世界で初めて重力波を観測した「レーザー干渉計重力波観測所」の次なる挑戦とは?
by NASA
10億ドル(1080億円)以上もの費用をかけて、1000人以上の科学者らが実験に取り組んでいるアメリカの研究施設「レーザー干渉計重力波観測所(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory:LIGO)」がこれまで挙げてきた成果と今後の目標について、科学雑誌Scientific Americanがまとめています。
Gravitational Waves Discovered from Colliding Black Holes - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/gravitational-waves-discovered-from-colliding-black-holes1/
物理学者アルベルト・アインシュタインは1916年に著した一般相対性理論に関する論文の中で、「時空のゆがみが波動として光速で伝播する現象」である重力波の存在を予言しました。
それから半世紀が過ぎた1960年代に入り、多くの科学者らがアインシュタインの予言を確かめるべく重力波の観測を試みてきましたが、いずれもめぼしい成果を挙げることはできませんでした。本格的に重力波の観測が始まってからさらに50年、アインシュタインがその存在を予言してから実に100年が経過した2016年2月に、重力波はようやく直接観測され、その存在が確かめられることとなりました。この時、重力波の観測に成功したのがアメリカの観測施設「LIGO」です。
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2016年に初めて重力波を観測して以来、LIGOは3度の観測プロジェクトにより合計23回の重力波観測に成功しています。そのうち20件は最初の1回と同じブラックホール同士の衝突、2回は中性子星同士の衝突です。そして、直近の2019年8月の観測では、世界で最初の「ブラックホールと中性子星の衝突」により発生した可能性が非常に高いとみられる重力波を検知しました。
こうした成果により、2016年には世界中の物理学者を沸かせたブラックホールの衝突は、近年ではすっかり「退屈なイベント」になったとのこと。シカゴ大学の宇宙物理学者であるダニエル・ホルツ教授は「ブラックホールの衝突に関する研究はいまや、統計的に処理される事象になりました。とはいえ、次はどんな風に重力波が伝わるか、衝突の規模は過去の観測記録に比べてどれだけ大きいか、あるいは小さいか確認するのは十分魅力的な調査です」と話しました。
一方で、まだまだ新しい発見もたくさんあります。2019年8月28日の6時34分(世界協定時)に、LIGOはブラックホール同士の衝突により発生した重力波を観測しましたが、その21分後にまったく同じ重力波をもう一度検出しました。
It's been a bumper #GravitationalWaves day already, with *two* candidate events recorded in close succession this morning - both observed by all three detectors in our global network: @LIGOLA @LIGOWA and @ego_virgo. #O3ishere https://t.co/L29IhhyBBk pic.twitter.com/LSGR7XTnEW
— LIGO (@LIGO) August 28, 2019
重力波の波長が偶然に一致することはほとんどありません。そのため、この発表を見たマギル大学の天文学者であるロバート・ラトリッジ氏は「え、待って。何? こんなの見たことない……」と思わず漏らしてしまったとツイート。
Non-scientists -- this is a genuine "Uh, wait, what? We've never seen that before......." moment in gravitational wave astronomy. If you'd like to see how double-checks and confirmations and conclusions occur - pay attention, in real time. Happening now.
— Robert Rutledge (@rerutled) August 28, 2019
その後の調査により、この2件の観測記録は同じ天体の衝突により発生した重力波が、異なる方向に発せられたものである可能性が高いことが判明。別々の方向に放出されたものが、同じ場所で観測されたということは、重力波がどこかで曲がったことになります。そのため、天文学者らは「重力で光が曲げられる重力レンズのように、重力波も重力で曲げられたのではないか」と推測しているとのことです。
LIGOがこれまで重力波を通じて観測してきたブラックホールや中性子星は、いずれも巨大な星が一生を終える際に形成される天体だとされています。そして、LIGOが次なる観測に挑戦しているのが、新たな星の誕生をうながす超新星爆発です。しかし、超新星爆発により発生する重力波は微弱なので、太陽系がある天の川銀河内で発生した超新星爆発でなければ観測できないといわれています。
ホルツ氏は「天の川銀河で超新星爆発が発生するのはだいたい1世紀に1度の割合なので、LIGOが本格的に稼働を始めてから今までの4年間では一度も観測されていませんし、今後も待たなければならないでしょう。ですが、いつかは必ず起きます」と話し、100年に1度のビッグイベントを心待ちにしている様子をのぞかせました。
LIGOは今後、アメリカ国立科学財団などの出資により、大幅に精度を向上させたAdvanced LIGO Plus(ALIGO+)へのアップグレードを予定しており、施設の改修が終わる2023年ごろには「1時間に1回のペースで重力波の検知が可能になる」とのことです。
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