遺伝子編集技術により遺伝性疾患の治療が安全に実施できることを示す研究結果をアメリカ国立衛生研究所が発表
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「遺伝子を自在に設計して生物の特性を変えられる」というまさに神の領域に踏み入れた感のある技術「ゲノム編集」では、遺伝子を操作して理想的な作物・生物を作り出したり、病気を治療したりすることが期待されています。一方で、ヒトの遺伝子を改良することについては議論が巻き起こっているのですが、アメリカ国立衛生研究所の取締役であるフランシス・コリンズ博士が自身のブログで、DNA編集技術を使った安全な遺伝子治療の見込みを示す研究結果を報告しています。
Find and Replace: DNA Editing Tool Shows Gene Therapy Promise | NIH Director's Blog
https://directorsblog.nih.gov/2017/01/24/find-and-replace-dna-editing-tool-shows-gene-therapy-promise/
遺伝子治療研究の分野では、遺伝子的欠陥のある人に正常な遺伝子のコピーを安全に挿入するための方法が模索されています。近年ではこのような遺伝子を編集する技術が進歩を続けており、従来の遺伝子組み換え技術とは桁違いの速度で遺伝子操作を可能にする、「ゲノム編集」として知られるようになっています。そもそもの遺伝子、DNA、ゲノムの違いや、「ゲノム編集」とはどういう技術なのかについては、以下の記事を読むとよくわかります。
遺伝子を自在に設計して生物の特性を変えられる神の領域の技術「ゲノム編集」とは? - GIGAZINE
アメリカ国立衛生研究所取締役のフランシス・コリンズ博士のブログでは、「慢性肉芽腫症」という免疫不全症に対する遺伝子治療の研究が報告されています。慢性肉芽腫症は「造血幹細胞」の突然変異によって引き起こされるのですが、アメリカ国立衛生研究所の研究チームは、特定の遺伝子に切り込みを入れて別の遺伝子を組み込む最新のゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を使って、造血幹細胞の突然変異を修正でき、潜在的に別の疾患を起こすことのない治療法を発見したとのこと。
研究チームが編集済みのヒト細胞をハツカネズミに移植する実験を実施したところ、骨髄に定着して完全に機能する白血球を生産したことが確認されています。遺伝子編集によって修正されたハツカネズミの細胞を持つ骨髄は、5カ月間にわたって正常な血流を流すことに成功。これにより、従来の慢性肉芽腫症の治療法である「造血幹細胞移植」よりもリスクや制限のない、新しい治療法がいつの日か確立できることを示しています。
なお、アメリカ国立衛生研究所は、2016年6月に編集技術「CRISPR/Cas9」を用いた人間に対する臨床試験申請の承認を受けています。
人間の遺伝子操作を行うゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を用いた臨床試験申請が承認される - GIGAZINE
今回はマウスを使った実験結果であるものの、人間に対する安全な遺伝子治療法は実用化されつつあります。アメリカ国立衛生研究所のコリンズ博士は、「今回のニュースは、慢性肉芽腫症に限らず、さまざまな遺伝性疾患を治療できることを示す有望な兆しです」と話しています。なお、「ヒトの遺伝子にどこまで手を加えるべきなのか?」という議論については、以下の記事で解説されています。
遺伝子編集技術「CRISPR」とは何かがわかるムービー、そして人類の未来はどうなるのか? - GIGAZINE
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