NVIDIAがGeForce GTX 970の「VRAM3.5GB問題」で訴えられる
アメリカの半導体メーカーNVIDIAが、2014年にリリースしたGPU「GeForce GTX 970」でハードウェアのスペックを偽って表記していたとして、ノースカロライナ州で集団訴訟を起こされました。
Nvidia lawsuit over GTX 970
http://ja.scribd.com/doc/256406451/Nvidia-lawsuit-over-GTX-970
Nvidia hit with class-action lawsuit over graphics card RAM issues | Ars Technica
http://arstechnica.com/gaming/2015/02/nvidia-hit-with-class-action-lawsuit-over-graphics-card-ram-issues/
PCが映像を信号として入出力する作業を専用で行うのがグラフィックボード(グラフィックカード、ビデオカード)で、これの基板上のプロセッサユニットをGPUと呼びます。NVIDIAではゲーミング用の「GeForce」やプロフェッショナル向けの「Quadro」、ハイパフォーマンス向けの「Tesla」など複数のブランドに分けてGPUを販売しており、2014年9月にはゲーミング用のGPU「GeForce GTX 970」を発売しました。
GTX 970は次世代アーキテクチャのMaxwellを用いた新型コアを内蔵しており、省電力かつパワフルで、比較的安価に購入できることもあり世界的に大ヒットしました。
しかし、2015年になってからGTX 970には問題があることがGeForceのフォーラム内での書き込みにより発覚します。
GTX 970 3.5GB Vram Issue - GeForce Forums
https://forums.geforce.com/default/topic/803518/geforce-900-series/gtx-970-3-5gb-vram-issue/
フォーラム内に作成された「GTX 970 3.5GB Vram Issue」という名前のスレッドでは、「GTX 970はVRAMが3.5GBまでしか使用できず、そのパフォーマンスに重大な問題を抱えている」といった書き込みが行われました。書き込みを行ったユーザーによれば、同時期に同じVRAM4GBのモデルとして発売された「GTX 980」ではこうした問題は起きなかったそうです。「SkyrimのMODを開くと3.5GBまでは素晴らしいパフォーマンスを披露してくれるんだけど、それ以上ではダメになる」という悲壮なコメントを残しています。
ひとりのユーザーだけでなく多くのユーザーが「GTX 970のVRAM」に関する問題を報告していたので、多くのメディアがGTX 970のVRAMについて検証をスタートし、以下の画像のようにベンチマーク結果を公開し始めます。GTX 970のVRAMでは3200MiB以降では劇的に速度が落ちていることが、赤色部分の数値を見ればよく分かります。
そんな中、NVIDIAのGPU開発部門責任者のジョン・アルベン氏が「GTX 970のVRAM 3.5GB問題」についてメディア向けに説明を行い、レビューを行う記者向けに配布された「レビューワーズガイド」に記載していたスペック表が間違っていたということで、正確なGTX 970のスペックを公開しました。
NVIDIA Discloses Full Memory Structure and Limitations of GTX 970 | PC Perspective
http://www.pcper.com/reviews/Graphics-Cards/NVIDIA-Discloses-Full-Memory-Structure-and-Limitations-GTX-970
NVIDIAが公開した「正しいスペック」が以下の表の「GTX 970(Corrected)」に書かれたもので、「GTX 970(Original)」に書かれているのが発売時にNVIDIAが公開したGTX 970のスペック。ほとんど大きな差はありませんが、VRAMに各ピクセルの色を書き込む専用ユニットである「ROPs」が64から56に、キャッシュメモリの「L2キャッシュ」が2MBから1.75MBに下がっているのが分かります。
同時期に発売されたGTX 980とGTX 970ですが、問題が起きていたのはGTX 970だけで、その原因は2つのL2キャッシュの違いにありました。GTX 970では13基の演算装置(SM)が有効になっており、SMひとつひとつに128基のCUDAコアが存在するので、全て合わせると1664基のCUDAコア数となります。そして、SMは13基全てがクロスバーと呼ばれるSMとL2キャッシュをつなぐスイッチのような役割を担うパーツと接続されていることが下図を見れば分かります。GTX 980の場合はL2キャッシュが8つ(2MB)あるのですが、GTX 970では8つの内ひとつだけが無効化されており、7つ目のL2キャッシュが2つ分の情報をやり取りしなければいけなくなっています。
7つ目のポートが2倍の情報伝達を要求されるようになると性能が極端に落ちてしまうことになるので、NVIDIAはメモリをDRAM7つ(3.5GB)とひとつ(0.5GB)の2セクションに分割し、速い3.5GBのVRAMと遅い0.5GBのVRAMという特殊な構成ができあがります。NVIDIAは3.5GBのVRAMを優先するように、クロスバーから1-2-3-4-5-6-7とDRAMAに順番にアクセスした後、8つ目のDRAMにはアクセスせずに、再度3.5GBのVRAMに当てられたDRAMにアクセスするよう設計することで、帯域幅のバランスを取れたものにしたそうです。ただし、このせいで3.5GB以上のメモリを使用するとなると極端にパフォーマンスが落ちるようになってしまった、というわけです。
日本の4Gamerもテレビ電話を利用してGTX 970に関する質問をアルベン氏に投げかけており、GTX 970の構成に関するより詳細な情報を引き出しています。
NVIDIAのGPU開発部門責任者に聞く「GeForce GTX 970のVRAM 3.5GB問題」 - 4Gamer.net
http://www.4gamer.net/games/274/G027467/20150130109/
NVIDIAはGTX 970をリリースした際にメディア向けに配布した「レビューワーズガイド」に記載されたスペック表の間違いについて、発売から約4カ月が経過し、多くのユーザーから苦情が殺到した後に気付いたそうです。なお、NVIDIAは公式サイト上ではGTX 970の詳細な仕様については公開しておらず、「メディアに配布した資料が報道により広まってしまった」と説明しています。なお、これに対して集団訴訟を起こした原告側は「NVIDIAは世界的に消費者をだますための計画を遂行した」とコメントしています。
なお、NVIDIAのジェン・スン・フアンCEOは正式に説明文を公開しています。
Jen-Hsun On GeForce GTX 970 | The Official NVIDIA Blog
http://blogs.nvidia.com/blog/2015/02/24/gtx-970/
・2016/08/01 10:10追記
この集団訴訟は、NVIDIAがGTX 970購入者に対して、1人あたり30ドル(約3000円)を支払うということで決着しました。
show_temp.pl-2.pdf
(PDFファイル)https://cdn.arstechnica.net/wp-content/uploads/2016/07/show_temp.pl-2.pdf
Nvidia offers $30 to GTX 970 customers in class action lawsuit over RAM | Ars Technica
http://arstechnica.com/tech-policy/2016/07/nvidia-offers-30-to-gtx-970-customers-in-class-action-lawsuit-over-ram/
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