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「カップ麺でも生麺に近いラーメンが食べたい」、知られざるマルちゃん正麺 カップ開発秘話を本社で開発陣にいろいろ直撃インタビュー


生麺のような弾力となめらかな舌触りを即席麺で実現した「マルちゃん正麺」が2011年に登場して以来、「カップ麺でも生麺に近いラーメンが食べたい」という声に応えるべく、麺だけではなくスープや具材にもこだわって作られた「マルちゃん正麺 カップ」。単に袋麺がそのままカップ麺になっただけではない!という熱い想いを聞き出すべく、実際に「マルちゃん正麺 カップ」作りに携わった開発陣にいろいろとインタビューしてその舞台裏をいろいろ聞き出してみました。

マルちゃん正麺 カップ | 東洋水産株式会社
http://www.maruchanseimen.jp/cup/

というわけで、東京都心にある東洋水産本社へ。品川駅を出ると、ビルの谷間から真正面におなじみのマルちゃんのマーク。これなら迷うことはない!


通された部屋の棚にはこれ見よがしにマルちゃんの歴史を感じさせるいろいろな即席麺をはじめとして常温製品や冷凍食品、さらには海外向けのものまで、ずら~りと並んでおり、圧巻。


そして登場したのがマルちゃん正麺 カップの開発に携わった、東洋水産株式会社 加工食品事業本部 即席麺部 商品開発1課 課長の神永憲さん。マルちゃんのマークと並ぶと妙に似ているような気がしますが、きっと気のせいです。


インタビューしようとしたところ、「まずは実際にマルちゃん正麺を食べてみてください」ということで、なんだかどこかのグルメ漫画のようなノリで、ぐだぐだ言わずにまずは食べろと言わんばかりの勢いで袋麺とカップ麺を食べ比べることに。味は両方とも醤油味。


明らかに気合いの入りまくったこの部屋は製品を調理中のデモンストレーションを見せることができるように、特別に調理器具を備え付けてあるというもの。このキッチンの他にも、いくつもの部屋に直結した大きな厨房があり、同時に何組も来客がある場合でも出来たてをすぐに運べるようになっているとのことで、「常在戦場」の勢いはさすがマルちゃんと言うべき。


神永 憲さん(以下、神永):
食べ比べをしていただくのは、これまでの取材を含めてあまりないことですが、ポイントは袋麺もカップ麺も「生麺のような食感」と言っているものの厳密には同じではないことです。「麺の表面のなめらかさ」「麺の弾力、コシ」がマルちゃん正麺の袋麺とカップ麺の共通した特徴で、それまでの即席麺とは違う麺質になっています。ただ、袋麺とカップ麺を食べ比べていただくとちょっとした違いを感じてもらえると思います。違いはあるのですが、今言った共通のポイントが「生麺らしさ」と言えるところです。

そこまで言うからにはきっとかなり違うのだろう、ということで出来たてのマルちゃん正麺 カップ(左)と袋麺(右)でチャレンジ。


当然ですが袋麺なので具は潔く、何もナシ。麺自体はやや縮れた中細麺となっています。


食べてみると麺がつるりとした食感でもっちりと歯ごたえがあります。今までの即席麺は麺にコシがなく、かむとプチプチと切れてしまうものが多い中で、マルちゃん正麺の麺はズズッとすすっても、ちぎれることなく口の中にスルスル入っていきます。スープの味は少し薄めに感じられました。


一方のカップ麺は、チャーシューやネギ、のりなどの具材が入っており、スープに浮いている脂の量はやや多め。


麺自体は袋麺と同じく生麺のようなツルッとした舌触りながら、袋麺よりもやや細めで、ツルツル感の印象が強め。


神永:
この2つに加えて、今までの即席麺も食べ比べてみると、麺の食感が大きく離れていると感じてもらえると思います。

GIGAZINE(以下、G):
麺の材料は同じ小麦粉を使っているのですか?

