シンガポールは1人あたりのGDPは大きいが時給や物価が相応とは限らない
自販機やコンビニにあるペットボトルのコカ・コーラが300円だとしても、最低賃金が時給1500円という土地なら普通なのかもしれません。では反対に、コーラは250円なのに時給が600円だったらどうでしょう。シンガポールの1人あたりのGDPは日本を越えているのですが、求人募集の張り紙に書かれた時給は微妙な額でした。
こんにちは、これまでに149カ国を旅してきた自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。一人あたりのGDPが高いノルウェーやスイスと比べると、シンガポールの低すぎる最低賃金と物価は釣り合ってないように見えました。多くの出稼ぎ労働者を抱えるアラブ首長国連邦やカタールといった中東の産油国が重なります。
◆目まぐるしい発展
1960年~1990年にかけて韓国、台湾、香港とともにアジア四小龍として著しい発展をみせたシンガポール。2007年に初めて訪れた時はそれほど気になる国でもなかったのですが、それから8年を経た今年の再訪で評価が一変。3棟の高層ビルの屋上にまたがる巨大プールを抱えたホテルのマリーナ・ベイ・サンズや、風の谷のナウシカの腐海を彷彿させる巨大な植物園ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ、世界を代表するテーマパークのユニバーサル・スタジオ・シンガポールと、次々と魅力的なアトラクションが増えていて、あまりの変化に目を丸くしていました。
マーライオンはシンガポールのマスコットキャラクター。
マーライオンの対面に堂々とそびえ立つのがマリーナ・ベイ・サンズという高級ホテルです。屋上にはシンガポールの街並みを一望できる巨大プールが設置されています。
きらびやかにライトアップされていた植物園のガーデンズ・バイ・ザ・ベイ。
◆一人あたりのGDP
そのシンガポールの一人あたりのGDPは、日本を越えています。世界銀行のデータから引用すると、2014年の時点で
シンガポール:5万6286USドル
日本:3万61944USドル
でした。
同様に、世界銀行の国別GDPのデータによると、シンガポール全体のGDPは2014年の時点で3078億7190万7186USドル。世界銀行の人口データによると、シンガポールの人口は546万9700人となっており、3078億7190万7186÷546万9700という割り算をすることで、1人あたりのGDPが「5万6286.79USドル」と導き出せます。
なぜ、このような計算をしたかというと、シンガポールでは出稼ぎの外国人の方が多く働いていて、彼らが人口の統計に入っているのか気になっていたのです。シンガポール統計局にある「(xlsファイル)Statistics Singapore - Population and Population Structure」を眺めてみると、2014年の総人口は546万9724人と世界銀行の統計とほぼ一緒。
シンガポールの国籍を持つ人:334万3030人
シンガポールの永住権を持つ人:52万7709人
シンガポールのビザを持つ外国人:159万8985人
という内訳になります。
シンガポール労働省の「Foreign workforce numbers」というページに、外国人労働者の内訳が乗っていました。いわゆる出稼ぎ労働者にあたるWork Permitのビザを人たちは2014年時点で99万1300人。彼らもシンガポールの人口に含まれています。
シンガポールの人口については、下記のサイトが分かりやすく説明しています。
Interactive Infographic on Population
http://population.sg/infographics/
◆最低賃金の低さ
シンガポールの一人あたりのGDPは日本を越えているにも関わらず、ファーストフードやコンビニの入口に貼られた求人募集の時給がパッとしません。1時間あたり6SGD(約525円)という提示もありました(SGD=シンガポールドル)。こういうものは外国人労働者が対象と思いきや、張り紙にシンガポール人オンリーという条件があったり。
シンガポールで見つけた求人募集はこのような感じでした。
ピザハットでは時給7SGD(約615円)、デリバリーで8.4~12.20SGD(約740円~1070円)。
KFCでは、レジ業務が6SGD(約525円)、厨房業務が6.5SGD(約570円)。
コンビニは時給7.55SGD(約665円)
