取材

成層圏から落下したGalaxy S IIが無傷で帰還、打ち上げの裏側に迫る


「Galaxy S II」を本気で宇宙に飛ばし、TwitterなどSNS経由で入力した願いを地上へライブ中継する「SPACE BALLON PROJECT」が行われて約2ヶ月が経過。「最大高度約3万メートルから落下した『Galaxy S II』は無事で、普通に使える状態にある」ということだったので、サムスンテレコムジャパンPR担当の高久保美幸さんにその極地仕様の端末を見せてもらいつつ、今回のやたら壮大なプロジェクトを振り返っていろいろと話を聞いてみました。

GIGAZINE(以下、G):
まず最初に、宇宙まで「Galaxy S II」を飛ばすという今回のプロジェクトのアイデアはどこから生まれたのでしょうか。単に冷凍庫に入れたり高温下に置いて検証する様子を見せるだけでも性能アピールにはなったかと思いますが、今回のプロジェクトを実行した決め手は?

サムスンテレコムジャパンPR担当 高久保美幸さん(以下:高):
端末の名称が「宇宙」という意味の「Galaxy」でしたし、企画立案の時期が東日本大震災の直後だったこともありまして、日本を元気にできるような何かができないかという観点から企画を考えました。宇宙(Galaxy)まで行けば、多くの人がつながりあえるのではないか、というのがコンセプトです。

プロジェクト実行中の現地の様子。飛行ユニットのセッティングを行う現地クルーたち。


これはテスト発射。打ち上げには何か機械を使うわけではなく、人力で行われています。


青空の下、「SPACE BALLOON」がゆらゆらと空中に漂っています。


なかなかメルヘンチックな見た目で飛んでいくバルーン。


打ち上げ成功にわくクルーたち。


これは明け方に行われた本番の様子。


朝日に照らされてピンク色になっているバルーンもきれいです。こうやって打ち上げられたバルーンに搭載された「Galaxy S II」の画面を、Ustream中継で全国から視聴することができたというわけです。


G:
TwitterやFacebookなどを利用してメッセージを募集し、それを上空高くに飛ばした端末上で表示するという挑戦をされましたが、メッセージ投稿はTwitterの方が多かったのでしょうか?

高:
はい、プロジェクトを行った3日間で、関連ツイートが7万8800件にも上りまして、メッセージの投稿もTwitterで多くいただきました。ソーシャルの活用は考えていましたがTwitterでの投稿に重点を置いたわけではなく、結果的に投稿が多く集まりました。

G:
アーティストへの楽曲提供依頼まで行ったのはどんな意図があったのでしょうか?

高:
最初は環境音と宇宙の背景だけでやろうと思ったのですが、Ustream中継の視聴時間が合計2時間以上になることがわかったため、音や感性をくすぐるものがないと通しで見るのはつらいということで、バックに音楽を流そうということになりました。

アーティストを選んだ基準は、積極的にTwitterをやっているなど、ソーシャル上で影響力のある方ところで今回お声がけしました。描き下ろしの楽曲をお願いしたのも、新曲をフックにアーティストのファンの方々にもプロジェクトに参加していただけるのではないかという狙いもありました。

オリジナル楽曲を提供したOpen Reel Ensembleさん、口ロロ(クチロロ)さん、坂本美雨さん、コトリンゴさん。



G:
プロジェクト名にもなっている「SPACE BALLOON」と呼ばれる特殊なバルーンはどこで入手したのでしょうか?

高:
最初はスペースシャトルに搭載して発射しようとしていたのですが、企画の自由度もなく、かつスケジュール的にかなり厳しいので却下となりました。「はやぶさ」みたいに、応援したくなるような企画を目標に、現在のような内容にした形です。

「SPACE BALLOON」は開発元のアメリカの団体「JP Aerospace」に連絡して、今回のプロジェクトに全面的に協力していただきました。普段は科学実験などを中心に「SPACE BALLOON」を使っている団体なのですが、プロジェクトの趣旨に賛同してくれまして、今回共同でプロジェクトに取り組むことになりました。

打ち上げやバルーンの設計などは専門家である「JP Aerospace」のメンバーに任せていたのですが、彼らは映像撮影の領域ではプロではないので、撮影のセッティングはスタジオセッティングを重ねて日本で開発しました。バルーンなどの設計がアメリカの「JP Aerospace」チームが、映像その他のセッティングは日本チームが行ったという形です。

