インタビュー

「初勝利への手応えは?」などエアレース2016年シーズンの展望を室屋義秀選手に聞いてきました


2016年3月10日に開幕する「Red Bull Air Race World Championship(レッドブル エアレース)」に先だって、アジア人で唯一エアレースに参戦するパイロットの室屋義秀選手が2016年シーズンのチーム体制や意気込みや国内で展開するスカイスポーツの取り組みなどを伝える「室屋義秀 2016年シーズン キックオフ・ミーティング」が開催されました。そこで、2016年も千葉県で開催されるエアレースに向けての仕上がり具合について、室屋選手にいろいろ聞いてきました。

Red Bull Air Race
http://www.redbullairrace.com/ja_JP

東京・渋谷のレッドブル・ジャパンに到着。


2016年3月11日に開幕するエアレース2016開幕戦・アブダビを前に、室屋選手がレースモードに入る直前というタイミングで「室屋義秀キックオフ・ミーティング」として記者会見が行われました。


室屋選手登場。


2015年の千葉から導入した新機体「Edge 540 V3」は、2016年シーズンから「ウィングレット」を採用。しかし、2015年10月にOKだったウィングレットは長さが審議対象となって2016年開幕戦に間に合わないことになってしまったとのこと。


◆インタビュー
というわけでウィングレットのことも含めて、記者会見終了後に、室屋選手にインタビューしました。

GIGAZINE(以下、「G」):
2016年シーズンでは、ラウンドオブ8の対戦相手がラウンドオブ14のタイム順で決定されることや10位までポイントが与えられるなど、細かなルール変更がありますが、ルールだけでなくピーター・ベゼネイ、ポール・ボノムというエアレースの歴史を作ったパイロットが引退したという変化があります。室屋選手にとって、大きなチャンスと言えますか?

室屋義秀(以下、「室屋」):
うーん。そうは思っていないんですよね。14名パイロットがいて、誰かが抜けたとしても混戦であることに変わりはないですし、誰かが抜けても必ず誰かが出てくるものです。だから、特別、チャンスとは捉えていませんね。

G:
囲み取材の時に、2009年デビュー組(室屋義秀、マット・ホール、マティアス・ドルダラー、ピート・マクロード)が2016年シーズンの中心になりそうだという話が出ましたが、2009年組の室屋さんには今年は勝つ手応えがあるということでしょうか?

室屋:
そうですね。ファイナル4に残っていける、トップ3に入っていけるチームはできていると思います。その中でも、1番になるというのは抜け出さなければいけないわけで、そのためのアイテム(注:新しく機体に導入する予定のウイングレットのこと)を失っている状態ですけれども、そこを積んでいけば、最終的には優勝も取っていけると思っています。ただ、現段階(ウィングレットがない状態)でも、ファイナルに残るくらいの実力はあるのではないかと思っています。


G:
2015年シーズンを振り返って、千葉のコースレコード、ラスベガスの予選トップなど一発の速さは間違いなくあると思います。しかし、これを予選、ラウンドオブ14、ラウンドオブ8、ファイナル4で4つそろえるのが難しそうです。安定してタイムをそろえる難しさとは?

室屋:
ファイナル4に残りだしたのは昨年の後半戦に固まっているのですが、実はファイナルだけタイムが落ちるのです。そういう傾向が明らかにあったのです。ラウンドオブ14からラウンドオブ8までは1時間あるのですが、ラウンドオブ8とからファイナル4までは給油などがあるため5分くらいです。ですから、エンジンの温度などファイナル4は他のフライトとはずいぶん異なるのです。機内の計器で見られる温度には違いはないのですが、センサーのない保器類も含めると、いろんなものが過熱している可能性があるというのが、途中で分かってきました。ファイナル4で失速する原因というのがだいたい分かってきています。

けれど、まだ「ファイナル慣れ」していないというところがあって、そのあたりが勝ち抜けなかった、優勝に届かなかった大きな要因ですね。ファイナル4だけはいろいろなマネジメントを含めて違うのだということが今は分かっていますけれど、昨年はそこがよく分からないまま進んでいったということだと思います。

G:
なるほど。熱対策が大切だと。これはファイナル4に残り続けたから分かったということで、足りなかったものは「経験」だったということですか。

室屋:
そうですね。経験だと思います。

G:
2014年に初の表彰台。2015年は3位に2度なりました。しかし、「3位と1位との壁」ということをおっしゃっていましたが、その壁というのはクリアできそうですか。

