人は夢を見ることで現実のリハーサルをしている

by David, Bergin, Emmett and Elliott

奇妙な夢を見ると「いったい今の夢は何を暗示していたのだろう？」と考えてしまう人も多いはず。人が見る夢の内容について「全く意味はない」と説明する科学者もいますが、ある学者によると、人は夢によって現実世界の練習を行っているのだそうです。

Your Terrifying Dreams Could Be Rehearsal for Real Life - Facts So Romantic - Nautilus
http://nautil.us/blog/your-terrifying-dreams-could-be-rehearsal-for-real-life

ハーバード大学の精神科医Allan Hobson氏によると、脳幹から発された信号は前頭葉の中にバラバラに散らばっており、夢の役目は、それら信号のピースを1つにまとめるところにあります。そのため、たとえ夢の中で奇妙なものが登場したとしても、それは何かの隠喩や暗示ではなく、特に意味はないとのこと。

しかし、「夢に意味はない」と主張する科学者がいるなか、スウェーデンにあるSkövde大学の認識神経科学者であるAtti Revonsuo教授は「夢は『逃げる』『戦う』といった原始的なイベントに対するリアクションの練習である」と説明しています。

「ゴルファーがプレイ前に穴にボールを入れる想像をした時、想像をしなかった時に比べて30％も成功率が上がる」など、これまでの研究で、30以上のスポーツにおいて精神的な訓練が実際に行われる肉体的な訓練の役に立つことが判明しています。Revonsuo教授によると、「何かから逃げる夢」は恐怖を伴うものであっても逃げることに成功するための「ポジティブな想像」であり、上記に記載したスポーツの例と同様に、現実の訓練となっているそうです。

人は幸せな夢に比べて、人が怒り・恐れ・不安といったネガティブな感情を夢で経験しやすい傾向にあります。このとき、夢は原始的な感情のバイアスを受けやすいため、「クレジットカードを盗まれた」というような現代的な恐怖よりは「モンスターに追われる」といった内容が生まれやすくなります。夢の内容は人間に進化をもたらした要因の影響を受けているため、たとえ現代の世界ではモンスターに追われる可能性よりもクレジットカードを盗まれる可能性の方が高くとも、何千年も前の祖先を脅かしたコンテンツが今も夢の中に登場するわけです。

つまり、夢に関しては「脳におけるバラバラな信号をまとめる役割を持つ」というHobson教授の説と、「脳が入ってきた情報を元に現実に起こりうる『脅威』のリハーサルになるような物語を作りあげる」というRevonsuo教授の説の2つが存在するわけですが、この2つは相反するものではなく、どちらも正しいものと見られています。即興舞台の役者のように、脳がリアルタイムで受け取った情報・信号に対してランダムに返答していく過程で、夢が奇妙な内容に見えたりするわけです。

by ▓▒░ TORLEY ░▒▓

では、夢の内容は完全に無意味なのか？というと、ケープタウン大学のDan J. Stein教授は、「ケンカで殴られた人が、その日の夢でワニに襲われたとしても『ワニはケンカ相手だ』と科学的に証明するのは現代では不可能であるため、無意味かどうかについては正解があるというよりも、『正解を科学的に示すことが難しい』のだ」という見解を示しています。

一方で、タフツ医科大の研究者らは、2008年に、アメリカ同時多発テロ事件(9.11)が起こる直近に行われた夢に関する10個の調査と、9.11後に行われた調査を比較した結果、9.11後の調査に含まれた夢の内容には「モンスターや野生動物に追いかけられる」といった、「攻撃」に関するものが多かったと発表しています。この調査では、夢に出てくるコンテンツに特定の変化が見られなかったため、「夢は起きている時に経験したことがそのまま反映されるのではなく、人間の感情によって創造されるイメージである」と結論づけられています。

将来的には夢が創造されるプロセスも明らかになっていくかもしれませんが、現時点では、9.11のような記憶は断片化され、そこから抽出された「感情の記憶」といった重要な情報を夢の中に優先的に組み込むことで、夢は重要な記憶を強化する役目を果たすと見られています。そして断片化された記憶を再構築する過程で、記憶と記憶の間に新しいつながりが生みだされ、現実には起こっていない「物語」が完成するというわけです。

by Risto Kuulasmaa