「SPACE BALLOON」の打ち上げはアメリカ・ネバダ砂漠で行われました。ちなみにこの画像はGalaxy S IIで撮影したものだということです。


見渡す限り砂ばかりという感じですが、どれくらい砂漠なのかというと、宿舎から一歩足を踏み出したところサソリを発見する程度の環境だったということです。


Ustream配信のための機材を搭載した専用車は、ロサンゼルスからネバダまで運んだもの。


トラックの荷台にはテスト飛行時に回収した飛行ユニットが押し込められています。


G:
今回プロジェクトに携わられた中で、最も苦労した点というのはどこになりますか?

高:
2つありまして、1つ目は映像の調整ですね。宇宙っぽい背景と光源で、反射して画面が白飛びしないように日本のスタジオにてテストを繰り返しました。そのスタジオでのテストの成果をためすために、5月初旬に1回目の打ち上げテストを行いました。画面がきちんと映像に乗って見えるのか、宇宙空間に行ったときに電源が落ちないのかなどといった事項を確認する意味で行ったのですが、この時は完膚無きまでに失敗。画面「は」見えたという、さんさんたる結果に終わりました。

6月頭にもスタジオでのテストを重ねた上で打ち上げテストを再び行い、Ustreamの機材も稼働させたのですが、その時は確度も上がり、だいぶ本番の状況に近づいていきました。あとはライブでコミュニケーションできる通信環境を整えるといった部分に注力し、残り1ヶ月で調整を進めていったというところです。


2つ目は端末の温度です。冷凍庫に「Galaxy S II」を入れて動作テストをしていたのは、高度が上がると気温が下がり、低温下ではバッテリーがうまく働かず端末の電源が落ちてしまうためなんです。それを解消するために、端末を特別に改造して、周囲の気温を感知して自動的に温度を適切に保つためのヒーターを搭載した「Galaxy S II」を複数台作成しました。

実際に空を飛んだ「Galaxy S II」たち。万一の事態に備えて複数台作られています。


今回見せてもらったのは製作した極地用「Galaxy S II」のうちの3台。どの機体も無事で、何の不具合もなく動作しているのが驚き。


一番左がほぼむき出しの状態、真ん中は1枚はいだ状態、右はフル装備と、3パターン並べんでいるためその重装備ぶりが分かりやすくなっています。


より中まで詳しく見るために、フル装備のものを分解してもらうことに。本体の大きさに合わせて切られたスチレンボードをはがしていきます。


ぱかっと開けると、アルミで包まれた状態に。


アルミをはがすと鉄の薄い板が。中に塗られている白い物は保温目的のジェルです。


寒冷地用の靴下などに組み込まれている電熱線を分解して組みこみ、最低温度がマイナス60度にも達する上空でも、端末が稼働するのに適切な温度を保つようにされています。電熱線は周囲の温度を感知して自動制御されるため、熱くなりすぎるということはなかったそうです。


固定のために穴が開けられた本体の裏ブタを外すと、バッテリーの上にも保温用のジェルが塗られていました。


電池パックの裏側は特に何も細工せず、そのままでした。


本体を支えていた宇宙飛行士の人形、その名も「宇宙飛行士くん」も無事に帰還しています。


大きさは350mlのペットボトルとほぼ同じくらい。


頭と手の3点で「Galaxy S II」をがっちりホールドします。


背面はこんな感じ。


G:
バルーンを7月15日~17日の3日間で計5回打ち上げたとのことですが、一番高いところまで行ったのはどの打ち上げだったのでしょうか?

高:
実はテストを合わせると合計7回打ち上げていて、そのうち5回を中継しました。Google EarthにGPSを使って測定したバルーンの軌跡を記録してあるので、これを見ていただくと分かりやすいかと思います。

実は一番高く打ち上がったのが、本番ではなく1日目のテストフライトで、飛行高度は3万1212メートルでした。夕方の気候の方が高度を稼ぐには有効だったので、現地時刻17時半ごろに行ったテストの方が、明け方に行った本番より高さが稼げたのではないかと思っています。

しかし本番を明け方に実施したのは、日本との時差を考慮したことに加え、太陽の光の加減でバルーンからの映像が一番美しく見える時間帯だったためなので、これは致し方ない部分もありました。ライブ中継した中だと、一番高度が高かったのは2日目の打ち上げの29935mでした。

