希代の名車「マクラーレンF1」のマニュアルに隠されていた小さなヒミツ
30年以上にわたって自動車レースの最高峰「フォーミュラ1(F1)」でトップチームの一角を占めているマクラーレンは、1991年に同社初の市販車である「マクラーレンF1」を発表しました。「究極のロードゴーイングカー」として歴史に名を残すスーパーカー・マクラーレンF1は、当時の価格で1億円以上とこちらもスーパーなレベル。そんなクルマに搭載されていたオーナーズマニュアルには、実際に手に取った人にしか見ることができない小さな遊び心がちりばめられていたようです。
Drawn From Memory - McLaren F1 Owner's Manual
◆マクラーレンF1とは?
マクラーレンF1はフルカーボンファイバー製のボディを持つスーパーカー。ドライバーは車体の左右中央に座るというレーシングカーさながらのレイアウトで、同乗者はその左右に1名ずつ座るという特殊なレイアウト。公式には全部で64台しか生産されていないという貴重な車両となっています。
By mangopulp2008
左右のドアは跳ね上げ式のガルウィング。
By Eddy Clio
究極の性能を目指しただけあって、マクラーレンF1はレースの世界でも活躍を見せました。デザイナーのマレー氏はレースでの使用に難色を示したと伝えられていますが、その素性の良さからル・マン24時間耐久レースをはじめとする数々のレースで成績を残しています。
By André Ritzinger
そんなマクラーレンF1のオーナーズマニュアルをデザインしたマーク・ロバーツさん。以前はマクラーレンと同業のロータスに所属していましたが、F1でも名を馳せた有名デザイナーのゴードン・マレー氏が究極のロードゴーイングカーを作るという計画を耳にしてマクラーレンに移籍したそうです。
立派な装丁のオーナーズマニュアル。マクラーレンF1の実車を見ることもかなり難しいものですが、そのオーナーズマニュアルとなればかなりのレア品。
その中身は「マニュアル」というよりも、むしろ「アートブック」と呼ぶほうがふさわしい雰囲気。
鉛筆とペンで描かれたイラストはロバーツさんの手によるもの。トレッド(車輪の中心間距離)を表すだけのイラストにもかかわらずこのクオリティ。
メンテナンスの手順も、ぜいたくにページを使って解説されています。これはおそらくボディ右側のオイルタンクにある注入口の様子。
エンジンの熱で熱せられてあふれた冷却水を受け止める「ヘッダータンク」は淡い青色で示されています。
ブレーキオイルのタンクは赤色。
メーター回りも手描きのイラスト。このマニュアルをじっくり眺めるだけで一日が終わってしまいそうな品質です。
この部分にはちょっとしたヒミツが隠されています。デザイン当時に記録されていたマクラーレンF1の最高速度は時速231マイル(約372km/h)だったのですが、ロバーツさんはその数字をメーターの積算距離計にこっそり忍ばせています。これは車体のことをよく知るオーナーならば思わずニヤリとさせられてしまうお遊びとなっています。
なお、この「231」という数字はマニュアルのあちこちでも使われており、時計が表示されている部分は全て「02:31」という表示になっているとのこと。
そして、純正で搭載されていたケンウッド製カーオーディオのCDチェンジャーのイラストにもお遊びが。今では姿を見ることもほとんどなくなったCDチェンジャーユニットですが、マクラーレンF1が登場した1991年ごろには最新の部類に入る機器でした。
そんな最先端の機器に挿入されるCDアルバムには、もはやクラッシックとも呼べる1978年に発表されたボブ・ディランのアルバム「ストリート・リーガル」が選ばれています。さらにこれは、「合法的(ストリート・リーガル)に公道を走行できるレーシングカーレベルの自動車」を引っかけた遊びなのかも。このアイデアにはチーフデザイナーのゴードン・マレー氏も乗ってきたとのことです。
ドライバーシートが車体の左右中央にレイアウトされているマクラーレンF1のため、オーナーが最も必要とするのは車体への乗り降りの方法かもしれません。
ドライバーシートの左右は高さ20センチほどの壁で区切られています。そのため、降りる時にはまず左足だけ壁を越え、同時に左手をドア開口部に添えて……
次に右足も同じように壁を越えて助手席スペースに置きます。
その後、手の力を使いながらお尻を持ち上げて……
やっと地面に足をつけて外に出ることができます。できればこのときオーナーには「よっこいしょ」とは言ってもらいたくないのが、一般庶民のせめてもの夢。
このほかにも、各種スイッチがレイアウトされたシフトレバー周りや……
ハンドル周辺
4点式シートベルト採用のドライバーシートも同じクオリティのイラストで描かれています。
液晶ディスプレイの時刻はもちろん「02:31」となっていました。
このマクラーレンF1は約1億円という車両価格にもかかわらず、実際には1台売るたびに赤字が増えると言われるほどコストがかけられたクルマ。細部に至るまで決して手を抜かずに造られたこだわりの一端を垣間見るようなエピソードでした。
なお、車両のオーナーにはなれなくても、どうしてもこのマニュアルを手に入れたいという人にもわずかな希望が残されています。数々のレアグッズを取り扱うカナダの「CollectorStudio」では、マクラーレンF1のマニュアルを販売中。価格は「応談」とされていますが、説明文には「Keep in mind this is meant for an $11M car, so it is not inexpensive!(このマニュアルは1億円以上のクルマのためのものなので、決して安くはありませんよ!)」という一文が。問い合わせを行う場合にはそれなりの気持ちとサイフの準備をしておいたほうがよさそうです。
Literature
http://www.collectorstudio.com/index.cfm/ID/23/itemID/4500/details/1
・関連記事
自動車のワイパーが不要になる新技術をマクラーレンが開発中 - GIGAZINE
車体価格1億2千万円の「パガーニ・ウアイラ」はこんなにスゴいクルマ - GIGAZINE
ヤマハの2人乗り乗用車「MOTIV」は元F1デザイナー共同開発の意欲的なクルマ - GIGAZINE
2人乗りEVをレンタルして観光地をぐるりと巡れる「MICHIMO」に乗ってきました - GIGAZINE
2000円から体験できる本格的レーシングシミュレーターで楽しみながらドライビングの腕を磨いてきました - GIGAZINE
「まんま公道マリオカート」なミニカー「X-Kart」で東京都心を爆走してみました - GIGAZINE
頭の動きで運転でき体が不自由でもドライブ可能なレーシングカー「SAM」 - GIGAZINE
あらゆる自動車のインパネ周りの写真を集めまくったサイト「car-ux」 - GIGAZINE
・関連コンテンツ