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「初心者」「プロっぽく」「プロ」の3段階でどのレンズを使うべきか、オリンパス「M.ZUIKO」レンズの中の人にいろいろ聞きまくってみました


デジタル一眼カメラ「OM-D」や「OLYMPUS PEN」で存在感を見せているオリンパス。「M.ZUIKO」は、オリンパス伝統のレンズブランド「ZUIKO」をデジタル専用設計にした最新のラインナップで、顕微鏡や内視鏡のトップメーカーでもあるオリンパスならではの高い光学技術と描写性が、小型軽量のレンズに詰め込まれています。

今回、オリンパスの東京事業所に行ってレンズに詳しい人から直接話を聞く機会ができたので、「じゃあ、まずはどのレンズを使えばいいんですか?」というかなり基礎的なところから話を聞いてみました。インタビューに応じてくれたのはオリンパス株式会社 映像事業ユニット 映像商品企画本部 映像商品戦略部 商品企画グループ 課長代理の小野憲司さんです。

OLYMPUS ZUIKO
http://cameras.olympus.com/zuiko/ja-jp/


◆初心者でも使いやすい標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」&「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ」
GIGAZINE(以下、G):
カメラのレンズというと多種多様、いろいろなものがあります。カメラに慣れていない時には、似たような数字が並んでいるのに大きな価格差のあるレンズがあったりして驚いたりしますが、そこにはどういう理由があるのか、レンズ作りの企画・開発からのエピソードも含めて伺えればと思います。まず、ここに用意していただいたレンズですが……。


オリンパス 小野憲司さん(以下、オ):
レンズのラインナップにもいろいろとある中で、本日ご用意したのは、「これさえあればデジタル一眼カメラ初心者の方でも撮影できますよ」というレンズ、そこからステップアップして「もう少しプロに近づいた作品が撮りたい」というときにオススメのレンズ、そしてプロの写真家のニーズにも対応する、写真を生業にするのであればぜひ使っていただきたいレンズの、3種類です。

まず、カメラのボディとレンズがセットになっている「レンズキット」についてくる標準的なズームレンズがこの2本で、14-42mm(35mm判換算 28-84mm)と12-50mm(35mm判換算 24-100mm)の2本です。

G:
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ」の2つですね。


オ:
14-42mm EZは世界最薄の電動式パンケーキズームレンズで、携帯性に非常に優れており、キットレンズとして大きな自信を持って送り出せるレンズです。電源をオフにすると伸びた胴が収納されるので携帯性・機動性に優れているわけですが、同時に、交換レンズとしての画質も担保しています。OM-D E-M10やOLYMPUS PENをお使いのお客さまにも好評です。ズームやマニュアルフォーカスの操作性などを考慮して、実機で開発者と一緒に何百回も触って「どういう操作が良いのだろう」と頭をひねり、開発を進めていきました。


G:
ふむふむ。

オ:
もう1つの12-50mm EZは、OM-Dを最初に出したときの標準レンズとして出したレンズです。大きな特徴はレンズの長さが一定のままズームが可能というところで、それに伴って防塵・防滴機構を入れることができました。全長が一定なので、防水機構のシーリングを入れやすかったということです。フィールドにおいては、この12-50mm EZも機動性が優れています。こちらもズームを操作するときやマニュアルフォーカスの感覚が良く、写りも十分しっかりしています。

特筆すべき点はマクロボタンを設けているところです。ボタンを押しながらズームリングを前側に切り替えると最短撮影距離がぐっと縮まり、標準ズームでは寄れないところまで寄ることができます。また、全長が一定なので、ズーム時の音が静かになっており、動画撮影でも力を発揮するレンズとなっています。


