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「MP3が死んだ」という報道の本当の意味とは?

by Mike

海外のニュースメディアで「MP3が死んだ」という、あたかも今後MP3が使えなくなるかのような印象を抱く記事が出回りました。しかし、「MP3が死んだ」とするには早計すぎる、ということで、この言葉の裏にある現状をプログラマー兼ライターのMarco Armentさんが解説しています。

“MP3 is dead” missed the real, much better story – Marco.org
https://marco.org/2017/05/15/mp3-isnt-dead

2017年5月11日、アメリカのナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が「The MP3 Is Officially Dead, According To Its Creators(クリエイターたちによると、MP3は公式に死を迎えた)」という記事を発表。そして、このニュースを受けてGizmodoEngadgetが同様の見出しで記事を公開しました。

The MP3 Is Officially Dead, According To Its Creators : The Record : NPR
http://www.npr.org/sections/therecord/2017/05/11/527829909/the-mp3-is-officially-dead-according-to-its-creators


「MP3が死んだ」という言葉は、あたかも今後MP3が使えなくなるように聞こえますが、実際にはそうではありません。上記ニュースメディアの記事はフラウンホーファー研究所による発表をソースとしているのですが、この発表で書かれているのは、以下のとおり、テクニカラーが保持していたMP3フォーマットのライセンスが切れたということです。

mp3
https://www.iis.fraunhofer.de/en/ff/amm/prod/audiocodec/audiocodecs/mp3.html


テクニカラーのライセンスプログラムが終了したのは2017年4月23日。以下の記事を読めばMP3のライセンスがどのような経緯をたどってきたのかがわかります。

MP3の特許を持つTechnicolorの特許権が消滅 - GIGAZINE


MP3は、ビデオ圧縮規格MPEG-1のオーディオ規格として開発されました。しかし、CD-ROMやDVDプレーヤーのオーディオトラック規格には、MP3ではなくMP2が選ばれることが多く、資金繰りは困難でした。一方で、音質のよさやファイル容量の軽さから、MP3インターネット上のデジタル音声フォーマットとして広く普及することになります。

その後、資金繰りのためフラウンホーファー研究所はテクニカラーと提携し、主にゲーム音源用のMP3のライセンスを販売。このライセンスが終了したのが、2017年4月23日というわけです。


上記のようにフラウンホーファー研究所の発表には、単純に「MP3のライセンスプログラムが終了したこと」、そして「まだライセンスが続いている、高品質のAACやMPEG-Hといったフォーマットの使用を推奨する」ということが書かれています。MP3の特許権が消滅することで制限を受けずにMP3を自由に使えることになり、ゲーム開発者がメリットを得ることも考えられうるのですが、これが「MP3がもう使えなくなる」と読んだ人が誤解してしまうような見出しで報道されたわけです。

一方で、海外ニュースメディア「Motherboard」などは、一連のニュースを受けて「MP3はまだ生きているし、1月前よりも生き生きしているかもしれない」という内容を報道しています。

The MP3 Is Not Dead - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/mp3-is-not-dead


Engadgetは「MP3のライセンスが終了したということは、言い換えれば、開発者らがMP3のサポートをこれ以上続けたくなかったということです。2017年現在、音楽を記録するよりよい形式が他にあることを理由に」とつづっていますが、プログラマー兼ライターのMarco Armentさんは、よりよい形式が他にあるからといってMP3が消えるわけではないことを主張。

例えばフラウンホーファー研究所が推奨するAACは確かに高品質ですが、品質の違いが顕著なのは低いビットレートでのみです。128kbps以上であればMP3との音質の違いはほとんど感じられません。AACはAACで電話・音楽ストリーミングサービスなど、帯域幅が制限されているアプリケーションで音質が劣化しにくいなど有利な点がありますが、まだ特許が消滅していない以上、使用に制限がありイノベーションが起こりにくいという見方もあります。また、ポッドキャストでは、1つのファイルをさまざまな端末で再生させる必要があるため、より広くサポートされているMP3が選ばれやすいというのも現状です。

2017年4月までは、実用的で、広くサポートされており、特許による制限が存在しない、という音声フォーマットは存在しませんでした。しかし、今ではインターネットの世界で不必要な摩擦を生み出す「制限」が取り払われて、自由に使える実用的なフォーマットが存在します。これらが、「MP3はまだ生きているし、1月前よりも生き生きしているかもしれない」という意味であるわけです。

by Florian Eisermann

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in ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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