ですよ。


廣田:
ゴジラを水平角度から見たとき、上下に引き抜くことを考えると引っかかるところはないんですよ。作らないんです。だから、体の膨らんでいるところは色々とできるけれど、端の方に行くと抜けるように作らなきゃいけないと設計士の人が考えるから、だんだんと鱗が甘くなってくる(笑) だからなんとなく元気が、覇気がないんですよ。

べ:
無理のない作りですね。

廣田:
では、アラレちゃんがわかりやすいのでいきましょう。アラレちゃんも柔らかいキャラクターで、なぜそんな柔らかいモノばかりプラモデルにするんだとも思いますけど、そこが面白いですね。プラモデルには抜きやすいところと抜きづらいところがあって、抜きづらいところはそれぞれメーカーが工夫してそれっぽく見せようとするんですが、その悪あがきが面白いです。

べ:
アラレちゃんの場合、特徴として「メガネをかけている」というのがありますよね。メガネは、パーツをたくさん分けていけばできるんですが繊細になりすぎるということもありますし、パーツを増やすとストレスも係るし、ランナー自体が大きくなってしまって際限がなくなってくる。より少ないランナー数でまとめてしまうというのがこの頃のプラモデルのフォーマットだったので、アラレちゃんお顔も一方向に向いています。なので、すごく似ているんですが、斜めから見るとメガネのサイドが抜けていないんです。

廣田:
横の線のところが。

べ:
はい。なので、実際に組もうと思ったら顔を肌色に塗ってメガネの表面だけを黒く塗って誤魔化すか、自分で頑張ってくりぬくか。このアラレちゃんは「一方向からしか抜けないって」というレギュレーションの中で頑張っているというキットですね。

廣田:
この顔面はすごく元気が良くて、一生懸命凝っているんですけど、さっき仰ったように、メガネのフレームより横にいくとちょっと弱気になってるんですよね。たぶんこれを作ってる人は上面のモールドしやすい所だったらアラレちゃんの顔を彫り放題なんだけど、横にいっちゃうと「だんだん彫れなくなってくるなぁ、つらいなぁ」と思いながら彫ったんだと思う。それを想像するのが楽しいんです(笑)

べ:
これはアラレちゃんの乗ってるドラゴン部分で、表面は素直に作れるのではっきりしたモールドです。顔の正面は真っ二つの開き状態になってますが、このあたりは金型の端なので正面と比べるとすごく甘く緩くなってるんですよ。実際、組み立ててもこすれたりするのでディテールが甘くなるといえばそうなんですが、元から甘いので、自分でパテで修復するなり、深く彫り直すなり、工夫が必要になってきます。


廣田:
この首の後ろなんか溶けたみたいですよ(笑) もう、どうせ抜けないからやる気ないよっていうことですかね。戦車や飛行機はパーツを分けることでなんとかなるけれど、生き物はプラモデルにとっては苦手なんです。でも、その苦手にあえて挑戦しているところがいいんだよ。


べ:
そうですね、そういう所を見て僕らはニヤニヤ笑って(笑)

廣田:
「あぁ、ここ苦労したんだなぁ」っていう部分が面白いわけですね。

今日の本題に入っていきますが、ガンダムブームのころにフィギュアが出ました。シャアやアムロはどうでもいいんですが、フラウ・ボゥって、ファーストガンダム唯一のパンツ見せキャラなんですよ。その頃のロボットアニメには1人はパンチラできる女の子がいて、ガンダムもその例に漏れなかったんです。連邦軍の制服は白いタイツみたいなものを穿くので普通はパンチラできないんですが、フラウ・ボゥは自分で軍服を改造しているんですね。では、ちょっとプラモデルを見てみましょうか……。


廣田:
こんな感じで、ちょっとハロがでかすぎるかなというのはありますが(笑)、ここでさっきの問題が出てきます。これにパンツをモールドできると思いますか皆さん。できるわけないでしょう!