G:
なるほど。この2つは焦点距離の数字だけを見ると近しいレンズですが、見た目はかなり異なりますね。携帯性の違いで使い分けられることが多いのでしょうか。

オ:
発売当時は、OM-Dの人気が上がったこともあって、標準キットに入っている12-50mm EZをつけている人を見かけることが多かったです。時系列でいうと、そのあとに小さいレンズを開発したので、昨今だと14-42mm EZを持っている方が非常に多いです。12-50㎜ EZには、マクロ性能があったり、動画撮影中でもズーム音を気にせず操作できるという点があるので、そういうメリットを選ぶ方は12-50mm EZを持っておられるようです。また、焦点距離の差もそれぞれわずかに見えますが、フィルムカメラ時代から用いられていて基準となる「35mm判換算」の値に直すと、14-42mmは「28-84mm」、12-50mmは「24-100mm」なので、レンズをできれば交換せずにいきたいと考えるのであれば12-50mm EZの方が汎用性は高くなります。一方、携帯性、コンパクトであることを重視するのであれば14-42mm EZです。

G:
14-42mm EZのように薄くて平べったい形状の、いわゆる「パンケーキレンズ」は、CMで女優さんが使っていたり、あるいはカメラにつけたままカバンに入れておけることから女性に人気があり、一方でカメラをしっかり使う男性はカメラバッグを持ったりするからレンズが多少大きくても気にしないのかなと思うのですが、そういうことはありますか?

オ:
大いにあります(笑) ただ、弊社の場合は一眼レフカメラとそのレンズを作られているメーカーさんよりも「小型」「軽量」を追求したマイクロフォーサーズ規格で、「どんなシーンでも感動を撮りきろう」というコンセプトのもとカメラを作っていて、小型軽量&高画質を追求した結果、ここにたどり着いています。なので、レンズについても決して「大型」「重量」ではないので、気軽に複数のレンズを持ち運んで交換していただくという価値に繋がっているかなと思います。

G:
なるほど。14-42mm EZが150gで、12-50mm EZは見た目は2倍以上の大きさがありますが重さは212gなので、2倍まではないですね。

◆ステップアップの単焦点「M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8」&「M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8」&「M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8」
オ:
そこで交換するレンズとして出てくるのが、さらに写真を楽しんでいただくためのステップアップレンズです。今回は、特にコストパフォーマンスの優れている25㎜ F1.8(35mm判換算 50mm)、45㎜ F1.8(35mm判換算 90mm)、そして、映りに定評のある75㎜ F1.8(35mm判換算 150mm)を用意しました。このあたりはシャープさややわらかいボケを楽しむことができ、一方で価格も何十万円もするものではないので、ステップアップレンズの選択肢としてお薦めします。


オ:
従来は我々も「みんな、レンズはキットの1本だけというお客さまもいるのでは?」と思っていたんですが、スマートフォンとSNSの隆盛により、「写真」に対する皆さんのレベルがものすごく高くなってきているんです。

G:
それは確かに感じます。

オ:
標準ズームレンズで撮るよりも単焦点のレンズを使った方がボケるし被写体がくっきり写るということを、それまで特別にカメラに詳しかったわけではない人でも思うようになっています。その中で、「いい写真を撮れる」ということを自分から発信していく文化もできてきているので、まずは単焦点の45mm F1.8というレンズを手軽に楽しんでいただきたいということから企画をしています。

G:
なるほど、そういった理由でこのレンズがここに並んだんですね。まず、これが「M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8」ですね。

オ:
ファミリー層や若い女性でも「ポートレートで被写体を浮き上がらせて撮る」ということを意識する中で、35mm判換算だと焦点距離90mmに相当するこの45mm単焦点レンズが3万円を切る値段で手に入れられます。35mm判換算で80~90mmのレンズというと10万円を越えるようなレンズもありますが、我々は機動性と写りでバランスを取って設計して仕上げており、女性の皆さんにも「子どもを撮るならコレ」と選んでいる方が多くいらっしゃいます。


G:
ポートレートで使いやすいレンズなんですね。

オ:
私が自宅でよく使っているレンズがこの25mmの「M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8」です。企画をやるようになって、一番最初に力を入れたレンズでもあるので、すごく思い入れがあります。

このレンズのいいところは35mm判換算で50mmという、写真文化ではなじみ深い焦点距離であること、明るいF1.8のレンズであるということ、そして最短撮影距離が25cmまで寄れるということです。子どもが寝返りする瞬間を捉えたり、ハイハイしているところをローアングルで撮ったりするにはピッタリのレンズで、お母さん方やファミリー層の方々にはもってこいのレンズだと思います。


