「CRISPR」をもとに遺伝子編集を進歩させる2件の研究成果がほぼ同時に発表される
By NIH Image Gallery
遺伝子に含まれる情報を編集する手法で新たな技術が立て続けに発表されました。うち一件は「CRISPR-Cas9システム」を使った新しい方法、そしてもう一件はRNAを編集するものとなっており、同じ研究機関によって発表されています。
New gene-editing technique may lead to treatment for thousands of diseases - LA Times
http://www.latimes.com/science/sciencenow/la-sci-sn-dna-gene-editing-20171025-story.html
'Incredible' editing of life's building blocks - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-41724994
これらの技術は、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究機関「Broad Institute」によって発表されたもの。現在は、遺伝情報を含むゲノムの一部を切り取って、別のゲノムと入れ替える「CRISPR-Cas9」が遺伝子編集技術の中心となっていますが、新たな方法はこれをさらに進めたものといえる内容となっています。
◆遺伝子の塩基を直接書き替える「塩基編集」
生物の設計図であるDNAには、デオキシリボースとリン酸、塩基が含まれています。塩基はさらにアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つに分かれますが、これらの塩基を編集することで遺伝情報を編集する「base editing」 (塩基編集)と呼ばれる手法が開発されています。
Programmable base editing of A•T to G•C in genomic DNA without DNA cleavage | Nature
https://www.nature.com/articles/nature24644.epdf
これまでの遺伝子編集が、ハサミを使って一定のかたまりを切り貼りするものだとしたら、新たに発表された方法は鉛筆と消しゴムを使って遺伝子の文字を直接書き替えるようなものとなっています。なお、いずれの方法も、遺伝子編集技術の中核といえるCRISPR-Cas9システムを利用するものとなっています。
新しく発表された方法は、まずCRISPR-Cas9を使って目的とする遺伝子配列を探して捕捉します。ここで、従来だと遺伝子の配列を切りとって新たな配列と差し替えるのですが、新しく発表された方法ではゲノム情報が保管されているDNAストランドを引き離し、CRISPRシステムに付着した酵素を使って目的とする塩基を正しいものへと書き替えるという仕組みとなっています。
Broad InstituteのDavid Liu教授は「塩基編集技術を人体の治療学に応用するための研究を進めている」と語っています。しかしまだ課題は残されているようで、Liu教授は「塩基を編集するメカニズムを完成させるのはまず最初の一歩。さらにやることはありますが、このメカニズムは非常に役に立つことになるでしょう」とも語っています。
◆RNAを書き替える方法
DNAが個体に関する情報を格納している「設計図」だとすれば、RNAはその情報を書き写して持ち出し、必要なたんぱく質を運んでくる役目を持つものといえます。研究チームは、このRNAに対するアプローチを使うことで、遺伝性の貧血症を引き起こす遺伝子の編集を試みました。
RNA editing with CRISPR-Cas13 | Science
http://science.sciencemag.org/content/early/2017/10/24/science.aaq0180
ここで研究チームは、CRISPR-Cas9とは別のヌクレアーゼ「Cas13」を使う手法を使っています。Broad InstituteのFeng Zhang氏は、「病気を引き起こす変異を訂正することは、ゲノム情報の編集が目指す主な目的の一つです。RNAの編集を可能とするこの方法は、ほぼ全ての細胞で起こる多くの病気を治療できるようにする可能性を秘めているでしょう」と語っています。
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのHelen O'Neill博士はこれらの論文が同じ週に発表されたことについて、「遺伝子の研究における興味深い週になりました。これらの論文は、遺伝子編集分野の速い進化のスピードと、途切れることのない進歩にハイライトを当てるものであり、一歩ずつ実際の医療のレベルに近づいているものといえます」とコメントしています。
また、エディンバラ大学のSarah Chan博士は「科学はものすごいスピードで進んでおり、危険が少なく、確実で正確で、そして効果的なものに変わってきています。もはや、遺伝子編集について多くの人々からの意見を集約するような時代は完全に過去のものとなっています」と、これまでのように「遺伝子編集は危険だから」と避けることはできなくなっている状況を語っています。
病気の中には遺伝子に起因するものも多くあり、遺伝子の変異で病気が発生する例が現在までに5万件、そして、遺伝子を構成する塩基の1つが書き替わるだけで病気になる例が3万2000件確認されています。今回発表された遺伝子編集技術が確立、実用化されることで、遺伝子の「誤字」が原因で引き起こされる病気が大きく減少するものと期待されています。
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