インタビュー

プロの小説家になるにはどうすればいいのか?「魔術士オーフェン」で有名な小説家・秋田禎信さんにインタビュー


作者のサイトで本編の後日談の連載がこっそりと始まり、短編最終巻のタイトル「これで終わりと思うなよ!」のとおり、本当に終わっていなかった「魔術士オーフェン」。

掲載された後日談の評判が高かったことから、他にも「エンジェル・ハウリング」の後日談など多数の書き下ろしを収録した「秋田禎信BOX」になって予約限定生産で発売されることになりました。この機会に、作者である秋田禎信さんにインタビューできることになったので、いろいろと話を聞いてきました。

プロの小説家になる経緯 - 「応募したらどうなるかとか、よく分かっていなかったんですよ」
インタビューの場となったのは「秋田禎信BOX」を出版することになったティー・オーエンタテインメント


GIGAZINE(以下、G):
秋田さんは17歳の時に富士見書房のファンタジア長編小説大賞で準入選を取っていますが、小説家を目指したきっかけなどはありますか。

秋田禎信(以下、秋田):
そうですね、なにぶん、あまりにも若かったので新人賞というのが何か分かっていない感じでした。アルバイトをして買ったワープロで、タイピングの練習として書いた小説があって、ちょうど大賞の応募締め切りの頃だったので出しました。


G:
練習で書いたものだったのですか。

秋田:
ええ、応募したらどうなるかとか、よく分かっていなかったんですよ。

G:
17歳だと高校生ですよね。休みの日に書いたりしたのですか?

秋田:
ええ、夏休みでした。ちょっと頭がおかしくなっていたんだと思います(笑)。当時部屋にエアコンもなかったので。

G:
そんな状況で書いたのが受賞するというのはすごいですね。

秋田:
審査員の方には結構ボロクソにいわれた記憶がありますね。「今年はレベルが低かった」とか言われて(笑)。

G:
なるほど。では、プロになるきっかけは何だったのですか?

秋田:
編集部の方で担当の人が付いたので、ちょこちょこ原稿を見てもらいながら、2年ぐらい持ち込みしていました。それで、「そろそろ本になるものを書いてみようか」と言われて書いたのがオーフェンの1巻です。僕の中では1巻で終わりのつもりだったんですが、提出した後に編集の人から念のために2巻書いておこうかと言われて。「マジっすか」と思いながら続きを書いていたら、1巻の売れ行きが良かったのでそのままシリーズ化しました。

G:
編集の方から3巻以降も続けてくれという感じだったのですか?

秋田:
こういうヤングアダルト系の文庫のレーベルの出版スケジュールって特殊で、もう1年前から予定が決まっているんですよ。この月には○巻を出してという感じで。そういうのが特殊だと分かったのはここ数年のことなんですけど(苦笑)。だから、自分でどうこうしたいというのはなくて、決まっている予定をこなしていくという感じですね。

◆小説家を目指す人たちへのアドバイス - 「若い人はもっと暴れていいと思います」

G:
これから小説家になりたいと思っている人に対してアドバイスなどあれば教えてもらえますか。

秋田:
そんな具合でなったりする職業なので、とにかく何か書いて応募するのが一番いいのではないかと思います。学校の講師をしている同業の人から作家志望の若い子の話について聞くこともあるんですけど、みんなすごく真面目なんですよね。ただ、どこか試験勉強みたいに捉えているところがあって、「あらすじは何枚におさめればいいか」とか、「略歴はどう書いたらいいか」とか、そういうことをすごく気にするらしいんです。でも小説は資格試験ではないので、どこかアバウトなところがあるんですよ。

語りぐさになっているんですが、僕の場合は応募要項に原稿用紙と書いていたので、市販の原稿用紙に合わせないとダメだと思って25×25のマス目に入るように印字して送りました(笑)。当然すごく読みにくいので、「アホか」ってしばらく言われていましたね。でも、編集者は「コレは応募要項に沿ってないから落とす」ということはないんですよね、試験官ではないので。


