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業界トップの技術力を誇るヤバいエンジニアたちからデータ復旧の裏側を探ってきた


データ復旧といえば「スマートフォンのデータ復旧は不可能」や「SSDのデータ復旧は困難」といった話をたびたび耳にしますが、業者によっては「不可能」「困難」とされているメディアのデータ復旧サービスを提供しています。そこで、95.2%という国内屈指のデータ復旧率と、11年連続データ復旧サービスにおける国内売上シェアナンバーワンを誇るデータ復旧サービス・デジタルデータリカバリーを提供するデジタルデータソリューションで、「スマホは本当にデータ復旧可能なのか?」などデータ復旧の裏側を徹底的に調べ尽くすべく、現場で働くエンジニアの方々に直接話を伺ってきました。

デジタルデータソリューション株式会社-DDS Inc|デジタルデータソリューション株式会社
https://www.digitaldata-solution.co.jp/


というわけで、さっそくデジタルデータソリューションの本社へやってきました。


今回インタビューに答えてくれたのは、デジタルデータリカバリーのエンジニアグループで働く、左からロジカルチーム長の柳田悟さん、フィジカルチーム長の薄井雅信さん、メモリチームエンジニアの万紅宇さん、メモリチームエンジニアの北野交孝さんの4人。加えて、司会進行役にマーケティンググループの嘉藤哲平さんも参加しています。


マーケティンググループ 嘉藤哲平さん(以下、嘉藤):
デジタルデータリカバリーではエンジニアが4つの専門チームに分かれて復旧作業を行っているので、各部門のスペシャリストを集めました。 実際に復旧作業を行っているエンジニアの生の声を聞いて、データ復旧の裏側を知っていただければと思います。というわけで、まずはフィジカルチームからいきましょうか。フィジカルチームはHDDの物理的な障害からのデータ復旧を担当しています。HDDのプラッタ部分における最重度障害「スクラッチ症状からの復旧」や豪雨・火災などの「災害で被災した機器の復旧」などが事例として挙げられますね。例えば、2018年に西日本を中心に発生した平成30年7月豪雨の際には、水没したNASのデータ復旧依頼がありました。水没してから機器の引き上げまでに一週間以上の時間が経っており、HDDも泥まみれで通電できない状態だったので、お客様からすると「これはもう復旧できないだろう」というような状態だったのですが、弊社ではデータ復旧に成功しています。


フィジカルチーム長の薄井雅信さん(以下、薄井):
この事例についてはよく覚えています。

GIGAZINE(以下、G):
まさにご自身で復旧を担当されたということでしょうか?

薄井:
そうですね。自分以外にも何人かがいろいろ試したものの、何をやっても駄目という状態でした。HDDのプラッタ上にも泥が載っている状態だったので、泥を洗浄してはデータの読み取りが可能かチェックして、という作業を何度も何度も繰り返して、最終的になんとか復旧に成功したという案件です。

G:
泥を洗浄というのは、ただ単に水をかけて洗うという意味ではないですよね?

薄井:
そうではないですね。泥の洗浄には特殊な技術が用いられていて、これについては完全に独自開発の部分なので詳細には話せないのですが、イメージとしてはプラッタに載っている泥を溶かすのではなく落とすといった感じです。メモリチームの方でもやっている超音波洗浄などに近いかと思います。


G:
汚れを浮かして取る、みたいなイメージでしょうか。

薄井:
そうですね。それでも落ちない汚れなどもあります。そのような場合はプラッタ上の泥を手作業で落とします。

G:
復旧までに何度も繰り返し行ったとのことですが、最終的にどの程度の期間がかかったのでしょうか?

薄井:
1~2週間くらいかかりましたね。8割くらいは2日以内に復旧完了するんですけど、この案件はけっこう時間がかかりました。

G:
過去にもHDDが泥まみれになって、といったような案件はあったのでしょうか?

薄井:
たまにありますね。一般的な案件はHDDを落としてしまって……とかです。

G:
結局プラッタの泥を落としたものの場合は、HDDに保存されていたデータのすべてを復旧できるのでしょうか?

薄井:
100%とはいきませんが、かなりの割合のデータを復旧できています。


ロジカルチーム長の柳田悟さん(以下、柳田):
そもそもこういったプラッタなどに物理的な異常があるケースは、データのコピーを取れること自体が奇跡のようなものなんです。なので、もちろんデータを100%復旧できるにこしたことはないのですが、たとえ数十%だったとしても、復旧できた箇所によってはロジカルチームの作業でデータをほぼ完璧に救出できる場合なんかもあるので大変喜ばれます。他社様だと一切復旧できないようなものであっても、数十%でも100%でも可能な限りデータの復旧にチャレンジするというのが弊社の強みかなと思います。他社様の場合は結構「0か100か」みたいなケースが多いみたいなので。

薄井:
プラッタ障害というのは物理障害の中でも最重要な障害で、ここにちょっとでも傷が入っていたら「もう無理」という会社がほとんどなんです。

G:
水没したNASのHDDの場合はプラッタ上に泥が載っていたわけですが、傷はついていたんでしょうか?

