50種192枚もの駒を使う「アドバンスド摩訶大将棋」の開発者に「摩訶大将棋」について聞いてきました
東京ゲームショウ2016のインディーズコーナーに出展されていた「アドバンスド摩訶大将棋」は、大阪電気通信大学総合情報学部の高見友幸教授が開発したゲームです。このゲームの摩訶大将棋とは一体何なのか、高見教授が復刻した摩訶大将棋を実際に見せてもらい話を聞きにいってきました。
75)アドバンスド摩訶大将棋(1) - takami-lab oecu
http://www.takami-lab.jp/2014/01/01/75-アドバンスド摩訶大将棋-1/
アドバンスド摩訶大将棋を開発した大阪電気通信大学総合情報学部の高見友幸教授。
これは高見教授が復刻した摩訶大将棋です。駒と盤面は両方ともスギで作られていて、サイズが大きいため特注とのこと。
摩訶大将棋の駒。
駒の字は江芳書という書師の人に書いてもらったそうです。高見教授によると、将棋の駒の書師は、昔はたくさんいたのですが、今は活動している人が少なってきているとのこと。
現代の将棋とは違って駒も大きく作られています。
全部並べるとスゴイ迫力です。現代の将棋では使われていない駒がたくさんあります。
摩訶大将棋の駒は、現代の将棋と同じモノは同じ動きをしますが、大きく違うのは「成り方」です。例えば、相手の駒を取ったらすぐに裏返して強制的に「成り」ます。そのほかにも現代の将棋とは少し違う成り方があるそうです。
ちなみに摩訶大将棋は、現代の将棋のように「玉将を取られた方が負け」というのではなく「王子という駒を取られた方が負け」というルール。「王子」は玉将の上にある「醉象」が成る駒。醉象が王子に成っていなければ、玉将を取られると負けになりますが、醉象が王子に成っていると玉将を取られても勝負は続行となります。
摩訶大将棋には「老鼠」や「猫叉」など動物をあしらった駒もあります。諸説ありますが、高見教授は動物をあしらった駒の中でも「老鼠・猛牛・盲虎・驢馬・臥龍・蟠蛇・桂馬・盲熊・古猿・淮鶏・悪狼・嗔猪」が十二支のことではないかと考えています。
GIGAZINE(以下、G):
まずは、高見教授が普段何を授業で教えているのか聞かせてください。
高見友幸教授(以下、高見):
普段はソフトウェアやプログラミング、ハードウェア設計、数学などを教えています。学生時は地球物理学を専攻していてレーダー情報処理などを研究していました。
G:
普段は将棋とあまり関係がなさそうなことを教えているんですね。一体どうやって摩訶大将棋のことを知ったのでしょうか。
高見:
もともと将棋が大好きで、将棋は初段を取得しています。摩訶大将棋のことを知ったのは偶然のことで、以前にゼミの研究の1つで大きなタッチパネルを使ったゲームを作っていたんですよ。床をタッチパネルにして、足で踏むとプロジェクターの画面上に反映されて遊べるようなゲームを作っていたのですが、大きなテーブルを使って同じようなゲームを作れないか、それにはどんなゲームが合うか考えていたときに25マスという大型将棋の大将棋を、赤外線レーダーでタッチ操作を感知する大きなテーブルでやってみようとなったんです。
G:
なるほど。
高見:
大型将棋の記述が初めて古文書に出てくるのが二中歴という12~13世紀に成立した古文書なのですが、大型将棋のルールや駒について具体的な記述があるのは1443年の現本を写した写本「象棊纂圖部類抄(しょうぎ-さんず-ぶるいしょう)」というのが初めてです。この古文書には中将棋(12×12)、大将棋(15×15)、大大将棋(17×17)、摩訶大将棋(19×19)、延年大将棋(25×25)という5種類の将棋について書かれています。
将棋は、ゲームの進化の一般論と同じく単純なものから複雑なものへ、つまり小さいものから大きいものへと進化をとげたと通説で考えられています。しかし、古文書を解読していくと、実は将棋はスケールが大きく複雑なものから、駒をそぎ落として小さく単純なものへと進化していった、ということがわかってきたんです。これは論文でも発表しています。