秋田:
話の作り方なんかでもそれは言えて、なんていうか、そこまでいい子になることはないんですよ、もっとめちゃくちゃしていいんです。それで編集者の印象に残れば、賞は取れなくても必ず連絡は来ますので。編集者は面白そうなものをすごく探していますから。プロならともかくデビュー前なら、出版社に合わせて綺麗な話を作る必要はないと思うんですよ。若い人はもっと暴れていいと思います。今世の中に出ているものは全部クズだと言ってしまうぐらいのモノは欲しいですね。だからこそ新人を募集するわけで。

今ちょうどメディアやツールも変化してきて、面白くなっている時期じゃないですか。10年とか20年前とメディアのあり方なんかが変わってきているのは、誰かがぶち壊そうと思ったから変わったと思うんですよ。すごく語弊のある言い方かも知れないですけど、もっと敵意を持ってくれていいと思うんですよ、ロックな感じというか(笑)。みんな大人しいという話をよく聞くので、もっとそういう人がいてもいいんじゃないかと思います。

G:
なるほど、ありがとうございます。秋田さん自身が小説家になって良かった点などはありますか。

秋田:
作家なんかにはならない方がいいと思います(笑)。他の仕事と同じように楽しいことも嫌なこともあるので、作家というのは特別な職業だと思っているのであれば、それは先が厳しいよというのがあるんですね。僕の信条というのもあるんですが、決して特別なことはやっていないと思います。

G:
よく世間では「小説家で食っていくのは難しい」という話を聞きますが、実際のところ小説家は厳しいのですか?

秋田:
割と余裕を持って暮らしてはいますけど、贅沢にはキリがないので難しいところですね。僕はもともと専業の小説家ではなく、印刷会社のオペレーターもやっていたんですけど、昼に会社で仕事をして夜に小説を書くというのが最初の1年半ぐらいでいよいよ無理になって。それでどっちをやめるかを人に相談してみると、「明らかにお前にサラリーマンは無理だ」と言われて(笑)。「無理なら仕方ないか」と小説家を選びました。

G:
「無理」と言ったのは友人ですか?

秋田:
親にも言われました(笑)。あまり選択の余地はなかったですね、もちろん(小説家を)やれるからやっているわけですが、ほかにできることもないしな~、みたいなのはありますね。

G:
専業の小説家としてやっていくことになって困ったことはありますか。

秋田:
人に会うのがすごく難しいですね。それがキツいです。1人だとつまんないので。


G:
仕事は家の中でやっているんですか。

秋田:
ここ最近は喫茶店のようなところに行かないと気分が入らなくなってきて、外で仕事することが多いですね。

◆普段読んでいる本や小説について - 「本とは一期一会みたいな部分がある」

G:
普段はどのようなジャンルの小説を読んでいますか。

秋田:
割と有名どころですね。ちょっと変わってるなと思うのは、日本人の作家が書いているものは読まないんですよ、昔から。ドリトル先生とか海外の本を小さい頃に読んでいたのでそれに慣れてしまったんだと思います。あとは、本屋に行って適当に目に付いたものや気になったものを読むという感じですね。間違って買った本なんですが、ヴォネガットの「スローターハウス5」を読んだときは「この世にはこんなものすごい知性があるのか」とぶん殴られたみたいな衝撃を受けて、その後しばらく放心状態になりました。そうやって偶然出会う本が多いですね。


G:
今まで読んだ小説の中で「読んでいない人は読んでおくべき」と思うようなオススメはありますか。

秋田:
もちろんヴォネガットは読むべきだと思います。あとはテリー・ビッスンが好きなので、短編集ですが「ふたりジャネット」はいいですね。昔の本ですけど一番はっきりと影響を受けたなと思うのは、トレヴェニアンの「夢果つる街」ですね。他はブローティガンとか、ダグラス・アダムズとか。少し前で面白かったのは、チャールズ・ストロスの「残虐行為記録保管所」ですね。物語が好きなんですけど、最近は数学者の伝記なども面白いと思うんですよね。あの絶望的な感じとか(笑)。

トポロジーの本なんかは読んでもまったく理解できないことがわかって新鮮でした。三次元多様体とか言い出すともう全く分からない。でも「理解できないけど整然としたものがあるんだ!」と思ったり。そういったヘンな出会いみたいなものが面白いな~と思う感じかな。本とは一期一会みたいな部分があると信じていて、あらかじめ何か知っている本を読むことよりも、たまたま目についた本を読んで、衝撃を受けるということの方が多かった記憶があるんです。冒険心じゃないですけど、なんかそういう自己破壊があってもいいんじゃないかな、と思うことはあります。