室屋:
クリアしたつもりでいたんですけれど(笑)また、ちょっと戻ってきてしまったりして。行ったり来たりしている状態ではありますけれども、(壁の向こう側は)見えていると思います。ただ、冬の間に他のチームがどんな準備をしているのか、正直分からないことも多いので、飛び抜けたチームがいれば、また壁が高くなると思います。けれど、昨年のレースから考えていけば、うちのチームも順当に進めていると思います。

ただ、総合優勝、チャンピオンということになると「コンスタントに勝っていく」ということなので、そうなると機体はもう一段(上のレベルが)欲しいのです。スピードがもう一段欲しいのです。それがあれば、コース取りなどレースで無理をしなくてよくなるので、安定して勝っていける。それが我々の大プランだったのですが、そうは甘くもないでしょうから、攻めて攻めて勝ち抜けるかというところだと思います。


G:
機体の能力を補うために無理をすれば安定性を欠く。そこでもっとスピードが必要。そのための武器がウィングレットということでしょうか。

室屋:
そうです。入れようとしていたのですけれど、現時点ではまだ武器がないので、ウィングレットを導入するまでは無理をして勝ちをつかみ取っていくしかないということで、ウィングレットがない状態でもいろいろなことを進めていかなければならないという状況です。

G:
先ほどの熱対策など含めてですか。

室屋:
そうですね。熱対策も含めてすべての部分ですね。

G:
昨年、新機体のV3を導入されて、いよいよ熟成のときでしょうか。仕上がり具合は何%くらいまできているというイメージでしょうか。

室屋:
何%というものはなくて、常に進化しているものなのです。他のチームもそうです。今、冬場にセットアップしているものは1年間使うわけではありませんしね。半年くらいで時代遅れにもなり始めるのです。1年経てば完全にタイムでは追いつけないはずです。ですから、オフシーズン中もオンシーズン中も常に追いかけていく。95%、98%になり100%になったと思った瞬間、他が追いついてきたり、抜いたり。ふたたび%は戻っていく。お互いに行ったり来たりのせめぎ合いを全チームでしていますから。その中でも、いかにして常に一歩リードするかというのは難しい課題です。ですから100%というのはないのだと思います。


G:
なるほど。常に進化が必要だと。

室屋:
そうですね。

G:
機体がそうであると同時に、パイロットも進化を続けなければいけないということですか。

室屋:
そうですね。

G:
記者会見でメンタルトレーニングにも取り組んでいるという話がありましたが、室屋選手にはルーティンのようなものはありますか?

室屋:
日々のペースを保つというのは心がけています。レースの日であろうと、普段のトレーニングの日であろうと同じように。

G:
常にレースの状態ということですか?

室屋:
そうですね。ただ、精神的に緊張を保つと体がもたないので、安定して状態を守っていくことが大切だと思っています。

G:
室屋選手に限らず、エアレースでは予選上位でもラウンドオブ14で敗退というシーンがよく見られます。直接対決のヒートには単純なタイムトライアルとは違う難しさがあるのですか?

室屋:
ありますね。特に昨年の方式だと、予選の結果と進出者が異なるというのが結構あったと思います。ちょっとした運もあります。ルール変更によって今年は解消されてくると思います。去年までよりもラウンドオブ14がずっと重要になってきます。タイムの良い速いチームが順当に上位に上がってくるのではないかと予想しています

G:
運ということでは、同じ2009年組のマティアス・ドルダラー選手とはよくあたるというイメージです。

室屋:
そうですね(笑)

G:
いやな相手というのはいるのですか?

室屋:
相手を気にしてもしょうがないですね。タイムと戦っているだけなので。なのですが……ドルダラーなどはトレーニングからよく知っている仲なので。彼はメディアでもわざとやっている(挑発している)のです。半分冗談でゲームというところもあるのですが。ドルダラーはここ一番で速かったりするので、やりにくい相手ではありますね。

G:
ドルダラー選手は勝ったレース後に無線で歌声を聞かせるようですが、すべての選手とそのようなやりとり、神経戦のようなやりとりがあるのですか?