薄井:
このケースの場合は、プラッタ上に泥が載ってデコボコになってしまいデータが読み出せないという状態でした。HDDというのは完全に真っ平らなプラッタ上をヘッドが動いているので。

G:
泥なんかついたら論外ですよね。

薄井:
目に見えるレベルの泥だったので、絶対にヘッドが浮いてしまって破損したり状態がさらに悪化したりするのが見えていました。それをどれだけ完璧に元の状態に戻してあげられるかというのが重要で。その他のフィジカルチームの作業としてはHDDのヘッドを交換するときにちゃんと互換性があるものかを確認するだったり、ファームウェアの修復技術があるかどうかだったり、コピーをちゃんと取れるかどうかだったりですね。あとはロジカルチームの方で頑張ってもらうしかなくなります。

G:
「頑張ってもらう」と、かなり簡単そうに言っておられますがロジカルチームの担う部分もかなり重要ですよね。

薄井:
技術力があるので任せているんですよ。(笑)

G:
薄井さんはなぜフィジカルチーム所属となったのでしょうか。

薄井:
最初に入社した際は入出庫エリアでロジスティクスチームとして働いていました。それが気がついたらこんなところにいました。

デジタルデータリカバリーには日々多くのデータ復旧依頼が舞い込んでおり、年間3万件もの案件が取り扱われるそうです。これからデータ復旧作業を行う機器を入荷し、データ復旧が済んだものを出荷する作業を担当するのが入出庫エリアで、ここでは機器から記憶媒体を取り外す作業も同時に行われます。エンジニアの皆さんは初めにこの入出庫エリアでロジスティクスチームを経験し、機器の構造を学ぶことから下積みしているそうです。


嘉藤:
薄井さんは部品交換などのデータ復旧における物理面についていろいろ話してくれたのですが、実はファームウェア(HDDの動作プログラム)やシステムの復旧においてもすごく優秀なエンジニアなんです。他社で部品交換したけど直らなかった……という案件も、ファームウェアをちょちょっと修復してしまったりするんです。昨年「沸騰ワード10」にてTV取材していただいた際には、データ復旧業界のブラックジャックとして取り上げられました。(笑)

G:
今回事例に挙げてくださった水没案件というのは多いものなのでしょうか?

薄井:
年に何件かはきます。特に台風のときとか。

G:
水没というと水に落ちた途端にもうアウトというイメージがあるのですが、今回の泥水のようなケースでも復旧可能というのはちょっと驚きです。例えば、雨漏りでHDDの上に水がジャバジャバかかってしまった場合、泥じゃないのでまだマシということになるのでしょうか?

薄井:
そうですね、まだマシです。雨水はあまり不純物が入っていないので。

G:
となると、水に何か入っていると駄目なのでしょうか?コーヒーなどをこぼした場合の方がヤバイと?

薄井:
ヤバイですね。

柳田:
たまに真っ黒焦げのHDDなんかも入ってきますね。

G:
何があったのでしょうか?

薄井:
火事で燃えて、さらに消防で水もかけるので。


G:
二重苦みたいな感じなんですね。うちの会社も火事になったことがありますし、京都アニメーションさんも被害に遭われましたね。京都アニメーションさんはちょうど「サーバーデータの回収に成功」と報道されていましたが、「熱にさらされる」のと「すすが上についてしまう」のと「水をかけられる」のではどの事例が一番ヤバイのでしょうか?

薄井:
熱ですね。磁性が変化してデータが飛んでしまうと、復旧のしようがなくなります。

G:
すすくらいならまだなんとかいけるという感じでしょうか?

薄井:
上に載っている、ふたにちょっと載っているくらいなら全く問題ありません。

G:
見た目はかなりヤバそうでもいける可能性もあるのでしょうか?熱でグニャっとなっていたら、もうそれは駄目なんでしょうか?

柳田:
内部のプラッタが完全に変形している場合は難しいですね。

G:
火がついて燃えているなど?

薄井:
プラッタの色が変わっているなどもですね。たまに入ってきます。このような特殊ケースでは、他社が対応しないことが多く、弊社が断ってしまってはお客様の行き場がなくなるケースもあるんです。だからこそ弊社ではどのような状態の案件でも全力で挑戦しています。

G:
京都アニメーションさんの場合はガゾリンをまかれているじゃないですか。水、泥ときて、ガソリンのような有機溶剤がかけられるとどうなんでしょうか?さすがにそういったケースは見たことがないものでしょうか?