G:
ふむふむ。
高見:
これが大型将棋のルールを復刻する上で重要な手がかりとなりました。最初は25マスの延年大将棋を復刻してゲームに落とし込もうと思っていたのですが、延年大将棋はいかんせん駒が詰まりすぎていて、面白さに欠けました。そこで、次に大きな摩訶大将棋を復刻してみようということになったんです。
G:
摩訶大将棋の何が高見教授の興味を引いたのでしょうか。
高見:
摩訶大将棋のことが書かれている象棊纂圖部類抄を読んでいて「これは今の解釈が間違っているのでは?」という部分が多数出てきてきました。しかし、解釈の仕方を変えるとつじつまが合って摩訶大将棋は面白い将棋だというのがわかってきたんです。
G:
それで探究心が沸いてきたという感じでしょうか。
高見:
おっしゃる通りです。摩訶大将棋の特徴に「踊り駒」というのがあって、踊り駒の動きは古文書に十分に書かれていません。こういった場合は試験対局を積み重ねて、妥当な駒の動きを検討するんです。例えば、「2目踊る」という記述は直線的に2目進むと解釈できますが、僕は「踊る」が「繰り返す」という意味なんじゃないかと思っているんですね。それはどうしてかと言うと、「踊る」というのは「縦方向に跳ぶ」という意味があって、回転する「舞い」とは異なります。そこで「縦方向に跳ぶ」というのを「繰り返す」として古文書を解読すると、「2目踊る」というのが「1目進むを繰り返す」と解釈できるんですね。そうすると、摩訶大将棋が遊戯と成立する、非常に深く考えられたゲームデザインだというのがわかってきたんです。
踊り駒の1つの「鳳凰」。
G:
摩訶大将棋は大きくて非常に複雑そうに見えるんですが、ゲーム性も面白いということですか?
高見:
以前までは「摩訶大将棋は駒の数が多すぎるから、実際はプレイされていない並べるだけの将棋だったのでは?」と言われていたんですが、いざ調べてみるとザクザク駒をとれてスピーディーな展開のゲーム性があるというのがわかってきました。もちろん、異なる見解もあります。古文書を何度も読んでいると、新しいことに毎回気づかされるのですが、これがパズルのようで非常に興味深いです。
G:
研究すればするほど新しいことがわかるのは面白いですね。実際に対局も行うのでしょうか?
高見:
生徒と対局しますよ。持ち時間1時間でやると2時間くらいかかってしまうんですが、持ち時間を20分にするとよりスピーディーな展開になって面白いんですよ。持ち時間20分でプレイすると、将棋を指すときに見る範囲が広くなって、指し方が完全に変わりました。最初は大画面のタッチパネルのゲームを……と思っていたんですけど、気づいたら摩訶大将棋にものすごくはまっていますね。
G:
ソフトウェアの「アドバンスド摩訶大将棋」をリリースしていますが、今後も摩訶大将棋の研究を続けていくのでしょうか?
高見:
アドバンスド摩訶大将棋はルーターでポートを解放しないとネットワーク対局モードをプレイできないのですが、今はポート開放しなくてもネットワーク対局をできるように開発を続けています。また、ペルシャ将棋と大将棋の関係について研究しているところです。
G:
本日はありがとうございました。
・関連記事
難解な古文書を読み解き再現した「アドバンスド摩訶大将棋」、50種192枚もの駒を使用 - GIGAZINE
人工知能がどのようにして次の手を考えているのかが可視化されるチェスゲーム「Thinking Machine 6」 - GIGAZINE
チェスの棋譜約220万戦を分析してわかったことを可視化 - GIGAZINE
ついにコンピューターが囲碁でプロ棋士に勝利、倒したのはGoogleの人工知能技術 - GIGAZINE
囲碁から生まれた5~15分で遊べるイージー碁「Ranka(ランカ)」をプレイしてみた - GIGAZINE
・関連コンテンツ