神永:
配合も含めて違っています。


G:
根本的なことから聞きたいのですが、麺を開発する際は「小麦粉選び」から始めるのですか?それとも「配合」から考えていくのでしょうか?

神永:
もちろん、小麦粉自体も選択していきます。小麦粉の種類も一から含めての配合ではありますけれども、一番大切なのは「目指すべき品質」ですね。「こういうものを作りたい」といった時に、それを作るためにはどういう風にしたらいいのか、ということを研究開発の人間が突き詰めてやっていくわけです。

G:
マルちゃん正麺 カップの場合は、「こういうものを作りたい」という目標はどの部分だったのでしょうか?

神永:
今回のカップ麺で言うと、まずは袋麺のマルちゃん正麺を2011年に発売して、お客様からたくさん高評価をいただいて、「品質の高い物を提供するとお客様にこんなに喜ばれるんだ」ということを改めて知ったわけです。そうなってくると、カップでもそういうものが提供できたらお客様にもっと喜んでもらえるだろうなと思って、「生の麺のような、柔らかさ、コシ、弾力」をターゲットにしたカップ麺でどうやって作っていこうかなと考えていきました。

G:
袋麺を作り始めたころから、カップ麺の構想があったのですか?

神永:
袋麺が出来上がってから、と言った方がいいかもしれないです。

G:
マルちゃん正麺 カップの開発で苦労した点はどこですか?

神永:
今、調理するところを見ていただいた通り、袋麺は鍋でゆでます。ラーメン屋さんでも同じように厨房で麺をゆでています。


神永:
当たり前の話なのですが、麺をゆでると「ゆでたてのおいしさ」が出来上がりますけれども、カップ麺の調理ではゆでるわけにいかず、あくまでフタをめくってお湯を入れるだけです。お湯を入れるだけという調理法で、生麺のような品質をどうやって作るのかという点が苦労しました。


神永:
カップ麺をゆでるとなると、工場で麺をゆでる必要があるという発想に至ったのですが、実はこれまでの即席麺は、ゆでずに蒸しているものが多いです。どうして蒸しているかというと、麺をゆでると「加水量」、つまり水分の量が多くなり、最終的には麺をおいしく感じる要素なのですが、即席麺では加水量が多いと日持ちしないので水分を一度何らかの形で飛ばして乾燥させないといけません。水分が多いものを乾燥させるとギュッと収縮してしまい、お湯を入れただけでは元に戻せなくなってしまいます。どうやったら戻せるかを考えていき、たどり着いたのがカップのフタにも書いてある「特許 生麺ゆでてうまいまま製法(特許 第5719064号)」です。この製法に至るまで、今までにないことをやろうとしていたので、研究開発で非常に苦労しました。


G:
麺の配合、製法に至るまで新しいものを使ったということですね。

神永:
そうです。研究室で出来上がったものを実際に工場の製造ラインで作ろうとなった時に、今までの製造設備では作ることができないので、今回はまったく新しい製造設備を工場に入れました。そうすると、今まで動かしたことのない機械を使って研究室で作ったものを大量生産するというのが非常に難しく、製造設備が現場で思っていた通りに動かないということがありました。研究開発の人間はその調整でも苦労していましたね。

G:
マルちゃん正麺 カップの製法は「生麺ゆでてうまいまま製法」という、非常に分かりやすい直球のネーミングなのですが、この名前はどのように決まったのですか?

神永:
よくぞ聞いていただきました(笑)。この名前を決めるために、実はかなり悩んでいます。袋麺の「生麺うまいまま製法」に、ただ「ゆでて」という3文字が加わっただけではないかと思われるかもしれないのですが、消費者の方々に分かりやすく伝えるためにどうしたらいいかと議論しました。「生麺ゆでてうまいまま製法」だと、袋麺から変わらないように見えてしまうのではないかと思いながらも、同じマルちゃん正麺を名乗るのだからということで、この名前に落ち着きました。実際の製法も名前の通りなので分かりやすく伝わるかと思います。


G:
袋麺の「生麺うまいまま製法」というネーミングもかなり直球で分かりやすい名前なのですが、こちらも名前を決めるときにいろいろな候補の中から分かりやすいものを選んだのでしょうか?

