取材

エヴァやアクエリオンの人気を再燃させた知られざるパチンコビジネス最前線とは?


「創聖のアクエリオン」「新世紀エヴァンゲリオン」のように、放送が終わってから時間が経ったアニメがパチンコ化されることで再び話題になるというケースが出てきています。パチンコ・パチスロ機が進化してアニメーションが必須の要素となるなど、アニメとの関わりも深い遊技ですが、いったいそのビジネスはどうなっているのでしょうか。

デジタルハリウッド大学国際アニメ研究所が主催して行われたアニメ・ビジネス・フォーラム+2013の中で、株式会社エンタテインメントビジネス総合研究所 代表取締役社長の藤田宏さんが、パチンコビジネス最前線についての講演を行いました。

【デジタルハリウッド大学】アニメ・ビジネス・フォーラム+2013
http://www.dhw.ac.jp/e/anime_business2013/

藤田さんは、まずパチンコに関する数字のことから話を始めました。たとえばパチンコ玉の直径、そして重さ。実は直径は11mm、重さは4.5gから4.7gの間に収めなければならないということが法律で決められています。パチンコ玉は簡単に転がせるように思えますが、たくさん集まるとそう簡単には動きません。これは、人の手垢が付着したりすると玉同士がくっついたりして動かなくなってしまうため。そのため、かつてのパチンコはいかに玉をスムーズに流すかという装置産業だったそうです。そこからコンピュータ制御へと移行し、現在のようなコンテンツビジネスになっていった、というわけです。


パチンコ業界の規模はほぼ19兆円で、参加人口は約1700万人。レジャー白書では、2011年の参加人口は1260万人と記されていますが、藤田さんによればこれは東日本大震災後のデータで、震災後は遊びが停滞し、またネット上で強いバッシングを受けていた時期でもあったので数字が落ち込んでいたとのこと。エンタテインメントビジネス総合研究所の調べでは、一昨年との比較で参加者は増加傾向にあります。

パチンコ店の数はというと、ガソリンスタンドENEOSとほぼ同じ、1万2000軒あります。ピーク時は1万8000軒ほどだったのでかなり減ってはいますが、今でも全国津々浦々、どんな市町村にもあります。一方で、機械の台数は450万台。店舗数はピーク時の2/3に減ったのに比べて、台数は若干の減少で済んでいます。これは1店舗ごとの台数が増えているため。「450万台」といってもピンとこない数字ですが、藤田さんによれば「すごいパワーを持った数字」とのこと。


パチンコ業界では「ヒット機種を1つ出せばビルが建つ」と言われているそうで、パチンコ機の場合は数千台だと赤字ですが、1万~2万台ならまあまあ、5万台で「よくやった」となります。仮に、15万台売れるヒット機種を出したとすると、1台30万円で売ったとして450億円のビジネスになります。メーカーがどれぐらい儲けを出しているのかは、ネットでも有価証券報告書や損益計算書などを見ることができるのである程度知ることができます。この業界の場合、粗利が非常に高く、10%あれば優良だといわれる経常利益率が30%を越えているようなメーカーもあるので、450億円のビジネスができるということは、ビルぐらい建つのは当然だということがわかります。

では、そもそもパチンコビジネスはどうやって成り立っているのか。

まず、「お客さんが玉(多くの場合は1玉4円)を借りる」ところから始まります。お客さん=プレイヤーが2500玉借りて遊技をし、増えたり減ったりした結果、「2200発出た」ということであれば、300玉分の負け。お店は「お客さんが借りた玉」と「最終的に出した玉」との差で粗利益を出します。玉を4円で貸した場合、返してもらうときに1玉につき4円相当の景品を出すということが法律で定められています。2500玉借りて3000玉出すとお客さん側が500玉分の勝ちになり、3000玉×4円で1万2000円相当の景品を出すことになるわけですが、景品の原価率もあるので、お客さんが勝ったという時でも、結果的にはお店も利益が上がっているということがあります。「今は100%以上の出玉率というところは少ないですが、以前は多かったですね」と藤田さん。

このように、パチンコには「遊技の場の提供」と「小売業として」という、2つの利益の源泉があります。いま注目されているのはこの小売りの側面です。「1円パチンコ」などが増えたこともあり、チョコレートやCDなどの景品が以前よりも交換されるようになりました。その景品の一つとしてデジタルコンテンツを活用できるのではないか……というところでアニメビジネスにも繋がってきます。


続いては産業構造のお話。この業界は大きく「遊技機メーカー」と「周辺機器メーカー」の2つに分かれ、遊技機の中ではパチンコとパチスロに分かれています。そして販売会社、パチンコやパチスロ機の場合、直売の部分もあるが7割は販社を経由する「販社ビジネス」になっているそうです。遊技機はこうしてパチンコ店に卸されて、サービスが提供されています。その下にある周辺サービスというのは、パチンコ店向けにサービスをしているところのこと。たとえば広告代理店や人材サービス、コンサルティングなどが該当します。メーカーや販社は参入障壁が高いのですが、サービスはそれほどでもないので結構参入する会社は多く、たとえば店舗にある立てPOPや機種説明書を作っている会社でも、それのみで上場する企業があるほどだそうです。ビジネスボリュームとしては大きく、大雑把に言うとパチンコ店にまず20兆円が入り、そこからプレイヤーが持ち帰るのが8割程度。残った4~5兆円のうち、2兆円強はメーカーに行って、さらに周辺サービスへ……という形です。