嘉藤:
僕もエンジニア経験があるのですが、フィジカルチームで働いていた際に、HDDの中がオイリーになったものに遭遇したことがあります。

薄井:
あったね! 黒くてベタベタしたものが……。

G:
そういった油のようなものでまみれていてもデータの復旧作業は可能なのでしょうか?

薄井:
もちろん可能です。こういうケースは基本的にプラッタ上を元の状態に可能な限り戻してあげて、上手くヘッドが動作するよう調整していく感じです。

G:
お話を伺っている感じだと、物理面ではヘッドがどうこうよりも、プラッタが無事かどうかが最重要といった感じでしょうか。

薄井:
そこが重要です。プラッタは代えがきかないので。


G:
それで熱による変形が1番ヤバイんですね。デジタルデータリカバリーさんではスクラッチからの復旧にも取り組んでいるとのことですが、プラッタに傷がある場合はもうアウトということにはならないのでしょうか?先ほどまでのお話を踏まえると完全にアウトのように感じますが。

柳田:
プラッタ上のスクラッチ案件の場合、お客様が他のデータ復旧業者に問い合わせて、ある程度作業に取りかかってみるものの、データ復旧は不可能で返ってくるというケースが度々あります。最終的に弊社に依頼が来ることになるわけですが、他の業者が「プラッタに傷がついているので復旧できません」と言ったものであっても、うちでは復旧できてしまうというケースは多いです。

薄井:
もちろん損傷が激しくて難しいケースもあるのですが、いけるかどうか微妙なラインのものにはチャレンジさせていただきます。最初に対応したときはカチカチ鳴って駄目だったものでも、何度か試しているうちに認識してコピーを取ることに成功し、データ復旧に成功したという事例も多々あります。

G:
フィジカルチームということはプラッタ上のスクラッチを物理的に修復したという感じなのでしょうか?

薄井:
そうですね。

G:
傷がついたものを正常に読み取り可能になるように修理したとなると、パッと思いつくのは削るか盛るかのどちらかだと思うのですが、表面的になんとか読み込みできるようにするというイメージでしょうか?

薄井:
特殊な加工を施して読み込みできるようにするか、最悪ヘッドをどうにか動作するようにすればいいというイメージです。ヘッドが傷の上を通ると傷を検知して読み書き不可能となってしまい絶対に認識しなくなります。なので、ヘッドの読み書きが継続できるようにプラッタを読み込んでいくといった感じです。

G:
プラッタ上の傷をどうにかするというわけではなくて、既に傷のついているものから、なんとかうまくデータを読み取るというイメージなんですね。

薄井:
あと、HDDの場合は必ずファームウェアの修復をしなければいけません。ヘッド交換とファームウェア修復を何度も繰り返して、データが取れなくなったらもう一度ヘッド交換とファームウェア修復を行って……といった作業を7~10日間ほどやった覚えがあります。

G:
ファームウェアを修復してヘッドを交換してデータを読み込んで、出てこなくなったらまたこれを繰り返す。そんな作業を複数回繰り返すと。

柳田:
単に部品交換して直るものもあるんですよ。でも、ファームウェア修復ができない業者さんというのがやっぱり多くて、そこでつまずくところは多いように思います。なので、ファームウェアの修復が可能というのは弊社の大きな強みです。ファームウェア修復はHDDのデータ復旧においてとても重要な役割を担うので。

G:
なるほど。諦めずに根気よくチャレンジし続けることで、本当にデータは復旧できると。

柳田:
もちろん知識やノウハウがあること前提になりますがね。水没したNASのデータ復旧についてはお客様も本当に感動ものという感じだったらしく、直した薄井さんも感涙ものだったはずです。

薄井:
本当に若干涙が流れるくらいでした。ちょうど、僕以外の担当がお客様と電話しているところを横で聞いていて、お客様の喜びの声を聞いて「よしっ!」と。


G:
肩の荷が降りるというか、報われる感じですね。こんなことを聞くのは野暮かもしれませんが、別の業者へ持ち込んで「復旧不可」とされたものがデジタルデータリカバリーさんの元に回ってくるわけじゃないですか。極端な話、他の業者が競合他社によるデータ復旧を妨害するためにプラッタに傷をつけるようなケースはあるのでしょうか?

薄井:
こちらでは判別がつかないことではありますが、そのようなことはないとは思いたいですね。ただし、誤診断により間違った処置をされてしまい、その後に弊社に持ち込まれるというケースは結構ありますね。簡単に例えると、「患者は風邪なのに手術しちゃった」みたいなケースです。

G:
他社で記憶媒体の開封作業を行って、そこでプラッタに傷がついた、もしくは症状が悪化したといった感じでしょうか?

