アフガニスタンから盗まれた古美術品、イギリスの美術商が買い上げ返還へ

1990年代にカブールのアフガニスタン国立美術館から盗難されて以後行方不明となっていた1世紀の象牙細工などの古美術品。昨年ロンドンのアートディーラーによって発見され、その匿名のディーラーが私財で購入し、大英博物館での展示を経て今年7月にアフガニスタンへ返還されることになったそうです。

詳細は以下から。British Museum to display millennia-old looted treasures from Afghanistan recovered by London art dealer | Mail Online

東洋と西洋をつなぐシルクロード上に位置するアフガニスタンでは紀元前から豊かな文化が花開き、1922年に開館した国立美術館にはアフガニスタン各地の遺跡の発掘が進むとともに10万点以上の収蔵品が集まり一時は中央アジア最大規模の歴史的価値あるコレクションを誇っていたのですが、政情不安定だった1990年代の度重なる盗難により、実に70％もの収蔵品が失われてしまったそうです。

今回ロンドンのアートディーラーが買い戻した象牙細工は、1992年から1994年にかけて盗難されたもの。発見された場所や取引価格、ディーラーの名前は明かされていません。

象牙の像は1世紀のもので、家具の脚として使われていたそうです。

こちらの象牙細工もやはり木製の家具に飾りとして取り付けられていたもので、1937年から1939年にフランスの考古学者たちにより、カブールの北60kmに位置するBagramの古代都市の遺跡で、ほかの数々の財宝とともにクシャーナ朝の夏の宮殿の奥深くの宝物庫にしまわれていたのを発見されたものです。

これらの象牙細工は、購入したアートディーラーの手により、クリーニングと科学的調査のため大英博物館へ託され、アフガニスタン国立美術館から借りたほかの展示品とともに大英博物館の「Afghanistan: Crossroads of the Ancient World（アフガニスタン：古代世界の交差点）」という企画展で7月3日まで展示されたのち、アフガニスタンへ帰ることになったそうです。

企画展のオープニングであいさつするハーミド・カルザイアフガニスタン大統領。

3月3日にオープンしたこの企画展では、象牙細工のほかにもアフガニスタン国立美術館から貸し出された東西の美術品・工芸品が200点ほど展示されます。

中でも目玉となるこの金の冠は1世紀のサカ（イラン系遊牧民族）または月氏の権力者の女性のものと考えられていて、ジューズジャーン州の遺跡Tillya Tepe（「黄金の丘」の意：遊牧民の墓地が集中し金の副葬品が多数発掘されている）で1978年にソビエトの考古学者たちによって発見されました。薄く折りたたむことができる世界でも珍しい「折りたたみ式」の冠で、遊牧民にふさわしく携帯性の高い仕様となっています。

同じくTillya Tepeで発掘された1世紀の衣服の飾り。

1世紀の金のペンダントにはトルコ石やガーネット、ラピスラズリ、カーネリアン、真珠などが使われていて、中には遠く砂漠や海を越えて運ばれた石もあり、当時のアフガニスタンが世界の貿易・交通の要所に位置していたことを示しています。こちらもTillya Tepeで発掘されたものです。

ローマ時代のエジプトで作られたガラスの杯（1世紀）には、デーツの収穫が描かれています。象牙細工と同じクシャーナ朝の夏宮殿の宝物庫で発見されたもので、エジプトから紅海・インド洋を渡り、インドから陸路でBagramへ運ばれたと考えられています。

石灰岩の噴水口は紀元前3世紀～紀元前2世紀なかごろのもの。

古代ギリシャ・ローマ時代の焼成されていない粘土の彫刻。

ギリシャの哲学者Stratoのものと見られる像は、紀元前200年から紀元前150年ごろのものです。

1979年のソビエト連邦による侵攻に続くアフガニスタン紛争以来紛争が絶えず常に政情不安定であったアフガニスタン。1990年代には美術館の建物は軍事基地として使われたこともあり、ターリバーンによる爆撃も受けています。収蔵品の一部は爆撃と盗難をおそれた美術館職員の手により避難させられていたため無事でしたが、盗まれた約7万点の収蔵品の多くはいまも見つかっていないそうです。