20年物のラム酒をたった6日間で作り上げる製法とは?
ウイスキー・ラム・ブランデーのような「ブラウンスピリッツ」に分類されるお酒は、熟成期間が長いほどに風味や香りが変化して、上質なものへと仕上がります。近年では、ブラウンスピリッツの熟成期間を科学的に短縮させる試みが盛んになっていますが、その多くは失敗が多いとのこと。そんな中、酒造メーカー「Lost Spirits」を立ち上げたブライアン・デイビス氏が、たったの6日間で20年物と同等のラム酒を作り上げる製法について語っています。
This Guy Says He Can Make 20-Year-Old Rum in 6 Days | WIRED
http://www.wired.com/2015/04/lost-spirits/
ラム酒などのブラウンスピリッツは樽に入れておくと、木材から溶け出す成分がアルコールと反応して熟成していきます。熟成を経たウイスキーやラム酒は香りや味わいが良くなり、熟成期間が長いほどに上等なものとされ、価格も熟成期間が長いほどに高価になります。樽が小さくなるほどに内部の原酒の熟成速度が早くなるため、樽の中に余分な樽材を入れるなどして熟成期間を短縮させる方法などが試されていますが、「大成功」と言えるレベルの製法は見つかっていません。
Lost Spiritsのブライアン・デイビス氏は、「熟成作用を加速させる」という従来の方法とは異なる、独自に開発した化学反応器を使った製法を確立。たった6日間で20年物の味わいを持つラム酒を作り出すことができるとのこと。
デイビス氏いわく、樽熟成の中で最も複雑なのがフェノールや弱酸と、アルコールとの反応を指す「エステル化」というプロセスで、中~長連鎖のエステルが生成されることで原酒に香りや甘みが加わるため、熟成作用の重要な要素となっています。
デイビス氏によると、ホワイトラムに多く含まれる酪酸(らくさん)には吐瀉物のような独特のニオイがありますが、酪酸がエタノールと反応してエステル化すると、パイナップルのような果実香を持つ酪酸エチルに変化するそうです。このエステル化が熟成には不可欠なわけですが、季候などによっては数十年間の年月が必要となります。一方で、デイビス氏の科学反応器「Model 1 reactor」を使えば、たったの3ステップで反応を終えることができるとのことで、完了までにかかる期間はたったの6日間です。
まず第1ステップでは、ホワイトスピリッツとオーク材の木片をリアクターに注入します。このステップではホワイトスピリッツに含まれる短連鎖の脂肪酸をエステル化することで、フルーティな香りの短連鎖エステルが生成されるとのこと。第2ステップでは、エステル化プロセスに必要な化合物を抽出するため、スピリッツとオーク材に含まれる高分子を別々に分離します。第3ステップになると、ここまでに作られた酸性物質やフェノール類とエステルが結合することで最終的なエステル化が完了します。この段階でスピリッツは長年熟成させたラム酒と同様の化学的特徴を持っているとのことです。
この製法は特許申請中であるため、上記以上に詳しい説明ができないそうですが、科学的にエステル化を起こさせることで、樽の中と同じ化学反応を発生させているそうです。また、この製法は驚異的な熟成期間の短縮以外にも優れた点を持っています。ウイスキーやラム酒の熟成工程では「天使の取り分」と呼ばれる水分の蒸発があり、ラム酒を33年間熟成させると樽の中のスピリッツは50%も目減りしてしまいますが、「Model 1 reactor」に100リットルのスピリッツを投入すると、98リットルのラム酒を作り出すことができるため、20年物のラム酒を毎週555リットルも製造することが可能。従来の方法と比べて時間・コストの両方を大幅に削減できるというわけです。
なお、この工程で製造されたラム酒は「Colonial American Inspired Rum」として販売されており、1ボトル750ml入りでアルコール度数は68%。実際に飲んだ人のレビュー評価も上々とのことです。
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