オ:
こちらの「M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8」は、値段が少し高くなるんですが、レンズ設計が非常に優秀です。中心から周辺まで「毛穴が見える」と言われるほどに好評で、持ったときの金属の質感も、単に金属を被せてあるのではなく、本当に金属で作っていることがわかってもらえるような高級な品位と高画質のバランスを高い次元で実現しているレンズです。

これは単焦点でも手の届きやすい25mmや45mmのレンズを楽しんだあと「さらに」というときの1本です。75mmは35mm判換算だと150mmと望遠になるんですが、その焦点距離だからこそ撮れるものも出てきます。先ほどからポートレートのことをよく引き合いに出していますが、ポートレートでも引き締まって撮れるので、ステップアップ先のレンズとしては自信を持ってオススメできるレンズです。


G:
25mm、45mmと比べると一回り大きくなって、見た目のイメージが変わりますね。

オ:
焦点距離の差というのもあるんですが、やはり望遠側へ行けば行くほどレンズは少しずつ大きくなっていきます。しかし、一眼レフを使ってきた人であっても、「この写りで、この大きさに収まるのか」という印象を持っていただけるレンズに仕上がっていると思います。もちろん、プラスチック製のものも品質にはこだわってスムーズに動くように設計していますが、この金属の「しっとり感」はまた一歩違った印象があります。

G:
25mm、45mmと比べると75mmで価格が大きく変わって驚くところですが、作りが大きく異なっているのが理由だったと。

オ:
はい、ぜひご自身で持ち、一度撮っていただきたいレンズです。

◆写真を生業にするならプロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」&「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
オ:
そして最後にご紹介するのがプロレンズシリーズです。今回はキットレンズからステップアップした人がやってくるのはどこかということで、12-40mm PROと40-150mm PRO、どちらもF2.8のレンズを持ってきました。この2本は、O-MD E-M1を出したときに同時に出したレンズで、フラッグシップのカメラを出すからにはそれに見合う性能のレンズを出す必要があるだろうという考えで作りました。レンズというと「資産」というイメージがあると思いますが、まさに資産となるように、「後世になっても使ってもらえるレンズ」を追求しました。ボディに関してはセンサーの進化などがありますが、撮影にあたってレンズ性能をまだ全て使い切れていないかもしれない、というぐらいレンズ性能が高いのが「プロレンズ」たるゆえんです。


G:
レンズの性能が高すぎてボディが進化してもなお性能をフルで出せていないかもしれないとは、いったいどれだけの性能が詰まっているのかという話なんですが(笑)、開発においては「ボディあってのレンズ」なのでしょうか。それとも、連携はしているけれどもレンズはレンズという感じでしょうか。

オ:
ボディとレンズの開発現場は本当に隣のデスクで行なっている様な状況なので、連携は常に行っています。私はレンズ関係の企画を担当していますが、ボディの企画を担当するメンバーが隣に座っていて、常に「ボディとレンズのラインナップをどうしていけばお客さまに喜んでいただけるか」などと考えながら、次の仕込みとかを行ったりしています。

G:
なるほど。

オ:
この「プロレンズ」の特徴はFナンバーが明るいというところです。Fナンバーというのはレンズの名前に着いている「F○○」という部分で、この数字が小さいほど「明るいレンズ」で、よりシャッタースピードを上げることができます。この12-40mm PROの場合、ワイド側から望遠側まで、すべて同じFナンバーで露出が変わらないでズームすることができます。また、マニュアルフォーカスクラッチ機構が入っており、AF時にフォーカスリングを少し手前に引いていただくと即座にMFに切り替えることができます。その際にカチッと音が確認でき、距離指標が現れます。


G:
おっ!

