ガン薬の一部にAIDSウイルスを効率的に死滅に結びつける効果があることが判明

By NIAID

ヒトの免疫系細胞を破壊して死へと追いやるAIDS(エイズ)は完治が難しい病気と考えられてきましたが、近年の研究ではAIDSを引き起こすウイルスであるHIVが弱体化してほぼ無害になる日がやって来る可能性が見えてきています。さらにその流れを加速させるかのように、一部の抗ガン薬には体内に眠るHIVを叩き起こすことで薬物による治療・撲滅の効果を飛躍的に高められる効果があることが明らかになってきました。

PLOS Pathogens: Synergistic Reactivation of Latent HIV Expression by Ingenol-3-Angelate, PEP005, Targeted NF-kB Signaling in Combination with JQ1 Induced p-TEFb Activation
http://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1005066

HIV flushed out by cancer drug - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-33720325

AIDS治療の現場では抗レトロウイルス薬を使ってHIVの増殖を抑えることで、病気の進行を抑える手法が大きな効果を挙げていますが、これはあくまで病気の進行を食い止めることであり、完治に結びつくものではないという現状を抱えてきました。これに加え、活性化する前のHIVは患者の体内にひっそりと姿を潜めており、薬物を用いた対策を効果的に行うことができないため完治が難しいという問題を抱えています。

By Department of Foreign Affairs and Trade

カリフォルニア大学デービス校の研究チームが発表し、PLOS Pathogensに掲載された論文によると、研究チームでは日焼けが引き起こす皮膚ガンを抑制する薬に含まれる「PEP005」と呼ばれる物質を調査したところ、姿を潜めていたHIVを再活性化させることに大きな効果を示す可能性を確認できたとのこと。

HIVに対する対処法としては「kick and kill」と表現される手法が有望であると考えられてきました。これは休眠状態となって人間の体内に姿を潜めていたHIVを強制的にたたき起こして(kick)、そこに薬物を投与することでHIVを殺す(kill)という手法だったのですが、いかにして「kick」を与えるかがこの手法のカギといえる部分。

研究チームでは、13名のHIV感染患者から採取した免疫システムを元に培養した細胞にこの物質を与えることでその効果を確認。その結果について論文で「PEP005は休眠状態のHIVを活性化させることにおいて高い効果」を持ち、この物質が「HIVと戦う際において主な役目を果たす物質の新しい一群」を占めるものになるとしています。

By Planet Earth

研究チームの1人、Satya Dandekar博士は「HIVの再活性化に対する傑出した候補薬を見つけだしたこと、そしてその薬がすでに実際の医療の現場で用いられている薬の中から見つかったことに大変興奮しています」と語り、今度の研究に大いに役立つことに期待を示しています。

AIDS治療を飛躍的に向上させる可能性のある発見が明らかにされたわけですが、今後の課題はHIV陽性の患者に対する検証作業とのこと。メルボルン大学のSharon Lewin教授は「この研究結果により、HIVを駆除できる可能性がある薬に新たな一群が付け加えられることになりました」と語りつつ、「PEP005はFDAの承認を得ている薬ですが、対HIV薬としての安全性を確かめるにはまだしばらくの時間が必要です」と今後必要とされる検証作業について語っています。