映画

約100年にわたる映画の性的なシーン検閲の歴史

by Krissy BS

映画において性的な表現がポルノと見なされるか芸術と見なされるかについて、これまで多くの裁判が行われてきました。時代と共に変化してきた「ポルノ」の定義や映画と検閲の戦いについて、The Economistが過去100年の流れを解説しています。

Cinematic obscenity in America: A hundred years of over-baring censors | The Economist
http://www.economist.com/blogs/prospero/2015/11/cinematic-obscenity-america

ヌードシーンが初めて映画に登場し話題となったのは、今から100年前の1915年11月18日にジョージ・パット監督による「Inspiration」が公開された時。しかし、当時はまだ規制の対象となる「ポルノ」の明確な定義がありませんでした。女優のオードリー・マンソンが肌をあらわにするInspirationについての当時の評価は「知的ですばらしい映画である。マンソンの演技はイノセントで慎み深く、素朴だ」というものや「大胆で、アートの勝利である」というもの、「極めてアーティスティックで教育的価値がある」というものが多く、決して「刺激的なストリップショー」とは受け止められませんでした。


アメリカで映画の検閲が始まったのは1930年。検閲制度ヘイズ・コードの導入が決定され、「ヌードは決して正当化されてはならない」「美しいかもしれないが、映画のモラルにおいて利用されてはならない」として、当時の俳優・監督・プロデューサーたちはヌードを映し出すことについて厳しく警告されました。

映画の中のヌードが規制される中、1954年にはヌーディストキャンプについての映画「The Garden of Eden(エデンの園)」が公開されます。映画製作者たちがどんなに撮影に注意を払い工夫をこらしても、テーマからして映画がヘイズ・コードに抵触することは避けられず、ニューヨーク委員会は「裸が映っているシーンを削除しない限り許可できない」として上映を禁じました。しかし、「裸になることのすばらしさ」をテーマとした作品で裸を映し出さないことは根本的に不可能でした。

The Garden of Edenの映像は以下から見ることが可能です。

Garden of Eden : Excelsior Picture Corporation : Free Download & Streaming : Internet Archive


事態は裁判にまで発展。委員会は「ヌードの映像を見ると人々、特にモラル耐性のない少年少女たちが性的に逸脱し、バカになってしまう」との考えでしたが、映画のプロデューサーであるウォルター・ビボ氏は「ヌードはみだらでも不潔でもない」と訴え、最終的にニューヨークの最高裁判所はビボ氏に賛同する形で、「ヌードは一部の人を不快にさせたり挑発したりするが、だからといってわいせつだというわけではない」と判決を下し、映画の上映禁止は解かれました。

アメリカで映画でのわいせつという概念が「コミュニティ標準を持つ平均的な人、つまり『一般的な感覚を持つ人』にとって、みだらで性行為に過度な関心が作品にあること」と定義づけられ、同表現が憲法における表現の自由の保障外であると位置づけられたのは1957年のRoth判決での出来事。その後、ポルノか否かの線引きには作品の社会的重要性なども考慮されるようになっていき、1964年には連邦最高裁判所の裁判官ポッター・スチュアート氏がポルノかどうかは「見れば分かる」と発言。このことで、ポルノの定義が主観的で曖昧であることが問題となってきます。

by FadderUri

そして、1973年に行われたミラー対カリフォルニア州事件で、ポルノの判断には「コミュニティ標準」や「性的な関心」の有無に加えて、マスタベーションや排泄・明らかに不快な方法による性器の露出といった「性的な振る舞い」があることが必須であるとされ、より定義が明確になりました。これによって、文学的・芸術的・政治的・科学的な意図を持つ映画はポルノの定義に当てはまらず、憲法によって保障されるようになったわけです。

ヘイズ・コードが撤廃されるきっかけとなった「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」という映画で1966年にデビューを飾ったマイク・ニコルズ監督の「愛の狩人」が映画館のオーナーから訴えられたのは1974年のこと。映画には、「誰もいない部屋に性行為の声が響く」というシーンがあり、観客が性行為の存在を理解できるにも関わらず、裁判では「明白に不快な」表現が映画に存在されないことが認められたのが、この裁判の大きなポイント。この他にも映画にはベッドの上のぼんやりした影や、俳優の陰毛などが映るシーンがあったのですが、決定的なシーンは一切排除されていました。

愛の狩人予告編は以下から。

Carnal Knowledge Trailer - YouTube


1915年にInspirationが公開されてから時代は変化し、一度は「大胆」であり「挑戦的」と表現されたヌードは、現在では平凡なものだと考えられるようになっています。ラブシーンのないロマンチックコメディーはほとんどなく、明白な性表現がある映画も検閲との戦いが行われることなくリリースされています。トラウマ映画と名高い「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を製作したラース・フォン・トリアー監督による、色情狂を自認する女ジョーの誕生から50歳までのエロスの旅を描いた「ニンフォマニアック」が2013年に公開されましたが、多くの批評家は映画を「社会的価値がある」「人間の欲望を描いた」「芸術的な表現」だと評価しました。ミラー対カリフォルニア州事件で述べられたポルノの基準が、今なお生きているわけです。

『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』予告編〈ソフト版〉 - YouTube


なお、日本では、1972年に日活ロマンポルノの映画本部長、製作・配給責任者ら6人がわいせつ図画公然陳列罪で起訴され、8年の裁判の末に無罪判決が下されています。

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in 映画, Posted by darkhorse_log

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