紙と電話を一切無くして社員満足度全国No.1の会社にする方法をEC studio社長にインタビューしてみました


全社員にiPhoneを支給し社内連絡事項はTwitterにメールとチャットなど、徹底的にIT化されたオフィスを構え、「電話無し」「ペーパーレス」、その上「お客さんとは会わない」ことで有名なEC studio。

その代表取締役である山本敏行さんが今年の2月に出版した「iPhoneとツイッターで会社は儲かる」がAmazon和書総合ランキングで一位を記録し、ワールドビジネスサテライト(テレビ東京系)で特集が組まれるなど破竹の勢いで快進撃を続ける中、また新たに「日本でいちばん社員満足度の高い会社の非常識な働き方」という新刊を出すということで、この機会にどうやったらそんなことができるのか、インタビューしてみました。

山本社長自身の体育会系的な側面、会社の歴史や指針といった知られざるエピソード、さまざまな経験から裏打ちされた経営哲学など、ITや経営に興味があるが実際にはどういうようにすればいいのかがわからない人にとってはかなり参考になる話が多く含まれています。

というわけで、インタビューの中身は以下から。「日本でいちばん社員満足度の高い会社の非常識な働き方」

GIGAZINE(以下、G):
まずはEC studioというのはどういった会社なのかという概要を教えて下さい。

EC studio代表取締役 山本敏行さん(以下、山本):
EC studioは中小企業の経営のIT化を支援している会社です。IT経営支援業とも言っています。すなわち、ITで売り上げをあげる、ITで業務効率を高めてコストを下げて、利益を出していきましょうということをやっています。その利益をさらに増やすために、社員満足度とかコミュニケーションの活性化もITによって支援していきます。「iPhoneとツイッターで会社は儲かる」という本もその一つです。ビジネスモデルとしては、この利益をさらに増やすために、社員コミュニケーションを増やしていきましょうということです。

実際に売り上げをあげるところはウェブコンサルティング事業なんですが、それは「Web Analyst」(無料アクセス解析ツール)を提供したり、コンサルティングとしてメールでアドバイスをするなどしてお客様のウェブサイトの改善を支援していく事業です。そして今は自分たちで使って本当に良かったさまざまなソフトウェアを代理店となって販売するということをしています。


G:
今はだいたい社員は何名ぐらいになりますか?

山本:
33名です。準社員という社員がいまして、固定給もあるアルバイトみたいな感じなんですね。責任的には社員と同じなので準社員と言っています。正社員となると25名ほどです。

G:
結構いますね、うちはまだ10名いないですから(笑) ところで、社員の平均年齢が若いということを本で読みましたが。

山本:
おそらく20代後半です。


G:
確かに若いですね。

◆ダメダメな会社だったころのEC studio
かつてはダメダメな会社だったとのことですが、今になって振り返ると、どこがどのくらいダメダメだったんでしょうか?

山本:
そもそも、会社の常識を知らなかったのですよ。請求書とか領収書、納品書の違いもわからずに会社をやっていました。例えば6ヶ月契約や12ヶ月契約の場合は先にお金をもらうじゃないですか。本当は前金でもらっているものを案分して経費をみなければいけないのに、手元にお金が入ると「お金持ちになった!」と勘違いしていたんです。そしてあるお金を全部使ってしまったんですね。具体例で言うと、マンションを買ってしまいました。

そんなときに経営者の先輩から「君、このままじゃまずいよ」とアドバイスを受けまして。良い財務の方を紹介していただき、コンサルティングとして会社に入ってもらったところ、以前はすごい乱暴なことをしていたのだなと理解しました。大笑いされたと言いますか、「大丈夫、君?それでよく経営やってるねえ」といった感じです。また、僕の場合、マネージメントも体育会系ですので「ああしろ!こうしろ!」という具合でした。自分は経営者ですので、それがつらいことであったりしても耐えられます。でも社員の場合はそうじゃないんですよ。そのころは会社自体も週6日の営業日で、朝9時から夜の9時までコアタイムという、なかなか帰れない状態でした。祝日は無しですし、有給もありません。ほかにも2ヶ月に1回は2週間の合宿をやっていました。ギュウギュウの状態です。東京のスタッフは2ヶ月に1回、大阪へ来て缶詰めになって夜中まで働いていました。それが普通で、給料は20万円です。そこからもっといろいろと引かれます。本当によく働いてくれていたなあと今になって思いますよ(笑)

G:
そのうちに無理がたたってきますよね。

山本:
みんなつらそうな顔をしていました。「気合いが足りないんだッ!」だとか「もっとこう考えなきゃダメだ」などと、ますます負荷を与えていましたよ。まあ、つぶれていきますよね(笑)


G:
よくそれで山本社長はつぶれないなと思います。タフですよ。真っ先に社長がつぶれてしまうんじゃないかと思ってしまいます(笑)

山本:
いやいや、僕はやりたいことをやっていますから大丈夫です。編集長のほうが結構仕事をやっていらっしゃるような気がしますけどね。

G:
僕なんかはすぐに「疲れた」とか言って寝るタイプですよ。無理が利かないのです。うちの場合は真逆と言いますか、僕が止めてやらないと編集部員のみんなが勝手に突き進んでいきます(笑)「いつ寝るの!?」となってしまうのです。

山本:
「GIGAZINEやってる」という大きなミッションがありますからね。

G:
僕がEC studioに入ったらやっていけないですよ(笑)山本社長は体力がある方なのですか?

山本:
当時は「寝てる暇なんかあるか」という感じでした。毎朝6時にある経営者の会に出席しなければいけませんでしたし、夜は夜でいろいろな懇親会がありました。この生活を続けていたら、家族や社員ともうまくいかないだろうなと思い始めましたので、「一年間だけ」と区切ってやりました。終わりがあるからがんばれたんです。とにかく経営者と会い続けて、勉強を一生懸命やりました。最初のころに社員がつぶれた話に戻しますと、「頭痛がする」という社員が多かったんです。頭痛がひどいから、昼まで会社に来れないという人が多い状態でした。今はもうありませんが、当時の僕は「なんで頭痛するの?ビール飲め!酒飲んだら治るだろ!酒飲め酒!」とムチャクチャ言っていましたね。

G:
もう精神論とか根性論を超越していますよ(笑)

山本:
「頭が痛いってことはたぶん血管が収縮している。だからビールを飲んだら収縮が広がって頭痛が治るはずだ!」という理論ですよ。僕もそうやって治していました(笑)夜の8時や9時までずっと一人で仕事をしていたら、頭が痛くなってきてビールを飲むんです。すると、また仕事ができることがあったんですよ。「それだ、みんなそれが解決策だぞ」と言っていました。


G:
本当にもう、力ずくだったんですね。

山本:
その時は、みんなむやみに従っていたんです。5人だけの会社でしたから、僕の思いもはっきりと伝わるじゃないですか。よく一緒に飲みにも行っていましたし、心のメンテナンスはできていたんですね。「来年こうなるから」「再来年はこうなるから」「今は耐えてくれ」とがんばってもらいました。次の年になると、僕の中でいっぱいやりたいことが見えてきたんです。ここに来るまでの間、途中で主力メンバーが辞めてしまったりなどいろいろなトラブルはありましたが、目に見える改善点を直していった結果、今では社員も「ああ、言ってた通りだった」と言ってくれています。

G:
一番最初に辞めてしまった人は結構損をしたんじゃないですかね?

