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自動車のキーレスこじ開け強盗を「冷蔵庫」で防止できるかもしれない理由とは?

By Caitlin Regan

ポケットから鍵を取り出すことなく自動車のドアロックを解除できる「キーレスエントリーシステム」は便利であると同時に、カギの偽造が難しいことからセキュリティ性が高いとされています。しかし近年、そんなセキュリティを回避してカギを開けてしまい、中においてあった金目のものを盗む犯罪が目立つようになってきています。その手口は多岐にわたり、これといった特効薬はないようですが、実は「カギを冷蔵庫に入れておく」という極めて単純な方法でキーレスエントリーシステムのセキュリティ性を上げる可能性があるようです。

Keeping Your Car Safe From Electronic Thieves - NYTimes.com
http://mobile.nytimes.com/2015/04/16/style/keeping-your-car-safe-from-electronic-thieves.html

アメリカ・ロサンゼルスでニック・ビルトン氏が住むロス・フェリズ地区では、過去数か月にわたって駐車中の車が車上荒らしに遭う被害が頻発していたそうです。いずれも車内に置いてあった金目のものが狙われた窃盗事件ですが、ここで興味深いのは、その被害状況の特徴にあるとビルトン氏は語ります。一般的に車上荒らしの現場には、カギをこじ開けられたドアの傷や、粉々に割られたガラスの破片が飛び散っているものですが、一連の被害現場ではそのような跡が全く残されていなかったようです。

しかし、被害を受けた車両に共通していたのは、いずれも無線でドアのカギを操作できるキーレスエントリーを搭載したタイプのものだったとのこと。丘の上に住んでいたハイジさんはマツダ・アクセラ、通りの向こうに住んでいるサイモンさんはトヨタ・プリウスに乗っており、それぞれ同様の被害を受けていました。しかし、そのさらに上を行く被害を受けていた人物こそが、コラムを記したビルトン氏だったとのこと。ビルトン氏は1か月で3度も車上荒らしの被害に遭っていたというから驚きです。

By DM

最も最近の被害は2015年4月初旬に発生したもので、その時ビルトン氏は自宅のキッチンで仕事をしていたそうです。時間は朝9時頃で、キッチンからはガラス越しに表の通りが見えるようになっています。その時、ビルトン氏の飼っている犬の一匹が低いうなり声をあげ始めました。

ビルトン氏が窓に近づいて外の様子を伺うと、そこには若い男女が一人ずつ、ビルトン氏のプリウスの近くに立っているのが見えました。そのうちの一人、だぶだぶのTシャツを着た少女が自転車から降り、背負っていたバックパックから黒い装置を取り出します。そのままプリウスに少女は近づき、ドアに手をかけたかと思うとそのままドアを開け、ビルトン氏のプリウスになんなく乗り込んだというのです。


あっけにとられつつも、ビルトン氏は表に飛び出します。二人の泥棒は慌てて自転車に飛び乗り、一目散に逃走。ビルトン氏も何とか捕まえようと必死で追いかけますが、その時考えていたのは、泥棒を捕まえることよりも、あの「黒い装置」が何だったのかを究明することだったそうです。

その後、警察がやってきて現場検証を行うものの、なぜドアが開けられたのかはほとんどわからず。トヨタのディーラーマンも確認にやって来たものの、やはり理由は全くわからない状態だったそうです。その後さらにロサンゼルス市警察に電話して状況を説明すると、担当者から「ちゃんとカギをかけること」と注意を受ける始末。鍵をかけたと信じていたビルトン氏ですが、徐々に自分の行動に自信が持てなくなってしまいました。

By Nik Stanbridge

そんなビルトン氏の疑問は、カナダのトロント警察が公表したニュースリリースから徐々に明らかにされていくことになります。なんとビルトン氏が受けたのと同様の被害がトロントで多発していたことがわかったのです。リリース文によると犯罪者は車両のセキュリティシステムを「解除できるデバイスを入手する方法を持っている」ことが推測されていました。

Toronto Police Service :: News Release #31529


このような「デバイス」が存在することは以前からも明らかにされており、ネットを検索するだけで同様の事件がいくらでも見つかるものです。しかしビルトン氏はさらに状況を詳細に調査。すると、IEEE(アイ・トリプル・イー)のPublic Visibility Committee(公共認知委員会)の幹部であるディオゴ・モニカ氏から、さらに洗練された、ノートPCと発信器などのデバイスを用いてセキュリティシステムを解除してしまう「暴力的な」デバイスが存在していることを教えられたそうです。