薄井:
他社様で「データ復旧不可」という結果が出たということは、必ず他社様である程度の作業が行われているんです。大抵はヘッド交換などです。しかし、HDDのデータ復旧では必ずファームウェアの修復を行わなければいけないのですが、おそらくそれを行っていない可能性があって、その状態でコピーを試して症状がさらに悪化してしまうというケースが多いのではと推測しています。

柳田:
ヘッド・プラッタ・ファームウェアが適合しないまま動いてしまって、プラッタ上に傷がついてしまうといった感じです。

G:
それでファームウェア修復が必要になってくるのですね。開け閉めするだけで傷がつくわけではないと。

薄井:
ただ、HDDによっては開けて閉めただけで認識しなくなるものもあります。

G:
それは何が原因なのでしょうか?

薄井:
中の環境が変わっているのではと考えています。

G:
中に何か封入されているだとかでしょうか?

薄井:
最近ではヘリウムガスが封入されたHDDなんかもありますね。基本的にHDDは密閉状態にあるわけで、その状態が基本的な環境なので、一度開けると環境が変わってしまうんです。ヘッドの浮遊度合いなどが変わっているのじゃないかと。仮説は立てられるので、それを元にファームウェアの修復を行うといった感じです。

柳田:
なので、しっかりとしたクリーンルームで作業するというのも前提にあるんです。

G:
なるほど。それがデジタルデータリカバリーさんの社内にクリーンルームが完備されている話につながってくるのですね。HDD内部に余計なものが入らないようにと。

薄井さんの所属するフィジカルチームは、防塵・静電気防止服の着用が義務づけられた手術室同等の設備を備えたクリーンルームでHDDの解体作業などに取り組みます。


G:
フィジカルチームの事例について色々うかがえたので、次はロジカル(論理)チームの事例について質問させていただきます。

嘉藤:
基本的にフィジカルチームの作業が終わったらロジカルチームの作業に移行という形になるのですが、最初から物理的な復旧は必要としていな いというパターンもあります。そういった場合はロジカルチームでシステムなどの論理的な復旧対応になります。最近の復旧事例でいうと、HDD45本の大型RAIDの復旧がありますね。

G:
まず、「45本組のRAID」というのがまったくイメージが沸かないのですが、かなり大きいものなのでしょうか?

柳田:
大きい方ですね。もっと大きいものだと100本組などもあるにはありますが、数十本クラスのものはそんなに頻繁に見かけませんね。RAID案件の場合、普通のTeraStationなどがほとんどなので、基本的には2本組や4本組です。これに対して本案件の場合、異常発生前のRAID構成を正確に再現するために、サーバー3台・HDD各15本分の分析が必要となりました。

G:
15本組とはすごいですね。こういうものの場合、最初は何から手をつけるのでしょうか?

柳田:
まずは診断に関してですが、フィジカルチームの方に物理障害がないか見てもらいます。ただし、物理障害がないものに関しては、HDDをすべて分析しながら障害を調査していく形になります。もともとRAIDを組まれているようなものの場合、どうやって組まれているのかを16進数のバイナリ上のデータで見て判別していくって感じです。


G:
そこからなんですね。依頼者からヒアリングするだけではなくて、実際に中を見てしまうと。

柳田:
もちろんヒアリングもさせてもらい、それで省ける手順もあるので、できる限り情報があった方がありがたいのですが。ただ、「RAIDをどう組んだか?」を正しく知ってるお客様というのは、意外に少ないものなんです。

G:
「こんなRAIDらしいんだけど……」のような曖昧な感じで依頼に来るのでしょうか?

柳田:
RAIDレベルくらいは把握している人も多いのですが、例えばどのくらいの幅で区切っているだとか、ディスクが左から並んでいるのか、右からなのか、ランダムなのか、そういう情報まで把握している人は少ないです。極端なものだと、ディスクが1台と言っていたのに全然1台じゃなくて、複数台でRAIDを組んでいるだとかですね。

G:
普段はシステム上からアクセスしているだけなので、物理的な構成を正確に把握している人は少ないという感じですかね。確かにしげしげとサーバーなどを見に行くことはありませんからね。最初にそんな風にバイナリを見てRAIDの構成などを調べてみるようですが、論理的に見てここがおかしいだとか、原因はどのようにわかるのでしょうか?

