人がお酒を飲むと攻撃的になってしまう理由がMRIのスキャンで判明
by Tony
長期間大量のアルコールを摂取すると、大脳が萎縮して人格や行動に影響を与えてしまうことが確認されていますが、たとえ一時的なアルコール摂取であっても、暴力的になったり攻撃になったりする人がいます。それに対し研究者たちは、「アルコールによって感情の抑制が難しくなるからだ」等の理論を考えてきましたが、「なぜ人はお酒を飲むと暴力的になってしまうのか?」についての臨床的な実験結果が発表されました。
The neural correlates of alcohol-related aggression | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.3758/s13415-017-0558-0
Why alcohol makes people violent, solved by scientists
http://www.telegraph.co.uk/science/2018/02/12/alcohol-makes-people-violent-solved-scientists/
これまでも研究者たちは、「アルコールを飲むと前頭前野に影響が及び、感情や行動を変化させる」と考えてきました。しかし、アルコールを長期的に摂取することで大脳を萎縮させる様子を観察したり、アルコールを摂取した時の血中成分を分析したりする実験は行われてきたものの、一時的なアルコール摂取時に生ずる脳の活動については実験が行われてきませんでした。
そこで、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のトーマス・ベンソン博士の研究グループは、アルコールを摂取した被験者の脳をMRIでスキャンし、血液の流れを測定することで実験を行いました。今回の実験では、実際にアルコールを摂取した被験者(アルコール摂取者)と、実際にはノンアルコールのドリンクを「アルコール入りのお酒だ」と信じて摂取した被験者(プラシーボ摂取者)の2グループを用意。個々の被験者の体重と体脂肪を測定し、アルコール摂取者にはオーストラリアの法律で飲酒運転になるアルコール摂取量をウォッカで摂取させ、プラシーボ摂取者にはアルコールの匂いをつけたウォッカ風ドリンクを飲ませました。
by BEN MURPHY ONLINE
その後被験者たちはMRIにかけられ、「別の場所にいる人物と対戦する」という説明のもとゲームを行いました。まず被験者はゲームを始める前に、自分がゲームに勝った場合にゲームに負けた対戦相手に与える罰ゲームとして、MRI内で鳴らされる騒音の大きさを4段階から選びました。罰ゲームを選択した後にゲームを開始しますが、実際にはゲームの対戦相手は全てコンピューターのプログラム。ゲーム終了後に負けた被験者は罰ゲームを受け、勝った方は対戦相手であるコンピューターが事前に選択した罰ゲームの騒音の大きさを知らされたとのこと。
以上の実験を繰り返した結果、ゲーム開始前に設定する罰ゲームの騒音の大きさは、アルコール摂取者とプラシーボ摂取者で有意な差が見られ、アルコール摂取者の方がより大きな騒音を選ぶ傾向があったとのこと。一方でゲームの対戦相手となったコンピューターが選んだ騒音レベルに対して抱いた感情には、アルコール接種者とプラシーボ接種者で有意な差はなかったそうです。
また、アルコール接種者の攻撃性が実験で確認されたと共に、罰ゲームを選択中のアルコール接種者の脳をMRIで測定したところ、前頭前野やその他の報酬系で活動が減衰していることが確認されました。一方で記憶を司る海馬の活動は、プラシーボ接種者よりアルコール接種者の方が活発になるという結果となっています。
以上の結果により、一時的なアルコール摂取が前頭前野などの活動を抑制し、人々の行動をより攻撃的にしてしまうのだと研究者らは結論づけています。ベンソン博士は「今回の実験は予算の問題で小規模にならざるを得なかったが、より大規模な実験を行うことで、たとえ少量のアルコールであっても、人の脳にどのような影響を与えるのかがより詳しく判明するだろう」と述べています。
by Tony
・関連記事
パーティドラッグ「MDMA」をアルコール中毒治療に使う世界初の臨床試験がスタート - GIGAZINE
お酒の種類は攻撃的・リラックスなど異なる気分と関係する、という研究結果 - GIGAZINE
「適量のお酒」ですら脳の認知機能の低下を早めるとする調査結果 - GIGAZINE
クラフトビール醸造所が10年たらずで6倍に&人気が大爆発した裏側には何があるのか? - GIGAZINE
「伯爵のようにウィスキーを味わう方法」をリアル伯爵風のウィスキー専門家がコミカルに解説 - GIGAZINE