山本:
今はうちと「仕事したい」と言っていますけどね(笑)「ここにいたら大変そうだ」と独立したんですよ。今じゃ「EC studioにいたことは誇りだった」と言っているそうです。頻繁にEC studioの名前を出すんですよ(笑)IT系だったらEC studioの元社員というだけで「おまえやるじゃん」と評判が上がるそうなんです。そういうことに利用されるのは嫌なんですけどね。

G:
元グーグルとか、元マイクロソフトだとか言われるのと同じノリなのかもしれないですね。

山本:
中小企業でそういう風に言ってもらえるのはうれしいです。それぐらいにとんがっていきたいと思っていますから。

◆自社の問題点への対処の仕方
G:
ほかにも本を読んでいて気になったところがあります。「ダメダメだった部分を改善していくときに、その優先順位をどうやってつけていったのか」というところです。企業の社長というものは自社の問題点についていろいろと考えていると思いますが、山本社長の場合はどうやって対処していくのでしょうか?

山本:
さまざまな経営者の方々にお話を聞いてみて、重要なのは「社員満足度」だとわかりましたから、自分が社員として入社したい会社を作ろうと考えました。「もっとステップアップしたことがやりたい」と思ったらそれをやらせてもらえる環境があることなど、常に自分が一般社員の立場になって考えようということです。例えば新卒の場合ですと、先輩に聞きにくいことを聞けずに失敗するようなことの無いように、動画できっちりと教育をしてもらえたりですね。

あとは学生から社会人になった時、急に「社会なんてこんなもんだー!」と仕事への嫌悪感を持たれたとしても嫌ですから。うちの朝礼は遅刻をしても怒られないくらいに緩いんですよ。先輩よりも早く帰る人も普通にいます。今でも1年目の新人が6時に帰ろうとすると「え!?」なんて思うこともありますけれど、最近は「そんなことができる会社になったんだな」とも感じるわけです。昔はうちも、「長く働いているのが偉い」というようなよくある会社のパターンでしたが。

EC studioの真四角なオフィス


G:
新人でも早く帰れるくらいに生産効率が上がってきたということですね。

山本:
上がってきたのか、もしくは楽してるだけなのかわかんないですけど(笑)(早く帰る社員も)朝早めに会社へやって来て仕事をしていたりもしますから。その辺は僕は一切追求しないです。

◆独学で身につけたマーケティングノウハウ
G:
最初はビジネスの知識が無い状態だったそうですが、そこから独学で知識を身につけたと本に書いてありました。具体的には何をしたんでしょうか?

山本:
僕の場合は基本的に本を読むのが苦手だったんですよ。

G:
本を書いているので、本が好きなのかと思っていました。

山本:
作家には向いていないですよ。もうブーブーブーブー言いながら書いてますから。基本的には目で見たこととか、肌で体験したことなどから学ぶことが多いですね。「誰々さんが~と言ってたよ」じゃ響かないんです。その言葉の背景も気になるじゃないですか。実際に聞いて「なるほど」と感じたい。あとはまずやってみて、そして失敗するか成功するかです。やらずに何かを判断するのではなく、やってみてうまくいったことやいかなかったことだったら自信を持って発言できるじゃないですか。「誰それが言っていたから」では自信が持てない。ソフトウェアもそうなんですよね。自ら徹底的に使った上で、本当に良いから売る。それはみじんの迷いもない状態ですよ。とにかく徹底的にチャレンジして失敗しながら学ぶんです。当然、考えに考え抜いてからトライします。それでもし失敗したとしても「次はこうしよう」となるじゃないですか。

G:
借り物の考えというよりは自分の考えに従ってどんどん前に進んでいった感じですね。

山本:
僕がどのような方法でマーケティングノウハウを身につけたかと言いますと、その当時人気があったニフティ(パソコン通信時代から続くインターネットサービスプロバイダ)の掲示板で学びました。ちょうど高校生の時です。クリック数が横に出ていたから、掲示板のタイトルだけでアクセス数に差がついていると気づきました。ずっと見続けて、どうすればアクセスが増えるのかを研究しました。星マークをつけて目立たせたら良いとか、中身が気になるようなキャッチコピーが大事といった具合です。文章の書き方も、うまい人をまねしました。そしてうまくいったノウハウを蓄積していきました。

インターネットのはやりが掲示板からホームページへと移り変わってからも「どうやって他社はアクセスを増やしているのだろう」と研究しました。すると「検索エンジンへの登録」が主流だったんです。それで、たくさんの検索エンジンに登録できるソフトを見つけてアクセスを増やせました。そのころはまだグーグルが台頭していなかった時期で、アフィリエイトがものすごいビジネスモデルへと成長していく途中だったんですね。A8.netとかバリューコマースが生まれた年でした。ちょうどその時アメリカにいたので、英語が読めないなりに最先端のシステムを見つけてきて、それを弟に翻訳させて日本に提供したりとかしていましたね。


G:
ひたすら道なき道を進んできたような感じですね。確かにそのレベルだと独学です。

山本:
だから新しいマーケティングノウハウとか言われても僕は知らないんですよ。自分がやったことしか知らないから。いろんな事を知ってるように見られることがあるんですけど、自分の得意なこと以外は全く無知です。「フンフンフンフン」とずっと話を聞いていますよ(笑)

G:
好奇心の強いタイプなんですね。

山本:
好きなところだけですけど。

G:
自分の好きなものへの好奇心すら持っていない人も結構いますから。猪突猛進と言いますか、まっすぐ進んでいく感じですね。

山本:
最初に「こうじゃないか」というビジョンを考えて、そこへ突き進もうということです。「行ったら違った?もっと行けー!」みたいな。

◆メールやチャットでのコミュニケーションのコツ
G:
そうやって進んでいく中でいろいろなノウハウを身につけていったと思いますが、本に「口頭ではなくメールやチャットで指示を出している」と頻繁に書いてあります。そういう時に気をつける点はなんでしょうか?

山本:
チャットはメーリングリストの代用として非常にコミュニケーションが取りやすいのですが、一番大事なのは人間関係ですからね。短い文字だけでのやりとりなので、とらえようによっては「もしかしてこの人、嫌がらせで言っているんじゃないのか」といったことも起きてしまいます。そこをスムーズにするためにはしっかりとしたコミュニケーションが必要です。例えば毎月の飲み会などで「うちはすごい人間関係を重視しているよ」「うちの事業モデルの三つ目が人間関係でしょ」と確認し合います。ちゃんと「円満な人間関係がうちの理念の中の一つだから、そこは重要だよ」と伝えるわけです。うちは円満な人間関係を乱すような人には厳しいんです。理念第一ですから。理念は守りましょうと。そういった信頼関係がベースにあるから、チャットでのコミュニケーションがスムーズにいくんですね。口頭だったら表情などで判断できるものが抜け落ちていますからね、チャットは。


G:
変な言い方かもしれませんが、経営理念自体が「掲示板のローカルルール」みたいな感じでガチッと機能しているんですね。

山本:
だからほかの会社が「うちもチャットだけでやりました」と言ってもうまくいかないんですよ。普通は、社長がいたら誰も発言しませんから。けれど信頼関係がきっちりできていればスムーズにいくんじゃないかということです。

G:
極端な話、信頼関係ができていない会社はメールやチャット以前の問題であるということですね。

山本:
そうです。そういう会社はうまくいかなくて、たとえビジネスモデルが良くても「一時的ですよ、将来的には終わっちゃいます」と言いたいです。

◆新人研修マニュアル
G:
詳細なマニュアルを用意されているそうですが、どうやって作り上げていったんですか?