柳田:
全部が全部ではないですが、論理的な情報と言いますか、例えばここにはこれが入っていなきゃいけないだとか、ここの値がこれではおかしいだとかを見ていきます。ピンポイントで重要な情報があったりするので、それをチェックしていく感じですね。

ロジカルチームの働くエリアには以下のように大量のモニターが設置されており、 これがHDDのデータが正常に読み込まれているかどうかを表しています。緑色で表示されている部分は正常に読み込みが行えている部分で、破損箇所は赤色で表示されることで、データ復旧の進捗が誰でも視覚的に確認できるようになっています。


G:
45本組構成のRAIDで障害が発生した理由は一体何だったのでしょうか?

柳田:
直接の原因はサーバーの筐体自体が壊れたというものでした。HDDを収納している箱の部分が壊れて、それが原因でディスクの内部情報が欠けて障害が発生して……といった感じです。

G:
筐体自体が傷んで書き込んでいるデータと読み込んでいるデータがずれてしまったイメージでしょうか?

柳田:
何らかの衝撃があって筐体が物理的に動かなくなってしまい、そのタイミングで情報も一部変わっちゃったのかもしれないです。

嘉藤:
バイナリをチェックしながら元のRAIDの構成を正確に再現したあとは、クローンを作成してできる限り安全にデータ復旧していくんですよね。

柳田:
RAIDを構成するHDDを1台ずつ抜いて挿してを繰り返して、データをコピーしていきます。45本組のRAIDの場合はコピーだけで8日ほどかかりました。1TBのHDD15本組のものと、2TBのHDDが15本組のものがありましたね。

G:
容量も違うんですね。

薄井:
ちなみにこのクローンの作成はフィジカルチームの担当です。なので、復旧においてフィジカルチームとロジカルチームは持ちつ持たれつな関係にあります。

G:
ちなみに過去最も容量が大きかったものはどのくらいになりますか?

柳田:
容量というか台数で言えば108台でしたね。

G:
煩悩の数みたいですね。やはり修復する側からすると、容量よりも台数の方が重要なのでしょうか?

柳田:
台数も台数で大変ですが、最終的にHDDからデータを吸い上げて別のメディアにデータを移行してそれをお渡しするため、容量が大きければ大きいほど必然的にデータの移行に時間がかかってしまい大変です。

嘉藤:
ちなみにこの45本組のRAIDの場合は出張診断をはじめとした復旧でしたよね。つまり、現地に行っての作業です。

柳田:
まさに昨日も出張診断に行ってきました。出張診断は大体お急ぎの依頼が多いので。45本組RAIDの案件は当日の朝くらいに依頼があって、その日の内に北海道へ向かい、その日の内に帰ってきました。


G:
すごいですね。最終的にデータは全て復旧できたんでしょうか?

柳田:
この案件はほぼ100%のデータを復旧できました。

G:
元に戻るものなんですね。

柳田:
某大学のサーバーだったのですが、研究データが蓄積されたもので重要なデータだったかと。

嘉藤:
RAIDのデータ復旧の場合、法人様からの依頼がほとんどで、急ぎのケースが多いです。データがないと仕事が止まっちゃいますからね。なので、いち早く出張に行って復旧という対応をとっています。

G:
うちもHDDがエラーを出してNASから外してくれというメッセージが出てきて、それがこの1年で同じ型番で4台連続で続いています。依頼を受ける際に「またこのHDDか!」だとか「またこのシステムか!」と思うことはありますか?

柳田:
結構ありますね。あまり詳細には言えないですが、単純なRAID、RAID 5RAID 6などではなく、RAIDを組み合わせているようなものです。例えば5本組でRAID 0を構築するとして、HDDが15台あれば3つのRAID 0が構築できるじゃないですか。その3つのRAID 0の一定領域でRAID 5を組むといったようなものです。そういったもののデータはすごく直しづらいです。


G:
そんなシステムを組む人がいるんですね。ということは、社内のRAIDでやばいシステムを組んだら、故障したときに大変なことになると。

柳田:
そうですね。複雑に組まれるとそれだけ分析にも時間がかかります。

G:
シンプルにRAID 1のみみたいなものの方が壊れたときは修理しやすいんですね。

柳田:
そうですね。全然直しやすいです。

G:
なぜそのような奇怪なシステムになるのでしょうか?

柳田:
こういったものは基本的に担当の人が設置したというよりは、特定のモデルというかメーカーがデフォルトで組んでいるものだと思うんですけど、なぜそうしているかは不明です。

G:
RAID 1やRAID 10などではなくて、メーカーが組んだ謎の独自RAIDがヤバイと。

柳田:
ヤバイです。

G:
そういった独自RAIDは「速度と容量が担保できる」などと評されているケースが多いですが、万が一のことを考えると普通の基本的なRAIDの方がオススメということでしょうか?

