メモ

スマホのバッテリーが児童労働によって発掘されたコバルトで成り立っているという実態


小型で大容量の電力を蓄えることができるリチウムイオンバッテリーは、今やほとんどの人が手にしているスマートフォンやタブレットといったデバイス、そして普及が進むハイブリッドカーなどの中に内蔵されています。そんなリチウムイオンにはコバルトと呼ばれる金属が電極として用いられているのですが、その採掘・生産に多くの児童が従事させられている実態が国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」のレポートで明らかにされています。

Child labour behind smart phone and electric car batteries | Amnesty International
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2016/01/Child-labour-behind-smart-phone-and-electric-car-batteries/


Tech Giants Accused by Amnesty of Using Cobalt Dug by Children - Bloomberg Business
http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-01-19/apple-may-be-using-congo-cobalt-mined-by-children-amnesty-says

Amnesty International report: Children mine cobalt used in gadget batteries | Ars Technica
http://arstechnica.com/tech-policy/2016/01/amnesty-international-report-children-mine-cobalt-used-in-gadget-batteries/

◆児童が労働力として駆り出されている状況
アムネスティ・インターナショナルとコンゴの非政府機関であるAfrewatch(African Resources Watch)が公表したレポートでは、アフリカ中部に位置してコバルトを多く産出するコンゴ民主共和国で7歳から14歳の児童がコバルトの採掘に従事させられている実態と、生産されたコバルトがどのようなルートをたどって世界各地に広がっているのかが明らかにされています。

その様子を端的に示しているのが以下の図です。画像中央に位置するコンゴから出荷されたコバルトは中国へと輸入され(緑)、コバルトの加工品が日本や韓国のバッテリー生産工場へ(青)、そしてアメリカやヨーロッパ各国へは完成品となったバッテリーが輸出(ピンク)されている実態が示されています。


コンゴは世界最大のコバルト生産国で、全世界で生産されるコバルトの半分以上を産出しています。その生産量は2015年で6万7735トンにも上り、うち8割は大手の採掘企業によって掘り出されたものになっています。

今回のレポートで特に問題とされているのが、残る2割を生産している業者です。これらの企業は大手のような大規模生産設備を持たず、満足な機械も使わずに「手掘り」同然で採掘を行うスモールスケール・マイニング(またはArtisanal mining)でコバルトの生産を行っており、健康に重大な影響を及ぼす危険な環境で児童と大人が採掘に従事していることが明らかにされています。


スモールスケール・マイニング業者(以下、マイニング業者)の多くは、コンゴ南東部に位置するカタンガ州で採掘を行っているとのこと。標高1000メートルほどの高原が大半を占めるこの地域はコバルトやウランといった地下資源が豊富なことで知られており、周辺国との紛争が幾度となく繰り広げられてきた地域でもあります。

それらマイニング業者が採掘したコバルトの多くは、Congo Dongfang Mining International(CDM)によって買い取られています。CDMは世界最大のコバルト製品メーカーの1つである中国系企業「Huayou Cobalt」の一部門で、マイニング業者から買い入れた鉱石をコンゴ国内の都市「ルブンバシ」にあるプラントで水酸化コバルトの原料に加工し、中国や韓国のバッテリー部品メーカーに向けて輸出を行っているとのこと。2014年には3561トンの水酸化コバルトがCDMによってコンゴから輸出されています。


マイニング業者による悪環境の中での採掘、そしてそれらの業者からCDMがコバルトを仕入れるという構造についてアムネスティは「CDMおよびHuayou Cobaltはコバルトの流通路における重要な場所に位置している」ことを理由に、子どもと大人が危険な環境下で働いて生産したコバルトを買い入れ、潜在的に販売しているという「非常に高い危険」が存在していると指摘しています。指摘を受けたHuayou Cobaltもレポートの内容を把握しているとのことですが、同社の幹部はBloombergの電話取材に対して「返答には時間が必要である」と答えたとのこと。

BloombergによるとHuayou Cobaltは以前にも違法な炭鉱で子どもを使った採掘を行って問題になっていたこともあります。

アムネスティのレポートによると、コンゴでは4万人の児童が採掘業に携わっているといわれており、そのほとんどがコバルト採掘に関わっていると見られています。1日当たり12時間に及ぶ労働を行い、重い岩石を運んで得られる収入は1日当たり1ドルから2ドル(約115円~230円)程度。平日は学校に通いながら、週末と学校が休みの日に10時間から12時間の労働を行う子どももいるそうですが、学校に通わずに一年中ずっと採掘の仕事をする子どもいるとのこと。12歳の頃に採掘の仕事を始めた「ポール君」と呼ばれる14歳の少年はアムネスティの調査員に対し、「鉱山のトンネルの中で24時間を過ごすこともよくあります。朝に鉱山に入り、翌日の朝に出てくるのです」と語っています。


