デザイン

「黄金比」はデザイン史における最大の都市伝説なのか?

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芸術家のサルバドール・ダリや建築家のル・コルビュジエが作品に取り入れている「黄金比」は、芸術・建築・デザインなどの分野で美しいバランスを生みだすものと考えられてきました。パルテノン神殿ギザの大ピラミッドモナ・リザからAppleのロゴに至る多くの作品やデザインが黄金比を持つと言われていますが、Fast Companyが運営するCo.Designは「黄金比は都市伝説である」と論じる記事を掲載しています。

The Golden Ratio: Design's Biggest Myth | Co.Design | business + design
http://www.fastcodesign.com/3044877/the-golden-ratio-designs-biggest-myth

◆黄金比とは?

By Tom Blackwell

黄金比の定義は約2300年前の書物「ユークリッド原論」に記されており、黄金比のWikipediaによると「線分を a, b の長さで 2 つに分割するときに、a : b = b : (a + b) が成り立つように分割したときの比 a : b のこと」となっています。この比率の近似値は「1.6180」となります。

最も一般的な例が「黄金長方形」と呼ばれる長方形で、そこから最大の正方形を切り取ったときに、残った長方形が元の図形と同じ縦横比を持つ黄金長方形になるという性質を持っています。ただし、黄金比は「1.6180」という近似値で表されますが、黄金比で構成された物体の比率を計算すると、正確には「1.6180339887……」というように小数点以下が永久に続きます。スタンフォード大学で数学を教えるキース・デブリン教授は、「厳密に言えば実在の物体の比の値は無理数にあたるため、現実世界の物体の比率が正確な黄金比に当てはまることはありません」と断言します。

By Steven Luscher

デブリン教授いわく、iPadの3:2ディスプレイやHDTVの16:9ディスプレイのように、類似する比率は存在するものの「黄金比は円周率のようなものです。自然界に完全な円が存在しないように、現実世界に存在するものに正確な黄金比を求めることはできないのです」と説明しています。Co.Designも「黄金比を裏付ける科学的根拠が存在しない」と主張しています。

◆モーツァルト効果としての黄金比
黄金比が持つ美しさは、主に2人の人物の主張によって生まれたものであり、そのうち1人の主張は誤って引用され、もう1人については独自の理論を構築しています。1人目は「近代会計学の父」とも呼ばれるイタリアの数学者のルカ・パチョーリ。1509年の著作「神聖比例論」はローマの建築家であるウィトルウィウスが提唱する合理的比率を使った「神聖比」について説明した芸術・建築・デザインに関する内容ですが、黄金比の理論に言及したものではありませんでした。

その後、1799年にマリオ・リヴィオが黄金比について説明する本を出版しており、その中で「神聖比例論」が引用されていたことから、パチョーリが「黄金比の理論を確立した」と間違われるきっかけになりました。また、パチョーリと親しかったレオナルド・ダ・ヴィンチが神聖比例論に挿絵を提供しているため、「ダ・ヴィンチの絵画には黄金比が隠されている」と考えられるようになったとのこと。

By Javi

このようにして広まった黄金比の効果を信じて、さらに独自の理論を展開した人物がドイツの心理学者アドルフ・ツァイジング。デブリン教授いわく「熱心な黄金比研究家の1人」とのことで、黄金比は普遍的法則であり、「構造・寸法・有機物・無機物や宇宙から個人に至るまでの全ての構成物に対する最高のスピリチュアルな思想であり、アートと自然の双方の領域に美と完全性をもたらすもの」と説明。例えばツァイジングは、人のへそからつま先までの距離を体重で割ることで黄金比が現れると主張しています。これをデブリン教授は「人体ほど複雑なものを測定する場合、『1.6』の値に近づけるのは簡単です」と一蹴し、ツァイジングの理論は「モーツァルトを聞くと知性が育まれる」という迷信を表す「モーツァルト効果の19世紀版」と表現しています。

◆黄金比は美しい比率なのか?

By devin.berg

デブリン教授は数年にわたってスタンフォード大学の生徒に対して、黄金比が実際に好まれる比率かどうかを確かめる実験を行っています。その実験とは黄金比を含むさまざまな比率の長方形を生徒に見せて、好きな長方形を1つ選んでもらうというもの。もし黄金比が美学の秘訣であるならば、黄金長方形に近い形が常に選ばれると考えられますが、その結果は毎年バラバラになるとのこと。また、ハース・ビジネススクールの研究によると、消費者が選びやすい製品のパッケージは黄金比の「1.6180」ではなく、平均で「1.414」または「1.732」の比率を持つ長方形が好まれることがわかっています。

黄金比の「都市伝説」について気付くデザイナーも多く、バルセロナ現代美術館を設計した「伝説の建築家」の異名を持つリチャード・マイヤー氏もその1人。建築家としての活動初期段階には黄金比に基づいた建築物を手がけていますが、ある時点から自らの設計に黄金比を取り入れることはなくなっているそうです。

同様に数多くの近代的建設を手がけるBiothingのAlisa Andrasekさんもこの意見に同意しており、「私自身の作品の中で黄金比を使ったモノはありません。デザインの『スパイス』として黄金比を取り入れることは想像できますが、建築物全てを黄金比で設計することは考えられません。それはあまりにもシンプル過ぎるのです」と話しています。


他にも多くのデザイナーが「黄金比率は万能の公式ではない」ということをデブリン教授に話している中で、デブリン教授やデザイナーたちが正しいとすれば、なぜ黄金比率の神話は現代に至るまで語り継がれてきたのでしょうか。デブリン教授は「ほとんどの人は物体の比率を数学的に計算して見ているわけではありません。もしそれが黄金比であってもなくても、自らエラーチェックはできないのです」と説明しており、「人間はパターンに意味を求めるよう遺伝的にプログラムされた生き物です。宇宙に浮かぶ星の海を見て星座が創造されたように、そのパターンは幻です。もし好きなデザインが黄金比だったとしたら、あなたが気に入ったのは比率ではなく、そのデザインそのものです」と話しています。

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in デザイン, Posted by darkhorse_log

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