この方法はすでに広く悪用されていることも知られており、同様の手口で発生した窃盗事件で有名なものが、2006年に愛車のBMWを2度も盗まれたデイビッド・ベッカムの事件です。

しかし、このような事件の存在がわかったところで、ビルトン氏が目にした「あの装置」については何も明らかにされたとはいえません。その後もさらに調査を続けたビルトン氏は、National Insurance Crime Bureau(全米保険犯罪局)が公表したあるレポートにその答えに近いものを見いだしたそうです。同局が公表しているYouTubeムービーでは、その「装置」や犯罪の手口、その瞬間が映像に収められています。

Fraud Files: The Mystery Device - YouTube


これが明らかにされている「装置」の外見。真っ黒な装置には銀色のアンテナのような部品が見えます。


この装置を使った瞬間の様子。不審な男性があたりを伺っていたと思ったら……


ドアのロック部分近くに装置を当ててなにやら操作。


するとドアのロックが解除され、ドアがいとも簡単に開いてしまいました。


窃盗犯は、車内にあったノートPCとロードバイクを盗み、現場を立ち去ります。


その際、トランクが自動で閉まるオートクローズを作動させているところからも、車両のセキュリティが「正常に」解除されている様子がわかります。


ただし、この「装置」を用いた場合でも、ドアロックの解除には成功しているものの、エンジンをかけて走り去ってしまうところまでは至っていない状況。全米保険犯罪局では、事件に関する通報を受け付けている状況です。


真実にかなり近づいたビルトン氏ですが、3db Technologiesのボリス・ダネフ氏と話した時に、確信と思われる内容を聞かされます。ダネフ氏はワイヤレスセキュリティの専門家で、ビルトン氏のエピソードを聞いてすぐにその犯罪が、「パワーアンプ(power amplifier)」と呼ばれる装置を使ったものであることを見抜いたそうです。

普通のキーレスエントリーシステムでは、ワイヤレスキーを持って自動車に近づき、ドアハンドルに手をかけると車両からカギに向かって探索電波が送られます。それを受けたワイヤレスキーが返答(アンサーバック)するとカギが解除される仕組みになっているのですが、通常の場合だとその範囲は数十センチの狭い範囲に限られています。しかしひとたび「パワーアンプ」をオンにすると、車両から発せられる探索電波を何倍にも増幅し、車両から遠く離れた場所にあるワイヤレスキーへと信号を届けてしまいます。

こうすることで、例えば自宅のキッチンにポンと置かれたワイヤレスキーが電波に反応し、アンサーバックを行うことで、セキュリティが解除されてドアが開けられてしまう、というのが「パワーアンプ」の仕組みの概要だというのです。このような仕組みを可能にする部品は、eBayやAmazon、そしてcraigslistなどから入手できることがあるとダネフ氏は語っています。

ダネフ氏は、すでに各自動車メーカーにこの件を伝え、車両とワイヤレスキーの実際の距離を測定することで誤動作を防ぐ対策を進めているそうですが、同時にすぐにでも対策が可能な方法を教えてくれたとのこと。その方法が「ワイヤレスキーを冷蔵庫の中に入れておく」というものだったのですが、冷蔵庫はその設計上、外部からの電波を遮断するはたらきを持つファラデーケージとなっていることから、不正な電波が発せられても影響を受けないと言うのがその理由です。これを聞いたビルトン氏は、さっそくプリウスのカギを冷蔵庫に入れるようにしたとのこと。

By cclark395

その後、実際に被害を防ぐことができたかどうかはまだ判明していないようですが、理論に裏付けされた方法だけに笑い話で済ませるには惜しい内容といえそうです。実際に冷蔵庫で電子キーを冷やすと、バッテリーの性能が落ちるなどの弊害があるため、電波を遮断するような装置を使えば同様の効果が期待できるのかもしれません。

しかしまずは、盗みのターゲットにならないことがまずは大事。車の中には金目のものを残しておかないというのが、セキュリティ向上の第一歩と言えるは間違いなさそうです。

By David Stillman

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in メモ,   ハードウェア,   乗り物,   動画, Posted by darkhorse_log

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