山本:
マニュアルと言いましても文章があるわけではなくて、カムタジアスタジオを使って動画マニュアルを作るんです。つまずくであろうところを動画で解説してあるものを見ながら自分で操作します。もしそれでもつまずいたら、「わたし困ってるんですチャット」に助けてもらう流れです。普通のチャットはプロジェクトや部署ごとで別れていたり他社とのものなどがありますけど、それとは違う「目的のあるチャット」だとなかなか書きづらいことでも書きやすいんですよ。何かしらの書き込みがあれば「わたし困ってるんですチャット」の責任者が答えて、その人がわからない場合はほかの人が解決してくれます。そして問題が解決できたらチャットの責任者がマニュアルとして「次からこういう風になります」と「Google サイト」に上げていく、こういう流れです。

G:
なるほど。「困ってるんですチャット」というのはかなり秀逸ですね。非常に納得できる部分があります。

◆1000人の経営者
先ほどおっしゃっていたように1000人の経営者に体当たりで教えを請う1年間があったそうですが、この1000人という数の理由はなんでしょうか?

山本:
今回の本には書いていないのですが、一年をかけてさまざまな経営者向けの研修を受けたんです。その研修に200人ぐらいの経営者が来るんですよ。それでガーッと回って話を聞きました。そんなことが何度かあったんですね。あとは毎週のように経営者に会いましたし。その間、人数をカウントしていたんですよ。何の話をして、どんなアドバイスをもらったかの記録を残していたんですね。それでトータル的には1000人ぐらいだったという話なんです。

G:
一日あたり平均で3人ぐらいに聞いて回ったんですね。

山本:
いや、グループで教えてもらったりもありますから。懇親会で7、8人の方に僕一人でガーッて聞いたりしました。40代、50代の経営者の方へ25歳の若者が質問しまくるわけですから、向こうとしてもうれしかったんじゃないですかね。たくさんの事を教えてくれましたよ。

G:
なるほど。1000人ぐらいに話を聞くというだけで人並み外れているなと思います。

◆印象に残った話
その聞いてきたお話の中で特に参考になった考えや印象に残った話はどんなものでしょうか?

山本:
あのころの僕は血気盛んでした。当時は「日本を良くする」じゃなくて「アメリカを倒す」というのが僕のスローガンだったんですよ。アメリカは世界一の国だ、すごい人ばかりだと思って留学しに行ったら怠け者ばかりで落胆しました。いま思えば、僕がすごい人には出会えないレベルだったんですけどね。ただ、ほとんどの人は日本人よりもレベルが低いと思いました。日本は「1億総中流」みたいな感じですが、アメリカの場合は1%の天才と99%のちょっと低い人たちみたいなもので、その多数派を天才が作り上げた仕組みによって動かすというイメージなんですね。僕が留学した当時は99%の方しか見えていなかったんです。日本人の方ががんばっているししっかりしているのに、おいしいところは全て仕組み作りの上手なアメリカに持っていかれると思いました。そうやって客観的に日本を見たときに、弱点やもっと良くするべき部分が見えたのと同時に「クソ!こんな国に負けるか!」と決意するような血気盛んな男だったんです。


それでいろいろな先輩経営者に「アメリカ倒したいんですよね」「アメリカに絶対負けたくないんですよ」なんてズーッと言って回っていたんですよ。そしたら先輩たちからは「まあまあまあ。落ち着いて落ち着いて」という感じでした(笑)

そんな中で一言、印象に残ったのが「血気に老少有り、志気に老少無し」という言葉です。どういうことかと言いますと、血気盛んな思いは老いると少なくなる、けれど志は老いても減らないよということです。それを言われてガーン!てなるじゃないですか(笑)確かにこれは単なる血気盛んなモチベーションだと気づきました。しかし日本を良くするというような立派な志だとしたら60代、70代になっても持ち続けることができます。その話を聞いた時、「君にその言葉をあげよう」と色紙に書いていただきました。「ああそうか、これなんだな」みたいな感じです。

スローガンを「アメリカを倒す」じゃなくて「日本を良くする」にしたらすごい応援が来るようになったんですね。以前の僕からしたら「日本を良くするなんて、そんな偽善者みたいな言葉!」と生ぬるい言葉に思えたんですよ。それが、スローガンを変えてからはたくさんの応援が来るようになりました。「日本を良くするのなら応援しよう」「苦しんでいる中小企業がたくさんある中でそう言うのなら応援しよう」という風に状況が大きく変わったんですよね。いままでは向かい風に向かって走っていた感じでしたが、後ろから追い風に押されるような変化ですよ。「なんだか楽に、さらに速く走れる」みたいに感覚が変わったという話です。

G:
向かい風が追い風へと変わったというのはなかなか良い話ですね。

◆社員への時間の使い方
うまくいっている経営者の共通点が3つあると本に書いてありましたが、そのうちの一つで非常に印象深かったのが「社員のために時間を使っている」というものです。山本社長はどういう風にして社員のために時間を使おうと決意したのですか?

山本:
すごい経営者の方がいるんですよ。たくさんの方が参考にしている経営者ですから非常に忙しく、全国で講演活動をしています。その方は毎日社員全員へ向けて手書きで2ページの手紙を書くんですよ。ご年配ですからFAXを使って毎朝6時までには送るそうです。それが何千号とかまでいっているんですよ。だから10年は余裕で越えています。いまだと5000号くらいですかね。それを一日も欠かさずにやっていると聞きました。社員さんはその手紙を「社長はどこどこの店舗でお客様からこんな感動の言葉をいただきました」とか「こんなことをやってくれた社員さんありがとう」と読むんです。

僕にはそれはとてもできないなと思いました。けれども、社員に対して気にかけているよだとか、見てあげているよ的な「社員がやった行動によってこんなに喜んでいる人がいるんだよ」ということを社長である僕が発信しています。どうにかそれを仕組み化できないかなと思いました。「ランチトーク」と言って昼休みに社員の話を聞いたりですとか、評価面談や飲み会といったものです。とにかく社員の話を聞いてあげるなど、仕事のモチベーションにつながるようなことに関して僕は時間を使います。環境を作るということです。

G:
どちらかというとモチベーションの方から環境を作っていく感じなんですね。

山本:
僕自身はITが苦手ですから。みんなのモチベーションを高くして、そのスキルを伸ばしてもらうことがEC studioの成長になるんです。みんなのモチベーション阻害要因を取り除くことが僕の仕事なんですよね。例えばパソコンのスペックを良くして仕事をしやすい環境を作ったりということです。社員それぞれの家族から応援されるような会社にすることが目標ですから。僕がすごいスキルで引っぱっていくような会社だったらこんな風にはならなかったかもしれません。「みんな、がんばって」という感じです。

G:
正しい経営者の姿ですね。

山本:
そうせざるを得なかったと言いますか、それ以外の職種が僕にはできませんから。

◆社員をつぶす仕事
G:
おいしい仕事であっても社員をつぶす可能性があるものは受けなくなったと本に書いてありますが、いままで10年近くやっておられる中でどういうタイプの仕事が社員をつぶす仕事だったんですかね?