神永:
そうですね。

G:
袋麺の「生麺うまいまま製法」も、カップ麺の「生麺ゆでてうまいまま製法」も、どちらもこれまでの即席麺とは全然違うものだということですね。

神永:
目指すところは「なめらかでコシのある麺」と両方に共通で、製法の名前も似ているのですが、袋麺とカップ麺の技術やアプローチは全く違っています。また、先ほど食べ比べていただいた通り、味も同じではないです。「なめらかでコシのある麺」が今までの即席麺といい意味で違う点ですが、今までの即席麺は別のおいしさがあると思っているので、既存の即席麺を否定するものではないです。マルちゃん正麺は今までになかったものを作ろうとしています。

G:
マルちゃん正麺 カップの開発でうまくいった点はどのような部分ですか?

神永:
私個人の話になってしまうのですが……先ほど製造設備をすべて新しいものを入れたという話をしましたけれども、通常はカップのサイズやフタの形、中身の具材もある程度の種類が決まっています。商品の企画を作っている人間として、新製品を作るときに規格の外へ足を踏み出すことが難しい中で、今回は製造設備もゼロから始めたので、「好きなように設計していいですよ」と言われました。カップのサイズはコレ、チャーシューはこういう材料がほしい、など今ままでだとゼロから開発することができなかったことが、今回のマルちゃん正麺 カップではゼロからできるというのが利点でしたね。


G:
新製品を作る際に、設備も新しく導入するというのは、なかなか行わないことなのですか?

神永:
ほとんどないですね。


G:
工場の設備を丸ごと入れ替えて、先にゆでてから乾燥させることで「生麺に近い麺」を実現しているとのことですが、その製法は他社でもマネすることができるのでしょうか?

神永:
すごく専門的な話になってしまうのですが、ゆでることで麺の中の水分量が多くなって、麺の加水率が高くなります。加水率を上げると、その後の工程で水分を飛ばす時に収縮して元に戻らなくなってしまうのですが、ここでひとつ工夫をしています。今までの即席麺だと麺に大きめの穴がポツポツと空いていたところ、マルちゃん正麺 カップは麺に微粒子を配合することで、微粒子が麺の中に小さな穴をたくさん空けるという「多孔質」という構造になっていて、今回この製法で特許を取っています。


神永:
小さな穴がたくさん空いていることによって、麺にお湯をかけると、水分が小さい穴にスッと入っていくので、水分をたくさん含んでいた元の麺に戻りやすいという構造です。そのため、麺をゆでて乾燥するだけの製法であれば誰でもできる話なのですが、「元の麺質に戻す」という製法は誰もやったことがなく、マルちゃん正麺 カップで技術を確立するのが一番苦労したところです。


G:
そうなのですね。

神永:
今までの即席麺は、工場で麺を乾燥させる前の生麺を抜き取って試食すると、言い方が身もふたもないのですが、完成した製品よりおいしいんです(笑)。マルちゃん正麺 カップを工場で作り始めた時に、製造現場に行く前はカップ麺にお湯を入れて調理した状態のものしか食べていなかったのですが、乾燥させる前の状態のものを工場で食べてみると、まったく同じ麺質だということに驚きました。今回はそういう意味で言うと、特許製法の技術によって、お湯を入れるだけで乾燥させる前と全く同じ状態に戻すことができる設計ができました。もしかしたらカップ麺を生麺に近い状態に戻すための違うやり方があるかもしれないですが、東洋水産の製法は特許を取っているので、他のメーカーではできません。

G:
麺に微粒子を入れるというのは、どの段階で行うのでしょうか?

神永:
麺の材料を配合するところです。微粒子を麺に練り込むというか、一緒に配合することで、そこからいい形で水分を乾燥させます。この微粒子が今回のマルちゃん正麺 カップで一番の技術で、今まではできなかったことだと言えます。

G:
今までは技術的問題が大きかったということでしょうか?

