2000年にAIと人類の未来を示していたSF作家のテッド・チャンによる「テーブルからパンくずを拾う」

SF(サイエンス・フィクション)は架空の物語ですが、SNSの台頭を1977年にSF作家が予言していた例のように、未来の技術や環境の先見的な洞察になることもあります。映画「メッセージ」の原作として知られるSF短編「あなたの人生の物語」の作者であるテッド・チャン氏が、2000年にNature氏に寄稿した「テーブルからパンくずを拾う」と題した記事でAIと人類の未来を示しています。
Catching crumbs from the table | Nature
https://www.nature.com/articles/35014679

「Catching Crumbs from the Table(テーブルからパンくずを拾う)」はテッド・チャン氏による短編小説で、2000年6月1日にNatureで掲載されました。物語は「メタヒューマン」と呼ばれる高度な知性が科学研究を主導する世界を描いており、短編集の「あなたの人生の物語」に収録されている「人類科学(ヒューマン・サイエンス)の進化」という短編小説の元になっています。

「テーブルからパンくずを拾う」および「人類科学(ヒューマン・サイエンス)の進化」は、架空の世界を描くSF短編ですが、登場人物やセリフなどはなく、報告書のような形式で書かれています。
作中では、人間よりかなり優れた知能を持つメタヒューマンが、科学研究の結果をデジタルニューラルトランスファー(DNT)という技術を経由して公開しています。人間はメタヒューマンの論理展開も言語も理解できないため、メタヒューマンが改良してくれるDNTを通して翻訳された研究成果を二次的に理解し、その成果を利用しています。
生成AIの急速な発展により、AIが人間の仕事を奪うという声が高まったり、AIの思考能力について疑問を呈する意見が挙がったりしています。実際に、科学者が10年かけてたどり着いた研究結果にGoogleの科学者向けAIアシスタントがわずか2日で到達した例や、Google DeepMindのAIモデル「AlphaFold 3」が生命分子の構造と相互作用をきわめて正確に予測できるとして活躍するなど、科学研究の分野でもAIの重要性が高まっています。一方で、生成AIツールで画像や実験データを簡単に捏造できることから、論文の不正を見抜くのが困難になっているという問題も指摘されています。
生成AIツールで画像や実験データを簡単に捏造できるようになり科学研究が脅かされている - GIGAZINE

「テーブルからパンくずを拾う」は、AIが人類社会に与えている現代の状況を、2000年に予測していたといえます。作中の「メタヒューマン科学の多くの利点を否定する人はいないが、人間の研究者にとっての代償の1つは、研究者たちがおそらく二度と科学に独自の貢献をすることはないと悟ったことだ。中には完全にこの分野を去った者もいたが、残った者たちは独自の研究から解釈学、つまりメタヒューマンの科学的研究を解釈することへと関心を移した」とあります。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校のAIセンターでディレクターを務めるマルセル・サラテ教授は、「大規模言語モデル(LLM)の思想をトレースする」という論文を読んだ上で、「エンジニアリングが科学に変わり、その創造物がどのように機能するかを正確に理解しようとするという変化は、多くの人が認識しているよりも深刻です。エンジニアリングは伝統的に、物理世界、数学、論理に対する理解を応用して、予測可能なものを構築してきました。しかし現在、特にAIなどの分野では、非常に複雑なシステムを構築しているため、完全には理解できなくなっています。私たちは今、もともと自然を理解するために設計された科学的手法を使用して、私たち自身がエンジニアリングした創造物を理解する必要があります。これは驚くべきことです」とコメントしています。ソーシャルサイトのHacker Newsではサラテ教授のコメントに対し、「テッド・チャン氏が2000年に予見していたことがまさに起きている」と指摘しています。
作中では、人間の科学研究が無意味になった世界を描きつつも、「人間の文化は将来も存続する可能性があり、科学的伝統はその文化の重要な部分です。解釈学は科学的探究の正当な方法であり、独創的な研究と同様に人間の知識を増やします」と、その世界が悪いものとはしていません。
また、「メタヒューマン科学の成果に怯む必要はありません。メタヒューマンを可能にした技術はもともと人間によって発明されたもので、それを発明した人間は、今の私たちより賢かったわけではない」という文で作品は締められています。一見すると希望を感じさせる内容に感じますが、ChatGPTにこの文の解釈について聞いてみたところ、「人間はもう完全にメタヒューマンの知性に追いつけなくなり、彼らの思考を『DNT』でコピーしても理解できず、『crumbs(パンくず)』のように落ちてきた断片しか拾えない。その現実に対して、『でも最初に技術を生み出したのは俺たちだし!』と過去の栄光にすがるしかない」という、プライドだけは残っている希望にも見えるし悲しい自己満足にも見えるものであると回答しました。

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in ソフトウェア, Posted by log1e_dh
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