ユーロ圏だけではないユーロの国、アメリカだけではない米ドルの国
ユーロはモンテネグロやコソボが、米ドルはパナマやエクアドルが自国通貨として採用していますが、実はそれだけではありません。このことを知っていると、タイミングを間違うことなく、快適に海外を旅行できるはず。
こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。ギリシャ危機の懸念からユーロは安くなるかもしれません。一方で、経済が好調といわれるアメリカでは、政策金利引き上げの期待から、ドルが強くなっています。ユーロ安になるならあっちの国の通貨が下がって、ドル高となるならこっちの国の通貨が上がります。ずっと旅をしていて気になっていた問題なので、今回はまとめてみることにしました。
◆ユーロ
欧州連合(EU)による通貨統合で誕生した「ユーロ」は、アメリカの「ドル」に次ぐ基軸通貨の地位を占めるまでになりました。オランダ、ベルギー、スロベニアなど小さな国が多いヨーロッパですが、EUならば国境もなく、ユーロ採用国なら両替の必要もないため、とても旅がしやすかったです。紙幣は500・100・50・20・10・5ユーロ、硬貨は2・1ユーロと50・20・10・5・1セントが存在。ただし500ユーロと100ユーロの高額紙幣はほとんど流通していません。
このユーロが使われている国は以下のようになります。
・EU内:アイルランド、イタリア、エストニア、オランダ、オーストリア、キプロス、ギリシャ、スペイン、スロバキア、スロベニア、ドイツ、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク
EU内の2トップであるドイツ、フランスを筆頭に、イタリア、スペインといった経済大国も加わり、総勢19ヶ国で流通しています。近年だと2009年にスロバキア、2011年にエストニア、2014年にラトビア、2015年にリトアニアが自国通貨からユーロに切り替えを行いました。イギリス、デンマーク、スウェーデンを除くEU加盟国は、ユーロ導入が義務となっているので、いつしか通貨が切り替わることでしょう。2013年にはクロアチアがEUに参加しました。トルコやセルビアといった国々もEUへの加盟交渉を続けていることから、更なるユーロ圏の拡大が見込まれています。
・EU外:サンマリノ、バチカン、モナコ、アンドラ
サンマリノ、バチカン、モナコ、アンドラは人口が10万人にも満たないミニ国家ということもあって、ユーロ導入以前はそれぞれイタリア・リラ、フランス・フラン、スペイン・ペセタといった通貨が流通していました。それらの通貨が切り替わるのに引きずられるかたちで、現在はユーロが使われています。
・EU外:モンテネグロ、コソボ
2006年にモンテネグロ、2008年にコソボが、セルビアから独立しました。モンテネグロもコソボも、古くはドイツ・マルクが流通していてたのですが、ドイツがユーロを導入することから、こちらも連動するかたちで、現在はユーロが使われています。ただし、これは非公式。勝手にユーロを刷ることは無理なので、お金は全て外部からの調達が必要です。
◆ユーロペッグ
自国の通貨と特定の通貨の為替レートを固定している制度を「ペッグ制」と呼びます。ユーロを法定通貨としている国は上記のとおりですが、この他にも、独自通貨ながらユーロと為替レートを固定している「ユーロペッグ」の国がいくつかあります。
・ヨーロッパ
・ブルガリア(ブルガリア・レフ):EUR/BGNの為替レート
・ボスニア・ヘルツェゴビナ(マルカ):EUR/BAMの為替レート
いずれも、古くはドイツ・マルクに為替レートが固定されていて、現在はユーロに引き継かがれています。1レフ、1マルカとも0.5ユーロくらいの計算でした。
・アフリカ
・西アフリカ(CFAフラン):EUR/XOFの為替レート
・中央アフリカ(CFAフラン):EUR/XAFの為替レート
セネガル、ギニアビサウ、マリ、コートジボワール、トーゴ、ベナン、ブルキナファソ、ニジェールの西アフリカ諸国、およびチャド、中央アフリカ、カメルーン、赤道ギニア、ガボン、コンゴ共和国の中央アフリカ諸国では、ユーロに固定されているCFAフラン(セーファーフラン)が使用されています。どちらとも1ユーロ=655.957CFAフランとなっていますが、西アフリカと中央アフリカの2つのCFAフランは、相互には流通していません。