神永:
そうですね。今までも「麺をゆでてすぐ食べたらおいしい」というのは分かっていましたが、ゆでた麺を乾燥させて、さらにお湯を入れただけでおいしい麺に戻すというのが今まではできなかったことです。ホームページを見てもらうと分かると思うのですが、東洋水産では即席麺の新製品を毎週発売していて、ずっと商品開発を続けているという状態です。

東洋水産のプレスリリースサイトを見ると、確かにほぼ毎週、何か新商品が出ているというすさまじい状態が常態化。


神永:
ただ、それらは今までの技術を応用しながら開発している製品なのですが、マルちゃん正麺 カップに関しては4年かかりました。今までなかった技術を確立したことと、全く新しい設備を入れなければいけなかったことと、研究室で作っていたものを新しい設備で設計通りに動かして大量生産に持っていくことが、非常に苦労した点です。

G:
袋麺用の麺の製法は、マルちゃん正麺 カップの麺とは全く違う製法なのですか?


神永:
マルちゃん正麺 カップは麺を工場でゆでていて、既存の即席麺は蒸しているという話をしましたが、マルちゃん正麺の袋麺は実はゆでても蒸してもいないんです。そこがマルちゃん正麺袋麺の製造上の一番の特徴で、生の麺を普通は蒸したりするところを、そのまま乾燥させる製法で、今までにない食感を作りました。食べる前にゆでるという作業をして、ゆで上げの一番いいところを食べてもらおうというのが袋麺の特徴です。ただし、カップ麺で同じやり方をやると、ただの生煮えのラーメンになってしまいますので、どちらも違う方法でアプローチして、両方とも特許を取得しています。おいしいものをお客様に提供するために、今までのやり方ではなく何ができるのかな、と発想をどんどん変えています。

G:
マルちゃん正麺 カップは、麺だけではなく、入れ物から全部開発したのですね。


神永:
そうです。そういう意味ではとても楽しかったです。チャーシューも新しく作ってもらったり、野菜もカットを大きくしてもらったりしました。味噌味に使っている野菜はフリーズドライ製法で作ったものでブロック形状になっていて、お湯を注いでから箸で広げるとものすごく大きくカットされていることが分かります。カットの大きさによって食べ応えが変わってくるので、こだわって作った部分です。生麺に近い麺にばかり目が行きがちなのですが、具材も実はすごくこだわって作っています。


G:
カップの中に入っている、かやくの袋なども新しく開発されたのですか?

神永:
味噌味のかやくについて言えば、フリーズドライ製法を使っています。この味噌味専用に開発したものです。


神永:
お湯で戻したあとにお箸で広げてもらえるとかなり大きいことが分かります。

G:
具材を大きくするためにブロック状のフリーズドライ製法を採用されたということですね。


G:
先ほど醤油味をいただいた時も、ネギがゴロゴロ入っていて、「即席麺の具材でこんなに大きいのか!」と思って満足感がありました。

神永:
あとはカップ麺と袋麺でスープの配合が違うという点もありますね。マルちゃん正麺シリーズではスープの味の作り方も袋麺とカップ麺で違っていて、袋麺は家庭でいろいろな具材を加えていただいて具からも味が出るので、味がいい意味で変化していくのが袋麺だと思っているのですが、カップ麺はお湯を入れてから具を足したり何かを加えたりする方はほとんどいらっしゃらないと考えました。そのため、カップ麺の味は「これが一番おいしい」と思える味まで持っていかないといけなかったので、スープ作りも袋麺とは違う方向で進めました。スープも飲み比べると違いが分かっていただけると思います。