レストランは時給6~9SGD(約525~約790円)
クリニックは時給7SGD(約615円)
ダイソーは平日が時給6SGD(約525円)、休日が時給9SGD(約790円)。ここは制服、交通費、食事、夜間勤務と各種手当が充実しているようです。④SHOP HELPER(Elderly workers)は、高齢者を対象とした求人のようで、平日は時給5SGD(約440円)、休日は時給7.5SGD(約660円)と書いてありました。
サイゼリヤでは、平日は時給7SGD(約615円)、休日は時給9SGD(約790円)でした。こちらはシンガポール人オンリーという条件。
大阪王将や味千ラーメンといった日本食レストランでは、時給7~10SGD(約525~約880円)でした。こちらもシンガポール人オンリーという条件。
シンガポールには賞与や医療費補助といった特典もあるようなので、日本の労働環境と一概には比較できません。ただ、そうはいっても外国人労働者が大半を占める建設労働者や家政婦は低賃金で働いています。
低賃金で働く外国人労働者については以下のような記事も。
シンガポールの富と影、出稼ぎ労働者の現状
http://jp.ibtimes.com/articles/364941
カーンさんは、家族のために稼ぎたかった。約33万円(4,200シンガポールドル)を労働斡旋会社に支払って、シンガポールで日給2,250円(27ドル)の建設作業をすることにした。しかし、シンガポールに来てみたら、実際の日給は1,160円(14ドル)だった。書類での契約を交わしていなかったので、カーンさんは応じるしかなかった。昨年9月、カーンさんは作業現場の屋根から落ちて腰を痛めた。そして解雇された。
【鼓動】外国人メイド介護の限界 シンガポールの高齢化(1/3ページ) - 産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/140607/wor1406070038-n1.html
政府統計によると、インドネシアやフィリピンなど外国人の家政婦は21万人に上る。月給が350~550シンガポールドル(約2万8千~4万4千円)という安さもあり、5世帯に1世帯が雇っている計算だ。
だからこそ、飲食や販売といった業種の低賃金には違和感を感じませんでした。
では、こういった低賃金のサービス業でシンガポール国籍の人が働くことへの疑問が湧いていきます。日本ならフリーターが貯蓄して世界一周の旅に出かけたりするのですが、同じことをシンガポール国籍の人ができるのか。学業優秀で一流企業に就職できたら何不自由ない国でしょうが、そうでなくどこかでつまづいて底辺から抜け出せなくなった場合、どういった生活を送るのか気になって仕方がありません。
◆シンガポールの物価
こうした低賃金層に引っ張られるようで、シンガポールの物価にはむらがありました。何もかもが高かった高所得国家のノルウェーやスイスとは違います。日本より割安だったシンガポールの物価を挙げると……
チャンギ国際空港から泊まっていた宿に近いアウトラム・パーク駅まで、MRT(地下鉄)を利用して2.5SGD(約220円)で移動できます。21.5kmの距離で、この値段。Suicaのような非接触型ICカードを利用すると、もっと安くなります。
ホーカーズ(フードコート)のチキンライスは、3.5SGD(約310円)でした。日本の大衆食堂のような感覚で、シンガポールの一般層が利用するホーカーズの食事は、日本よりも安い印象。
バーガーキングの安いハンバーガーセットは4.95SGD(約435円)でした。
一方で、どうしても全体的に日本より値段が高くて使えないと感じたのがコンビニです。日本で最低限の生活を営む私ですら、お弁当、パック飲料、プライベートブランドのお菓子などあるので、コンビニは利用したりします。台湾も似たような感じで、全般的に割高ですがまとめて買うとスーパーより安くなったりします。こう考えると、シンガポールのコンビニはスーパーやホーカーズに比べるとかなりの割高で全く利用できませんでした。
シンガポールのセブン-イレブン。
100円ショップのダイソーはシンガポールでは2SGD(約175円)均一でした。100円ショップにあるようなアイテムは、中心部の雑貨店だと日本と同じような値段で購入可能。海外のダイソー店舗は、物価より少し高い値段設定のところが多いです。
日本と同じ商品が手に入るダイソー。
ゴチャゴチャとしていたリトルインディア付近でも、いろいろと安く手に入りそう……。
