有料の新聞や雑誌の記事をバラ売りで1記事だけでも購入できる画期的な新サービス「Blendle」が本格的に進出、読了後の返品も可能
1つの記事に対して料金を支払う課金制プラットフォームで、ジャーナリズムのiTunes Storeを目指しているスタートアップ「Blendle」がついにアメリカに進出しベータ版を公開しました。すでにヨーロッパで成功を遂げたBlendleがアメリカに到来するということで、各メディアから賛否両論の意見が飛び交っています。
Blendle
https://launch.blendle.com/
'Blendle Trending' in de App Store
https://itunes.apple.com/nl/app/blendle-trending/id947936149
Blendle - Google Play の Android アプリ
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.blendle.app
Blendleは2014年4月にサービスを開始したオランダのスタートアップです。インターネットで発行される新聞や雑誌の記事を対象としたコンテンツサービスで、ユーザーは1記事から購入して読むことが可能というもの。Blendleはオランダの主要新聞紙やタブロイド紙、ファッション雑誌、美容雑誌などと提携を結び、1記事当たり10セント(約11円)から80セント(約90円)で販売しており、サービス開始から約7カ月で登録ユーザー数がオランダ国内だけで13万人を突破しました。
その後、ヨーロッパで最も著名なドイツのメディア「Axel Springer」とアメリカの「The New York Times」から380万ドル(約4億2000万)の出資を受けドイツに進出し、2016年時点でオランダとドイツにおける登録ユーザー数が65万人を突破。そして、今度はアメリカへの進出をとげてベータ版を公開するに至りました。
Blendleがアメリカ進出を成功させるため提携を結んだのは「The Wall Street Journal」「The New York Times」「The Washington Post」「The Economist」「The Financial Times」「Time」「Newsweek」「Bloomberg Businessweek」など新聞・雑誌合わせて合計20社。ベータ版は1万人限定でローンチされ、新聞記事は1つ当たり19~39セント(約21~43円)、雑誌記事は9~49セント(約10~55円)で購入できるとのこと。有料なので、広告は表示されません。しかも、記事の内容に満足できなければ返品することも可能になっています。
Blendleのアメリカ進出に関して、提携企業の1つであるThe Wall Street Journalは「Blendleの進出により、出版社は読者がコンテンツにアクセスする仕組みを変えることができます。昨今では、FacebookやApple、Snapchatが自社プラットフォームで出版社のコンテンツを保持しつつ広告収入を出版社と共有するという新しい方法を導入しました。このような大きな変化に対して、多くのメディアは『なぜ試してみないのか』という意見を多かれ少なかれ持っているはずです」とコメント。
また、Timeのマーケティング部上級副社長のスコットマカリスター氏は「Blendleはメディアがテストしたり学んだりするのに重要なサービスになると思う」と述べています。Blendleと提携を結んだ他のメディアは、Blendleをマーケティングツールの1つとして捉えていて、Blendleで記事を読んで良い感想を抱いてもらい、その後に公式サービスで購読してくれたらと考えているそうです。
しかし、メディアの中にはBlendleの展開に対して疑問の声をあげる企業もあります。IT関連メディアのRe/codeは「収益を生み出すのに苦労を強いられている出版社に対して、Blendleが新しい方法を示すのは良いこと」としながらも、「マイクロトランザクション(少額取引)はオンラインゲームでは収益を高める強力なツールになります。オンラインゲームは、ほとんどのユーザーが無課金でプレイしているものの、ごく少数のユーザーが大量に課金することで収益をあげています。もし、The New York Timesの大ファンである裕福な読者がいたとしても、記事単体にお金を払うのではなく購読サービスを利用するはずです」と否定的な姿勢を見せました。
The VergeはBlendleの返品システムに問題があるのではと指摘しています。Blendleの2015年4月のデータによると、全記事の返品率は10%だったものの、ゴシップ系雑誌の記事となると返品率が最大で50%あったとのこと。これは記事自体の内容がユーザーのニーズを満たしていなかった可能性がありますが、ユーザーがただ単に記事の内容を気に入らなかった可能性などが考えられます。ユーザーの好みで特定のメディアだけ返金されまくるという事態も起こりかねません。また、マイクロトランザクションを採用することで、ユーザーが自分の意見と対立するような記事を読まなくなり、双方向の意見を読めなくなることもThe Vergeは危惧しています。
また、コロンビア大学ビジネススクールのリタ・マクグレイス教授も「もしBlendleのマイクロトランザクションが成功したら、出版社に多大な利益を生みだすでしょう。ただし読者と編集者には悪影響があるかもしれません。読者が記事を購入すればするほど、その読者のデータからBlendleはどの記事をページトップに掲載して、どの記事をページの下の方に掲載するかを決めてしまうこともあるはずです。もし、編集者や記者がBlendleは儲かると感じれば、読者が購入しやすい記事ばかりが増える可能性もあります」としています。
Blendleの共同創設者の1人であるアレクサンダー・クロッピング氏は、ユーザー数や広告売上が落ち込んでいる新聞・雑誌を救うべく同社を起業しました。Blendleが新聞社や雑誌社の収益に貢献できるかどうかはまだまだ未知数ですが、例えば、朝日新聞の2015年度の広告総売上が最盛期の3分の1以下となる約600億円にまで落ち込むなど、日本でも新聞社や雑誌社は厳しい戦いを強いられており、Blendleがアメリカで成功すれば、日本にも進出して停滞する出版業界をブーストすることができるかもしれません。
なお、Blendleは同サービス経由で新聞や雑誌の月額購読が可能になるオプションを実装予定とのこと。まずは、ヨーロッパで同機能をリリースし、アメリカでも近いうちに実装するそうです。
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