G:
カップ麺の方が、なんというか「完成されている」という印象です。

神永:
そうですね。袋麺は、まだまだお客様が手を加える余地を残したスープ作りをしています。

G:
わざと味を変化させる部分を残しているのですね。

神永:
そうです。一方のカップ麺は、お湯を注ぐだけでみなさんにおいしいと言っていただけるスープ作りを目指したつもりです。スープの作り方のベクトルが違っています。

G:
マルちゃん正麺 カップの醤油味は、具材のチャーシューが分厚いですよね。カップ麺の具とは思えないほどです。


神永:
チャーシュー作りも非常にこだわりました。今までは、カップ麺に入っているチャーシューというと「ハムのような味」がするものが多かったので、なんとか豚肉本来の味がするものが作れないだろうかということで、今回はマルちゃん正麺 カップに合わせた新開発のチャーシューを使っています。マルちゃん正麺というと「生麺っぽい麺」ということで麺にばかり目が行ってしまうのですが、スープにも具にも力を入れて開発した自信作です。

G:
肉々しさがありますね。スープを見ると、カップ麺の方が脂の量が多いように見えます。

神永:
そういう部分もこだわっています。マルちゃん正麺 カップは、袋麺のコピーを作ろうということではないんです。他にも、例えば製品のパッケージに関しても、袋麺のデザインをそのまま踏襲した案もあったのですが、「カップ麺としてのマルちゃん正麺」ということで、マルちゃん正麺のロゴは踏襲しながらも、「カップ麺は袋麺とは違うテイストですよ」ということを伝えるために、あえてデザインを変えています。それから、マルちゃん正麺のパッケージで特徴的なのは、我々が「シズル写真」と呼んでいる調理例の写真です。袋麺は真上から撮影しているのですが、カップ麺は斜め上から撮影しています。

袋麺(左)は真上から、カップ麺(右)は斜め上からパッケージ写真を撮影。


G:
撮影方法を変えたのも、袋麺とカップ麺を差別化するためですか?

神永:
ええ。差別化をして、同じものではないということをお客様に伝えたいです。食べ比べをしていただいた時にも、同じものではないと感じてもらえたと思います。

G:
食べ比べると、麺の舌触りやスープの味の違いが分かりました。

神永:
袋麺とカップ麺の違いを、いい意味で伝えたいなと思っています。

G:
チャーシューなどの具材も、3種類それぞれの味に合うように変えているのですね。

神永:
チャーシューも野菜も、実はいろいろと隠れたところでこだわって変えています。


G:
マルちゃん正麺 カップが発売から1カ月で100万ケース出荷したというのは異例のペースだとうかがいました。

神永:
私が一番ビックリしています(笑)

G:
東洋水産としてカップ麺を初めて発売された時や、ノンフライ麺を発売された時に比べて、今回のマルちゃん正麺 カップの販売ペースは類を見ない早さということでしょうか?

神永:
過去のデータをいろいろとひっくり返して見てみたのですが、今までに発売月に100万ケース出荷した製品のデータはありませんでした。マルちゃん正麺 カップは、実は2015年9月に発売する予定で準備していたのですが、小売店さんからご注文いただいていた数が9月発売だととても作りきれない量だったので発売を10月にしました。私も工場でせっせと作っている姿や、小売店さんに納める姿を見てきていますが、消費者の方に買っていただかないと意味のないことなので、POSデータで小売店さんが実際に販売されたデータを見せていただいた際に、お客様にきちんと購入していただいていることが分かり、またいろいろなところから「おいしかった」という声が入ってくるのもあって、きちんと出荷した分をお客様に買っていただいているようで、それが私は一番うれしいです。

G:
なるほど。予想をはるかに上回る販売ペースだったということですね。

神永:
正直、当初考えていた数とは全然違う数でした。

G:
袋麺は、2015年10月に累計出荷数が10億食を突破したとうかがいました。カップ麺は袋麺を追い越すペースなのでしょうか?