1日目のテストフライトの飛行軌跡(飛行高度3万1212メートル、飛行距離121km)


1日目の本番フライト(飛行高度2万9479メートル、飛行距離98km、最低温度マイナス62度)


1日目本番後、2日目に向けて行ったテストフライト(飛行高度2万8928メートル、飛行距離125km)


2日目の本番フライト(飛行高度2万9935メートル、飛行距離115km、最低温度マイナス62度)


3日目の1度目のフライト(飛行高度2万8106メートル、飛行距離129km、最低温度マイナス59度)


3日目の2度目のフライト(飛行高度6537メートル※高度計故障時の数値、飛行距離117km、最低温度マイナス60度)


3日目の3度目のフライト(飛行高度2万7471メートル、飛行距離118km、最低温度マイナス62度)


G:
7回打ち上げた中で、最もうまくいったのはどの回だったのでしょうか?

高:
一番うまくいったのは、最終日の3日目ですね。実は3日目だけで3回打ち上げているんですが、生投稿をロスなく中継できたので、SNS上での反響がとてもよかったんです。ご自分のツイートがUstream中継に映ったところをキャプチャして、その画像をアイコンにしてさらにもう一回投稿した方もいて、まるで合わせ鏡のような状態になっていました。

最終日なので記念に2発打ち上げる予定だったのですが、現地の運営側から中継を見ている方々に「さらにもう一回上げてもいいでしょうか」と尋ねたところ、オーディエンスからは深夜にもかかわらず「何時まででも待ってるよ」という声をいただきました。高さやツイート数といった数字ではなく、一体感のある宇宙旅行ができたのではないかと思っています。

3日目の3回目のフライトのクライマックスシーンがムービーで記録されていました。地面に落下するまでしっかりと記録されているため、上空からゆっくりと落ちていく様子がよく分かります。

Galaxy S II墜落の様子(3日目の3度目のフライト) - YouTube


G:
当日1回目の打ち上げをUstreamで中継を見ていたのですが、バルーンが地面に落ちる前に中継が切れたのでその行方が気になっていたのですが、落ちたバルーンは回収できたのでしょうか?

高:
はい、すべて回収しました。とはいえ、車で追いかけられる範囲は超えてしまうこともしばしばありました。そこはバギーを駆使し、さらに車が入れないところにはハイキングで挑むなどして、最長の場合は往復で6時間かけて追いかけました。


地図を頼りにGPSで示された場所に向かいます。


今回は岩場の向こうに落ちてしまったため、ここからは徒歩で進んでいきます。


飛行ユニットは野原に転がっていました。過去に、「JP Aerospace」のクルーが冬季の同じエリアにバルーンの回収に行き、暗闇の中を懐中電灯で照らして捜索していたのですが、その光がちょうど届くか届かないかのところにオオカミの群れがいて、一触即発の状況だったということを聞いていた上で行ったため、この捜索はなかなかスリリングなものだったそうです。


さすがにバルーンは破れてしまっていました。


約3万メートルの高さから落下しただけあって、ユニットはほとんどバラバラになってしまっています。


しかし「宇宙飛行士くん」と「Galaxy S II」は無事。低温対策などをはじめとした厳重な設備を整えた結果とは思いますが、これだけユニットが壊れているなかで端末だけがピンポイントで助かっているのはかなり奇跡的だと感じます。


3万メートルからの落下にも耐えて「Galaxy S II」をホールドし続けた「宇宙飛行士くん」ですが、ほぼ同じ設計の「宇宙飛行士くん」がノベルティとして製作進行中とのことなので、試作品を見せてもらいました。


たたずまいは、実際にフライトに行った「宇宙飛行士くん」とほとんど同一です。


足元には「Galaxy S II」のロゴが。台座は月面をイメージした作りになっています。


こんな感じで「Galaxy S II」を持たせることができます。デスク周りにあったらかなりのインパクトがありそう。「Galaxy S II」にぴったり合うように設計しているため、その他のスマートフォンには対応していないので注意が必要です。


「Galaxy S II」ユーザーやこれから買う人が応募できるキャンペーンは下記リンクから。「宇宙飛行士くん」は大量生産され、5万名に当選するとのことなので、興味がある人は応募してみると意外に当たったりするかもしれません。

SPACE BALLOON PROJECT | GALAXY S II


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in 取材,   モバイル, Posted by darkhorse_log

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