一度決めた行動を変更するのは0.2秒後でも難しい

by Brendan Church

一度決めた事柄について後で決定を修正したり計画を中止したりするには脳の複数分野が素早くコミュニケーションを取る必要があることをジョンズ・ホプキンズ大学の研究者らが報告しています。この研究結果から、「何かをやめる時は、判断が早ければ早いほどうまくいきやすい」ということが言えるとのこと。

Why can't we always stop what we've started? Johns Hopkins neuroscientists have the answer | Hub
https://hub.jhu.edu/2017/12/07/neuroscience-susan-courtney-stop-behaviors/

Neural Basis of Cognitive Control over Movement Inhibition: Human fMRI and Primate Electrophysiology Evidence: Neuron
http://www.cell.com/neuron/abstract/S0896-6273(17)31063-2

The Neuroscience of Changing Your Mind - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/the-neuroscience-of-changing-your-mind/

前頭前皮質は脳の中でも計画や高度な精神機能をコントロールする部分だと考えられており、これまで、予定行動の修正や停止はこの前頭前皮質が単体で行っていると考えられていました。しかし、ジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームがサルとヒト、両方の脳における前頭前皮質以外の部位の働きを調べたところ、「土壇場で意志を変える」という行為は脳の複数のエリアをまたいで行われるものであり、これまで考えられてきたよりもずっと複雑であることをつきとめています。

by STIL

研究を行ったのはジョンズ・ホプキンズ大学の元大学院生であり、現在はPinterestの研究者であるKitty Xu氏らの研究チーム。Xu氏らは21人の被験者に対して、脳神経科学の実験でよく用いられる「ストップシグナル課題」と呼ばれるタスクを行ってもらい、fMRIを使って脳の活動をリアルタイムで観察しました。

このとき被験者らの前にはスクリーンが表示され、そのスクリーンには徐々に黒いドットが現れるようになっていました。被験者らは「黒いドットが現れたら見つめるように」とあらかじめ指示されており、指示に従うのですが、黒いドットに集中しだした頃に別の色のドットが出現し、今度はそこに集中するよう促されます。このとき、被験者らは最初の計画である「黒いドットを見つめる」ということを放棄する必要があり、その際の脳の働きがチェックされたわけです。

モニタリングの結果、いったん決定した予定行動を変えるという行為は前頭前皮質と前補足運動野が非常に速いスピードでコミュニケーションを取る必要があることがわかりました。このコミュニケーションが失敗したり、遅くなってしまうと、実際の行動が意志に反してしまうわけです。その後、同様の実験を電極を使用した状態でサルに対して行ったところ、人間の被験者の脳活動と似た部分が活性化したことが確認されたとのこと。

Xu氏によると、「とっさの判断」に関して言うと、1つの決定が頭の中にある期間が長ければ長いほど、その決定を翻すのが難しくなるとのこと。「計画された行動を止めるには脳の複数エリアにおいて高速でやりとりを行う必要があります」「そして、一度『ゴー』というメッセージが筋肉に対して送られた後で『アクセルペダルを踏む』という決断を変えるのは、例え数ミリ秒後でも難しいのです」とXu氏は語ります。

by Steve Webel

この時、人は一度下した決断を変えることに関して、100ミリ秒後であれば計画の変更に成功しますが、200ミリ秒後である時は最初の命令が既に筋肉に送られているため計画変更に失敗し、意志に反して最初の計画を実行してしまう可能性が高まります。

「お酒を飲む計画をやめるべきだろうか？」など、人はさまざまな事柄について判断を前にして悩みますが、「『お酒を飲む』という計画をやめるのが早ければ早いほど、計画を実行する可能性が少なくなります。これは非常に関連性があることなのです」とXu氏は語りました。