柳田:
そうですね。拡張したり縮小したり柔軟性があるにはあるのですが、実際に壊れた場合、特殊なものは普通のRAIDと違ってRAIDの書かれ始めがずれているケースがあります。幅も通常は一定ですが、独自RAIDは自由に変えられている場合があります。

G:
それでも持ち込まれた場合は何とか頑張るしかないと?

柳田:
相当大変ですが、何でも復旧対応しますよ。それがエンジニアとしての使命なので。


G:
続いて万さんと北野さんの所属するメモリチームについて聞かせていただきたいのですが、このメモリチームというのは?

メモリチームエンジニア 北野交孝さん(以下、北野):
メモリチームでは基本的にフラッシュメモリが搭載された機器を担当します。主にスマホやUSB・SSDなどですね。

嘉藤:
画面がバキバキに割れたスマートフォンなどをよく見ると思うのですが、そういったメモリ媒体からデータを復旧するのがメモリチームです。もちろん物理的な故障だけでなく、削除データなども復旧します。スマートフォンのデータ復旧については、「スマートフォン向けのデータ復旧をうたう企業は悪質業者である」という指摘もあり一部媒体で記事にもなっていました。そういった記事が出るくらいスマートフォンのデータ復旧は難しい案件というわけなのですが、他社様が投げ出してしまうような案件であっても、弊社のメモリチームは可能な限り対応します。


G:
スマートフォンのデータ復旧の場合、極端なことを言うとNANDメモリが残っていれば何とかなるといった感じでしょうか?

北野:
意外とそういうわけでもないんです。スマートフォンの場合、ソフトウェア面ではなくてハードウェア面でセキュリティというか、暗号化がかかっています。なので、メモリだけが生きていてもまったく意味がありません。もちろん機種にもよりますが。

G:
例えばiPhoneだとどうでしょうか?


北野:
iPhoneの場合は基板上でいくつか紐付けがされていて、一部のパーツが欠けていると、例えメモリを移植したとしてもデータを確認することはできません。決まったパーツが正常に動作している状態でないと、データ自体が抽出できないんです。

G:
NANDメモリだけが生きていてもしょうがないと。

北野:
そうですね。なので、複数の部品が生きていないといけないという条件があります。

G:
HDDとはまた違ってくるんですね。

北野:
そうですね。全く別物と言ってもいいくらいです。

G:
スマートフォンの場合は他社が「データ復旧不可能」と言っているケースが多いとのことですが、スマートフォンの復旧はかなり複雑ということでしょうか?

北野:
症状にもよりますが、物理症状のスマートフォンは複数のICチップ移植が必要になる場合があります。ICチップは単純にはんだで付けられているだけでなく、強力な接着剤が使われているケースが多いので、無理やり外そうとするとピンがはがれて正常に動作しなくなってしまうんですよ。外した後も別の基板へICチップを移植するために細かい作業工程があるため、作業難易度は高く、復旧にはとても時間がかかります。データの削除や初期化などでのデータ復旧もご依頼いただきますが、書き込まれているデータは複雑な暗号化がかけられており、メモリチップからの作業は現状困難です。そのため、特殊なソフトウェアを用いてアクセスできる領域からデータを抽出するんです。あまり詳細は言えませんが。


嘉藤:
スマートフォンのデータ復旧については技術面ももちろんなのですが、コスト的に難しいというのもあるのかもしれません。時間がかかるというのと、パーツを世界中から収集し、交換して修復する必要があるのでかなりコストがかかります。

G:
コストということは、単純に割に合わないと?

北野:
そうかもしれないですね。対応する業者も少ないので。

G:
iFixitはスマートフォンなどの電子機器をバラバラに分解しているじゃないですか。ああいう感じで1つずつ壊さないように分解していくのでしょうか?

北野:
そうですね。ただ、我々はデータ復旧をしているので、中にある基板を取り外す必要があるんです。修理ではないので、復旧に不必要な部品は 取り外しません。


G:
水没したスマートフォンでも復旧は可能なのでしょうか?

北野:
可能ですね。水没でよくあるのは、回路がショートしているケースで、軽度であればショートの原因を特定して、一部のパーツを一時的に交換するなどでデータを抽出することは可能となります。あまり元の状態から大きな変更を加えるというのは良くなくて、できる限り少ない交換でデータを抽出するというのが理想です。

G:
基本的に正常な基板と駄目になった基板を交換して、なんとかデータを抽出して復旧していくというイメージでしょうか?

北野:
そのようなイメージです。

G:
聞いただけでもかなり手間がかかりそうですね……。

嘉藤:
エンジニアの領域では海外からの技術導入などを積極的に行っているのですが、メモリチームの担当する部門は特にそこが重要になってきます。最先端の技術が必要なんです。

G:
基板をはがすというのは顕微鏡のようなものを見ながら行っていくのでしょうか?

