メモ

1980年のオリンピック選手村は刑務所になっている


オリンピックの開催は地域経済に与える影響も大きく、世界中の主要都市が招致レースを繰り広げることで知られています。しかし、オリンピック閉幕後に、競技に使用した施設をどのように有効活用していくのかということも重要で、場合によっては利用価値のない「負の遺産」に苦しむこともあり得ます。1980年に冬季オリンピックを開催したアメリカ・ニューヨーク州のレークプラシッドでは、オリンピック選手団が使用した宿泊施設を「刑務所」として有効活用しています。

The Forgotten Tale of How America Converted Its 1980 Olympic Village Into a Prison | Atlas Obscura
http://www.atlasobscura.com/articles/the-time-that-the-us-turned-an-olympic-village-into-a-prison

1980年2月に開催されたレークプラシッドオリンピックは米ソ冷戦のさなかに行われ、アイスホッケーのアメリカ代表がソ連代表に対して劇的な勝利を収めた「Miracle on Ice(氷上の奇跡)」で知られるなど、世界情勢が色濃く反映された大会でした。レークプラシッドでオリンピックが開催されたのはこのときが2度目で、レークプラシッドは第二次世界大戦前の1932年にもオリンピック開催地となった歴史的な町としてアメリカ人に知られています。


そのレークプラシッドは1976年にデンバーが返上したオリンピック開催都市の代替地として立候補しましたが落選。再チャレンジの1980年開催では対抗都市がなかったため、見事に2度目の開催地になりましたが、問題は潤沢ではない予算でした。1932年のオリンピックで用いたアイスホッケー場やスケート場などの施設を再利用することで予算を圧縮しましたが、問題は世界中からやってくる数千人の選手が宿泊する選手村で、2週間の滞在期間中に清潔で快適で何より安全な施設を新設する必要がありました。


選手村の建設自体に費用がかかるのは当然ながら、大きく問題視されたのは、オリンピック終了後にどのような活用の道が用意されるかという「事後処理」でした。選手村の活用法については、共同住宅にする案や病院にする案、恒久的なアスレチックジムにする案などが持ち上がりましたが、いずれもの案も人口3000人規模の町にはふさわしくないものとして立ち消えになりました。そんな中、出されたアイデアが「選手村を刑務所として再利用する」というもの。


1970年代以降、アメリカでは犯罪の増加にともなって刑務所不足という慢性的な問題を抱えていました。1969年から1979年までに実に24もの新刑務所が建設されて収容可能者数を9500人も増やしましたが、当時のアメリカで持ち上がっていた人道的観点から囚人の待遇を改善すべきであるという意見のために、なお刑務所を新設する必要性があったそうです。さらに刑務所の新設は、小さな町であるレークプラシッドに「不況知らず」の200人以上の雇用を生み出すという大きなメリットもありました。


オリンピック施設を刑務所に転用するというアイデアに対しては反対意見もあり、「Olympic Torch = Freedom、Olympic Prison = Slavery(オリンピックの聖火=自由、オリンピック監獄=奴隷)」というフレーズを掲げるデモが行われ、刑務所への転用がオリンピックの持つ人道主義やお祝いムードと相いれないという意見も根強かったそうです。


刑務所として再生されることが前提の選手村の部屋は、8フィート×13フィート(約2.4メートル×約4メートル)ごとに、後から壁を作って部屋を切り分けるためのブロックが設置され、人間が通れない小さなサイズの窓が設置され、中には窓のない部屋もあったとのこと。これらの異様な様式を打ち消そうと、ディスコ、映画館、コンサートホールなどの施設も追加されたそうですが、高さ11フィート(約3.4メートル)の電気柵が2つ周囲をぐるりと囲むように設置されるなど、監獄っぽさはぬぐいきれなかったそうです。


オリンピック閉幕後には世間の注目を集めることがなくなったレークプラシッドでは、予定通り刑務所としての運用がスタートしました。アディロンダック博物館の館長は、訪れる観光客から時折寄せられる「レークプラシッドオリンピックの選手村はどこに行けば見られますか?」という質問に対して、「選手村を見学するには連邦政府に反する犯罪を犯す必要があります」と答えるとのこと。この館長にはオリンピックの五輪マークが見る角度によっては手錠のように思えるそうです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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