「動物と人間のコミュニケーション」を実現するためにAIを使うことで動物を搾取したり傷つけたりする危険があるとの指摘

AIは人間には処理しきれない大量のデータを分析するのが得意なため、さまざまな科学研究に役立てられています。近年ではAIを使って録音された動物の鳴き声を処理し、動物とのコミュニケーションを実現しようとする試みが進んでいますが、この研究分野にAIを持ち込むことが倫理的懸念を引き起こしていると、海外メディアのBloombergが報じています。
AI’s Next Ethical Dilemma: Should Humans Talk to Animals? - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-09-04/ai-s-next-ethical-dilemma-should-humans-talk-to-animals
生物学者のヴィットーリオ・バジリオーネ氏は約30年間にわたり、ユーラシア大陸や日本に分布するハシボソガラスの研究を行ってきました。ハシボソガラスは非常に知能が高い鳥の一種として知られており、バジリオーネ氏は2018年に43羽のハシボソガラスに小型マイクを取り付け、どのような鳴き声でコミュニケーションを取っているのかを調べようと試みたそうです。
ところが、回収した音声サンプルには小型マイクを取り付けた個体だけでなく、エサをねだるヒナの鳴き声や別の鳥の鳴き声なども含まれており、人力で膨大なデータセットを分析するのは非常に困難だったとのこと。そこでバジリオーネ氏らの研究チームは、AIを使った音声データの分析を開始しました。
AIは膨大なデータセットの中からマイクを取り付けた個体の鳴き声を識別したほか、仲間のカラスの鳴き声やまったく関係のない音などを区別することができました。分析した音声の中には、巣が野生動物に襲われた時に出す破裂音のような鳴き声が含まれていたとのこと。この音がした後には必ず別のカラスがやってきて巣を守ったことから、バジリオーネ氏らはこの鳴き声を「おい!助けてくれ!」というような意味だと解釈しています。今日では、バジリオーネ氏らは15万件もの音声データを収録した膨大なカタログを所有しており、これは現存する鳥類データセットの中で最大だとのこと。

人類は数千年にわたって動物とのコミュニケーションを試みており、イスラエルではハヤブサとの意思疎通に使われたとみられる1万2000年前の骨製の笛が見つかっています。現代では、動物に取り付けられる小型の録音技術とAIの発展により、これまでは不可能だった方法で動物とのコミュニケーションが進展する可能性があると研究者らは考えています。
投資会社の経営者であり、動物とのコミュニケーション分野に多額の出資を行っているジェレミー・コラー氏は2026年6月の講演で、AIによって2030年までに動物と人間の双方向コミュニケーションが実現するだろうと主張しました。
科学者らは、動物と人間のコミュニケーションが実現することで動物の内的世界への理解が深まり、気候変動を軽視したり生息地の破壊に加担したりする可能性が低くなるのではないかと期待しています。しかし、人間のテクノロジーの進歩が、必ずしも動物にとってメリットをもたらすとは限りません。
たとえば20世紀の捕鯨業者は、進歩したソナーを使ってクジラをパニックに陥らせ、水面に浮上してきたところを捕まえるという漁法を採用していたとのこと。また、密猟者がターゲットとなる鳥の鳴き声を録音し、ループ再生しながらおびき寄せてわなに誘い込むという行為も確認されているそうです。バジリオーネ氏も、自分の研究が猟師によって悪用される可能性があることを認識しています。
ニューヨーク大学の研究者であるセザール・ロドリゲス=ガラヴィト教授らのチームは2025年の(PDFファイル)報告書で、動物と人間のコミュニケーション技術の登場によって動物と話したがる人間が殺到したり、動物を機雷探知などの軍事目的で利用したり、さらに動物を捕獲するために技術が悪用されたりする可能性があると指摘。また、AIで分析するためのデータを収集するため、大量の動物に追跡装置を取り付けること自体にも懸念の声が寄せられています。

また、AIで分析して動物の鳴き声の意味を理解したりコミュニケーションの手がかりを得たりした場合、科学者らはそれを検証しなくてはなりません。その方法として、一般的には録音した動物の鳴き声を別の動物に聞かせ、予想した通りの反応がみられるかどうかを調べる「playback(プレイバック)」という手法が用いられています。
しかし、このプレイバック実験は動物に対してさまざまな影響を与える懸念があります。バジリオーネ氏は、「プレイバックは動物にストレスを与えたり、社会環境を乱したり、動物同士の対立を引き起こしたりする可能性があります。特に、鳴き声の意味をきちんと理解していない場合はなおさらです」と述べました。実際、すでに亡くなったゾウの鳴き声をその孫に当たる個体に聞かせたところ、その個体が動揺した様子を見せた事例も報告されているとのこと。
ロドリゲス=ガラヴィト氏は「私はプレイバックについて懸念しています」と述べ、プレイバックを支持する研究者らは、それが動物に苦痛を与えないことを十分に立証していないと指摘。現行のガイドラインはAIが存在しない時代に作られたものであり、AIによってプレイバック実験が急増する可能性が予見されていなかったとしています。
2026年6月には、コラー氏が資金提供するColler Doolittle Challengeという賞金10万ドル(約1600万円)の科学賞の選考会が行われ、最終選考に残った人々が研究成果を発表しました。Coller Doolittle Challengeは動物との双方向コミュニケーションを目指す研究に与えられる賞であり、発表された研究には「野生のネズミに人間には聞こえない音を聞かせる」「草むらに隠したスピーカーからチンパンジーの声を流してチンパンジーを驚かせる」といった実験が含まれていたそうです。
Coller Doolittle Challengeの議長を務めるテルアビブ大学のヨッシ・ヨベル教授は、プレイバックに関する倫理的懸念についても把握しているとのこと。しかし、賞が始まってから2年間が経過しても、倫理的に問題のある研究手法を用いた応募はまだないそうで、「害よりも利益の方が大きいということを、私たちは考えるべきです」と主張しました。

バジリオーネ氏は自分たちの研究が最終的にどのような方向に進むのか、そしてハシボソガラスたちにどのような影響が及ぶのか、正確なところは理解していないとのこと。それでも、「人々がこの知識を動物に対して悪用し始めない限りは、どのような進歩も素晴らしいものです」と述べ、懸念はあるものの今後も研究を続けるとしています。
ニューヨーク市立大学大学院センターで動物の心について研究しているクリスティン・アンドリュース教授は、最終的に動物が何を考えているのかを知るには、最終的にプレイバックを通じた会話が必要になると指摘。そのため、プレイバック実験は人間との交流を意図的に楽しんでおり、自由に人間から離れることができるバンドウイルカなど、一部の動物に限定すべきだと提言しました。
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