2011年の初めに西アフリカを旅していた頃は、1ユーロは115円前後だったので、セーファー圏でも円高ユーロ安の恩恵を受けられました。それにも関わらず、独自通貨をもつギニアやガーナより、セーファー圏は物価が高い気がしました。土台にユーロがあるので、それだけ経済が安定していたのでしょう。アフリカ突入の際にスペインでユーロ現金を用意したものの、CFAフランで十分でした。スキミング被害があると聞いてATMの利用を控えたナイジェリアナイラも、CFAフランから両替しています。
・カーボベルデ(カーボベルデ・エスクード):EUR/CVEの為替レート
・コモロ(コモロ・フラン):EUR/KMFの為替レート
西部アフリカの大西洋に浮かぶカーボベルデ、東部アフリカのインド洋に浮かぶコモロという2つの島国も、ユーロペッグを採用している国です。カーボベルデはポルトガルから、コモロはフランスから独立しました。訪れたことのない場所ですが、過去の為替レートで確認してみても、ユーロに対して一定のレートを維持しています。
この他にも、オセアニアのフランス領であるニューカレドニア、ウォリス・フツナ、タヒチといった地域は、独自通貨のCFPフラン(パシフィック・フラン)が流通していて、こちらもユーロに固定されています。
・その他
・デンマーク(デンマーク・クローネ):EUR/DKKの為替レート
デンマーク・クローネは、導入の一歩手前まで進みながら国民投票による否決のため、ユーロ参加を果たしていません。かつてはドイツ・マルクと固定していたように、欧州為替相場メカニズムの中で、±2.25%変動幅がありますが、ユーロと固定されています。こちらも、ユーロに連動する通貨の一つです。
・モロッコ(モロッコ・ディルハム):EUR/MADの為替レート
なぜか、モロッコ・ディルハムもユーロペッグと記されていましたが、実際はドル2、ユーロ8の通貨バスケット制を採用しているようなので、ユーロに対して為替レートが一定していません。また、今年4月にドル4、ユーロ6と通貨バスケットの比率を変更しています。ドルにも影響されるので、ユーロだけではディルハムの為替レートは計算できません。
◆米ドル
米ドルは、アメリカ合衆国の公式通貨です。また、基軸通貨として世界の金融や貿易にも、絶大な影響力を及ぼしています。現地通貨を両替する際も、100ドル札と10ドル札ではレートが違ったりすることがありました。中央アジアでも南米でもATMで引き出せることからも、米ドルの強さは普通の旅行者でも肌に感じることでしょう。紙幣は100・50・20・10・5・2・1ドル、硬貨は1ドルと50・25・10・5・1セントが存在しています。
この米ドルが使われている国は以下のようになります。
・アメリカ合衆国
もちろん、アメリカでは米ドルが使われています。ただしカード決済が普及しているので、50ドル札や100ドル札を目にすることは稀でした。ATMでも20ドル札がわんさか出てくるので焦ります。サブプライム・ローン危機のときには低迷したものの、最近では雇用状況も改善され個人消費も上向き、経済は好調な様相。政策金利引き上げの期待からドルは買われ、他通貨から一歩抜け出すかたちでドル高となっています。
・エルサルバドル、パナマ、エクアドル、東ティモール、ジンバブエ、パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦
世界には自国経済への不安から、国内の通貨を米ドルに切替えた国があります。米ドルと連動することで為替変動のリスクが減るメリットの一方、自国通貨を持たないことから、自主的な経済政策を実行できないデメリットも存在。ジンバブエ・ドルはハイパーインフレにより消滅しました。
◆ドルペッグ
米ドルが法定通貨の国は上記のとおりですが、この他にも独自通貨ながら米ドルと為替レートを固定している国が幾つかあります。こちらも、ほとんど変化の見られない、対米ドルレートのリンクを張っておきました。
カリブ海・中米
・カリブ海(東カリブ・ドル):USD/XCDの為替レート
アメリカの裏庭ともいわれるカリブ海でも、米ドルの強さは際立っていました。東カリブ・ドルは、カリブ海のアンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、グレナダ、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセントの6カ国と、アンギラとモントセラトの2地域で使用されています。1米ドル=2.70東カリブ・ドルで固定。
