サイエンス

100万人以上が餓死した未曽有の大飢饉はなぜ起こったのか?


1845年から1849年にかけてのアイルランドでは、ジャガイモ飢饉(ききん)と呼ばれる大飢饉が発生し、多くの人々が餓死または病死しました。この未曽有の大飢饉が起こった要因について、海外メディアのThe New Yorkerが考察しています。

“Rot: An Imperial History of the Irish Famine,” Reviewed | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2025/03/17/rot-padraic-x-scanlan-book-review


「ジャガイモ飢饉」という名前の通り、この飢饉の主な原因は1845年から1849年にかけてヨーロッパ全土で流行したジャガイモ疫病菌によるジャガイモ不足にあります。当時のアイルランドでは、貧困層を中心にジャガイモが主食となっており、1840年代には全人口の4分の1以上にあたる約270万人がジャガイモを主食としていたとされています。

当時、アイルランドではわずか4000人未満の地主がアイルランドの土地の約80%を所有していました。これらの地主の多くは17世紀にカトリックの所有者から土地を没収したイングランドに住むプロテスタントの子孫です。年間の一部または全部をイングランドで過ごすこれらの地主は、土地をアイルランドの小作人に貸し出し、イングランド人と比較して非常に高額な土地代を徴収していました。The New Yorkerによると、当時のアイルランドでは、イングランド人が徴収する土地代は農場で販売可能な生産物の全価値に等しくなることもあったそうです。

また、小作人は高額な土地代を支払うために、農場内のさらに小さな区画を、土地を持たない労働者に貸し出していました。こうした小作制度とその依存は、ジャガイモの収穫が安定しているときにのみ役立つことが指摘されています。


加えて、アイルランドでは当時330万エーカーの土地に穀物が植えられ、250万頭以上の牛や220万頭の羊、60万頭の豚が飼育されていましたが、これらの食料のほとんどはイングランドの急成長する工業都市に輸出され、アイルランド人が口にすることはありませんでした。この結果、アイルランドでは慢性的に貧困が広がっていました。

1845年にジャガイモ飢饉が発生すると、アイルランドではジャガイモが不作となり、多くの国民が飢えに苦しみました。これを見かねたイギリスのロバート・ピール首相は1846年に、飢餓に苦しむ人々を救うために、アメリカから大量のトウモロコシを輸入。しかし、政府はこれを無償で配布するのではなく、有償でアイルランドに販売しました。この政策の裏側には「無償で食料を提供することはアイルランド人の怠惰を助長する」という考え方があったとみられています。


1846年7月にジャガイモの凶作がさらに広範囲に波及したことが明らかになると、自由貿易の原則に深くコミットしたジョン・ラッセル政権が誕生しました。ラッセル政権は自由市場への不当な介入とみなしていたトウモロコシの輸入から方針を転換し、代わりに飢餓に苦しむ人々を雇用するための大規模な公共事業プログラムを実施しました。しかし、このプログラムでアイルランド人に与えられる賃金は、「労働市場の混乱を防ぐ」という観点から既存の低賃金労働者よりも低く設定されていました。

こうした取り組みの結果、飢餓と病気で衰弱した人々が、家族を養うには十分でない賃金で重労働に従事するという悲惨な状況が生じました。同時に、多くの地主はこの危機を利用して、土地をより収益性の高い牧草地に転換するために、アイルランド人の小作人に立ち退きを迫っています。これらの状況が重なり、アイルランドでは1845年から1849年にかけて約100万人もの人々が餓死または病死したほか、約150万人がアメリカならびにカナダへ、数十万人がイギリスとオーストラリアへ移住しています。この飢饉による死者と移民により、現代でもアイルランドの人口は1841年の時点よりも少なくなっているとのこと。


ジャガイモ飢饉はアイルランド語を話す人々にも影響を与え、アイルランド社会の英語化が急速に促進されました。飢饉以前には多くのアイルランド人がアイルランド語を話していましたが、飢饉とその後の社会の変化により、英語がより広く使われるようになったことが指摘されています。

ジャガイモ飢饉がここまで大規模な影響を及ぼした要因には、当時のイギリス社会に根付いたアイルランド人への偏見があったとされています。当時のイギリスには「アイルランドの貧困はアイルランド人の道徳的欠陥が要因」という強い偏見が存在していたほか、ジャガイモの栽培は比較的容易であるため「ジャガイモに頼るアイルランド人は不活発かつ怠惰であり、賃金を得るために努力することを嫌っている」と見なされていたそうです。また、「ジャガイモの不作はアイルランド人が肉を食べるようになり、資本的な賃金労働者になるための教訓となるだろう」と考える人もいたとされています。

こうした大規模な飢餓を防ぐことができなかった当時のイギリス政府に対して、一部のアイルランド人は「人道的な危機に対して十分な理解と適切な対策を欠いていた」と批判しており、アメリカ・ニューヨーク州ではアイルランド系アメリカ人の圧力により「ジャガイモ飢饉はジェノサイドに類似した人権侵害」として学校で教えることが義務付けられています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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