北野:
常に顕微鏡をのぞいている感じです。ほとんどの作業は。


G:
同型モデルのパーツを移植していくというのは、基板的な意味でという話なんですね。

北野:
もちろん機種にもよるのですが、最近のモデルは単純にメモリを外したからデータを抽出できるというわけではありませんからね。

G:
スマートフォンは新モデルがどんどん出てくるじゃないですか。そのたびにデータ復旧は厳しくなっているのでしょうか?

北野:
そうですね。どんどん中身は複雑になってきていて、解体するところから手間がかかるようになってきています。


G:
例えばスマートフォンを落としてしまっても、中がどうなっているのかというのはわからないので、素人にはデータ復旧可能かどうかわからないですよね。逆に、表向きに見れば割と原型をとどめているように見えるのに、データ抽出が不可能というケースもあるのでしょうか?

北野:
外見だけでなくて、基板に関してもパッと見た段階では特に異常がないように見えるというケースがほとんどです。軽度の水没であっても目視で異常が確認できない場合が多いため、マルチメーターという機器を使って回路を計ってみて……という感じです。


G:
続いてデータ復旧の難易度が高いというSSDについてお聞きしたいのですが。

嘉藤:
そもそもフラッシュメモリを搭載しているSSDはHDDとデータの記録方式が異なり、データが分散した場所に保存されるという特徴があります。データを読み出す際にデータの保存されている位置を正確に把握するための解読が必要であり、その結果SSDの復旧は難しいものとなります。単純にフラッシュメモリからのデータ復旧は困難かつ高い技術が必要となるため、業者によってはデータ復旧を請け負わないところもあるくらいです。そのため、スマートフォンと同じように「SSDの復旧は難しい」という記事が一部メディアに掲載されているのですが、復旧の難しいSSDであっても弊社のメモリチームは海外からの技術導入を用いて復旧に対応しております。ノートPCにはSSDを搭載したものが増えており、SSDはスマートフォンと共通する部分があって大変なんですよね。また、PCによってはe-MMCというSDカードと同等サイズの小さなチップをストレージとして使用しているケースもあるんです。


G:
これらもスマートフォンと同じように、「筐体から取り出すと暗号化がかかってしまう」ということがあるのでしょうか?

メモリチームエンジニア 万紅宇さん(以下、万):
特にメモリチップと基板が一体型になっているタイプは、ハードウェアの暗号化がかかっています。メモリチップを外しても、データ領域にアクセスできません。

G:
メモリを外した段階で暗号化がかかる?

万:
そうです。もともとメモリが基板についている状態でも暗号化自体はかかっているのですが、ハードウェア上の認証でアクセスができます。外してしまうとこの認証ができなくなるので、データは入っているのに読み取る方法がなくなってしまうと。


G:
スマートフォンと同じくメモリだけを引っこ抜いても駄目というイメージですね。

万:
昔のノートPCは故障したらまずはHDDを取り出して、先ほど薄井と柳田が話したような手法で復旧できるケースがほとんどでした。しかし、今はどんどん状況が変化しています。一部の最新機種は、すべてこの手のハードウェア上での暗号化がかけられているため、データ復旧はますます難しくなっています。

G:
海外からの技術導入というお話がありましたが、海外の方が技術が進んでいるのでしょうか?

万:
海外では世界中から色々な情報が集められ、ツールも存在します。対して日本の方はあまり壊れた機器に興味がないようで、壊れたら新しいものを買って……となります。そのためデータの取り出しや修理技術は海外の方が先を行っていると思います。


G:
確かに海外の人は自分で解体したり試したりしたがりますよね。

万:
海外には電子機器関係のエンジニアも多くいて、彼らと常に情報を共有して研究開発しています。

G:
基板と一体型のSSDに遭遇した場合は、基板が壊れているとデータ復旧的にはアウトなのでしょうか?

万:
そうでもありません。壊れた箇所にもよりますが、基板修復で復旧できるケースも結構あります。

G:
e-MMCなんかも同じように、この部品だけ取り外しても無理と?

万:
最近のスマートフォンに搭載されているe-MMCはそういう感じです。取り外してもデータ領域にアクセスできません。

G:
基板の上にくっついていて、初めて復旧に取りかかれるわけですね。メモリと基板が一体型になっているPCでは新しいバージョンが複数登場していますが、そのたびに中身が大きく変わっているイメージでしょうか?

万:
はい。新しいものの場合、毎回基準が変わる感じですね。新しいものになるたびそのタイミングごとの流行が入るので、やはりまずは研究を行います。なので、最新モデルに関しては「これで直る」ということを断言することはできません。


G:
やはり最新のものになると難易度が上がっているのでしょうか?

