宇宙と地球をつなぐ「軌道エレベーター」の仕組みと技術的課題がよくわかるムービー
唯一の宇宙空間への進出方法であるロケットは、大量の液体燃料を必要とするため、毎回、巨額の打ち上げコストが必要です。この高額すぎる打ち上げコストが宇宙開発の発展を妨げる要因の1つとなっている中、ロケットより低コストで宇宙空間に進出できるアイデアとして構想されているのが「軌道エレベーター(宇宙エレベーター)」です。現状の技術レベルでも実現でき得る可能性を秘めている軌道エレベーターの仕組みを、イラスト付きで解説したムービーにより、どんな技術的課題が残っているのかということまで理解できます。
Space Elevator – Science Fiction or the Future of Mankind? - YouTube
宇宙へ気軽に旅行できるSFの世界を夢見る人はたくさんいると思いますが……
現在の宇宙開発レベルはSFの世界を実現しておらず、宇宙へ行けるのは宇宙飛行士かお金持ちだけ、というのが現状です。
そんな宇宙旅行の夢を叶えるアイデアが「軌道エレベーター」
軌道エレベーターの仕組みを理解するには、「軌道」の概念を知っておく必要があります。「ロケットが軌道に入る」という言い方をしますが、「軌道に入る」というのは「落ち続ける」ということ。
ボールを投げると弧を描いて地面に落ちていきますが……
宇宙でも同じことが起こります。宇宙では高速で進むことで落ち続ける状態、つまり地球の周りを飛び続けることができるようになります。
地球から軌道に入るには、ロケットが大量の燃料を消費して、軌道に入ることができる飛行速度に達する必要があります。
一方で、宇宙空間のような高い位置からロケットを発射できれば、少ない燃料で速度を稼ぐことが可能。
ロケットのオモチャを振り回す子どもと、アリを例に考えるとよくわかります。子ども手に引っ付いているアリがジャンプしても、ちょっとしか飛べません。
アリがオモチャに引っ付いていれば、ジャンプするとはるかに遠くまで飛べるのと同じ。
つまり、宇宙空間からロケットを飛ばすことができれば初速が極めて速いので、少ない燃料でもロケットを軌道を周回できる速度で打ち出せます。惑星間航行でも大きなアドバンテージを得ることができるようになります。
軌道エレベーターがあれば、宇宙開発の新たな世界が開きます。しかし、軌道エレベーターを作るにはとてつもない費用が必要。作る価値に見合っているのか、1回の打ち上げコストが1億6000万ドル(約172億5000円)~1億8700万ドル(約200億円)の「Atlas V」で考えてみます。
Atlas Vは打ち上げの際に、各パーツの液体燃料を合計して414トンを必要とします。
Atlas Vを使って「宇宙の宅配便」を送るとなると、1kgあたり2万ドル(約215万円)の費用がかかります。
人間を送ると130万ドル(約1億4000万円)、自動車なら4000万ドル(約43億1000万円)、宇宙ステーションになると1億ドル(約107億円)という、とてつもない金額。
これらの巨額の費用は、宇宙開発最大のネックとなっています。技術が確立されていても、まだまだスペースロケットを飛行機のように気軽に乗れる日は来そうにありません。
そこで、軌道エレベーターの設置費用を200億ドル(約2兆1000億円)と試算します。一度作ってしまえば、軌道エレベーターで物資を輸送できるので、ロケットの打ち上げコストから計算して元が取れていきます。
すると1kgあたりの貨物輸送量は200ドル(約2万1000円)。100万トンの貨物を運び終えれば、元が取れる計算です。100万トンは宇宙ステーション2台分に相当する分量。
そんな軌道エレベーターは、どういう仕組みで動くのでしょうか。軌道エレベーターの構成する主要な部品は、「テザー(ロープ)」「重り」「アンカー(いかり)」「エレベーター本体」の4つ。
地球側のアンカーと、宇宙空間の重りをテザーでつないで……
テザーにエレベーター本体をくっつければ、普通のエレベーターと同様に、宇宙と地球を上り下りできるわけです。
テザーは3万6000kmもの長さが必要で、地球の直径の約3倍に匹敵します。これほど長いテザーを真っすぐ引っぱる重りなら、ロケットの発射台を置くことも可能。
このように軌道エレベーターの仕組みは考案されているものの、実際に作るのは困難を極めます。特にテザーは軽く・安く・今ある物質より頑丈なものが必要。グラフェンやCarbon nanothreadがテザーの候補に挙がっていますが、強度が不十分であるとされています。
強度だけでなく、雨の腐食・宇宙の放射線・スペースデブリに耐えられる対策も考えなくてはいけません。
また、エレベーターが宇宙まで上昇するには数日間がかかりますが、上昇させるにあたって、ばく大なエネルギーを生み出す動力源が必要。
動力源に原子炉を乗せればいいのか、レーザーでなんとかなるのか、最適な手段はまだ見つかっていません。
テザーの材料が決まったとしても、3万6000kmもの材料をどうやって調達するかも未確定のまま。
材料は別の惑星から大量の鉱物を発見できる可能性がありますが……
テザーを宇宙から伸ばすのか、地球から伸ばすのかなど、技術的課題はまだまだ残されています。
事故の危険性も考慮しなくてはいけません。もし地球の地中に埋め込んだアンカーから伸びるテザーが切断してしまったら……
宇宙空間のアンカーは、大量のテザーと一緒に地球から飛び去ってしまいます。さらに、エレベーターの上昇機が地球に落下してくるという大惨事も考えられます。
反対にアンカー側のテザーが切れたとすると……
地球3倍分のロープや、エレベーターの上昇機が、巨大なデブリとなって地球周辺を飛び回ることになるかもしれません。
そのため、もし軌道エレベーターを作るとなると、失敗は許されません。スター・ウォーズのヨーダが「Do. Or do not. There is no try.(『やってみる』はない。やるか、やらないかだ)」と言っているのと同じ。
技術的障壁を軽減するため、まずは「月に作ってみる」というアイデアも提案されています。
月なら地球より重力が軽いため、ケブラーなどの既存の物質をテザーとして使うことができます。
このように、軌道エレベーターを作るのは、さまざまな利益を得られるものの、非常に困難な挑戦となっています。
もし軌道エレベーターが完成すれば、それはSFの世界を実現する「宇宙の時代」を意味するわけです。
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