入り組んでいるから、左官屋さんが埋めたようにスカートの底が埋まっているんですよ。僕らはプラモデルの限界を知ってはいるけどあまりにも惜しくて、ちょっとこれはないのではないかと多分日本中のガンプラ好きの人がみんな思ったはずなんです。セイラさんは、このスカートのとこで切れてて足は別パーツなんですよ。これ何でですか?


べ:
結局の所、そういう文化がないっていうか……スカートとズボンを文化って言うと高尚なものですけど、「スカートの中まで再現してあるでしょう」ということに価値を置いていないというのはあると思うんですね。アニメーションのキャラクターというものはそういうものではないっていうのが強いと思う。

廣田:
セイラさんに関しては、作中で水着になるシーンがあったので、スカートとブーツをがりがり削って水着姿にするのが大流行しました。で、これが第1弾で、このあと第2弾が出ます。これはバンダイの商品なんですけど、バンダイはセイラさんを削って水着姿にするモデラーの姿を見て何をしたかっていうと……これをお見せします、ララァ・スンです。皆さんララァを知ってますか?てか、第2弾の「ガルマ・イセリナ・ブライト・ララァ」っていう、このラインナップはなんなんですかね?(笑) ララァの何が進化したかというと、スカートと足を別パーツにして、裏から見ると中が、なんとおしりが再現してあるじゃないですか!もうアホかと!でも、ララァはスカートのデザイン上、やっぱり許しますよね。


びっくりするのはこれですよ、イセリナ。


イセリナってロングスカートなんですけど、あくまでスカートは別パーツなんです。ロングスカートの脚なんて普段は見えないのに、なぜ足がついてるんですか(笑) このバンダイのメッセージ、分かりましたよね。この足を使って、セイラさんの方を削って合体させれば、簡単に水着が出来るじゃないかと。それ以外の用途ないよね、だってイセリナのフィギュア欲しいっていう人はいないもん(笑)


べ:
そうですね、なんかニーズに応えてる部分もあるように思えるんですよね。

廣田:
多分、これが売れたんだと思います。ちょうど1981年ごろで「うる星やつら」が大流行していて、セイラさんやフラウ・ボゥを改造してラムちゃんを作るやつが現れたんですよ。これをバンダイが見逃す訳がない。この頃のバンダイはユーザーの動向をとてもよく見てますよね。

べ:
すごく気にしてますね。

廣田:
それで、ついにこれですよ。


べ:
ほう、「きらめきラムちゃん」……。

廣田:
この頃まで、アニメキャラクターのプラモデルというと鉄腕アトムとかリボンの騎士とか、子ども向きでしたよね。ところがパッケージの裏を読むと「I LOVE RUMIC WORLD 高橋留美子先生が描くうる星やつらはもう最高にハッピーだ。特にラムちゃんの魅力に僕たちは首ったけ」って書いてあるんですよ。「僕たち」って誰だよ!俺たちかよ!

(会場爆笑)

べ:
ガンダムだとガンダムの世界観の中での、たとえばモビルスーツであったり戦艦であったりフィギュアであったりっていう、世界観を彩るキャラクターの1つとしてのフィギュアっていう側面がすごい強いんですけど、これはもう完全にラムちゃんに焦点が当たってるんですよね。

廣田:
髪の毛はパーツを2つに分けています。


胴体に肉が詰まっているのはポーズ換えがしやすいのと、削りたがるヤツがいるからですよ(笑)、そんなところに応えなくてもいいよって思うんですけど、


このパーツを使うと壁に飾るマスコットみたいな感じになり、あとこの「瞳デカール」っていうのができて、眼球がデカールになりました。それで、塗装が下手な人でもデカールを貼れば誰でも再現できたり、あと説明書が漫画になってたりとかいろいろ語るべき部分が多いんですけど……。


ついに歴史が変わったのが、このキットなんですね、セーラー服のラムちゃん。


ラムちゃんは普段着がビキニだから、さっきのは分かりますよね。でもセーラー服ってどういうことなんだよと思ったらもう、お察しの通りですね。


このボディ部分を見れば分かります、はっきりパンツがモールドしてあります。これ後からスカートを接着するんですよ。何で接着するところにこんなパンツをわざわざモールドするんですか。


