アニメを日本での放送とほぼ同時配信することで違法ダウンロードが7割減少したクランチロールのビジネスモデル
日本のテレビを視聴することができない海外のアニメファンが、日本での放送とほぼ同時のタイミングでアニメを楽しめるというサイトが「クランチロール(Crunchyroll)」です。
かつてはファンが勝手に字幕をつけたアニメ動画がアップロードされているようなサイトでしたが、2008年からアニメの権利を持つ会社と交渉を持って合法的に配信を行うようになり、2009年からはすべての動画をライセンスの元で配信しているという動画配信サイトになっています。
Crunchyroll - Watch Naruto Shippuden, Bleach, Anime Videos and Episodes Free Online
http://www.crunchyroll.com/
東京国際アニメフェア2012では、このクランチロールの創業者であるクン・ガオ氏と日本法人社長のビンセント・ショーティノ氏によって、海外のアニメファン事情やアニメ配信事情が語られました。
目次
・クランチロールの概要
・海外のアニメファンは日本のアニメをどのようにして見てきたか、どのようにして見ているか
・海外のアニメ市場においてどのようなトレンドがあるか
・今後のアニメ配信に関してどのようになっていくのか、クランチロールの所見
・質疑応答
◆クランチロールの概要
クランチロール株式会社社長 ビンセント・ショーティノ(以下、ビンス):
まずは私から、クランチロールがどういったサイトなのかという概要をお話しします。
ビンス:
クランチロールはもともと、クン・ガオCEOが大学の同期と一緒に趣味で始めたサイトです。海外にもアニメファンは数多くいるので、どんどんユーザーが増えていって、2007年に会社化。2008年に本格的にビジネスを開始しました。
ビンス:
2009年はクランチロールにとって転換の年になりました。この年から、全動画をライセンスして同日配信(サイマルキャスト)するようになりました。これは、日本でアニメが放送されてから30分後にはもうクランチロールで字幕付きの動画を配信し、世界中の人に見てもらおうというビジネスです。最初はテレビ東京や集英社と契約して「NARUTO-ナルト-」などのジャンプ系アニメを配信させてもらいました。なぜ弊社とビジネスをしたかというと、当時は大きな違法ファイル問題があったからです。これは今もありますが、当時はもっと大きかったのです。
クランチロールがサイマルキャストをするようになってから、違法ダウンロードは減少しました。「NARUTO-ナルト-」の場合は7割減りました。また、ちゃんとお金に換えることもできました。日本のアニメが海外のネット経由で配信されるというビジネスができたわけです。
クランチロールの収益モデルは2つです。まず1つは、同日配信を見たい人が月額7ドル(約580円)支払って、高画質で見放題というプランです。そしてもう1つは広告モデルです。クランチロールでは、配信開始から1週間は有料会員しか動画を見られませんが、それ以上経つと無料で見ることができるようになります。ただし、その動画には広告が入ります。
メインはサイマルキャストです。現在配信している番組の一覧がこちらです、試しに見てみましょう。
ビンス:
このような感じで、字幕が表示された動画が見られます。クランチロールでは1080pまで配信しています。いま、月間に1000万回以上再生されています。
クランチロールが、日本のアニメを放送が終わってからすぐに世界中の人に見てもらいたいと思っている理由の1つに、合法的に見られる場所を提供しているという点があります。違法対策として、実際ビジネスになってきていて、アニメ業界にある程度貢献できているのではないかと思います。
ここからはクンCEOに登壇してもらいます。
クランチロール共同創業者 クン・ガオCEO(以下、クン):
私がお話しする内容は3点、海外のアニメファンがこれまで日本のアニメをどのように見てきたのか、そして今、どのようにして見ているのかということ。そして、海外のアニメ市場では、どのようなトレンドがあるのかということ。最後に、今後のアニメ配信がどうなっていくのか、クランチロールの所見を述べさせていただきます。
◆海外のアニメファンは日本のアニメをどのようにして見てきたか、どのようにして見ているか
クン:
90年代、海外のファンたちがどのようにして日本のアニメを見ていたのかというと、一部の熱狂的なファンがまず来日してアニメをビデオテープに録画し、持ち帰りました。これを小さなコミュニティの中で情報交換し、お互いに手紙のやりとりでテープを交換したりしていたわけです。これはネット配信以前の話で、当時、北米にアニメDVDの会社が作られることになった理由でもあります。