メーカーといっても、すべてのことをやるわけではありません。遊技機の開発にあたっては、まずは企画を出し、版権が必要になるのであれば版権処理を行い、それに合わせたシナリオ書き、スペック開発、台が光ったりハンドルが振動する「役モノ」の開発などなどの作業がでてきます。主力メーカーの場合、すべての機能は持っているものの、同時に4~5ラインを作ることがあるため、自社で担当する部分は多くても半分で、残りは外部の取引先に任せることになるそうです。企画に関して言うと、今はすごく持ち込みが増えているとのこと。ここで上手に成長したのがフィールズという会社です。もともとは大手販売会社でしたが、作られたものを売るだけではなく企画もするようになり、開発をメーカーに任せて、できあがった遊技機は自分たちが売る、という手法で大きくなっていったそうです。


パチンコやパチスロというのは許認可業なので、各都道府県の公安委員会で検定を受けてようやく売ることができます。そのため、遊技機はこの検査に通るまで世の中に出してはいけないことになっています。企画開発は、液晶の出始めのころぐらいまでは半年強でやっていましたが、今はスタートから1年半~2年ほど必要になってきているため、たとえばアイドルユニットの台を作っていると、台に収録されている子と、台が出たときに宣伝している子が違う、という笑えるようで笑えない話もあるのだとか。


開発になぜこんなにかかるのかというと「いろいろなものが関わってくるから」。最近は液晶部分でいろいろな映像が流れ、それに合わせた音楽や役モノを連動させなければいけません。しかし、単体では動いていたのに合わせるとずれているだとか、全体的には問題がないのにリーチアクションの一部分だけ動かないということがあって、一回許可を取ったのにまたやり直しになることもあるそうです。そこで、近ごろでは「総合プロデューサー」「プランナー」の役割が重要になってきています。仕事としては「どういうものをやっていくのか」「どうやって面白い遊技機に仕上げていくのか」を司るポジションで、業界人の中でも、あのプロデューサーならきっとこの台はそこそこ行けるだろう、という見立てをしたりするとのこと。

2012年度に保安通信協会に持ち込まれた数はパチンコが291型式、パチスロが90型式。車でいうと同じ車種でちょっとしたスペック違いのものについてもそれぞれ1つとしてカウントするため、機種名としては300機種ぐらいになります。ほぼ1日に1つぐらい出てくるというペースなので、業界人である藤田さんでも「こんなのが出ていたのか」ということもあるそうです。


具体的なコンテンツとしてはテレビドラマ、漫画、アニメ、スポーツ、映画、歌モノ、ゲーム、コラボと幅広いジャンルに渡って機種が出ており、たとえば以前放送されていた昼メロドラマ「牡丹と薔薇」が出たりしています。深夜放送のお色気バラエティ「おねだり!!マスカット」の場合はコンテンツとして使うのではなく、タイアップの同時並行企画。漫画の場合は対決モノ、勧善懲悪モノがよく使用されています。アニメは「エヴァ」「アクエリオン」「サイボーグ009」などがあり、パチンコやパチスロで取り上げられたことでまた人気が出てたりして、映画とコラボもしたりしています。「絶対衝激」という企画では、メインキャラクターたちの設定だけを決めて、それ以外は松竹とアリストクラートが中心となってアニメ、ビデオ、コミック、ゲーム、携帯コンテンツ、フィギュアなどメディアミックスを実施しました。

しかし、機種はたくさん出ていますが、メガヒットは少なくなってきています。以前は「海物語」のようにシリーズもので100万台売れるようなものもありましたが、2012年の場合は一番ヒットしたと言われているAKBでも20万台といわれています。ただし、上述のように15万台売っても450億円なので、決して少ない数字ではありません。


パチンコ・パチスロは在庫リスクの高いビジネスです。検査が通るまでは売れないし営業をやってはいけないのですが、通ってから設置までが短いため、一気に売らなければいけません。一方で部材はリードタイムの長いものが多く、また、部品転用もほとんどできません。この点では、メーカーも以前は強気で、コンサルタントが販売予想を20万台ぐらいと見積もっても40万台生産し、最終的に30万台を売るというようなことを行っていました。しかし、このケースだと10万台の在庫を抱えることになってしまうため、売れるチャンスを考えると、在庫を抱えるよりは販売ロスを出した方がいいという考えになっているようです。中古市場の確立・成熟や、ユーザー志向が「1機種をずっと打つ」から「あれこれ打つ」になっているのも原因だとみられます。