神永:
追い越すペースと言っていいのかな……ただ、袋麺に関しては従来の袋麺と同じ価格帯で売り出しているのですが、マルちゃん正麺 カップは標準小売価格を205円と設定しています。同じ即席カップ麺の赤いきつねや麺づくりは180円の設定なので、マルちゃん正麺 カップは価格設定を高くしていて、いわゆる「高級カップ麺」と呼ばれるジャンルになります。そういった側面もあり、袋麺とカップ麺では状況がまた違うのかなと思っています。

2011年に初登場した「マルちゃん正麺」の袋麺は、ツルリとした舌触りと麺の弾力やコシが生麺のような仕上がりと評判を受けて全国で大ヒット、一時は小売店で品薄状態が続くほどで、発売から5年が経った現在ではラーメンの他にうどんやそばなどのラインナップもある状態に。


神永:
マルちゃん正麺 カップで私が一番やりたいのは、他のメーカーさんとシェア争いをすることではなくて、今までカップ麺を食べなかったシーンやカップ麺になじみがなかったお客さんをつかんで、新しい波を立たせたいということです。例えば、「これだけ生麺に近くておいしいカップ麺があるから、今日は外食をやめて家でマルちゃん正麺 カップを食べようかな」というシーンを生み出せたらいいなと考えて開発しました。新しい波を起こせたらいいなと思います。

G:
実際に食べてみると違いが必ず分かると思います。

神永:
今はコーヒーショップの新形態でハンドドリップ式のお店が「サードウェーブ」という言い方をされていますが、即席カップ麺で言えば、1971年に初めてカップ麺が登場して、1976年のノンフライカップ麺が誕生してから、長い間なかなか根本的に革新を起こす製品が生まれてきませんでした。その流れの中で、マルちゃん正麺 カップは今までにないカップ麺を作って新しい波を起こしたいという意気込みで作った製品です。

G:
ところで、マルちゃん正麺 カップは醤油、味噌、豚骨の3種類の味がある中で、豚骨味は西日本だけで販売されていると聞いたのですが、どうしてなのでしょうか?


神永:
隠しても仕方がないので白状しますが(笑)、本来は全国で発売しようと思って準備をしていました。発売前に小売業など流通の方に東洋水産の営業担当がご案内にうかがうのですが、「どのくらいの数を売っていただけるか」と商談していると、想像していた数よりもすごく大きな数になってしまって、このまま発売すると間違いなく製造しきれない数の注文だというのが見えてきました。発売時期はもともと9月を予定していたのですが、1カ月発売を延期させていただいて、それでも希望していただいている数を供給できないので豚骨味の販売エリアを絞ることになってしまいました。当初の予定とは実は違っています。


G:
本当は袋麺と同じように豚骨も全国展開する予定だったということですね。

神永:
味作りも実はそういうつもりで作ってきていました。ここだけの話なのですが、流通さんには「9月に発売します、豚骨も全国で売ります」と案内していたので、業界の人はみんな知っている話です(苦笑)

G:
豚骨味は西日本の方が人気があるのですか?

神永:
豚骨はもともと九州で食べられるラーメンでした。ただ、今は北海道でも食べられていて、実際に全国津々浦々で売れている味なので、全国で発売したかったのですが……流通の方にはご迷惑をおかけして申し訳なく思っています。それから、豚骨味だけ麺の質が違っていて、配合と麺の太さを他の2種類とは変えています。


G:
製品をたくさん開発されている中で、神永さんが一番好きな製品があれば教えてください。

神永:
いろんなものに携わっているので……難しいですね。

G:
この棚に並んでいる製品は、ほとんど全部開発に関わっているのですか?

神永:
そうなりますね。そういう意味で言うと「生みの親」みたいなものなので、全部思い入れがあります。

東洋水産本社1階のエントランスにも、即席麺がずらりと並んでいました。


G:
全部の製品が自分の子どものような感じなのですね。

神永:
どれも好きですね。マルちゃん正麺 カップは、これはこれでいいと思っているのですが、今までの即席麺がなくなってしまうのかというと、私はそう思っていません。今までの製品もおいしいと思います。いろいろなものがあるからこそ、おいしさを余計に楽しめるので、私は今までの即席麺を否定するつもりもないですし、マルちゃん正麺 カップは新しい製品を提供できてお客様に喜んでもらえるものかなと思います。今までの製品もぜひ食べ続けてもらいたいです。

G:
普段、開発中の試食以外にどんな食事を取っているのですか?

