映画

興収を重要視する映画ビジネスに革命を起こすかもしれない「Netflix」の戦略とは?

By dana robinson

アメリカで絶大な人気を誇る動画配信サービスのNetflixが、ついに日本でも2015年9月1日からサービスをスタートさせました。強力なレコメンドシステムや充実のオリジナルコンテンツなどが魅力であるNetflixが、ある作品によって映画産業のビジネスの流れを変えようとしています。

‘Beasts of No Nation’: Netflix, Cary Fukunaga Upend Movies Business | Variety
http://variety.com/2015/film/news/beasts-of-no-nation-netflix-idris-elba-cary-fukunaga-1201582041/

Netflixは2014年に1200万ドル(約14億円)で配給権を購入した新作映画「Beasts of No Nation」の公開を2015年10月16日に控えています。Beasts of No Nationは映画館で公開されるのですが、公開と同時にNetflixでも放映する予定。つまり、劇場公開とインターネットでの公開が同時に行われるというわけです。


通常、映画は劇場公開から3~6カ月後にDVD・Blu-ray化され、インターネットで有料配信されます。その後数カ月を挟んでBS・CS、地上波で放映されるという流れをたどります。これはウィンドウコントロールと言われており、各メディアにおけるコンテンツのリリース時期をずらすことで互いの邪魔をしないようにするという映画業界のビジネス戦略の1つです。

しかしながら、NetflixのBeasts of No Nationは劇場公開とインターネットでの配信が同時であるという、映画業界では異例の流れを踏む作品。ただし、劇場公開といっても大手映画会社の影響を受けないミニシアターのみで、アメリカ国内で全29館の小規模な上映になります。NetflixはBeasts of No Nationの劇場公開をシネマコンプレックスに持ちかけたものの、シネコン限定でないことを理由に上映を断られました。

そもそも、Netflixの大きな収入源は会員が全世界で約6500万人いるという有料の月額制動画配信サービス。通常であれば映画の成功は興行収入を元にして語られ、DisneyやFoxといった配給会社も興行収入に重きを置いていますが、Netflixの場合は違います。現にNetflixのコンテンツ事業部のTed Sarandos氏が「弊社のビジネスモデルに劇場公開による収益は含まれていません」と発言したこともあります。


Netflixが手がける映画ビジネスは通常の映画産業とは大きく違うわけで、これが興行収入を一番の収入源とし、ウィンドウコントロールを掲げる映画界のビジネススタイルに一石を投じるのではないか、とハリウッドの業界関係者から注目を集めており、特に製作費が少なく大きな集客を見込むことが難しいインディペンデント映画に大きな影響を与えるのではとみられています。

主要なシネコンでの上映がほとんどできず、ミニシアターでの上映がメインになるインディペンデント映画は当然のことながら興行収入が少なく、ブロックバスター映画とは違い大規模なPR活動がありません。そのため、優れた作品であったとしても多くの人に見られなかったり、誰にも知られないままひっそりと消えていくことが多々あります。

しかしながら、Netflixが配給する場合、例え規模が小さなインディーズ映画でもインターネットで公開されるため多くの人に見てもらえるチャンスがあり、また、スポンサーや興行成績に配慮して映画を作る必要がありません。例えば、アフリカの少年兵を題材しているBeasts of No Nationは暴力描写が多い作品ですが、予告編には暴力描写を余すことなく取り入れました。ブロックバスター映画であれば、スポンサーへの配慮や、映画館に見にくるかもしれないユーザーにネガティブなイメージを植え付けたくないために、本編とは印象が異なる余分な暴力シーンを排除した予告編を作るところです。


Beasts of No Nationのキャリー・フクナガ監督は「作品における残酷な描写は、主人公のストーリーに直接関係がある大きなテーマのようなものです。多くの人が残酷なシーンを見たくないのは理解していますが、私が作品内で描いた残酷なシーンは、実際の戦争とは比べものにならないくらい軽いものです」と発言しており、暴力描写を取り除くことをデメリットとして考えていることがわかります。Beasts of No NationはNetflixの大きな後ろ盾を受けたことでPRを成功させ、インターネットでは公開前からアカデミー賞候補の呼び声が高まるほど。

2015年の第87回アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いたのは「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」ですが、本作品のアメリカ国内での興行成績は4200万ドル(約50億円)しかなく、オスカー歴代受賞作品の興行収入ワースト2位になったことがニュースとなりました。オスカーを受賞したインディペンデント映画の興行成績がふるわないというのはよくあることですが、Netflixが配給すれば興行収入の多さで映画の善しあしが語られることは少なくなりそうです。

Beasts of No Nationのプロデューサーであり自らも出演しているイドリス・エルバは「NetflixがBeasts of No Nationを購入してくれてとても幸せです。予算が少ないBeasts of No Nationのような小規模な映画でも多くの人に見てもらえるチャンスがあるわけだからね」と話しており、Netflixは映画のクリエイターにとって大きな後ろ盾となっているようです。


Netflixのコンテンツ事業部のSarandos氏は「劇場公開を除き、エンターテイメントを楽しむ方法の全てはインターネットに変わりました」と発言し、「ウィンドウコントロールはユーザーの要求にそぐわず時代遅れです」と指摘。ただし、「Netflixは映画館に反対しているわけではなく、観客により良い選択を提供したいだけです。例えば、週末に映画を観に行く時、恋人と映画館に行くか、それとも自宅のテレビでくつろぎながら映画を観るか、この選択肢を提供したいだけなのです」とも話しています。

なお、Beasts of No Nationの予告編は以下から確認可能です。

Beasts of No Nation - Teaser Trailer - A Netflix Original Film [HD] - YouTube

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in 映画, Posted by darkhorse_log

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