廣田:
今の時代は、美少女フィギュアってパンチラ当たり前ですよね。

べ:
普通に見えなくてもモールドしてるものですね。

廣田:
これは接着して完全に見えなくなるんだから、まさにルーズですよね。

べ:
かなり原初的というか……。

廣田:
これでちょっと話がつながりました。これが子どもたちが集まる模型屋さんで売られてしまうとあとは何でもありで(笑)、これですよ。「ミンキーモモ」って小さい女の子が見るアニメでしたよね。


べ:
これはかなり歴史的に重要なパーツというか、「ミンキーモモ」っていう作品自体が今で言う「大きいお友達」をちらちら見てた感じがするんですね。放送当時、僕は小学生だったんですけど、ショックだったのがアニメージュの表紙をミンキーモモが飾っていたんです。小学3~4年生ぐらいだったと思いますけど、アニメージュって漢字にルビは振っていなくて「中学生以上のお兄さんお姉さんが見る雑誌だろ」っていう感覚があったんですけど、その表紙がミンキーモモってどういうことなんだって思いまして、ミンキーモモのプラモデルっていう時点でもうこれがどこをターゲットにしているのかっていうのはおおよそ推測が出来たという感じなんですね。

廣田:
これですよね……スカートが進化していて、前は前後に割れていたものが一発で抜いてあります。この進化は喜んでいいのかどうかね(笑) バンダイ何やってるんだよっていう。さっき僕、金型のことを「家が一軒建つくらい」って言いましたけど、家が一軒建つくらいのお金で何やってんだよお前らっていう感じがちょっとこの頃は漂ってきたんですよねー。


ここまで来るともうわけがわからなくなっていて、砂かけばばあのキットが出て誰が嬉しいんだよっていうね(笑)


こちらは「銀河漂流バイファム」というロボットアニメに出てくるウェアパペットっていう宇宙服です。なぜだか女の子の絵がちょっとついてますよね。昔はガンダムのキットって「このフィギュアは付いておりません」って必ず書いてありましたよね、覚えてますか?これには付いてるんですよ。「女の子はつけんのかよ!」みたいなね。


これが1983年くらいだからガンプラブームからそんなに経ってないんですけど、だんだんバンダイがどうかしていくのを僕らがなんで見なきゃいけないんだろうっていう(笑) ここにキャラクターがいますけど、さす
がにパンチラするまでのパーツ割りにはなってないですかね。


べ:
完成すると、主人公が白い服を着てロボットの中に収まっているという感じになるんですが、それさえいればいいじゃん!なんでこの女の子付けるんだよ、っていうのがなんか不思議なんですよね。

廣田:
しかもこれロボットアニメで、プラモデル自体がロボットじゃないですか。これを買うのは恥ずかしかったよね、「この女の子目当てで買ってるんじゃねえの?」って思われたりしてないかと。

べ:
そこらへんのさじ加減が上手いというか、「いやいや、これはバイファムのプラモデルなんだ!」っていう照れ隠しも多少は可能であるってのがあるのかなっていう気がする。


廣田:
最近のアニメもそういうのありますよね。俺は女の子が見たいんじゃない!

べ:
見たいんじゃない!

二人:
ストーリーがハードだからだ!!

(一同笑)

べ:
それにも近いんですね、硬派だからっていう。当時のプラモファンの人達とかオタク全般的に言えるんですけど、ちょっとシャイだったと思うんですね。やっぱり女の子のプラモデルとかフィギュアが作りたいっていうのはちょっと言いづらくて、どことなく「なんちゃって」という所がないと精神的に逃げ場がないということがあった。ラムちゃんに関しては結構振り切った感じはあるんですけど、ミンキーモモに関してはこれ31話に出てきたミンキナーサっていうロボットが同時に造型されてたりとかしたんです。

廣田:
バイファムとは逆で、バイファムの場合は女の子がおまけだけど、ミンキーモモははロボットをおまけに付ければなんかバランスとれるだろうみたいな(笑)

べ:
上手い具合にパロディ感というか「面白いでしょ?」「実はシャレなんだよ、これ分かってくれるかな?」みたいな、買う方も売る方も……

廣田:
パンツとロボットが並んでいる、これが全てを表しているんですよね。


べ:
ロボットが潔く前後に分割されてる、的な?