神永:
我ながら不思議なのですが、これだけ毎日カップ麺を食べているのに、家で普通にカップ麺を食べることもあります。飽きないんですよね(笑)。こういった仕事をしていたらもっとカップ麺が嫌になるかなと思うかもしれないですが、「今日はちょっと赤いきつねを食べようかな」という日があります。

G:
いつ頃からカップ麺やラーメンがお好きだったのですか?

神永:
子どもの時から即席麺を食べていましたが、今が一番好きかもしれませんね(笑)

G:
そうなんですね!

神永:
開発中に「今、この製品を食べなきゃいけない」という時も日々ありますが、意味もなく「緑のたぬきの天ぷらがおいしかったから、また食べよう」と思う瞬間があります。

G:
普段から開発の参考にするために食べているものはありますか?

神永:
いろいろ食べていますよ。他社さんの製品もおいしいですし、いろいろと試しています。

G:
即席麺やラーメン以外にも、全く他のジャンルの食べ物からアイデアを得て新しい製品の企画を考えることはあるのでしょうか?

神永:
いろいろなものに手を出しています。お菓子はすごいフレーバーが出ている時があるので、結構参考になりますね。いろいろなものに興味を持っていて、スーパーマーケットに行くのが大好きです。売り場を見ているのが楽しいですね。例えば直近だと「アヒージョ味」の焼きそばを作りました。最近、外食でアヒージョをよく見かけるようになって、ニンニクが効いていておいしいなと思い、焼きそばの企画でおもしろいからやってみようということになりました。いい数字になりましたね。

G:
アヒージョ味の焼きそばは、GIGAZINEでも試食レビューを書いていますが、オリーブオイルが効いてパスタのような雰囲気でした。

神永:
取り上げていただいてありがとうございます。アヒージョは本来、オリーブオイルでニンニクを炒めて、エビなどの具材を入れた料理ですが、焼きそばの開発時は試食しているとニンニクの味がすごくて、社内で「一体何を食べているんだ?!」とよく言われました(笑)


G:
マルちゃん正麺 カップに話を戻しますが、「開発でものすごくこだわったけれど、食べている人は気付かないかもしれない」というポイントはありますか?

神永:
そうですね……「自家製だし仕込み」というのはポイントですね。研究開発部と一緒に話していて、「このだしはどうやって取っているのか?」という話になったのですが、「ラーメン屋さんでは寸胴鍋に鶏ガラや野菜を入れて夜通しグツグツ炊き込んだスープを作っているので、工場でも同じことをやっている」と聞きました。それでスープ工場の写真を見せてもらったら、巨大な鍋に鶏の骨がたくさん入っていて、それを炊き出して作っているんです。「ラーメン屋さんと同じ作り方じゃないか」と驚いて、自家製だし仕込みというフレーズを使ってもいいかどうか聞いたらOKということで、フタに大きく書いています。即席麺のスープやだしはいろいろなものを混ぜて作っている人工的なものだと思われがちですが、実はラーメン屋さんと同じ作り方なんです。

G:
手作りのラーメン屋さんの巨大バージョンなのですね。

神永:
そうですね。

G:
大きい鍋でグツグツ煮ているという様子の実物を見てみたいです。

神永:
あまりお見せしていないのですが、本当にラーメン屋さんの寸胴を大きいスケールでやっているという感じです。

G:
また新しい製品が飛び出してくるのを楽しみにしています。

神永:
もういろいろ、日々悩んでいます(笑)


そんなわけで、想像を絶する工夫の数々が、あの「マルちゃん正麺 カップ」には実は隠されまくっていたのだ、ということがこれでよくわかったはず。まさにカップ麺のサードウェーブと呼んでも差し支えないほどの尋常ではないこだわりっぷりなのでした。

マルちゃん正麺 カップ | 東洋水産株式会社
http://www.maruchanseimen.jp/cup/

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in インタビュー,   ,   広告, Posted by darkhorse_log

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