室屋:
ちょっとはありますけど……。もちろん飛ぶ前は禁止です。それをやると失格になるので。飛んだ後は……ね。もう負けてるから次のフライトはないので、いいのですけれど。次のレースに向けて、半分冗談ですが、やり合っているところはありますね。

G:
次にフライトするときに、空中で旋回して待機してるときはどのような状態なのですか。

室屋:
待機時間はだいたい3分半くらいです。離陸がコントロールされているので。空中に上がってエンジンのセットアップがありますし、場合によってはエンジンを全開にしてギリギリまで燃料を減らすということもします。もちろん温度が上がりすぎると冷やすために今度は(スロットルを)絞ったり。また、風をみたり、レースに入るための準備という感じで忙しいですね。ある程度、Gをかけてウォームアップしてレースコンディションにしたら、あとは体力を残してじっと待つというのが僕のやり方です。

G:
直接対決は先行(タイムが遅い選手)、後攻(タイムが速い選手)がありますが有利不利はありますか。

室屋:
それは圧倒的に後攻が有利です。タイムを聞いて飛ぶので。

G:
作戦変更も可能ということですね。

室屋:
はい。後攻の方が断然、有利ですね。

G:
レース中のコックピット映像では、室屋選手は「ハッ」「ホッ」など叫んでいるというか気合いを入れているようですが、あれはどういう目的で何をしているのですか?

室屋:
レース中でも一瞬、集中が切れる瞬間があるのです。1分間集中はもたないので。ここからここまでというようにセクターごとに一度仕切り直しをしなければいけない。そんな時に、静かにやってもあまりうまくいかなかったので、声を出すことで気を入れるということと、仕切り直して次の集中というように、セクター1、セクター2、……とこなしている感じです。

G:
新たに導入しようとしているウィングレットについて、「1秒速い」とのことですが、具体的なメリット、デメリットは何ですか?

室屋:
メリットは、翼の端にできる「翼端渦」を止めることで抵抗がぐっと下がります。それは旋回中などのGがかかった状態で特に効きます。旋回のスピードが上がるということと、当然、加速が良くなります。旋回からの脱出速度が上がります。デメリットは、物理的な面積が増えるということで抵抗になり直線スピードは落ちるということです。


G:
直線速度を犠牲にしても、旋回性を取ったということですか。

室屋:
そうですね。レース中は旋回している時間の方が長いので。すべてシミュレーションした結果、2倍という長さにたどり着いたということです。

G:
2015年開幕前に「(2016年シーズンに)スタートから勝ちに行ける態勢」を作るための2015年シーズンという話をされていました。ウィングレットの認可が遅れているということで軌道修正して、「2016年は中盤ごろから勝ちに行ける態勢」ということですか。

室屋:
今、プランの策定中です。もともと(ウィングレットの認可が遅れることは)想定してなかったものなので。ただ、そこまでもっていかなければならないと思っています。

G:
だいたい夏くらいでしょうか?

室屋:
なるべく早くしたいのですが、今日も、今もまさに技術者がプランを練っているところです。あれやこれやと計算してくれています。まだ、いつぐらいに投入できるかは言いにくいのですが。


G:
メカニックが西村さんから新メカニックに入れ替わると聞きました。この理由は何ですか?

室屋:
ケリーというメカが入ります。スピードをあげるための新しい改造について、スペシャリストを入れるということになりました。

G:
ウィングレットを含めた話ですか?

室屋:
そういうカーボンの設計が極めて得意なメカニックです。

G:
最後に、2015年に日本で初開催されたエアレースを見てレースを知った人が増えています。「2年目の千葉」の見所について教えてください。

室屋:
去年からTVを含めてずいぶんとエアレースを見てもらえる機会が増えました。パイロットを含めてレースの事情について、みなさん去年よりもずっと詳しくなっていると思います。エアレースについての予備知識がある状態で見ると、また一段と面白くなり、もっと楽しんでもらえると思います。今年は予選からもっとヒートアップするフォーマットのはずなので、予選日からかなり面白くなるのではないでしょうか。

G:
本日はありがとうございました。

2016年3月11日に開幕するエアレース2016シーズンは、第3戦は2016年6月4日((土)、6月5日(日)に今年も千葉で開催されます。「レッドブル・エアレース千葉2016」の観戦チケットの販売は、2016年3月1日(火)午前10時から全席一斉にスタートします。

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in 取材,   インタビュー,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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