廣田:
ロボットは裏側がないのかよ!って(笑) これ、手抜きすきだろちょっと……(笑)

べ:
そうなんですよ、すごくあっさりしていて、それ以上追求するものでもない。

廣田:
これは全部バンダイなんですが、他のメーカーも追随し始めて、それを全部はご紹介できないので、べっちんさんの一番のおすすめの変わったアイテムを紹介したいと思います。今井科学というメーカーから出ていたグレートブルドッグです。

べ:
全部、「メカニマルZOO」っていうオリジナルのコンテンツなんです。アートミックというデザイナー集団にデザインをお願いして、女の子のキャラクターが描かれているんですけど、これは自転車漫画を描いてらっしゃる宮尾岳さんが描いてらっしゃるんです。「メカと美少女」というのは1980年代前半から流れとしてあって、それを受けてオリジナルコンテンツとして出してきたのがこのキットで、当然のことながらメカとフィギュアっていう構成になっています。

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廣田:
モノはボトムズみたいな感じですか。

べ:
これが1984年の12月のキットで、ボトムズは1983年なので、肩アーマーの形などを見るとちょっと似ているかなというところはありますね。ハッチを閉めて肩に椅子というか腰掛ける部分がありまして、座らせることができる、なかなかプレイバリューの高い代物です。

廣田:
プレイバリュー、高いですかね?(笑)

べ:
そうですね(笑) いろんな形態で遊んでね、みたいな。

廣田:
この女の子の設定を読むとですね、「レディーナイト 双子の姉妹の妹で超能力を持っている。性格は甘えん坊であるが、心はたいへん優しい12歳の女の子」


べ:
これ、甘えん坊であるが心優しいって「が」が全然機能してない(笑) 設定書なんていう4つ折りにしたやつがあって、これにかなり気合い入ってます。気合い入ってるって言っていいんですかね。

廣田:
裏にもこんな美女が。


べ:
設定はなんかテキストも結構がんばって書いたようですね。

廣田:
がんばってるかどうかはちょっと……(笑) しかもこれ、アニメになってないのにセル画にするのがね。当時すごい流行ったんですよね、「セル画にしとけばまぁいいだろう」って。

べ:
なんかメジャー感が出るというのもあるかなという気もします。

廣田:
このためにセル買ってセル絵の具買って、この頃デジタルじゃないですからね。

べ:
戦うロリータってことで、ロリータにルビが少女って振ってあったりとか……

廣田:
当時ロリータってそういう意味だったんですよ。美少女=ロリータみたいな。今のロリータとはちょっとニュアンスが違ってたんですよね。

べ:
これはすごく欲張りなキットなんですね。ここに売り文句が書いてありますけど、ブルドッグ部分の指が動くんです。


ちょっと話が外れてしまいますけど、自分が記憶する限り、指が動いたのってハイコンプリートモデルっていうバンダイが出した完成品で、すごいショックを受けました。その後にプラモデルに最初に投入されたのが僕の記憶だと1/100ガンダムMk-IIが最初なんじゃないかっていう風にそれまで思ってたんですけど、このグレートブルドッグは1984年の12月なので、それよりも早い段階で指可動を再現しています。加えて、目がムギ球で光ったり、足が130モーターで回転して走らせて遊べっていうことらしいんですけど、もうなんか1984年っていう時代的な物もあると思うんですけど、かなりいろんな意味で煮詰まっている。

廣田:
出来ること何でもやっちゃおうっていう。

べ:
全投入に近い、美少女+メカ+ギミックみたいに全部入れた感じがすごいしますね。

廣田:
ちなみに今、砂かけばばあのスカートを見たら、はなっからこの中を再現する気がさらさらないね(笑) この気合いの抜け方がいいですよ。足袋がありますけど、足にペッてくっつけたらもう終了ですよ(笑)