また、他の児童が語った内容によると、屋根がなく、気温の高い環境で働き、時には雨の中で仕事をすることもあるとのこと。大人の労働者と同じように、常に高濃度のコバルトにさらされる環境にありますが、手袋や顔を覆うマスクなどを装着せずに仕事にあたっています。聞き取りを行った子どもの多くは高い確率で病気にかかることを訴えており、15歳の少年「ダニー君」は調査員に対し、「現場には非常に多くのホコリがたちこめており、すぐに風邪をひいてしまいます。そしてケガをすることもよくあります」と現状を語っています。

この状況について、アムネスティの調査員であるマーク・ダンメット氏は「きらびやかな店頭のディスプレイや最新のアート技術を使った広告は、岩石が詰まった袋を運ぶ子どもや、肺に重大な障害を負う危険を冒して炭鉱で働く作業者の現状を厳しく反映するものとなっています」と指摘しています。

◆生産されたコバルトの流通経路と、供給を受けているとされる各メーカーの反応など
アムネスティがさまざまな資料をもとに明らかにした、Huayou Cobaltが生産したコバルトの流通経路が以下のイラストにまとめられています。サプライチェーンの最上位にはCDMとHuayou Cobaltが位置しており(水色)、そこからまずは3つのバッテリー部品製造メーカー(橙色)へとコバルトの加工品が出荷されます。そこから数々のバッテリー製造メーカー(黄色)へと製品は流れ、最終的にAppleやSamsung、LG、メルセデス、Sony、フォルクスワーゲンといった各種メーカー(緑色)へとたどり着く構造が明らかにされています。


レポートでは、ここで挙げられている各メーカーの対応の様子も記載されています。それによると、Appleは「御社の製品にコンゴを原産国とするコバルトが使われているか」とする問いに対し「現在評価中(Currently under evaluation)」と返答しており、「CDMまたはHuayou Cobaltが御社のサプライチェーンに含まれているか」の問いに対しても同様に「現在評価中」との答えを返しているとのこと。また、人権に関する方針などの詳細については「労働および環境に関するリスク、そして効果的かつスケーラブルで、サスティナブルな変更をAppleにもたらすチャンスを確認するために、コバルトを含む数多くの原料についての評価を目下実施中」と、理解に時間のかかりそうな返答を行っています。

currently evaluating dozens of different materials, including cobalt, in order to identify labor and environmental risks as well as opportunities for Apple to bring about effective, scalable, and sustainable change.

また、Samsungは「サプライヤーの情報非公開や複雑なサプライチェーンの構造のため、現実的には原料の起源をトレースすることは非常に困難である。そのため、コンゴのカタンガ鉱山で採掘されたコバルトがSamsung SDI(Samsung傘下のバッテリーメーカー)に供給されているのかを特定することは不可能である」と返答。同様にMicrosoftは「サプライチェーンの複雑さと、必要とされるリソースの要因から、Microsoftではこれまで、弊社の製品に使われているコバルトを精錬所レベルでトレースしていなかった」とコメント。さらにSonyは「弊社では、生産拠点における人権および労働環境、また、鉱物やそれ以外の原料の調達に関する問題の把握を行うためにサプライヤーと協働してきました」とコメントしています。

アムネスティのダンメット氏はこのレポートに関し、「何百万人という人が新しいテクノロジーの恩恵をこうむっている一方で、それらがどのように生産されているのかについて尋ねることはほとんどありません。巨大なブランド企業は、自社に大きな利益をもたらす原料の資源採掘について幾ばくかの責任を果たすべき時が来ています」と指摘しています。


アムネスティ・インターナショナルが公表したレポートは以下のページから自由にダウンロードすることができるようになっています。実際のレポートでは上記の内容の他、さらに詳細なマイニング業者の現状や、CDMやHuayou Cobaltからの返答の原本、関連する企業や各国政府レベルに対する問題的と要望などが含まれています。

Document | Amnesty International


レポートはページ下部にあるプルダウンメニューから中国語か英語、フランス語を選択して「DOWNLOAD PDF」をクリックすればローカルにダウンロードできるようになっています。

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in メモ,   モバイル,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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