山本:
やっぱりキャッシュに苦しんでいる時は目先のお金になるような仕事をしたくなるじゃないですか。後々トラブルになりそうなものはなんとなくわかるんですよね。いろいろと仕事のオファーはあるんですが、自分たちのポリシーにあっていないことはやっぱり……。「電話サポートをしてしまえばこの仕事ができるな」とか「顧客への訪問を始めればこういう仕事もできる」という点はいっぱいあるんですよ。しかし、それをしてしまうとEC studioのとんがったところが丸くなってしまいます。営業が苦手な社員に無理やり営業の仕事をさせたりだとか、そういうことも一時的なお金のためにだったらできるんです。けれど、それはやってはいけないなと考えています。それをやるくらいなら役員報酬を減らすなりなんなりして我慢します。いずれ蓄積していくビジネスモデルにしていこうとしているから、そのうちに良くなっていくはずだと「耐える」感じですね。

G:
ようするに社員をつぶしてしまうと会社に悪影響が出るからポリシーを作って、そこからぶれないように進んでいくということですかね。

山本:
そうです。理念の3つの柱である「売り上げアップ」に「業務効率アップ」、「社員満足」の三本柱が外れないようにやっています。

G:
つまり、その三本柱へと触れてしまっている仕事が最終的には社員をダメにするのでアウトという判断なんですかね。

山本:
そうですね。経営理念が「Make Happiness - 私たちはITを通して幸せを創り出します」で、「幸せとは心の豊かさである」と定義していますので、その心の豊かさを邪魔するようなものは排除していきます。

G:
なるほど、そのMake Happinessを邪魔するような仕事はアウトだということなんですね。

◆電話を無くす体制へと移行した理由
電話を受けないようにするため基本的に電話は無いという話ですが、これはかなり画期的だと思います。具体的にどのようにして電話を無くす体制へと移行していったのでしょうか?一気にガラッと変えたんですかね。

山本:
いいえ、最初から無かったんです。裏話的に言うと、電話を入れたビジネスモデルがイメージできなかったという感じです。最初はアメリカで起業していますので電話を使うのは無理じゃないですか。そこへお客様がたくさん入ってきましたから、電話を引いた途端に大変なことになるなというのはわかっていました。

G:
最初から物理的なスペックを越えてしまっていたということですね。

山本:
はい、日本で法人設立した時も「法人なのに電話番号が無いの!?」と最初は言われました。「電話があったら会社つぶれちゃうんです」みたいな(笑)「電話無しですいません。そのかわりに安く良いものを提供しますので勘弁して下さい」という感じです。

G:
普通の会社は電話を持っていると思いますが、もし無くせるとしたらどのようにして指導されるんですか?

山本:
前にもGIGAZINEさんに記事にしていただいた「IT経営実践会」参加者の中で電話を無くすことに成功した企業が結構あるんですよね。

G:
みなさんどうやって無くしていったんですか?

山本:
まずは一回うちの会社に来てみますと、オフィスの静けさと社員の集中力に驚かれて「これは絶対やる」と意志を固められます。そして自社に戻ってからどうやって実際に電話を無くせるのだろうかと社内会議をするんです。もちろん大きな会社だとか飲食業の方ですとお客様からの予約が取れなくなってしまったら困りますからね。業種によって状況は違うと思います。ただ「これは電話でいいけど、これはそうじゃなくてもいいよね?」ということってありますよね。それを切り分けていく作業です。

例えば大きな取引先だけに電話を教えておいてあとは一切公開しないようにするとか、顧客にもサービスを安くするから緊急時以外は電話をしないように協力してもらうということですね。うちの財務コンサルティングの方も会社へ来るたびに電話無しのメリットを感じられまして、ほとんどのクライアントへ電話をせずに全部スカイプチャットでやっていますよ。「会わないコンサルティング」ということもやっていて、その場合ですと低価格なんです。まずは「なんでもかんでも電話」という状態を切り分けることですね。

◆経営理念への共感
G:
経営理念に共感しない会社とは取引しないと明言していますが、その経営理念に共感してもらっているのかどうかはどうやって調べていますか?

山本:
調べているというか、取引のやり方でわかるんですよ。うちは小さい会社なりにも絶対に対等じゃなければ取引をしないという条件があるんです。

G:
お客様は神様ではなくて、対等な立場でということですね。

山本:
自分たちより何百倍もの売り上げがある会社が相手であっても対等の条件です。だから相手が上から来られるようであれば一緒に仕事はしません。それはお互いに円満な人間関係ではないということですから。口頭では「我々の理念を知って、それに共感してくれているか?」とは聞かないですが、うちを認めてくれていて「会社対会社」として円満な人間関係を築いてくれている相手と取引をします。そして僕たちは3回以上やりとりするところとは「スカイプチャットじゃないと嫌です」と言っているんです。もちろん一部上場企業で導入できない場合は我慢したりもしますけど。その場合は向こうもやりたくてもできませんから。内緒でやってくれるところもありますけどね。


G:
やろうと思っても会社的にアウトというケースもありますもんね。

山本:
それは仕方がないです。全員にスカイプチャットを導入したら情報漏えいしてしまって怒られたなんてことがあったら困るじゃないですか(笑)うちとしても困ります。あとは売り上げに関しても、ちゃんとお互いに利益が上がるWin-Winの関係じゃないといけません。我々が代理店をしているソフトウェアであっても、相手にとって一番良い条件でやれるようにします。Win-Winの関係になれるモデルが築けるかどうかということも重要視しています。

G:
そういう風にしてきっちりと見ていくんですね。

山本:
しっかりはじいておかないと(理念に共感していない会社が)来るんです(笑)

G:
そこはやっぱりとがっているような気がします。客を選ぶじゃないですけど、経営理念でふるいにかけるというか。

山本:
我々のスタンスとしては着いていきたい人、着いてこれる人だけ来ればいいと思っています。一般的に「来るもの拒まず、去る者追わず」なんてあるじゃないですか。うちは「来るもの拒み、去る者追わず」です。いっぱい来るけれど、しっかりと拒みます。ちゃんと理念に沿っているか、本当に良い提案をしてくれているのか、お互いにWin-Winになれるのかみたいなところを見て選んだ上で相手が去るのだったら「どうぞどうぞ」ということです。向こうがうちにメリットが無いと感じるのなら止めません。

G:
その辺りは会社の姿というよりも社長の姿が拡大していくみたいな感じですね。だから趣旨一貫している。

山本:
あと、EC studio はどこの組織にも所属しません。所属してしまうとその組織のルールを押しつけられるじゃないですか。それは組織にとってのメリットはあるけれど、うちの会社には良いところが少なかったりするんですよ。