10年経つと、北米ではアニメ繁栄期を迎えました。このころ、収益モデルの大半はDVDの配信による部分が大でした。ファンはDVDを1本ずつ収集するスタイルで、主な販路としては実店舗を使ったルートが多く、ベストバイなどのお店を経由して購入していました。
また、ケーブルテレビのカートゥーンネットワークで放送されるなどして、「ドラゴンボール」や「ポケモン」が人気になりました。ケーブルで放送するというのは、多くの人にリーチするいい方法でした。
このころ、アニメファンは「動画ファイルをやりとりする」という方法を発見します。Kazaaなど、P2P経由でファイルを送受信するようになっていきました。
2006年から2008年ごろ、北米ではDVDの勢いに陰りが見え始めました。販路が非常に限られるようになり、テレビで放送される日本のアニメがほとんどなくなってしまい、アニメファンはBittorrentなどのP2Pに移行していきました。
同時期に、オンラインの動画共有サイトが登場しました。YouTubeやMegaVideoといったサイトです。これらはすべて違法な方法ばかりで、このうちMegaVideoは現在すでになくなっています。
2009年から2011年になると、DVDの販路に変化が出てきました。物理的な流通が小さくなる一方、Amazon.comが台頭してきて大きな販路となりました。DVDを販売していた会社では、別の手段を考える必要が出てきたわけです。また、ファンもDVDを1巻ずつ購入するのではなく、DVD-BOXやBlu-ray BOXで購入するようになりました。
クランチロールがスタートしたのもこの頃です。クランチロールは世界中のアニメファンに、合法的にアニメ番組をストリーミング配信した最初の会社です。
そして今日、配信については大きな変化があったわけではありませんが、アニメファンが番組をよりデジタルな形で扱い、体験する比率が増えてきています。たとえばクランチロールでは、日本で放送されているアニメのうち約70%を同時配信していますし、ユーザーがそれを見る環境もPC、iPhone、iPadなど、多種多様になっています。HuluやNETFLIXではカタログストリーミングを提供しており、PlayStation StoreやiTunes、Zuneなどでのデジタルダウンロードビジネスとの統合も始まりつつあります。
◆海外のアニメ市場においてどのようなトレンドがあるか
クン:
アニメはデジタルな方向に進んでいて、より多くの選択肢が出現しています。クランチロールでは、アニメを同時配信100%という方向で進めています。以前なら、日本で放送された作品が海外で見られるようになるまでに数ヶ月、長いと数年かかることがありました。しかし、現在は日本で放送された直後、それこそ数分後に見ることも可能になっています。また、以前は録画してビデオかDVDで見るということが必要でしたが、エンタテインメントはよりパーソナル化していて、作品はPC、iPhoneなどなどいろいろなデバイスで、しかも好きなところで見ることができようになっています。
◆今後のアニメ配信に関してどのようになっていくのか、クランチロールの所見
クン:
アニメの配信は、「ユーザーがどんな体験をするのか」に集約されます。ただ単に配信するというだけではダメで、ユーザによりよい体験を届け、ブランドを確立するのが大事です。
この写真はクランチロールで行っているコンベンションのものです。イベントでユーザーが踊ったり歌ったりしていますが、これを同時にウェブで見ているユーザーにもストリーミングで届けています。直接参加できなくても、間接的に参加してコメントをつけることが可能になっています。
クランチロールではWindowsMobile用のアプリを4月にリリースする予定です。エンタテインメントは今後、さらに「個人的な体験(パーソナル・エクスペリエンス)」へとシフトしていきます。
「もっとEコマースへ」。今現在、30万人のユーザーがクランチロールから何らかのものを購入していて、直接課金する関係を築いています。今後、クランチロールではプラットフォームを開放し、日本の企業が海外のファンに直接商品を売りたいというときに活用してもらいたいと思っています。これに関してはEコマースストアを作っていくことになり、夏ぐらいまでには開始したいと思っています。
最後は、「もっとグローバルへ」ということです。ここまでの話はほとんどが北米、アメリカやカナダのユーザーが体験することに関してでした。しかし、全ての国に同じようなトレンドがあります。たとえば中南米では、北米が通過してきたビデオやDVDでアニメを見る時代を飛び越して、いきなりストリーミングの時代が来ていたりします。そこで、クランチロールは4月の第1週に、ラテンアメリカ向けサイト(スペイン語版)をローンチします。これができれば、大半の作品は同時配信でスペイン語字幕つきで見られるようになります。
◆質疑応答
Q:
今考えられる市場としては中国マーケットが考えられますが、すでに何か手は考えていますか?