オ:
任意の被写体がだいたい決まっている場合、距離がすでに分かっているときにはこれを表示して、自分の任意のところでフォーカスが合うように切り替えられます。これは望遠からすぐに任意の場所に変えられるように、機動性も含めて考えられるシステムです。プロレンズとして、動き方や制御についても見直しをかけて追求しているのが、オリンパスのプロレンズの操作性を特徴付けています。


40-150mm PROについても同じような機能が入っているほか、付属のレンズフードが沈胴式になっています。レンズフードは使わないときには逆さ向きにしてレンズにつけておき、使うときには取り外して逆さを向けてレンズ先端に取り付けるという作業が必要になってきますよね。小さいレンズフードなら片手でも作業できるし、逆さ向きにしないでもカバンに入れておくことはできますが、大きいレンズフードだと難しいんです。そこで、レンズフードを装着したまま、フード自体が沈胴式レンズと同じように収納できれば機動性が上がるのではないか、ということで考案したものです。

レンズフードを装着して伸ばした状態。マニュアルフォーカスリングよりも前、レンズ先端からフードが前方に伸びています。


これがレンズフードを装着したまま縮めた状態。ズームリングまで見えなくなります。


G:
望遠側が150mmというと、35mm判換算だと300mmというレンズで、大きくて重たいのが当たり前なので「機動性」という単語とは無縁かと思っていました(笑)

オ:
このサイズになったことで、「三脚座が要らなくなった」というコメントもいただいております。ただ、そのまま三脚座を外すだけだと、三脚座を留めるためのビス穴がむき出しになってしまいます。

三脚座を外したところ


オ:
手持ちする場合、ちょうど三脚座のあった部分を手で持つことになるので、この状態でも撮ってもらえるようにデコレーションリングを追加発売しました。

レンズアクセサリー|OM-D/PEN用 交換レンズ||デコレーションリング DR-66 (M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO用)(カラーバリエーション無し)|オンラインショップ|オリンパス
https://shop.olympus-imaging.jp/product-detail/index/proid/607690


オ:
他社さんでも70-200mmのようなレンズを出されていますが、35mm判換算で80-300mm F2.8というレンズを、三脚を用いることなく手持ちで振り回せるというのは我々が自信を持って提供できる価値の1つです。最近は報道の方にもイベントで使っていただいています。

焦点距離だけならこのプロレンズの12-40mm PROは、先ほどの標準ズームレンズの12-50mm EZと近い数字を持っていますが、レンズ構成として使っているレンズ枚数が多いことで写りが良かったり、またマニュアルフォーカスクラッチ機構によってフォーカスを任意のところに細かく調節可能だったり、防塵・防滴も備えていて、プロレンズは全てを網羅しています。写真を見て、写りを良くしていきたいという方には、ぜひプロレンズを使って欲しいと考えています。

◆写真からレンズを探す「レンズアドバイザー」
G:
スマートフォンやコンデジしか使っていないところから、いきなりレンズをいろいろ選べるようになっても「要するに、コレとアレはどう違うんだろう?」と調べなければいけないことが多くて大変なので、こうしてレンズラインナップの中からステップアップの一例を見せてもらったのはとても参考になると思います。

オ:
最近は写真を他人に見せたいという人が多いというお話をしましたが、実際に、この25mmレンズを使って公園で子どもの撮影をして、Wi-Fi経由でその場でスマートフォンに転送し、SNSにアップロードするということが可能だと知って「えっ!?」と驚く声を耳にしました。写真を見た人から「どうやったらこんな写真が撮れるの?」という会話になったり、印象が変わった写真を撮るにはどうすればいいのか、子どもを撮るならどんな機材か、と話が広がっていきます。


オ:
オリンパスではレンズアドバイザーというサイトを作っていて、ここでは「レンズを選ぶ」のではなく、表示される写真から撮りたい写真に合致するものを選んでいくと、その写真を撮るためにはどのレンズがいいかを教えてくれます。

レンズアドバイザー | オリンパス
http://lensadvisor.olympus-imaging.com/ja-jp/


G:
レンズごとに撮影サンプルを見ていくのではなく、写真からレンズを選ぶんですね。ここに表示される写真はどういったサンプルなんですか?