G:
つまり会社のメリットが社員のメリットにつながらないからということですね。

山本:
急に「何人か集めてくれ」とか言われたりしますので。人を集めることが仕事じゃありませんから。そのために社員を雇ってるわけじゃないです。あとは「IT得意だろ?何か作っといて」みたいなこともあります。「社員にやらせたらいいじゃないか」とか言ってくる経営者はいっぱいいるんですよ。僕がたくさんの経営者に会って勉強している時も、相手は40代50代ですからITの苦手な方がたくさんいるわけです。「君はIT企業か!次、この会議やるから資料作っといてくれ」と言ってきますから(笑)

G:
そんなこと言うんですか(笑)山本:
言います。「おまえ若いんだからできるだろ」ですとか。そういう方には「僕、本当にワードとエクセルがあなたよりも使えません」と言うんです。なにせ本当に使えませんから。すると「社員の子になんとかしてもらえないか」となるのですが「いやー、社員はちょっとパツパツで無理です」と断ります。当時は本当にパツパツでしたから断っていたんです。だから組織に入ってしまうとそういった強制があるということですよ。

◆社員をクビにせずに、新規部署を作る
G:
理念の一つには「社員をクビにしない」ともありました。部署移動で問題が解決できない場合はその本人の強みを発揮可能な新規部署を作る、そうして二つの部署ができたと本に書いてありましたが、その二つの部署はどのようなものですか?

山本:
一つは業務推進部という部署でして「わたし困ってるんですチャット」の担当をしたり、社内のネットワークがどこかおかしくなってしまったときに助けるような部署です。IT系といっても営業出身の者もいますし、ネットワークがさっぱりわからない人もいますから。例えばデザインはできるけれど、ハードウェアには弱い人だったりとかです。その辺りのサポートを業務推進部が行っています。「君はEC studio全体の業務を推進させるためのオイルみたいな役目なんだよ」ということです。それはとても重要な役割ですから。

G:
それが一つ、業務推進部ですか。もう一つの部署は何ですか?

山本:
もう一つはラボですね。研究みたいなものです。その担当者はスーパー主婦と言いますか、ありえない人なんですよ。なんでも問題を解決しちゃう人でして、僕が困った問題を振ると全部解決してくれるんです。

G:
すごいですね!まるでドラえもんみたい(笑)

山本:
その人は大阪のミナミ出身で、コッテコテの大阪人なんですけどね。最初は「ITとかよくわからないです」と入ってきたんですよ。ある日みんなのパソコンをデュアルモニターにするためにボードを差し替えなきゃいけないことがありました。ハードウェアに弱い人ばかりだったので、どのボードが合うのかわからないまま途方にくれていた時、入社したてのその人が「それもうわたしやります!」とやり始めたんですね。全部のボードをヨドバシカメラに行って選んできて、そしてすべてのボードを差し替えました。そんな強烈な人がいるんです。

G:
珍しいタイプですね(笑)

山本:
珍しいです。何かにはまったらとことんはまる人ですよ。SEOにはまったらSEO一本をダーッと調べて、いまはもうSEOのことなら何でも知っています。その彼女は同じことを繰り返せない人なんですね。

G:
と言いますと?

山本:
同じ仕事を繰り返せないということです。ただ、繰り返すような作業と言っても請求書を作るようなことばかりではなくて、同じ内容の業務が無理なんですよ。例えばデザインだけをずっとやるとかはできません。常に新しいことをしていたい人なんです。

G:
なんだかハンターみたいですね。

山本:
だから何か新しいことがあると、まず僕はその人を連れて行くんです。そして一番の問題があるところにポンって投げ入れますと、ポイって答えが返ってくるんですよ。バーって資料を調べ尽くして、人としゃべって情報収集を徹底的にやって、上手に人と人とをつないで「社長、できました」と解決します。「ああ、はまったか……」という感じです。

G:
すごい人ですね。その二つの新規部署は強烈です(笑)

山本:
そうなんですよ。ほかの会社では仕事が続かないくらい強烈な人です。ハタチと21歳で続けてポンポンと子供を産んでから離婚して、23歳からズーッとシングルマザーでやってきています。家にはサーバーが3台あったりと、ちょっと普通の主婦じゃないんですよね(笑)EC studioがテレビに出るための広報戦略を練っている時に、誰もテレビ関係へのコネが無くて困っていました。そういう時に彼女を呼びます。ワールドビジネスサテライトに出ることができたのは彼女のアプローチがあったおかげなんですよ。

G:
すごいですね。普通はアプローチしても出られないですよ(笑)

山本:
グイグイグイと食い込んでいくんです。ラボとして仕事をしてもらっていると、あまりにも僕といっしょに行動することが多いんです。僕も新しいことを切り開くタイプですから。何かを新しく切り開こうという時には彼女にサブで付いてもらっていて「任せた!」みたいな感じですよ。僕はマネージメントも見なければならないので、ずっと切り開いているわけにはいきませんから。だからポンと彼女に振るんです。

G:
新規部署を作るときの注意点を聞こうと思っていたんですけど、これは聞いても無駄ですね(笑)あまりにも特殊なケースですよ、これは(笑)

山本:
そうなんです。出張も全国を一緒に回るんですよ。シリコンバレーに行ったりもします。

G:
本にもありましたが、たしか以前の職場では3ヶ月しか仕事が続かなかったそうですよね。

山本:
でも、うちではもう5年目ですから。

G:
普通の会社には収まらないような規格外の人がEC studioに収まるんですね。

山本:
規格外が欲しいんですよ。おもしろいですから。「こんな個性の強い人たちをまとめられるのは社長ぐらいですよ」とよく言われます。

G:
まとめるというか「新規部署」としてやるというこのアイデアですよね。それくらい個性が強かったら「おまえ一人でもなんとかいける!」とやらせてしまう発想です。

山本:
「いけ!もっといけ!」みたいな。

G:
本当に「出過ぎたクイは打たれる」のではなくて「出過ぎたクイは打たれない」みたいなところまでいっているんですね。

山本:
「伸ばせ!伸び続けろ!そしたら何かおもしろいことになったぞ」という。その伸び続けたクイを束ねるのが僕の役目なんですよ。あっちこっちに行ってしまったら大変ですから。理念とビジョンという枠のなかでうまくできれば問題無いわけです。

G:
なんだか三本の矢の中に丸太が一本混じったみたいな感じがします(笑)きっと普通の会社だったら放りだしてしまうんですよね。

山本:
そうですね。いままで会社を放り出されてきたり、合わなかったりして抜けてきていますから。だから履歴書の職歴が多い人は気になりますよ。普通は隠したがるじゃないですか。「なんで君は辞めたの?もっと聞かしてくれ」という感じです。


◆ソフトウェアの全社導入手順
G:
話がガラッと変わるんですけれど、代理店になって販売するソフトウェアについては自社でも活用しているものだけが自信を持って売ることができるという話でした。どういう経緯でソフトウェアの全社導入を決めていくんですかね?どこかで試験的に使ってから決めるとは思いますが、どういう経緯なんでしょうか。