べ:
ただ、このニットーというメーカーはパッケージに雰囲気出そうとしてますよね。その辺はちょっと面白かったとこでして。

廣田:
作るとこんな感じ、よろしくね~(笑) これ、作った人いるのかな。


べ:
漂白されてない白くない紙を使って雰囲気がある感じにしてる。


廣田:
「お祓い済み」とかお札が貼ってあったりして。

べ:
これが売られてる当時、僕は小学生で、模型屋さんで見たことがあるんですけど、ちょっと他のプラモデルとはニュアンスが違うパッケージで、パッケージだけ印象に残った(笑) 組み立てられたのは見たことがない!

廣田:
中身どうでもいいですよね~。せめて猫娘出してみろよって感じですね。

べ:
ニュアンスとしては同時期に出してたこの「マシーネンクリーガー」。

廣田:
これ、同じメーカーなんですか?

べ:
同じメーカーですね。やっぱりどこかS.F.3.D感半端ない、僕はこれにすごく衝撃があって、物を知らない小学生だったのでこれは外国のキットなんだって正直思ったんですね。パッケージの外側に日本語がどこにもなくて、周りはビニールで包まれているからまるで中身が分からない。開けることができないからハードルの高い感じがあって、かっこいいなと思いましたね。ちょっと僕の作る物じゃないなと。


廣田:
僕らが作ってるのこっちだった(笑)

べ:
やっぱり、これは当時ニットーがやってたというところで、デザイン性が共通してるような感じがしますね。

廣田:
これ、僕ら親に隠しましたからね(笑)

べ:
申し開きできない感じがあったと思うんですね。

廣田:
後になって改善されましたけど、最初のプラモデルの箱のイラストはセル画ですらなくて。ガンダムのセイラさんとか、セル画と同じポーズですけどなんでこんな油絵みたいにしてあるんだろうと思って……僕らからするとガンダムにはちょっとミリタリーな雰囲気があったんですよね。パッケージを見ると、ちょっと後ろにシャアが、まるで幻のようにいるんですよ。

べ:
この辺はガンダムのパッケージのフォーマット、モビルスーツとかと一緒ですね。

廣田:
ちょっとドラマを感じさせつつ、でもミリタリーなハードな世界。どこがハードですか(笑)……で、これは壁に掛けられるようになってるんですよ。友だちの家に行ってこのプラモデルが壁に掛けてあったらどう思います?バンダイはこれをポップだと思ってたんですよ。これは1980年代的今風だよねと思ってたんですよ。それが痛い(笑) それを今見ると楽しいなぁ!

そういう思春期の、こういう裸体であるとか、リアルにできてて結構エッチなんですよ。ゴジラの話に戻りますけど、型の制約があり、しかも金型1つで家が一軒建つにも関わらず、これを出すと。「なんでこれを出すの!?」って、ちょっと意味が分かんない所があるじゃないですか。プラモデルの工場に行くと、家が建つくらいのすごい設備なんですよ。それを使って出すものが、なんでこういう物なんですか、と!これ、パンツとスカートね。

そのギャップが僕はすごい楽しくて、文化の面白いところって「無駄」じゃないですか。だって、すごい技術があるのにそんなお金かけてパンツ作ってるんだから、アホですよ(笑) こんなことしてるの多分日本人だけですよ。それをもっと大事にしないと、文化の大事な豊かさが失われていくような気がするから、僕は今の美少女フィギュアは行き過ぎない程度にパンチラをやって、それをみんな買って「あぁ、これで癒やされたな」というのが実際のパンチラを盗撮するとかより圧倒的にマシであって……アニメとかフィギュアとかオタク文化ってそういうバッファになってる、受け皿っていうか、思春期的欲望を上手く柔らかくふわっと受け止める所が僕はあると思うんですよ。そういう所を否定しないで、「どうせ萌えだろう」とか「どうせお前らパンツが見たいんだろ?」とかって、あまり言わないでください(笑)……という感じでしょうか。なんかありますか?