オ:
これは、社員たちがそれぞれ実際に撮影した写真を用いています。なので、「その写真を撮りたいなら、きっとこのレンズを使えば大丈夫ですよ」ではなく、「その写真を撮ったのはこのレンズなので、これを使えば大丈夫です」ということなんです。

G:
素材サイトみたいなものかと思っていたら(笑)

オ:
スペックからレンズを探すのが難しいお客さまもいらっしゃると思うので、こういったレンズアドバイザーなどでイメージから入っていただくというのも写真文化を広げていく方法の1つです。もちろん、焦点距離やFナンバーを分かっている人は「これってどれまで撮れるんだろう」とか「中心の解像は?」という見方もありますので、両方のアプローチがあっていいかなと考えました。

◆「最高の写真を撮れるもの」へのこだわり
G:
よく「レンズは資産」といいますが、一方で「レンズ沼」という言葉もあります。「あんな写真を撮るためにこんなレンズが欲しい」や、その反対に「レンズを手に入れてこんな写真を撮りたい」とズブズブはまっていくのはよくわかりますが、選ぶときはとても楽しいですね。


オ:
「次のレンズは何を買おう?」と悩んでいただけるのは、我々としても非常に嬉しいことですですが、そのためにレンズだけではなく、ボディも含めてしっかりやっていく必要があります。写真を撮るためにはレンズとボディの組み合わせで価値が生まれてきますが、レンズの性能を引き出すためのボディ開発を自社内でやっているというのがオリンパスの強みでもあります。マイクロフォーサーズ自体はオープン規格なのでオリンパス以外にもいろいろなメーカーさんが作られていますが、我々はボディとの組み合わせでレンズを制御するなど、そこまで含めてのシステムで価値を出してお客さまに選んでいただければなと思っています。

G:
今こうして並べていただいたもの以外にもM.ZUIKOレンズのラインナップはあるので、すでに必要となりそうなものは一通り揃っているような感じがしますが、それでも改良していく部分はどんどん出てくるものですか?

オ:
会社では医療分野も科学分野も含めて、次の何年先の技術というのをまとめて研究している部分がありますので、そことコミュニケーションを取り、今よりもさらに小さくできるだろうか、軽くできるだろうかと相談しています。私たちが求めているところまでには、まだまだ未達の部分、課題となる部分があると思っているので、常にその課題を認識し、改善していこうと考えています。なので、プロの方やお客さまの声には逐一目を通しています。……といっても、新しいレンズを出すと、また新たな課題が見つかるのですが(笑) 常に喜んでいくために何ができるかを考え、要素を仕込んでいく。さらに「こう使ってもらうことができるのでは」と、企画グループでは議論を重ねています。

G:
まさにその医療・科学の分野で、オリンパスは内視鏡や顕微鏡でもよく知られていますが、医療分野からカメラ事業へのフィードバック、およびカメラから医療へのフィードバックはあるのでしょうか。

オ:
もちろんあります。先ほどボディとレンズは同じフロアで開発しているというお話をしましたが、医療も顕微鏡も同じ八王子の開発センターに一堂に会してそこで研究開発をしていますので、ツーカーで話が出来るようになっています。定期的に技術講習会や技術共有の場を設けて、1つのフロアの会議室を貸し切り、「今回は光学にフォーカス」という場合は医療だろうがなんだろうが、光学メンバーが集まります。カメラも医療も、「レンズの研磨」や、径の大小の違いこそあれ研磨したあとの「測定評価」と、検証する項目は結構近いものがあるんです。なので、どうすれば早く高精度で検証できるかとか、そういったところのフィードバックは常に情報共有しています。


G:
そうだったんですね。開発では、「レンズをどれぐらいのペースで出す」というのは決まっていますか?

オ:
「毎年、レンズを何本出す」「ボディを毎年新しくする」という考えで作っているわけではなく、1つの部品にこだわって納得いくまでは製品として出しません。納得がいった上で、開発から経営側に自信を持って保証できる設計に達したということを証明して製品にゴーサインを出しています。開発陣は、そこを突き詰めるためにカメラを毎日持ち歩いたりしていますし、企画が「こんなスペックはどうだ」と相談すると「こうした方がいい、ああした方がいい」とフィードバックを行います。その上で、企画と開発が相談を行い、周りの関係部署も含めて納得できる、考え尽くされた開発・設計があって初めて商品として計画されます。開発メンバーはその製品に「入魂」というか、企画と一緒に突き詰めてやっていこうという意識のもとでやっているので、「議論がされ尽くされてから自信を持って出している」ということです。