山本:
まず、うちの中でも何か問題があったときに「どこかにちょうどいいツールないかなあ?」となります。そして情報収集をバーッと行い、競合商品を調べて良さそうなものだけをピックアップしてから一度業務推進部に投げるんですよね。そして検証してもらって「これは行けると思います」となったらもう「GO!」ですよ。ソフトウェアを入れるときはチャットでバッと連絡を取ったりしながら一斉に一日でやります。そもそもみんなが困っていた問題だったりするので、スルッといけるんですよね。

いままでに何度か失敗しているような会社では「また新しい変なの持ってきやがって」となるのかもしれませんが、うちの場合はソフトウェアを入れて楽になった経験を積み重ねてきていますので「これはどういうソフトウェア?」と興味津々な状態になります。よく「ITに詳しい人たちばっかりだからそういうことができるんだよね?」と言われたりするんですけれど、決してそうではないですね。

G:
やっぱり業務推進部という部署はすごいところですね。普通の会社だったら誰が検証して誰がマニュアルを作ってというところを、業務推進部がバーッとやってしまう。本当に会社の潤滑油みたいなところなんですね。

山本:
デザイン部のITが得意な人とかに仕事を振ったとしても、デザインの方で納期があるから止まっちゃうじゃないですか。技術部も「サーバーがダウンしたらあれだから……」と止まってしまう。だから業務推進部に振ると良いんです。それがミッションですから。

G:
やはりバックオフィスの優秀さというものは非常にありますね。

◆売り上げシェア2割の事業を捨てる決断
守りには入らないという過程の中で、売り上げシェアが2割の事業を捨てたとも本に書いてありましたが、そういった決断をするときのコツみたいなものはなんでしょう?2割の事業を捨てるなんて大冒険ですよ。

山本:
2割も捨てたら赤字になりますからね。あの話は最近の話なんです。

G:
ええ!?そうなんですか?はるか昔のことなのかと(笑)直近でしたか。

山本:
だから苦しいんです(笑)大所帯になってきたのでその2割が効いてきます。

G:
その捨てた理由というのは何でしょうか?

山本:
EC studioが提供するべきものではないだろうということです。3、4年前から他社が無料でSEOツールを出してきていましたので、SEOはもう成熟しきっていて時代的に衰退していくものだと見えていたんです。ニーズが下がっていく一方というか。衰退していくものを「EC studioが提供しているものは良いものだ」と言ってくれている方たちへ出すことは良くないと思いました。うちのSEOツールにはホームページの診断機能も付いていますので、それは喜んでもらえていることはわかっています。ただ、ツールが時代遅れになってきていて、それを新しくリニューアルしようと思ってもコストがかかる。つまり、我々が普段から言っていることとやっていることが違う状態になってしまうということです。だからいつかは決断しなければいけないと思っていました。

決断をしたのは今年の3月くらいですかね。マーケティングチームからは「大丈夫ですか?本気ですか?」「内緒で売りましょうよ!」なんて声が出ますよ(笑)捨てた2割はメイン事業だったんです。それで会社を立ち上げて、それでみんなを食わせていた事業でした。ほかにソフトウェア販売などを始めてからは売り上げシェアが半分くらいになってきまして、その中でも僕たちにとって合っていないツールが2割のシェアを取っていたから捨てた、ということです。

G:
転地という作業に入ったんですね。かなり会社にとってセンセーショナルなことだと思います。

山本:
いつかは必ず、あのときにやめておいて良かったと思える時が来るんです。それは1000人の経営者に会う前もそうでした。会社がボロボロな状態で1000人に会いに行ってしまって大丈夫なのかとも考えました。でも、いまやっておかなければ将来はもっとグチャグチャになってしまう、25歳の経営者がそんなに上手に経営できるわけがない、僕は勉強をしなければいけないという感じで決断しました。「一年間耐えてくれ」と社員に伝えたんです。売り上げシェア2割の事業を捨てたことは、その時に次ぐくらいの大きな決断ですよ。会社の知名度が上がっていき、その上「社員満足度ナンバーワン」と言われていますから。それなのに売り上げは赤字だったりします。「売り上げは捨てた」なんて大きな声で言えないですよ。「なんでそんなことしたの?」となりますから。でも将来を見越したらいまやっておかないとだめなので決断をしました。

G:
5、6年後になってまたインタビューか何かでお話を聞く機会がありましたら「あのときに捨てて良かったですね」という記事が書けそうです(笑)

◆長期的視点と短期的視点
あと、日本を外から見た経験から日本人の苦手な部分として「仕組み作り」と「ITの活用」を挙げていました。そのことを実感するエピソードは何かあったんでしょうか?

山本:
僕が思っているアメリカ人と日本人との違いは「長期的な視点」と「短期的な視点」だということです。どちらかというと男性は長期的視点で、女性は短期的なことが多いじゃないですか。女性は身の回りのことだとか人間関係とかに重きを置いている。男性だとその辺りは適当です。だけど男性は「これ!こんなことをやりたい!」なんて言います。どちらかというとアメリカ人は男性的で日本人は女性的だなと思っています。アメリカ人はミスもしますし適当じゃないですか。けれどもグーグルみたいに大きなビジョンを持ったりもします。

G:
たしかにグーグルは最初からホラ吹きのようなことを言っていましたね。

山本:
そういうことが言える国民性だと思うんですよ。日本人はどちらかというと逆で「いまニーズがあるんなら、ユーザーを囲っちゃえ!」みたいな視点です。それで僕は、いずれ上を向いてくるような長期的視点が重要だと思ったんですよ。日本のように水まきを手で丁寧にやって盆栽を作るとかも良いんですけど、ただやっぱりアメリカ人のように全部スプリンクラーで仕組み化してしまおうということですね。その辺の道路で水道管が破裂したりしているんですけど(笑)

だから日本人は日本人の良いところを残しつつ、アメリカの良いところも取り入れたら最強だと思っているんですよ。アメリカ人は長期的な視点を持っている反面、短期的で細かなことはなかなかできないですから。

G:
アメリカ人は大ざっぱな感じがしますよね。グーグルを見ていても、わりと大ざっぱなところがあります。

山本:
日本人にすばらしいリーダーが出てきたら、すごい強くなると思っていますよ。日本には立派なリーダーがいませんから。iPhoneが出てきて「あーあー、iモード終わった」みたいな時に、しっかりとしたビジョナリストがちゃんと時代の変化に気づいていかないといけません。重役同士で「いやいやいや、iモードはまだまだ。日本の市場はこのままで」なんて話でそのまま来ていると思うんです。「ズバッといかないと!時代が変わってんのに!」みたいな感じですよ。

G:
長期的短期的視点というのは非常に説得力がありますね。

◆社員のやるべきことと、やりたいことのバランス
あと「社員にやりたいことをやらせる」とも書いてありました。社員がやるべきことと、社員がやりたいことの割合はどれくらいで考えていますかね?