ヒット機種の要因について。コンテンツを使った場合であれば知名度があるか、そして世界観はパチンコ・パチスロで使いやすいかどうかが重要です。また、開発力については、業界外の会社が担当しているというケースも多くあります。プロモーション手法と予算の点は、どこまで本気で作り込みを行うのかということです。年間300機種あるということは、各メーカーでいうと年間4~5機種、多いところで10機種ぐらいですが、すべて全力ということはなく2~3機種が主軸になっています。しっかりやっているというものは、秋葉原界隈で言うと幟の本数が多かったりしていて、力の入れ方が違います。


パチンコ機の歴史が大きく変わったのは平成2年。初めてフルカラー液晶を使ったパチンコ機として「麻雀物語」が登場しました。さらに、人気コンテンツ「ルパン三世」を使用した「CRルパン三世 World is mine」が1998年に登場して、コンテンツがオリジナルから版権モノへと広がっていきました。

ここで、12000店舗、450万台のパワーを具体的に立証できるものとして「創聖のアクエリオン」があります。もともとはテレビアニメとして放送された作品ですが、知っているのはアニメに詳しい人だけでした。しかし、パチンコ化したときに遊技機メーカーのSANKYOがものすごい数のテレビCMを打ったため、最初の発売から2年経過していたにも関わらずテーマソングがオリコンデイリーチャートのベスト20に入るまでになりました。

台数が多いと、それだけ接触頻度も多くなります。2012年にAKBの台が出たとき、藤田さんの家には近所のパチンコ店がそれぞれ新聞折り込みチラシを入れたため、毎日のようにAKBチラシが入っていたということもあるそうです。

AKB48の場合は面白い仕掛けもやっていて、新曲発表をテレビやネットではなくパチンコ台で行いました、パチンコ台にはリアルタイムロック機能がついていて、何月何日何時にこの曲を流すということが可能だったので、12曲連続で毎週土曜日に新曲を出し、その4日後ぐらいに他メディアで公開するという手法がとられました。また、1時間に1回、全遊技台が同じコンサート模様を流す「重力シンパシー公演」も実施。台には全60曲、オリジナル映像も2時間以上収録されていて、ちょっとしたコンサートDVDかというぐらいに充実しています。


メディアとしても威力があり、オリジナルコンテンツを用いると相乗効果が生まれ、オリジナルが売れるようになりました。また、新しい世代に受けるようにもなったということで、メディアミックスのような共同プロモーションも多くなっています。メディアミックスは今のトレンドで、パチンコ業界側が仕掛けていることもありますが、パチンコを利用して展開しているところもあるそうです。藤田さんが「版権を使うから創るへ」と表現したように、パチンコ・パチスロを原作として「うみものがたり~あなたがいてくれたコト~」や「快盗天使ツインエンジェル キュンキュン☆ときめきパラダイス!!」「戦国乙女~桃色パラドックス~」「Rio RainbowGate!」などのアニメが生み出されました。

最後に「パチンコビジネスの活用」ということで、著作物の提供から製作請負、著作物の共同開発、露出、周辺ビジネスなど、複合型エンタメへのコラボに触れた藤田さん。店舗が全国展開しているからこそロケーションビジネスが活用できる、また、収益エンジンがあるからチャレンジできると語りました。


以下は質疑応答の内容です。

Q:
パチンコ機種で新しいものの続編がアニメ化されたりすることがあります。たとえば、攻殻機動隊もパチンコ化されて、新作プロジェクト「攻殻機動隊ARISE」の話が出てきました。これは、アニメの企画段階からパチンコメーカーが関わっていることもあるのですか?

藤田:
最近は増えています。フィールズやサミーといった会社は、映画の共同製作委員会方式のような形で、アニメを作るときからお金を出していて、パチンコに使いやすいストーリーにしてくれませんかという話をしたりしていますし、アニメも別刷りですぐ使えるモノをとリクエストを出したりしています。一緒にやるということが普通になってきています。

Q:
ロケーションビジネスの活用という話がありましたが、具体的にはどういったことでしょうか?

藤田:
店舗が全国にあるので、たとえばいま「コンビニ決済」がありますが、同じようにパチンコ店でやってもいいのではないかという話もありました。まだ活用しているというところには至っていませんが、全国に1万2000店舗もあるというのは活用できるのではないか、チャンスがあるのではないか、ということです。

Q:
台の流通と店舗についてです。台は買い取りになるのでしょうか、また、店舗ごとの価格は同じなのでしょうか?

A:
基本的にはパチンコ店で使っているものはほとんど買い取りです。リースのところもありますが、基本的にはパチンコ店側がその分のお金を払わなければいけません。レンタル方式にしようとしたメーカーもありましたが、根付いていません。価格は基本的には一緒ですが、台数によっての割引もあったりします。ただ、基本的にはメーカーが強い業界です。

Q:
動画とパチンコとの親和性が高いとのことですが、いま流行っている動画だとボカロ系があります。ボカロとパチンコが組む動きはありますか?たとえば、初音ミクとか。

A:
ちょっとそこまで把握していませんが、そういう動きはもうあるのかもしれません。というのも、開発には結構時間がかかりますので。たとえばAKBの台がヒットしていますが、これはAKB48が売れてから企画したものではなく、パチンコ台を作っている間にAKB48が売れていったものなので。

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in 取材, Posted by logc_nt

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