万:
そうですね。メーカー独自のチップを搭載するパターンもあり、状況は日々変わっていますね。

G:
そういった部分が他の業者がSSDの修理を請け負わない理由になっているんですね。そこまでやろうと思ったら、かなりの技術力が求められそうです。ちなみに万さんと北野さんはどうしてこのような仕事に?

万:
趣味ですね。

北野:
私も実際に復旧作業をしてみたかったからです。ただ、最初からいきなり復旧作業をやらせてもらえるというわけではないので、薄井さんたちと同じようにまずはロジスティクスチームから始まって、アピールしてですね。


柳田:
北野さんはすごいですよ。エンジニア魂がすごい。

嘉藤:
営業からお客様の記憶媒体の症状などを聞いて、そこから大体いくらくらいと見積もりを出すのですが、「これ面白そうだから、復旧したいから、頑張って成約してほしい!」とか言うんです。

G:
面白そうな基準、興味深い事例というのはどういうものでしょうか?

北野:
そうですね……初期診断の際に「ここが調子悪いんじゃないか?」と色々分析をするのですが、症状や壊れ方によってこうすればいけそうだと予測を立てるんですよ。その予測を試したいんですよね、エンジニアとしての力量の測りどころというか。

G:
先ほども新しくなればなるほど難しくなるというお話がありましたが、今まで持ち込まれたことが無いけど「ついにこれが来たか!」というような案件はあるのでしょうか?

北野:
ありますね。実際にチャレンジしてみて、復旧の糸口が見えてきたり実際に復旧に成功したときは本当に楽しいものです。


G:
経験値の求められる仕事だと思うのですが、データ復旧エンジニアに向いているのはどういった人だと思いますか?

柳田:
PCが好きな人はハマると思います。自分でPCを作る人だとか。

薄井:
仕組みとかそっち系ですよね。興味と、仕組み、問題解決というところで。

G:
それで高い技術力が必要になるというお話になるんですね。不思議に思ったのが、高い技術力が必要という反面、技術力の無い業者もいるというのはどういうことなのでしょうか?デジタルデータリカバリーさんとの技術力の差というのはどうして生まれるのでしょうか?

北野:
設備や技術情報に関してかなりの額を投資しているからだと思います。技術への投資はいとわないですね。

G:
地力が効いているというイメージ?

北野:
そうですね。

嘉藤:
あとは案件数も大きいと思います。弊社はこれまでに18万件以上ご相談いただいているので。問題を知るには見てみないとわからないじゃないですか。過去に同様の事例があれば次はより正確に直すことができるので、いろいろな案件をエンジニアたちが経験しているというのは、明らかに弊社の強みだと思います。


G:
なるほど。

嘉藤:
あとは、他社様では症状や機器ごとにチームを設けてデータ復旧に取り組んでいるケースはあまり聞いたことがありません。なので、弊社は組織系統がしっかりしているという強みがあるのかもしれません。ちゃんと機器ごと・症状ごとの専門家が対応しますと。

G:
言われてみれば確かに聞きませんね。社内での情報共有なども行われているのでしょうか?

薄井:
情報共有はもちろんあります。ただ、それよりも各エンジニアが色々なチームを経験しているので、マルチなエンジニアが育ちやすいという点が他社との違いだと思います。配属前の研修ではエンジニアグループの全チームにおいて研修を行っているので。

柳田:
例えばロジカルチームだから物理関連のことを知らなくてもいいというわけではなくて、フィジカルチームだからこそ論理について知っていると、作業内容が変化します。

薄井:
先ほどのHDDのコピーに関する話になるのですが、論理の研修を自分も受けていたので、このファイルシステムだからこういうデータの抽出をするべき、といったことがわかるわけです。実際にコピーのスピードも速くなるので、所属チーム以外の領域についても知識を持つことは重要かなと思います。


G:
ちなみに聞きそびれていましたが、柳田さんはどういった経緯でロジカルチームに配属されることとなったのでしょうか?

柳田:
僕も初めはロジスティクスチームから下積みしてですね。

嘉藤:
僕が入社したときは柳田さんはロジカルチームの重鎮って感じだったので、入出庫エリアにいたことが驚きです。

G:
データ復旧というと完全にデジタルな世界をイメージしてしまうのですが、実際には全くもって全自動などではなくて、完全に職人の世界のようになっていますね。中で働く人たちがとても重要なので、海外からの技術導入などで日々研鑽を積むと。

嘉藤:
そうですね。市販の復旧ソフトや表面上のシステムだけでは本当に簡単なものしか復旧できないので、エンジニア自身が日々コツコツと努力を積んで技術を磨いています。

G:
まさにそういうことなんですね。今日はありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー,   ソフトウェア,   ハードウェア,   広告, Posted by logu_ii

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