G:
アドバイスにもあったロックな感じですね。

秋田:
ロッカーでも何でもないんですけどね(笑)。

「秋田禎信BOX」の企画立ち上げ - 「ネットにのっかってるじゃん」
G:
企画の提案は突然あったんですか。

秋田:
ネットで遊びのような感じで後日談を載せ始めたら、「割と反響あるみたいだよ」と編集者が言ってきて、しきりに「本にしないか」と言われたんですよ。でも「ネットにのっかってるじゃん」と僕は反論したり。それで「ネットに掲載しているものを本にまとめて、それでもなお説得力のあるものができればやるよ」と売り言葉に買い言葉といった感じで言っていたらこうなりました。


G:
書き下ろしの量がかなり多いですが、企画が決まってから、結構急いで書かれたんですか。

秋田:
おかげで、ほかの仕事を待たせてすごく怒られましたね(笑)。

G:
というと、文藝春秋の「機械の仮病」とか、ザ・スニーカーの「ベティ・ザ・キッド」ですか。

秋田:
いや、連載している分は遅らせられないのでちゃんとやったんですけど、ほかにやらなくちゃいけない原稿がたくさんあって(苦笑)。

G:
その原稿というのはどんな感じの内容ですか。

秋田:
前々から恋愛ものが書きたいという話を編集者としていたので、それがひとつと、あと季節的な話ですね。文庫とかで出すような話ではないんですけど、そのような話もしています。面白がってやるというのは大事だと思うので、何か目先の変わったものをしようと心がけてはいます。

G:
アニメイトだと限定特典として小冊子が付くことになっていますけど、こちらには何か参加されていますか。

秋田:
いや、僕は何も聞いていないんですけどどうなんでしょう。

ティー・オーエンタテインメント担当者:
インタビュー集が付くという噂です。

G:
噂ですか(笑)。ではさらにまた別の書き下ろしがあるというわけではないと。

秋田:
いや、流石にそんなことはしないと思います(笑)。


収録される「魔術士オーフェン」について - 「え、内緒じゃだめですか」
G:
秋田さんのサイト「モツ鍋の悲願」で連載されていたオーフェンの後日談小説から書き下ろし満載の秋田禎信BOX発売が決まったわけですが、代名詞だらけになっていた人名は本では元に戻っているんですか。

秋田:
あれは直しました。うっかり直し忘れているというところもない……はずです。

G:
人名を直す作業は大変でしたか。

秋田:
どっちかというと書き下ろしの量の多さが大変でしたね。書いてて自分でも「何をしているんだ」と思いました(笑)。結果としてすごくヘンなことをする企画になりましたね。なりゆきでポンポンとできあがった企画ではあるんですけど、いざやってみようとなると、自分でも予想していなかった仕様が出てきたりして。今でもどんな本になっているのか僕にはよく分かっていないんですけど(笑)。お祭り的というか、得体の知れないモノを面白くやっていけたらいいな~というのがありますね。

G:
サイトに掲載していた後日談小説より書き下ろしの方が明らかに多いですからね。

秋田:
この企画、正直よく意味が分からないですよね(笑)。絶対に採算とれていないだろ、みたいな。でも、こういう遊びを人に迷惑かけずにやって行けたら楽しいかな、という感じですね。

イラストも描き下ろし。短髪のクリーオウや青く輝く魔王の目のオーフェンが描かれています


G:
サイトの投票による書き下ろしはプレオーフェンに決まっていますが、候補に挙がっていた「教師になる以前のチャイルドマンのお話」や「魔王オーフェン対キース」などの構想はありますか。

秋田:
構想というか、ネタとして出てくれば思いつくこともあるとは思うんですが。最終的には3つの候補の何かがどこかしら入ったような内容にできあがっていると思います。