その国の物価を決めるのは、数少ない富裕層ではなく多数を占める一般層です。富裕層が幾らお金を持っていようが、コカ・コーラやマクドナルドは一般の人が手に届く値段をつけます。だからこそシンガポールの物価は、同じように低賃金の外国人労働者が多いカタールやアラブ首長国連邦といった中東の産油諸国のようでした。それらの国々も、一人あたりのGDPが高い割には、物価はそこまで高くありません。
◆日本も考えること
確かに、海外からの富裕層を惹きつける政策はシンガポールを豊かにしたものの、その影響で土地価格は高騰。もともとの国土が小さいのもあるのですが、一般人の大多数はHDBと呼ばれる公共住宅に暮らしており、富裕層に対して反発する声が出ています。
【トピックス】見直しが進むシンガポールの外国人受入策|日本総研
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=26600
通常、外国人労働者に対する国民の不満は低技能労働者に向けられがちであるが、シンガポールでは永住権保持者を含む高技能労働者にも一部向けられている。国民の主な不満点としては、①大学への入学や優良企業への就職の門戸が、世界中から集まる外国人によって狭められている、②海外から高技能労働者を誘致するために政府が行っている優遇策が不公平である、③永住権を保持する外国人高技能労働者の多くが国籍を取得しようとせず、それに伴って生じる兵役などの義務を回避している、などがあげられる。
また、低所得者が大半を占める外国人労働者の不満も爆発しています。
シンガポール:ストをした中国人バス運転手の起訴を取り下げよ - アムネスティ日本 AMNESTY
11月の労働ストは、SMRT(シンガポール国営公共輸送機関)に働く運転手の中で、中国人の賃金が他の運転手よりかなり低いことが引き金となった。中国人移民は、同社の2000人の運転手のおよそ4分1を占める。
ストの前月、運転手たちは、50シンガポールドル(約3700円)の賃上げを告げられた。しかし中国籍の運転手は賃上げ対象から外され、初任給はマレーシア人の運転手が1400シンガポールドル(約10万5千円)であるのに対し、中国人は1075シンガポールドル(約8万円)ということになった。シンガポール人の運転手の賃金はさらに高いという。
ストの後、2012年12月にシンガポール当局はストに参加した運転手のうち29人の労働許可証を無効にし、中国に送還した。
【鼓動】シンガポールで40年ぶりの暴動 リトルインディアが映す出稼ぎ労働者依存政策のひずみ(1/4ページ) - 産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/140126/wor1401260035-n1.html
シンガポールのリトルインディアで先月、同国では約40年ぶりの暴動が起きた。逮捕されたのは、低賃金で肉体労働を担うインドからの出稼ぎ労働者たちだった。海外からの人材に依存した経済成長のひずみが暴動の背景にあると指摘されている。(シンガポール 吉村英輝、写真も)
これまでの旅の中で、格差の大きい国ほど治安は悪く社会は不安定でした。一方で、格差の少ない国ほど経済の発展が進みません。どんな国にしても、この相反する問題でバランスを取りつつ前進するしか無いのですが、シンガポールに関しては格差の問題が際立っているようにみえました。
2015年3月にカリスマ的な指導者リー・クアンユー氏が亡くなり、「明るい北朝鮮」とも揶揄される全体国家のような政治は岐路に立たされています。シンガポールは極めて与党に有利な選挙制度を抱える国なのですが、昨今の総選挙では野党が躍進。このことによって与党である人民行動党もより一般国民を意識した政策を行うようになりました。ちなみにシンガポールは、1965年の独立から政権与党が変わらない国です。国際NGOの国境なき記者団が発表する報道の自由ランキングでは、180カ国中153位という順位となっています。
近年よく聞かれる「シンガポールを見習え」はメリットだけではありません。どんな国ですら問題を抱えているので、そこに住む人たちがしっかりと考えることが必要です。最近の日本でも非正規雇用や外国人研修制度など、格差の問題が大きく取り上げられたりします。だからこそ、今回はこのような記事を書かせていただきました。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)
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