べ:
そうですね、やっぱり明け透けな言葉を選んでしまえば「エロス」っていう風になっちゃっても構わないと思うんですね。さっき金型の話もそうなんですけど、何か技術的な限界があったらそれをどうやって打破しているのか、それが美少女フィギュアであれプラモデルであれ、こういう立体物を見ると非常に面白いと僕は思うんですね。よく僕らは会社の昼休みに古いプラモデルを持ってきて、原型師の人とすごいなっていう話をすることもよくあるんですけど、その当時にできる技術の中で何をやったか、どう戦ったのかってのがすごい伝わってくるときもあるし、狙った物が達成できなかった悲しさみたいなものが伝わってきたりとかしますね。やっぱ、見てて飽きないです。

廣田:
結局プラモデルって限界があるので、フラウ・ボゥの左官屋さんが埋めたようなスカートを今の俺だったらくりぬく技術くらいはあるんじゃないか、そういう工具も出てるし、ちょっとやってみようかなっていう風になったらやばいのかな(笑) 今ならこれ出来るよな、と思っちゃって……まぁどうでもいいですかね(笑) 結局さ、僕らの歳になってそんなことしたってさ、罪悪感がどっかいっちゃってるじゃん。思春期の頃には、これを削ったりするのってすごい罪悪感があったんですよ。

べ:
「ホビージャパン」という雑誌には、こういったラムちゃんとかの改造記事があったりしたんですよ、その記事や作例を書くライターさんとかもやっぱりすごく恥ずかしがってるんです。後ろめたいことをしてるっていう感覚があるので、ものすごい勢いで「こんなことやっちゃった!!」って言って、なんかはしゃいでる振りをしてるというか、もうはしゃいでないとやってられない、照れ隠しがないと正気が保てないのが伝わってくるんですよ。この前、1982年頃くらいの、それこそ、この改造作例を発表してる「ホビージャパン」を改めて見たんですけど、ライターさんが3人くらいいて、普段は戦車模型や飛行機を作っているような人が、名前も変えているんですよ。名前を出したくないくらいに恥ずかしかったんだと思うんです。この頃のフィギュア、女の子の肉体を作るっていうのがやっぱり1980年代前半頃ってものすごいハードルとしてあったんですね。やっぱり「なんちゃって」的な感覚がないと、さっきのハイスクールラムちゃんのテキストもそうなんですけど、どこかはしゃいでるルンルン感みたいなのがないと。

廣田:
これなんて書いてあるかと言いますとですね、スカートを接着するとこで「スカートは前が○○、後ろが○○、間違えないでね!少し残念な気もするなぁ」って書いてあるんですよ。これがキモい!キモいんだけど俺もそう思うよっていう。……でも、今はそうは思えないんですよ。これを見て、笑えるんだけど、本当に恥ずかしくはない。羞恥心がもう衰えてしまった(笑) そうじゃなきゃこんな公衆の面前でできませんからね。これを隠す気持ちが多分大事なんだよね。


べ:
この辺の商品群ってある種、プラモデルの思春期的な恥ずかしい美少女を扱った商品の中学生時代みたいなのがちょっとあったりもして、味わい深いような気がすごくしますね。

廣田:
というわけで、皆さんもアンティーク屋さんに行ったらこういうものを見つけて買ってみると、当時の羞恥心が甦ってきていいかもしれませんよ!ありがとうございました!

トークイベント終了後、机の上には説明のために取り出してきたプラモデルの箱が山積みに。


そこで、廣田さんがトーク中に出し忘れていたという、「天空の城ラピュタ」のシータを見せてもらいました。


このシータ、スカートは前後分離型で、足が別パーツなのですが、パンツがモールドされていません。それで正しいような、非常によろしくないような……。


なお、この熱いトークが2016年6月に書籍になり、刊行にあたって廣田さんにインタビューを実施したので、その様子もぜひ読んでみてください。

「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」著者・廣田恵介さんインタビュー - GIGAZINE

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in 取材, Posted by logc_nt

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