通信傍受や暗号化の未来は「暗闇の中」と多くの識者が意見を一致させる
By EFF Photos
ハーバード大学ロースクールのバークマン・センターにある、インターネットセキュリティに関する調査・分析を行うBerklett Cybersecurityが、イギリスやアメリカでも大きな議論の的となっている「通信の暗号化および監視について」の公開討論を行い、その内容をレポートにまとめて公開しています。
Berkman Center Report | Don't Panic: Seeking Points of Agreement on the "Going Dark" Debate
https://cyber.law.harvard.edu/pubrelease/dont-panic/
2015年、ヒューレット・パッカードの共同創業者であるウィリアム・ヒューレットと妻によって設立された慈善団体「ウィリアム&フローラ・ヒューレット財団」のサポートを受け、ハーバード大学ロースクールのBerklett Cybersecurityは、学会や市民団体、情報団体などからセキュリティやポリシー関連の専門家たちを集めてインターネットにおけるセキュリティと監視に関する討論の場を設けました。Berklett Cybersecurityが公開討論の場を設けた目的は、インターネットにおけるセキュリティと監視における意見交換や議論を終結させるためだったそうです。
討論では、多くの識者が「エンドツーエンドの暗号化や、その他のユーザーデータをアクセス不能にするような技術的アーキテクチャが、不運にも企業により普遍的に採用されるようになってきている」と感じていることがわかりました。これは通信サービスの大多数がユーザーデータへのアクセスを主な収入源としたビジネスを展開しているからです。
Appleでも「iPhoneのロック解除は不可能」であることが明かされたように、暗号化技術の進歩・導入により、開発元の企業や政府の技術を持ってしても通信内容を傍受することができなくなっていますが、「正当な理由(サイバー犯罪者の監視など)があってもこれまでのように通信を傍受することができなくなってきているのは問題である」とBerklett Cybersecurityは指摘しています。
By Yuri Samoilov
また、ネットワークにつながれたセンサーやIoTなど今後の成長が見込まれる分野に対しては「通信監視を根本から変えてしまう可能性も秘めている」と警告しています。「通信監視を根本から変えてしまう」というのが意味するところは、「ネットワークにつながれたセンサーやIoTなどを駆使すれば、画像・ムービー・音声など撮影データをリアルタイムで傍受したり録画したりすることが可能になる」ということ。つまり、異なる複数の通信経路を使うと、暗号化された通信内容も他経路から傍受可能になるかもしれない、というわけです。
加えてレポートでは、「携帯電話などから得られる位置情報」や「メールのヘッダーに含まれた情報」などの暗号化されることのないメタデータも多くの情報を含んでいる、と指摘しています。
By Christiaan Colen
このように、専門家たちにとっても通信傍受や暗号化の未来は「暗闇の中」状態であり、今後「どうやって個々人のプラバシーやセキュリティを保護していくべきか?」という新しい問題も生まれているとのことです。
なお、公開討論の内容を簡潔にまとめたレポートは以下からチェックすることができます
Dont_Panic_Making_Progress_on_Going_Dark_Debate.pdf
(PDF)https://cyber.law.harvard.edu/pubrelease/dont-panic/Dont_Panic_Making_Progress_on_Going_Dark_Debate.pdf
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