音波でガン細胞を血中から安全に分離する新技術が登場
ガンを発症した組織や転移した組織から遊離し、血中へ浸潤したガン細胞を「血中循環腫瘍細胞(CTC)」と呼びます。このCTCを傷つけることなく安全に血中から分離するために、今までには存在しなかった新しい方法が発明されました。
Acoustic separation of circulating tumor cells
http://www.pnas.org/content/early/2015/04/02/1504484112
Sound waves separate rare cancer cells from blood | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2015/04/sound-waves-separate-rare-cancer-cells-from-blood/
CTCは珍しいタイプのガン細胞で、局部腫瘍を持つ患者の血中で見られるものです。ガン転移の主因とも考えられているCTCのみを血中から「破壊せずに」分離することができれば、ガンのサブタイプの特性解析や治療モニタリング、ガン治療が有効かどうかなどを判断することに大きく役立ちます。しかし、現在の段階では血中からCTCを分離するために、CTCと他細胞の抗体・細胞サイズ・分極率・電気的性質などの違いを分析して分離を行うという方法が取られており、これではガン細胞を「生きたまま」分離することが難しいそうです。
そんな中、ペンシルベニア州立大学の研究員が新しいCTC分離方法を開発しています。その分離方法というのは「音波」を使ってガン細胞を分離する、というもの。この音波を利用した方法ならば、CTCの生存能力や細胞としての機能、表現型、遺伝子型などを保持したまま、血中から分離することが可能で、CTC以外の細胞にも変異を加えることがないそうです。つまり、生体親和性と安全性が従来の方法から格段に向上するというわけ。そして、血中のCTCを「生きたまま」採取可能となります。
By The Journal of Cell Biology
これまでの音波ベースのCTC分離技術は、臨床サンプルの血中からCTCを分離することはできませんでした。これは、処理能力不足と長期使用時の不安定性が問題だったそうですが、ペンシルベニア州立大学が開発した音波ベースのCTC分離用マイクロ流体デバイスでは、高い処理能力と安定性が見込めるようです。
CTC分離用マイクロ流体デバイスは複数の振動子を配置し、電力を音波に変換、音波の流れる方向はマイクロ流体チャンネルで変更します。使用時はCTC分離用マイクロ流体デバイス内に血液を流し、振動子が生み出した音波フィールドを血液が通過すると、音響放射によりCTCとその他の細胞が異なる力を受け、わずかに異なる方向に流れることになります。そしてデバイス内を流れる細胞の数が増えることで、CTCとその他細胞の経路差が大きくなり、細胞を傷つけずにCTCを分離できるようになるというわけです。
なお、音波を使用したCTC分離用マイクロ流体デバイスは、ガン診断や治療に大いに役立つこととなりますが、まだまだ実用段階ではなく実験と研究を繰り返して安全性を追求する必要があるようです。
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