女性向けバイアグラ「Addyi」、登場してから1カ月の影響は?
by Georgie Pauwels
女性向けバイアグラと言われる「Addyi」は2015年8月にアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可が下り、その2カ月後である10月17日に市場に登場しました。男性向けのバイアグラが「性機能」を回復するのに対し、Addyiは女性の「性欲」を刺激するものとなっていますが、登場から1カ月間でAddyiがどれほど市場にインパクトを与えたのか、Bloomberg Businessが公開しています。
The Female Libido Pill Is No Viagra - Bloomberg Business
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-11-17/valeant-s-newest-problem-the-female-libido-pill-isn-t-selling
端的に言うと、1998年3月27日、男性向けのバイアグラが市場に初めて出た時に出された処方箋の数は1カ月で50万人を越えていましたが、一方で女性向けバイアグラとして初めて認可されたAddyiはリリース後1週間でわずか227人しか利用していない、という状況です。実際に、アメリカ・ミネソタ州のメイヨー・クリニック理事のステファニー・フォビオンさんは「多くの要望があるかと思いましたが、質問が数件あったのみで、まだ実際に処方されたことはありません」と語っています。
女性向けバイアグラ「Addyi」は過去に2度、FDAへの申請を却下されており、2015年8月にようやく認可されたばかり薬。FDAの承認をめぐっては「低血圧・失神などの副作用がある」「プラシーボ薬に比べて薬の効果は10%しか大きくない」など、大きな論争を巻き起こしていました。
女性の性欲を高めるバイアグラ「フリバンセリン」がついに市場に登場 - GIGAZINE
FDAの認可が下りた直後にAddyiの開発元のSproutは製薬会社Valeantに買収されましたが、薬が市場に出てちょうど1カ月後のValeantの株価はここ2年半で最低額の71.46ドル(約8800円)を記録しています。Valeantは現在Addyiの他にも多くの問題となる要素を抱えているため、株価の下落が必ずしもAddyiの影響とは言えませんが、実際のところ、Addyiが普及するにはまだまだ大きな障害があると言えます。
◆認定された医師や薬剤師しか処方ができない
by Steve Smith
AddyiがFDAから認可を受けた際に、「特別な訓練を受けた公認の医療専門家や薬局を通じてしか入手できない」という条件が付されました。医師の訓練自体はインターネットを通じて10分程度で終了するのですが、最終的に書類をファックスする必要があり、この手間が医師たちにとって障害になっているとのこと。現在、認定が降りた医師はアメリカの産科医・婦人科医を合わせた数の約1%である5600人。全てのプロセスがインターネットで完了するようになれば、認定医師の数はもっと増えるだろうと考えられています。
◆男性向けバイアグラとは使用法や効果が違う
by Helga Weber
男性向けバイアグラは飲むとすぐに効果を得られますが、Addyiを使って効果を出すには薬を日常的に飲む必要があります。これは男性向けバイアグラがペニス周辺の血流をよくするのに対して、Addyiはドーパミンやノルエピネフリンという神経伝達物質に働きかけるため。Addyiの作用は抗うつ剤と似たような働きで、肉体ではなく「気分」に作用しますが、この点が治療薬を待ち望んでいた女性を落胆させる一因となっている可能性があります。
◆薬の対象となる女性が少ない
Addyiは性的欲求低下障害を患う更年期前の女性に対して効果を発揮するもので、性的欲求の低下が肉体的な問題やパートナーとの関係に起因する場合は効果がありません。そのため、男性向けのバイアグラと比較してそもそも治療の対象となる女性が少ないのです。
◆価格
Sproutは価格を公表していませんが、あるクリニックではAddyiが1錠あたり26ドル(3210円)で処方されているとのこと。Addyiは日常的に服用する必要がありますが、保険がきかないことが多く、1カ月あたりで計算すると780ドル(約9万6000円)もかかります。ただし、過去にSproutは「1カ月20ドル(2500円)で薬が服用できるプログラムを用意する予定」とも発言しており、今後、値下げが行われる可能性もあります。
◆アルコールの摂取を避けなければいけない
by Mr.TinDC
Addyiの処方が望まれない原因の1つに、「アルコールを控えなければならない」というのもあります。販売前の18カ月間、Sproutはこの点を消費者に対して大きく広告していませんでしたが、Valeantによって買収が行われた後、このポリシーは変更となりました。
◆その他の要素
既存の薬の値上がりや、Philidor Rx Servicesという薬局を利用して売上高を水増ししているいう指摘があったことから、製薬会社のValeantは現在窮地に陥っています。Philidor Rx Servicesは既に営業を終了していますが、予定であればAddyiを店舗で扱うこととなっていました。リリースの際、Addyiは消費者に対する直接的な広告を行われませんでしたが、Sproutには医師や薬剤師にAddyiの安全な使い方について教えるマネージケアチームの担当が150人しかおらず、販売力が小さいのもAddyiの普及の障害になっていると考えられます。
なお、カナダ・ビクトリア大学の社会学者であるThea CacchioniさんはAddyiについて「大ヒットはしないだろう」と感じているとのこと。「『私たちはいつでも強い性的欲求を感じているべき』という考えは極めて最近のものです。メディアで報道されるような性的欲求が過剰な人たちを見るとプレッシャーを感じますが、実際のところ欲求は抽象的すぎて多い少ないを測れないものなのです」とCacchioniさんは語りました。
・関連記事
ついに女性用バイアグラ登場か?抗うつ剤として開発された薬に女性のリビドーを高める効果が - GIGAZINE
女性向け「バイアグラ」が承認へ、一体どのような薬なのか? - GIGAZINE
女性の性欲を高めるバイアグラ「フリバンセリン」がついに市場に登場 - GIGAZINE
女性が自慰行為を学習できる性教育ゲーム「HappyPlayTime」 - GIGAZINE
脳全体が活性化して茫然自失状態になるなど「女性のオーガズムのナゾ」の科学的解説 - GIGAZINE
オーガズムに就寝中でも達する女性がいるのはなぜなのか? - GIGAZINE