G:
今ちらっとお話がありましたけれども、やはりカメラを持ち歩くのは基本姿勢なんですね。

オ:
皆さん持っていますし、平日だと持ち歩いてはいなくても会社で撮っているということがありますね。休日だと自分のカメラとレンズを使っていることもありますし、会社所有の違うレンズを試すために借りることもあります。週末になるとみんなが持ち出すので、備品を管理しているメンバーが大変です(笑) 運動会の重なる週末になると、あっという間に人気のレンズが借りられてしまうこともあるんですよ(笑)


G:
これらを自由に持ち出せるとは、うらやましい……。

オ:
開発や企画の人間が、実際にお客さまが使うであろうシーンに持っていって使ってみないと上手くいかないですから。細かい話ですが、プロと一緒に撮影に同行していて気付いたこととして、レンズ交換のためにつけている赤い指標を出っ張らせました。今まではフラットだったんですが、「プロレンズをやるならば徹底的にプロの声を聞かなくては」ということで聞いてみると、夜景撮影をするような時に出っ張りがあれば交換しやすいと。単純なことですが、これも使わないと分からないんです。山を登っている最中は異なるレンズで別のものを撮り、夜になって星を撮ろうとレンズを交換するときに、交換の難易度が格段に違う。大きな違いではありませんが、そんなことがありました。


G:
確かに、レンズを持った手元を見なくても、印を指で触れば合わせやすいですね。

オ:
プロの方の実戦シーンに立ち会い、例えばマニュアルフォーカスの速度は、スッとすぐに合う方がいいのか、スーッとゆっくり合う方がいいのか、そのフィーリングを試作段階で聞きながら調整したりして製品を作り上げています。「写真を撮れれば良い」ということで高画質を突き詰めていくというのも1つの方法ですが、小型軽量で品位や操作性まで含めて最高のソリューションを出したいというのが常に我々が考えていることです。

G:
ズームリングのこの滑らかさも、こうだと決まるまでにはいろいろな速度の候補が?


オ:
滑らかさの異なる試作機を3パターンぐらい作って、企画や経営の人に「この感じと、この感じ……どれがいいですか?」と聞いていき、他社製品も含めていろいろ触ってきた経験から「こっちの方がいいんじゃないか」と、そういうことを1つずつ検証していきます。こういったリングの滑らかさで、「軽すぎず重すぎず」というのはなかなか数値化するのが難しいんです。最終的には人間が使ったときに「良い」と思えるかどうかですね。音についてもそうです。マニュアルフォーカスクラッチ機構がハマるときの音が、今は「カチャッ」ですが、最初は「パカッ」だったんです。プラスチックの音と金属が擦れ合う音には違いがあるように、安っぽい音にならないようにして、音のために部品を追加したりもしています。オリンパスならではのヘンなこだわりですね(笑)

G:
確かにカチッという「止まった!」という感じの音が。

オリンパスがこだわったフォーカスリングクラッチ機構の音はこんな感じ。

オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」マニュアルフォーカスクラッチ機構の動作音 - YouTube


オ:
フィールドで撮影をするとき、カメラを構えるまでの一連の操作とシャッター音が混じった時にお客さまは快感を覚えるという、その音の流れなども一つ一つ見ながらやっています。

G:
シャッター音は機種によってこんなにも違うのかというぐらい違いがありますね。

オ:
電子音はすごく簡単ですけど、電子音だけではなく、カメラを1から始めたというお客さまにも音をも楽しんでもらいたいですし、昨今は電子シャッターが非常にはやっていて、それはそれで撮影の幅が広がるものなのでもちろん搭載しています。劇場撮影するために音を消したいという方のためには静音モードも用意しています。40-150mm PROと組み合わせると劇場にはとても向いていますし、一方で最短撮影距離も近いので静かなフィールドで昆虫を撮られる方にも好評です。

G:
レストランで料理の写真を撮ろうとしたとき、スマートフォンから「ピピッ」と音が鳴ると「おっと」と思うことがあります。SNSでは料理写真を見せ合うことが多いので、そういうときには静音撮影ができる方が助かりますね。それに、できあがった写真も、画像補正できれいに見せられますが、そもそも撮影する機材を変えることで、見ただけで美味しそうに撮れれば言うことなしです。