クン:
中国市場というのは、とても挑戦的な市場ですよね。興味深い市場でもあるので検討調査はしていますが、成功するためには、現地企業と協力関係を結ばなければならないと考えています。現地企業は政府やレギュレーションのこと、どうやれば市場で成功するのかを理解しているはずです。グローバルに成功している企業でも中国市場では苦しむケースがあるので、うまく現地企業とやっていかないと、中国市場で成功するのは難しいと考えています。私の希望としては、いつか中国企業がオープンになり、透明性が高くなって、外資系企業がうまくビジネスをやっていけるところになればいいなと思っています。私も中国生まれで、若くしてアメリカに移住しているので、中国でビジネスをやっていきたいという思いはあります。
Q:
日本ではまだDVDやBlu-rayでの視聴が多く、デジタル配信へと完全移行していない過渡期にあると思います。その点で、クランチロールは未来に行っていると思いますが、クランチロールのユーザーはDVDやBlu-rayを購入したりするのでしょうか?それとも、配信されたものを見て満足する、ライトなユーザーなのでしょうか。?
クン:
2000年初頭ごろ、海外ではアニメを見る手段はDVDしかなかったので購入していたという事情があります。DVDが媒体として唯一の方法だったわけです。しかし、今はもっと選択肢が広がって、オンラインで先に見て、あとでDVDをコレクションするという形もあります。我々が運営している販売サイトで、DVDやフィギュア、Tシャツなど、いろいろな商品を売ってみましたが、カテゴリ別に見てみると、DVDが1番売れていることがわかりました。配信されている作品を見た人が、さらにDVDを購入して……と繋がっていくことがわかったのです。クランチロールから買うメリットというのは、以前ならベストバイが半分利益を得ていたところ、もっと利益を還元できるというところです。
Q:
Eコマースについての質問です。クランチロールが商品を売るというのは、ライセンスホルダーの商品を売るということですか?それとも、ユーザーが何か売るということも含めてですか?
クン:
できるだけプラットフォームはオープンにしておきたいというのが目標です。売りたいものを持っている人がリストに載せてすぐに売れるように、ということです。ユーザー情報にクレジットカードが登録されているので、購入時にはわずか2クリックで購入が完了します。これについては、まずは数社の公式パートナーと組んでやっていき、より大きなものにしていきたいと思っています。もちろん、販売するものはオフィシャルなものである必要があると思っています。
Q:
将来のプランについて、スペイン語版の話があったが、他言語版の予定はありますか?世界のユーザーのうち、北米が占める割合が多いであるとか、そういう概要の部分を教えて下さい。
クン:
クランチロールでは毎月600万人のユーザーが視聴を行っていますが、このうち60%が北米からです。また、そのほかの英語圏、たとえばイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジア、北欧諸国などにもユーザーはいます。基本的には英語圏の人が多いです。
最初の質問については、もちろん真の意味でのグローバルアニメチャンネルになりたいと考えているので、全ての国に参入していきたいと思っています。ただし、実行が問題になってきます、パートナーなしで自分たちでやっていくのか、それともパートナーと共にやっていくのか。これを考えていかなければいけません。ここまでのところで、インフラであったり、システムであったりは作り上げてきているので、できるだけ多くの国に持って行きたいと思っていますし、日本も含めて展開していきたいと考えています。
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