G:
ネットで掲載した「キエサルヒマの終端」のほかに、長編の書き下ろしで「約束の地で」というのがありますが、どんな話か軽く教えてもらってもいいですか。

秋田:
え、内緒じゃだめですか(笑)。タイトルの通りなんですけど、置いてきた故郷との関係の話というか、新しい場所での話ですね。

G:
プレオーフェンはどんな感じになっていますか。サイトではチャイルドマン教室が勢揃いするとは書いていますけど。

秋田:
もう全員出すのに一生懸命でしたね。今まで本編中で顔を合わせていないメンツがいると思うんですけど、そういう奴らがどんな感じで牙の塔にいたのかというような話ですかね。ちゃんとひとつのシーンで全員揃えました。

G:
今後、オーフェンシリーズとして何か続けたいとか、あるいは続ける企画とかありますか。

秋田:
いやあ、「続けたい」という気持ちはないですね(笑)。今回の企画をやっていて面白い部分はあったので、何か思いつけばやるかもしれませんが、予定としては特にないです。

G:
今回のBOXで反響が大きければまた続きを出す、というわけでもないと。

秋田:
企画には必ずサプライズがあると思うんですけど、驚かすだけじゃ意味がないので。サプライズは割と簡単に仕掛けられるんですけど、それに対する説得力というのが大事だと思うんです。その説得力が見つかれば、やることがあるかもしれないですね。

「エンジェル・ハウリング」の後日談書き下ろし - 「僕も編集者も忘れていた短編が」


G:
エンジェル・ハウリングの後日談も書き下ろしとなっていますが、こちらはどんな感じの内容ですかね。

秋田:
主人公たちに一段落付いて、気持ちが落ち着いて、じゃあ「これからどうやって生きていくのか」という話になっています。

G:
今回の企画はもともとオーフェンの後日談がサイトに掲載されたことがきっかけとなっていますが、エンジェル・ハウリングの後日談については読者から何か要望があったんですか。

秋田:
エンジェル・ハウリングは一度書いたあと僕も編集者も忘れていた短編があったので、それを今回は収録しようという話になったんです。で、折角だからこっちも後日談を入れるか、ということで書いてみたら予想以上に長くなってしまったんですよ。

文庫未収録の短編集について - 「じゃあ無理矢理書いてやる」
G:
シリーズの後日談以外にも「リングのカタマリ」や「パノのもっとみに冒険」といった文庫としては出ていない短編集も今回収録されていますが、これは何か手直しをしていますか。

秋田:
角川mini文庫収録の話とか、すごく昔に書いたモノも今回は収録されるんですが、ここで手直ししたら本末転倒だと自分に言い聞かせて、なるべく元のまま収録するようにしました。以前に発表されたときに比べて大きく変わっていたりはしないはずです。

雑誌掲載分に加えて書き下ろしも追加される「パノのもっとみに冒険」


G:
短編としては富士見ファンタジア文庫で「愛と哀しみのエスパーマン」とかもありましたが。

秋田:
僕のマイブームとして、雑誌にだけ掲載してあとは文庫にまとめないという原稿を書きたくて仕方ない時があったんです。「愛と哀しみのエスパーマン」も4話ぐらい書けばいいかなと思っていたんですが、「それじゃ困る」と言われて6話にして文庫になりました。ちょうど同じ頃、書いたら書きっぱなしで、ここで書いたことも一切触れないというスタンスでザ・スニーカーに書いたものが「リングのカタマリ」です。

G:
ああ、なぜ突然プロレスの話なんだろうという作品の。

秋田:
僕がすごく面白いものを作っていると思う人は、みんなプロレスが好きなんですよ。理由は分かりません。でも、僕はあんまりプロレスを知らないんで、すごく劣等感があったんですよ。「じゃあ無理矢理書いてやる」ということで出来上がりました。

G:
最後にファンの人たちに一言お願いします。

秋田:
人にはよく「あまのじゃく」と言われるんですけど、何か変なこととちゃんとしたことの両方をやりたいという思いが背中をせっつくようにいつも存在しているんです。読者の方にはそれにお付き合い頂いていて、変なやつだなーと感じることが多いと思います。でも変なことには変なことなりのちゃんとした理由というのを持って、真面目にやっていきたいとは思っているので、寛容に見守っていただけるとありがたいな~と思います。

G:
本日はお忙しいところありがとうございました。

秋田禎信BOX」は予約限定生産で、締め切りは10月30日まで。発売は2009年12月22日で価格は7350円となっています。

©2009 Yoshinobu Akita

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in インタビュー, Posted by darkhorse_log

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