山本:
やらなきゃいけないことって、例えばトイレットペーパーが無くなったら補給するみたいなことだと思います。デザイナーの場合ですとデザインがやりたいわけですが、その中でもやらなきゃいけないデザインとやりたいデザインとがあるんですね。デザイナーだからデザインをやらせておけばそれでいいというのとは違います。そこでランチトークとかでヒアリングをして、どんなデザインがやりたいのかを聞いておくんです。そのやりたいことがまずは1割でもできればいいんですよね。

1割でもやりたいことができている、上げたいスキルが上がっていると実感できたなら、やりたくないことがたとえ9割であったとしても満足度は上がると思うんです。ずっと10割でやりたくないことをやらされているよりも。何がやりたいのかをヒアリングすることが大切で、それがちょっとでもできていれば第一段階はクリアですよ。次はその割合を増やしていきます。さっき言いました電話の話といっしょです。いきなり全部を無くすのは無理だけど、少しずつステップアップしていく感じですね。人それぞれですので、割合を考えるのは難しいのですが。

G:
なるほど。「さすがに社員全員がやりたいことばかりやっているわけではないよな」と思っていましたから。

◆決して怒らない
それと、決して怒らないとも頻繁に書いてありました。そのことで発生するデメリットってあると思うんです。例えば仕事でミスし放題になったりだとか、遅刻し放題になったりですね。つまり社員が会社をなめていて、怒られないから開き直ってしまう。そういう事態になっていない理由は何だと思いますか?

山本:
決して怒らないという部分だけを取ると「え?」となると思います。ですが、採用の段階からうちのことをしっかりと伝えて、本当にEC studioへ入りたいと思ってくれている人を採っていますから。円満な人間関係を大事にしているといった理念もしっかりと浸透していて、本当に社員満足度というものを大切にしていると伝えている。これは性善説で見ていくということです。社員にも文句だけを言うのは絶対にダメだと伝えています。不平不満を言うときには、君なりの提案を持ってきなさいということです。

それと、怒らないとこちらの言うことを聞けないというのは子供だよねと思います。一般的に言わなくても気づくことってありますよね。遅刻とかは本人がわかっています。ただ、指摘はしますよ。ランチトークの時に「こうしたほうが良いと思うけどなあ」と伝えます。人前で怒ったり、相手に恥ずかしい思いはできるだけさせないようにしているんです。「ちょっとちょっと、おいで」と廊下へ呼んできてから「それはしないほうがいいと思うんだよ」みたいな感じでやっています。

G:
うまく回っているんですね。

山本:
あんまりピンとこないかもしれませんが、僕たちはずっとそうやっていますから。感情的に怒っているなんてことは、ここ5年ぐらい無いですね。僕も腹が立つときはもちろんあるんですけど、自ら5年間かけて築いてきたこの社員満足度を一回の怒りでつぶすのかということです。

G:
「怒れるときは10数えよ。怒りがさらにはなはだしいときは100を数えよ」というものがありますが、それと通じるものがあるのかなあと思います。

山本:
やっぱり理念とかルールがストッパーですね。おいしそうな仕事でも理念がストッパーになったりします。もし怒ったらあとで気まずくなりますから。社員満足度も下がるなど、良いことがないんですよ。昔は僕、暴れん坊だったんです。兄弟げんかしたり、親とケンカしてものを投げてガラスを割ったりしました。ガラスは割ったら、割れちゃっているじゃないですか。その痕跡があると後になってから絶対お父さんに怒られるんですよ(笑)すごい後悔の時間がそこにあるわけです。「なんでおれは投げたんだろう」とか「なんで投げても割れないところに投げなかったんだろう」と後悔します(笑)

過去にタイムマシンで戻りたいと思う時もたくさんありました。そういう深い後悔は絶対にしたくないんです。その思いが小さいころからよくありました。ですから、感情に任せて何かをやってもうまくいくことはあまりないと思っています。良いことも悪いことも、何かをするときはちゃんと落ち着いてしっかりやった方が何事もうまくいくんじゃないかということです。

G:
感情で判断するというよりは理性で判断するということですね。山本社長とお話をするといつも思うのですが、体育会系の割には理知的ですよね。理性と知性がかなり感性を上回っているように感じます。ほかの経営者の方たちを取材していると、結構感性の部分が強い人が多いんです。そこから言うと、山本社長の場合は変わっていますよね。一見すると感性が強そうに見えるけれど、その感性はただのエンジンで、上に乗っている理性と知性がブワーっと両輪で進んでいっている感じがします。

山本:
それもさっきの話の長期的視点と同じです。例えば、ここからそこまで土を運ばなきゃならないとなったら、普通の経営者はたくさんの力持ちを雇って「運べー!」ってやると思うんですよ。僕たちはまず「待て!」なんですね。時間がかかってもいいから、どうやったら一番楽にたくさん運べるかを考えてと指示します。そうしたらきっと線路を造り始めるんですよ。その次は電車で、貨物車を造って、そのあとはようやく感性の部分になります。普通の経営者は最初に感性でガーッとやるんですけれど、僕はレールを引いて電車ができた上でエネルギーを使うんですよ。燃費が良い状態になってからじゃないと力を使いたくないんです。燃費が悪い状態でがんばって、もしそのまま大きくなってしまってもいずれは破たんするじゃないですか。完全なところまで営業効率を徹底的に作り込んでから思いっきりプロモーションします。たとえ明日10万人からの注文があっても大丈夫みたいな状態が大好きです。

G:
なるほど。たしかに「サーバーを強化して~」と本にもたくさん書いてありました。

山本:
「1人あたり1000万の売り上げしかないのなら10人で一億だ!」というのはレバレッジが効いていませんよね。

◆全社員に経営を学ばせる
G:
全社員に経営を学ばせてみたら全体朝礼で話す経営についての話の社員の理解度が違ってきたとありましたが、どういう点でその変化を感じたんですかね?

山本:
最初はそんなことまで考えずに、僕が良かったものは社員もすれば良いなと気軽に思っていました。僕が手当たり次第にいろいろと試してたくさん失敗して、その上で良かったものを社員に渡すのならば社員も喜ぶじゃないですか。僕を通してフィルタリングされていますから。経営の勉強もそうで、一般社員からしたらなかなか習わないことなので経営者視点になるのは難しいです。経営者からしたら「なんでおまえはこれがわからないんだ!」ということも現場にいる社員からしたら「そんなのわかるはずないじゃないですか」というところがあると思うんですよ。

だから社員にもヘリコプターで空を飛んでもらって上から見てもらいます。経営者からしたら「地形があんな風になっているから、あそこはこうやって攻めなきゃいけないんだ」ということも、上から見たことが無い人からしたら大きな山で目の前が遮られているのと一緒です。「だから右に曲がらなきゃいけないのはわかっているだろ!」と僕たち経営者は上から見て言っています。そこで社員との間に亀裂が走るんですよ。だから、一回空に上がって地形を見せます。一度上から見たことがある人はちゃんとしたアドバイスをしてもらっているとわかるのですんなりいくんですよ。僕も昔は一般社員と同じレベルで地上戦をしていましたから。一度空軍になってみて「あそこを空爆しよう!」という感じです(笑)

G:
そういうことなんですね。

◆ランチトーク制度
「ランチトーク制度」というものが頻繁に出てきますが、実際にはどういった場所で昼食を取っているのですか?