オ:
料理とかを撮られる方は、この25mmが近くまで寄れるので良いです。25mmという画角は、人が視認するちょうど良い、心地良い画角と言われたりしますけど、とても使い勝手が良いです。近づきつつ、背景が綺麗にボケて被写体が浮き上がってくれて、その印象が食欲に繋がってくるような。このとき、至近の撮影に特化していくとたどり着くのはマクロレンズです。より撮影の幅を広げるような要望が来ているところで、その1つがマクロレンズであり、他方、さらなる望遠が欲しいという方もいらっしゃいます。発表済みですが、鳥を撮影するようなネイチャーフォト系の方たちに向けて300mm PROが用意されています。

G:
こうした多種多様なレンズがあるところで逆らうような質問なのですが、高倍率ズームを越えた「1本で万能」レンズというのはできないものなのでしょうか。

オ:
もちろん考えていないわけではないです。高倍率にする光学設計が出来ないわけでもないですし、高倍率の特許とかを出していたりもします。トライもしているんですが、ただ、製品化には結びついていないというのが実情です。なぜかというと、技術的に小さくするのが難しかったり、画質を担保するとさらに大型化することになったり……高倍率にすると、胴がとんでもないところまで来てしまったりするんです(笑)。なので、物理的に作れるのか作れないのかもありますし、持ち歩いて写真を楽しんでもらう最高のソリューションに値しないと我々が判断したものは製品化が難しいです。将来的には、レンズのインデックスが上がることで今の3分の1のレンズでできるようになるかもしれないし、その他の研究も進めているので、いつかできる……かもしれません。オールインワンレンズというのは、我々の夢ですから。それが明るいレンズだったら最高ですね。

G:
まったくです。

オ:
物理限界があるのは事実ですが、それで諦めてしまうともう進まないので、打開するための要素を全社で検討しています。私も欲しいです(笑)

G:
現時点ではまだいろいろな限界が……。

オ:
暗いレンズであればできたりしますけれど、それを出しても皆さんに「いや、それは違う」と言われそうですし。結局、使うとブレてしまって、望遠端では絵が撮れないということになると買う意味がなくなりますし、ごく一部の人間しか使えないのであれば価値がないと思うので、ちゃんと適正な、どんなお客さまでも撮れるスペックまで研究開発が追いつけば出したいなと思います。

G:
なるほど。Fナンバーは2.8なら明るいレンズと言われていますが、F0.95というレンズを出しているところがあります。それほど多くはないのですが、ああいったレンズは需要としてはそれほど大きくないのでしょうか。

オ:
要望としては非常に高いです。今我々が用意している中で一番明るいものとしては、プロレンズの単焦点でF1.8というものがありますが、もう一歩進んでF1.4やF1.2という、さらに締まった、こんな僅かなところにしかピントが合っていないというような絵が撮りたいだとか、シャッタースピードを徹底的に追求して8000分の1までしっかり使いたいというお客さまに向けて価値のあるレンズができるのではないかと思っていまして、ここはまだ我々も未達のラインナップの1つであると考えています。「いい映像を残すための、最高で最適なソリューション」として、納得した設計と大きさと品位、全てが成立した段階で提供していきたいと思っています。


G:
スマートフォンで誰でも写真を撮り、SNSで見せるようになって、みんながカメラマン状態になり、そこから機材を気にする人が増えてきて、レンズへのこだわりが出てきているというのはあるのでしょうか。

オ:
私も実体験として、Facebookに子どもの写真をアップしたことで、大学時代の後輩にカメラを紹介しましたからね、それも単焦点のこういったセットを(笑) 「この写真は何で撮ったんですか?うちも子どもが生まれたんですが、どういうカメラがいいんですか?」という話になり、「これがいいと思うよ」と。

G:
身近な知り合いが実例を撮ってくれているというのは大きいですよね。写真家が撮ることでカメラとレンズの性能を最大限に引き出せるというのはありますが、「しかし、自分が使ってこれだけの写真を撮れるんだろうか」と思ってしまう部分があります。しかし、撮影しているのが知り合いで、しかも自分でも買えるような機材を使っているとなると、気になります。

