EU一般データ保護規則(GDPR)は「広告」健全化につながる希望か
by Joe Yates
トラッキングに基づいた広告は2000年代後半以降、急速に成長を遂げましたが、2018年5月25日に発効する「EU一般データ保護規則(GDPR)」によって個人データの収集・保持にユーザーの同意が必要となるため、バブルがはじけるのではないかと専門家が予測しています。これにより、ユーザーに嫌われ「広告ブロック」されてきたような広告は減り、元来の意味での「広告」が中心に戻ってくるかもしれません。
Doc Searls Weblog ・ GDPR will pop the adtech bubble
http://blogs.harvard.edu/doc/2018/05/12/gdpr/
アドテクバブル崩壊を予測したのは元Linux Journal編集者であり、2008年からトラッキングに基づいた広告とプライバシーに関する記事を多数執筆しているジャーナリストのドク・サールズ氏。
サールズ氏は「広告」と「トラッキングに基づいた広告(アドテク)」をはっきりと分けて考えるべきだと主張しています。
そもそも「広告」とはその字からもわかるように、元来は「広く知らせること」を意味する言葉です。特定個人向けである必要はなく、むしろ、個人向けに限定されず多くの人に届くことが肝要です。消費者側の立場に立ってみたときに「なぜここに広告があるのか」「誰が広告を出しているのか」「なぜ広告を出しているのか」と考える必要はないものであるはずです。
広告の効果にはブランドを作る(ブランディング)というものもあります。これはもともとは「牛」の業界界隈で始まり、1930年代、P&Gによって広められたそうです。しかし、「広く知らせる」にしてもブランディングにしても、本来はユーザーに害をなすようなものではないはずです。
そこで出てくるのが「アドテク」です。アドテクは「とにかく目を引くこと」を目的としていて、ブランドに負の影響しか与えないため、「すべてのメディアのブランド価値を蝕むために作られた」とサールズ氏は厳しく指摘しています。
アドテクは特定個人への指向が強いところも広告と大きく異なっています。サールズ氏は、アドテクが「インタレスト・ベース」や「関連」などという聞こえのいい言葉を使いつつ、とにかく人々をトラッキングしようとしていると指摘しています。「目を引く」ために、ビジネスモデルにはフェイクニュースも含まれているとのこと。これは、実際のニュースよりも目を引く内容を容易に作り出せるからです。
こうした事実から、サールズ氏は「アドテクはまるで『広告』のように見え、『広告』と呼ばれてもいるが、実際のところは迷惑メールやスパムと同類の『ダイレクト・マーケティング』である」と記しています。世界で17億もの人が何らかの形で広告ブロック機能を利用しているのは、「広告」が悪いのではなく「アドテク」の影響によるものである、とサールズ氏は主張。
ジョニー・ライアン博士の研究によると「もしあなたがウェブサイトの訪問者だとして、トラッキングの設定はどうしますか?」という設問に対しての回答は、サイト運営者やアドテク関係者など広告に携わっている人間ですら、「すべてのトラッキングを受け入れる」だったのは5%で、「ファースト・パーティーのトラッキングだけ受け入れる」が20%、「私のリクエストしたサービスに必須のもの以外は拒否する」が56%、「すべてのトラッキングを拒否する」が19%でした。
2018年5月25日にEU一般データ保護規則(GDPR)が発効すると、個人データの収集・保存にユーザーの同意が必要となるため、こうした状況は大きく変化するはず。実際にどのように変わるのかはその時を迎えてみないとわかりませんが、少しは変化を期待したいところです。
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