山本:
「どこに行きたいー?」と食べたいものを聞きます。「ごめん、そこは昨日行ったから違うところにして」とかはありますね。基本は社員の行きたいところに行っていますよ。この辺には食べるところが5個ぐらいしかないんですけどね。

G:
ご飯を食べながらどうやって話すんですか?話を聞くのはいいんですけど、僕は話せなくなっちゃうんですよね(笑)「フンフン、それでそれで」「これおいしいね」くらいしか言えないんですよ。

山本:
僕もずっと食べていますよ。基本は「どう?」しか言わないですね。たまに「えーそんなのあるのー?」なんて言ったりです。すると、しゃべることが無くなるじゃないですか。社員もしゃべることが無くなったら自分の頭の中で一番気になっていることを言うんですよ。何かしらのテーマを与えて評価面談ということであれば、それに対して考えてくると思うんですが、ランチトークでは雑談の中にヒントもありますし、何もしゃべらなかったら空白ができます。みんな空白は嫌じゃないですか。何かをしゃべろうとします。すると優先度が高い事柄が出てくるんですね。「プライベートでこんなことがありまして」とか「仕事で気になるのが~」と言ってきます。そういうことはチャットには出てこないんですよ。一緒にいて物理的な空白時間があることで拾い上げられます。

◆支給しているアプリケーション
G:
iPhone支給制度というので、「最初にiPodの支給から始まってiPhoneになり……」となっていますが、全員に支給しているアプリケーションはあるのですか?

山本:
あります。LogMeIn Ignition for iPhone/iPadです。パソコンを遠隔操作するアプリですね。いまは似たような機能を持っているTeamViewerの無料版が出たのでいらないんですが。当時は3500円したんですよ。数百円のアプリだったら社員も何も言わなかったと思います。「3500円のアプリ、入れたほうが良いよ」と言ったら「3500円入れるんですか……?」「いやいやいや、君らが楽になるだろ、サーバーメンテナンスとか」という感じです。サーバーメンテナンスだったら仕事ですから。「じゃあ支給するよ」となりましたね。ほかのアプリは数百円なのであんまりこちらからは言わないです。

◆バースデイ制度
G:
「バースデイ制度」なんですけど、社員がそれぞれのパートナーを連れて参加するということに非常に驚きました。これはどういった飲み会なんですか?

山本:
うちの飲み会は3ヵ月に1回、合宿での飲み会があるんです。その時はパートナーを連れてきてもいいよと言っています。もちろん飲み会代は会社持ちです。ドンドン連れてきなさいという感じですね、社員のパートナーがどんな人かは僕らも興味がありますから。毎月固定メンバーで飲んでいるのでマンネリ化するじゃないですか。だからおもしろい人に来て欲しいんですよ。そうやって「呼んで呼んで!」と言っていると来てくれる人もいるんですよね。さらにもっとたくさんの人に来て欲しいから、バースデイ制度を作ればいいんじゃないだろうかという話です。誕生日を祝ってもらえますし。普通だったら「飲み会でわたしの分まで負担してもらって……」と気を使うと思います。だから気軽に来やすい環境を作るんですよ。実際にパートナーは来るんですよね、そしたら「おお、どうですか?」となるじゃないですか。

G:
おもしろいですね。

◆経営者が社員を深く理解できる上限は40名
あと、一人の経営者が社員を深く理解できる上限というのは大体40名くらいかなと書いてありました。その40という数字に至った根拠はありますかね?

山本:
根拠はあります。さまざまな経営者の話を聞いていると100人200人クラスの会社を経営している社長もいますので、「どうですか?」と聞くと「いやー、30人までは楽しかったなあ」とか「40人までは楽しかった」「40人越えてからは会社になってしまったな」なんて言うんですよ。家族的なものから会社的になってきてという話です。組織的なところの場合は「100人越えたらもう社会だよ。全然おもしろくない」とも言っていました。そういう風に聞いていくと皆さんが「おれも30人以下のころに戻りたい」と言うんです。それなら、そこにいく前に止めておこうという感じです。いまはすごく慎重に採用してますから。

G:
僕も似たような話を聞いたことがあるんですよ。「日本人は昔から40人辺りが限界」と人に言われました。なんで?と聞いたら「だって赤穂浪士は四十七士だろ」と(笑)「あれはあの人数より多くても少なくてもだめだったんだ、あれが歴史上の限界だ」と言っていました。だから山本社長の場合はどうやってその数字にたどり着いたのだろうかと思ったんです。

山本:
全部体当たり取材みたいなもんですよ。

◆動画研修カリキュラム
G:
人材のミスマッチを避けるため、体験入社の2日間すべてに動画での研修会が組まれているので業務に負担はありませんとありましたが、この動画研修カリキュラムというのはどうやって作ったんですかね?これもさっきの業務推進部ですか?

山本:
いや、それはまだ業務推進部が無いときにできたんです。2006年ごろに、理念を説明するのには一時間ぐらいかかるとわかったんですね。ビジョンに対しても同じぐらいかかるともわかりました。当時は全員の前で発表していたんですよ。新人が入って来たときに「見てないよねー」と話になり、それだとまずいから動画を作りました。理念は簡単なので一回聞いたら覚えるんですよ。だから体験入社の際に見てもらい、その理念に共感するかしないのかもマインドマネージャーを使って感想を書いてもらいます。自己紹介とかもマインドマネージャーを使わせるんです。とにかくマインドマネージャーでやってもらう感じです。二日目は、一からパソコンのセットアップですよ。こうしてやれば業務には負担が無いんです。あとは、ランチにみんなで行きます。一時間800円で体験入社の時給も出しつつです。そうやっていくとミスマッチがなくなります。採用は結婚と同じような感じで、お見合いしてからすぐに結婚するよりも、お見合いして同棲してから結婚する方がお互いを理解した上で結婚するのでうまくいく傾向が高いですよね。それと同じです。

G:
一番最初の段階から大事な理念を伝えるというのはなかなか良いアイデアですね。

山本:
感想を見たら、理念に共感しているのかいないのかは大体わかるんです。合うか合わないかをそこでふるいにかけます。

◆システムエンジニアを抱えて内製化
G:
本格的にツールを使用する場合は自社でシステムエンジニアを抱えて内製化する方が良いと本に書いてありました。そういう風にしたほうが良いと実感できる出来事って過去に何かあったんでしょうか?

山本:
そうですね、うちは全部内製化でやっていますから。それは例えばお客さんとのやりとりや顧客管理システムだったりとかですね。領収書や請求書を自社で発行したりです。うちだけのやりやすいルールみたいなものがあるんですよ。銀行振り込みをCSVでエクスポートしたら、それをインポートしてほとんど一致しているやつは入金確認ですよという感じです。文字がずれているやつだけチェックすれば良いわけですね。そういう仕組みは外注では難しいですから。うちで使用している三菱東京UFJ銀行のフォーマットに合っていないといけませんので。内製化しているとちょっとした改善ができるじゃないですか。それがすごい良いと思っていますね。

「日本でいちばん社員満足度の高い会社の非常識な働き方」


G:
今日は長々とインタビューに付き合っていただきまして本当にありがとうございました。

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