Appleのようなハードウェアの製造がなぜスタートアップには不可能なのかという知られざる理由
創業したばかりのスタートアップ企業にとって、AppleのiPhoneやMacのようにデザインの洗練された製品を作るのはなぜ難しいのかという理由について、ベンチャーキャピタル・Boltの設立者であるベン・アインシュタイン氏が解説しています。
No, You Can’t Manufacture That Like Apple Does - Bolt Blog
https://blog.bolt.io/93bea02a3bbf
アインシュタイン氏は、「スタートアップと大企業はあらゆる観点で異なる」と言います。例えばハードウェアを製造する企業について言えば、スタートアップと大企業の間には深い溝があるとのこと。スタートアップは設立時には致命的に財源不足であり、製品の設計、ツール、品質管理、業務把握などの過程でひとつでもミスを犯すと、ビジネスが成り立たなくなります。「ハードウェア製造に二度目のチャンスはない」とアインシュタイン氏は語ります。
ベンチャーキャピタルで働くアインシュタイン氏は、少なくとも週に1度は、「Apple製品のデザインを模倣したい」と考えているハードウェア製造スタートアップの設立者と話をする機会があるそうです。Apple製品を模倣したデザインとは、例えば端末から部品が飛び出していないフラットな設計であったり、表面のデザインがシンプルだったり、部品の穴がきれいに空いているといったものを差します。しかし、アインシュタイン氏は「このようなデザインのディテールは、スタートアップがハードウェアを製造するにあたって重要ではない」と語ります。なぜならば、Appleには実行可能で、スタートアップには不可能なことがあるためとのこと。
by Mohamed Zahid
アインシュタイン氏は、「Appleはあらゆるルールの例外です」と語ります。AppleがMacBookを製造する際には、製造用のコンピュータ数値制御工作機械(CNCマシン)を1万台購入します。他にも、MacBook Proのスリープライトの穴をレーザーで空けたい時に、アルミニウム素材に20マイクロメートルの小さな穴を空けられる機械は世界で1社しか製造していないならば、Appleはその企業を買収し、すべての機械の在庫を手に入れます。小さなスマートフォンにぴったり収まるバッテリーを製造する企業が存在しない場合、Appleはゼロから自社製のオリジナルバッテリーを製造します。このような大胆なビジネスが行える企業は、Appleの他にほとんど存在しない、とアインシュタイン氏は分析しています。
アインシュタイン氏は、「Appleはあらゆる製品を作るために多くの労力を費やしていて、製造が難しい製品を消費者は好むのです。しかし、スタートアップはAppleではありません」と語ります。設立したばかりのスタートアップは、消費者に価値のある製品を供給し、収益を得ているのであれば十分とのこと。
そこで、アインシュタイン氏は「Apple製品にしばしば見られる特徴で、なおかつスタートアップには作るのが難しいため避けるべきこと」をまとめています。
・白いプラスチック
白は、成型するのが最も難しい色です。どうしても製品に白を使う必要があるならば、型をひとつにまとめるべき。2つ以上の型に分けて成型すると、白色が完全に一致する可能性はほとんどありません。
・大規模な製造機械の導入
CNCマシンは、プロトタイプの作成や、股関節インプラントやタービンの羽根のように、利益率の高い製品を製造する場合には素晴らしい機械です。しかし、コンシューマ向けにデバイスを大量生産する用途には向いていません。そのような場合にはCNCマシンを使わず、金属パーツを鋳造する方法を探すべきです。
・レーザーで穴を開ける
レーザーで穴を開ける技術は、想像しているよりもはるかに難しいもの。レーザー以外の他の方法でも、レーザー技術にほぼ見劣りしない穴を開けることは可能です。
・外箱をプラスチック型で作る
Apple製品のほとんどは、透明なポリカーボネートと白いABS/PC混合の素材を使ったケースに収められています。しかし、箱の内側にケースをつけることは、製造が難しいだけでなく製造コストが高くつきます。スタートアップが製品の梱包を行う際には、リサイクル品の段ボールが役に立ちます。
・金型のピンの跡を消す
莫大なお金をかけない限り、どんな製品でも金型のピンの跡は残ってしまいます。ピンの跡の意味について、多くの消費者は理解していないため、跡が残っても諦めるべきです。
・外箱に凝る
4色印刷、二重箱、マット素材、衝撃吸収用のスポンジなど、外箱の仕様に凝れば凝るほどお金がかかります。大量生産の製品であっても、外箱1個あたり12ドル(約1300円)程度の製造費がかかっています。しかし、外箱は購入後に捨てられることが多いため、スタートアップでは製品の外箱に凝るべきではありません。
by Brad Clinesmith
アインシュタイン氏によれば、他にも「Appleを真似るべきではないポイント」が多くあるとのことですが、どうしてもApple製品のデザインをマネしたい場合は、「Appleではなく、まずは他の企業の製品を試してみるべき」とアドバイスしています。
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