・バルバドス(バルバドス・ドル):USD/BBDの為替レート
・バハマ(バハマ・ドル):USD/BSDの為替レート
1米ドル=2バルバドス・ドル、1米ドル=1バハマ・ドルで固定されていたバルバドスとバハマは、米ドルをそのまま使用できました。こちらの2つの国も、カリブ海の島国です。
・ベリーズ(ベリーズ・ドル):USD/BZDの為替レート
ベリーズの通貨も、1米ドル=2ベリーズ・ドルで固定されています。4ベリーズ・ドルの商品を5米ドルで払うと6ベリーズ・ドルと額面が大きくなって返ってくるので、油断していると混乱します。ベリーズはメキシコとグアテマラに国境を接する、スペイン語圏ばかりの中米本土では珍しい旧イギリス植民地。
・中東
・サウジアラビア(サウジアラビア・リヤル):USD/SARの為替レート
・アラブ首長国連邦(UAE・ディルハム):USD/AEDの為替レート
・オマーン(オマーン・リアル):USD/OMRの為替レート
・カタール(カタール・リヤル):USD/QARの為替レート
・バーレーン(バーレーン・ディナール):USD/BHDの為替レート
アラブ首長国連邦、オマーン、カタール、バハレーン、サウジアラビアの湾岸諸国は、自国通貨を米ドルと固定しています。クウェートのみ通貨バスケット制を採用。世界の原油の大半を握るこの地域が、アメリカと通貨を共にしているのですから、米ドルの基軸通貨としての地位が揺るがないはずです。
・ヨルダン(ヨルダン・ディナール):USD/JODの為替レート
・レバノン(レバノン・ポンド):USD/LBPの為替レート
湾岸諸国は知っていたのですが、改めて調べてみると、ヨルダンとレバノンも自国通貨を米ドルに固定していました。イスラエルやシリアと一緒にされがちなヨルダンですが、実際は湾岸諸国に雰囲気が近い国です。
・中東以外
・香港(香港・ドル):USD/HKDの為替レート
中国でも香港ドルは、米ドルと固定されていました。また、香港ドルとマカオ・パタカも固定されています。米ドルが安くなったら、香港やマカオを旅しやすそうです。かつては人民元もドルペッグとなっていたようですが、現在は人民元改革によって、複数の通貨から為替レートを決める通貨バスケット制へと変わっています。
◆固定相場制
ユーロペッグやドルペッグは固定相場制とも言われています。弱い国ほどインフレを起こしやすいので、強い国の通貨と合わせることで自国経済の安定を試みます。デメリットは、自主的な経済政策ができないことです。アジア通貨危機のように、買い支えられることができないと、固定相場制は維持できなくなります。
英語版のウィキペディアに、世界の固定相場制をまとめた記事がありました。私が知りたかったのはこれです。
Currency substitution - Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Currency_substitution
これはユーロ、ドルと固定相場を取っている国をマッピングしたものです。世界地図を眺めているとベネズエラやエリトリアも、ドルペッグを採用していました。
ただし、政府が定めた為替レートと実体経済の為替レートが大きく解離しているため、ブラックマーケットが発生しています。このような国は、ブラックマーケットのレートが、その国の正しい通貨価値を示してくれます。
また、今年はじめに世界が震撼したスイス・フランの大暴騰も、スイスの中央銀行がユーロ・ペッグを取り止めたのが理由でした。ブラックマーケットとは逆に、自国の通貨価値が高すぎるので、低く抑えていたことになります。
◆まとめ
このような感じで、独自通貨であっても固定相場制によって、ドルやユーロと連動する国がいくつもありました。ユーロが安くなったら西アフリカ、ドルが安くなったらカリブ海諸国や中東の湾岸諸国の通貨も安くなるので、海外旅行が好きな方なら、覚えておいて損はないでしょう。
身の丈以上のことを勉強させてもらったので、分かりにくい記事になっているかもしれませんが、身近なお金に関わることですので興味を持っていただけたら嬉しいです。国の数だけ経済も回っているのですから、考え出したらきりがありません。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)
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