オ:
撮り方でちょっとだけコツを伝えるだけでも、本当に一歩上の写真が撮れますから。慣れてくると、自分自身で「こうしたらどうだろうか」と考え出しますし、そこから「このレンズを考えているんだけれど、どうかな?」という会話になりますし、この広がりを見ると写真文化にはやっぱり価値があるんだなと実感します。作っている側としても、喜びを感じた瞬間をSNSで知ることができて、本当に嬉しいです。

G:
「こういう絵が撮りたい」という要望としては、具体的にはどんなものが来ているんですか?お話を聞いている感じだと、やはり子どもさんの写真でしょうか。

オ:
いろいろな年齢層のお客さまがいらっしゃる中で、我々の強みは小型軽量で機動性が高いというもあって、女性に持っていただいていることが多く、そこにフォーカスするとお子さんや家族の記念写真を撮りたいというのがありました。先日も、幼稚園の運動会でキットレンズからステップアップしたお父さんが単焦点レンズを持っていたりだとか、そういうケースが非常に多いですね。オリンパスならではというところでは、昨今だと単焦点のラインナップが増えてきたので、モデルさんのポートレートを撮ったりというのもあります。

また、自然写真家の方々とも価値を共有できているという感覚があります。自然写真の分野ではオリンパスの機材を使っている方がすごく多くて、これは自然写真を撮るときに防塵防滴で小型ということが非常に相性が良いからなんです。オリンパスとしては顕微鏡や内視鏡の技術があることからマクロ撮影には結構自信を持っている部分もありますので、「小さい物を撮るにはオリンパス」と思っていただくのは嬉しいですね。銀塩カメラのOM時代からそういうことを意識していただいている方には、「ようやくデジタルでもラインナップが揃ってきたか」と感じてもらっているようで、最近ではOM-Dのマクロ使いの方に響くような深度合成などを開発・提供しています。

今後は望遠系も用意していき、手持ちカメラで鳥を撮れるようにしていきます。小型軽量で高画質というところが認知されてくれば、次は徐々にマニアックなところへと広げていき、多様な価値をピンポイントに届けられるようにいろいろ仕込んでいきたいなと思います。

G:
今回、見せていただいた資料の中には「ナノレベル」「ナノオーダー」という言葉が出てきています。つまり、ナノメートル単位での製造・加工を行っているということなのですが、違いは感じるものですか?

オ:
私は実は以前レンズ設計をしていたんですが、レンズというのは解像もコントラストも、最終的にすべてが写真の抜け具合に繋がるんです。いろいろなパラメーターがあり、「収差」などとよく言われますけれど、色のにじみ方1つとってみても、ナノオーダーと紐付いています。特に、表面はナノオーダーで調整をしたりしていて、本当に精密の塊です。

G:
数字に出ないところにこだわられているんですね。

オ:
ある意味、趣味の物に近いです。楽器や車で「名器」「名車」と言われたりしますが、我々が目指すところも「名機」と言われるレンズやボディなんです。「名機」や世間で言う「神レンズ」のように、ブランド価値が1つ上がるようなものを作るためには、数値になるところだけ追求していってもあまり響かないと思うんです。だからこそ、写りが良いのは当たり前で、加えて金属の質感や滑らかさ、撮ったときの印象まで、しっかりと見ています。開発メンバーで光学設計者であれば解像の所を突き詰めて撮ったときの印象まで見ていますし、数値化できないボケの形も、自分で実写して確認して調整してということを繰り返していたりします。その辺りが「味」とか呼ばれるものなのかもしれません。「名器」とか「名車」には絶対「味」が付いて回るので、我々も最終的に「オリンパスの『味』って良いね」というところを目指したいです。


今回は多数あるレンズの中から、ステップアップの1つの指針と、開発にかけるこだわりなどの話を聞きましたが、その分だけレンズ自体の技術面の話は少なめ。これを補って余りあるサイトをオリンパスが用意しているので、気になる人はぜひ見てみてください。

OLYMPUS ZUIKO
http://cameras.olympus.com/zuiko/ja-jp/

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