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電磁石で弦を響かせる新たな音色を手に入れたピアノ「Magnetic Resonator Piano」


「ポーン」というピアノの音は、ハンマーと呼ばれる部品が弦を叩くことによって生みだされるもの。その原理は18世紀に初期のピアノが生まれてから一切変わることなく受け継がれてきたものですが、新たに開発された「Magnetic Resonator Piano(MRP:磁力共鳴ピアノ)」は電気と磁力の力を借りることで従来にはあり得なかったピアノの音色を実現する装置になっています。

Magnetic Resonator Piano | Music . Entertainment . Technology
http://music.ece.drexel.edu/research/mrp

ピアノにセッティングされたMRPシステムの全貌。一般的なグランドピアノをそのまま使い、その上に装置を載せるという「ハイブリッド楽器(hybrid acoustic-electronic instrument)」となっています。ピアノの横には制御用のコンピューターが置かれ、プレイヤーの演奏をもとに装置の制御を行うシステムになっています。


この装置の特徴を最もよく表しているのが以下の楽譜。ピアノ(弱く)で始まった音を徐々に大きく(クレシェンド)してフォルテ(強く)まで上げ、またピアノに戻すという、普通のピアノではあり得ない演奏・音色変化を可能にしているという楽器です。


実際に演奏を行っている様子は以下のムービーで見ることが可能。鍵盤の押さえ方によってさまざまな音色が生みだされている様子がわかります。

Continuous note shaping on the acoustic piano - YouTube


「ポーン…フワ~~ン」という、まず普通のピアノではあり得ない音色を奏でるMRP。鍵盤部分には、鍵盤の動きを光の反射で読み取る「MOOG PianoBar」をベースにしたデバイスが取り付けられ、演奏をデジタル信号に変換してコンピューターへと送ります。


ピアノの弦の上には電磁石が配置され、弦に振動させる力を加えるようになっています。


プレイヤーの演奏をコンピューターが処理して、電磁石のパワーを制御。PianoBarは鍵盤の動きを1秒間に600回スキャンしているので、鍵盤をたたく強さや量を忠実に再現することが可能です。


普通のピアノではあり得ない、無音状態からのクレシェンドや……


音程を滑らかに変化させるピッチベンドにも対応しています。ただし、ベンド幅はそれほど広くない様子。


ピッチベンドを利用して、ビブラートをかけることも可能。これも普通のピアノではまず不可能な芸当です。


まるで、シンセサイザーのような滑らかな音が出ているわけですが、この音は全てピアノから出た生音をマイクで収録したもの。ピアノの見た目と出音のギャップに驚かされます。


実際の出音を比較したグラフがこちら。上の原音と比較しても、電磁力で駆動された音がほとんど同じ音の成分を含んでいることがわかります。


弦に振動の力を与える「アクチュエーター」と呼ばれる装置。いわゆるアクチュエーターのような機械的な動きはせず、内蔵されたコイルが弦のそれぞれの弦に合った周波数の電磁力を発生させることで、これに弦が共鳴して音が鳴るという仕組みになっているわけです。この仕組みは、ギター用に開発されたEBowフェルナンデス・サスティナーと類似するものと言えます。


本物のピアノをそのまま使っているので、鍵盤のタッチを強くすることでピアノ本来の音色を出すことも可能。以下のムービーでは、フワッとした音色のMRPと一般的なピアノの音色を使い分けて演奏している様子を見ることができます。

Magnetic resonator piano keyboard demo - YouTube


また、MRPでは演奏を外部のキーボードなどから入力することも可能。以下のムービーには、ピアノとキーボードを組み合わせた演奏を行っている様子が収められています。

Magnetic resonator piano demo - YouTube


弦をハンマーで叩く「打弦楽器」の仲間であるピアノは時間とともに音量が減衰するという特性を持っており、この特性はピアノが誕生して以来300年以上にわたって誰も覆すことができなかったもの。今回の「Magnetic Resonator Piano」の発明は、これまでのピアノの常識を覆す楽器といっても差し支えない内容と言えそうです。


◆おまけ
なお、そんなピアノの特性に挑んだことがあるのが、ザ・ビートルズ。以下のムービーの4分21秒あたりから聴けるように、名曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のエンディングでは、ピアノの音色が減衰するのにあわせてミキサーを操作することで音が長く聴こえるように編集が行われており、30秒以上にわたって音が聞こえるようになっています。

The Beatles- A Day in the Life - YouTube

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in ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

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